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非公開中  作者: するめいか
最終目標「世界を平和にする」
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14話「命懸けの挑発」

 木を背後にして聴くことに集中する。木の葉が擦れる音、鳥が飛び立つ音、虫が唐突に泣き止む間、全てが怪しい。


 どうする。戦うにしろ、捕らえるにしろ、まずは相手の姿を発見しなければならない。呪文をコピーできないし、対策の打ちようがないからだ。


 逃走は考えるだけ無駄だ。馬でもあれば良いが、僕の体力がもたない。

 魔力さえあれば振り切れるかもしれないのだが。それも彼女のレベルが分からない以上、断定は難しい。


 ならば、取るべき手段はこれだ。


「ウィッチ! ネメス! 助けてぇぇぇ!!」


 ネメス達がいる方角へ向けて、腹の底から全力で叫ぶ。森の中だというのに木霊でもしそうな迫力だ。


 演劇部でやっていた発声練習、ひっそり続けてて良かったね。こういう時に日頃の積み重ねが助けてくれるのさ。


「何かと思えば助けを呼ぶだなんて。仲間がいた事には正直驚いたけど、情けない真似をするのね?」


「不審者に遭遇したらそうしろって学校で習ったもんでね」


「ふふっ。盗賊が不審者ってのは、言えてるわね。でも、思い至っていないのかしら。あんたは致命的なミスを犯したのよ」


 彼女が言い終えた直後、僕が叫んだ方向に超絶広い氷壁が出来上がった。天高くまで伸びており、四角を描くようにして僕が囲われている。


 とはいえ、僕が背にしている壁の反対側までは相当な距離がある。一辺が何百メートルもある正方形の枠らしい。天辺だけが開いている巨大な冷蔵庫だ。逃がさないよう仕留めるための、処刑専用舞台といったところだろうか。


 悲しい事に、これだけ広ければネメス達だって入っているかもしれないという希望は、僕の迂闊な行動によって消え去ったばかりだ。


「仲間の居場所を教えるなんて愚策も愚策だわ。泣き叫ぶふりをするなり、他にやりようはあったでしょうに。あんた、頭悪いわね」


「ハハハ……。成績はこれでもトップクラスだったんだよ。パズルもボードゲームも大得意さ」


 試しに壁を背に張り付き、踵で蹴ってみる。びくともしない。おそらく、呪文があっても壊せないだろう。イズさんもかなり魔力量が高いってわけか。


 背中のヒンヤリした感覚を楽しむ暇もない。イズさんがこちらを見つめているなら、壁からグサリなんてこともあるのだ。


 氷の呪文は炎の呪文より射程が広い。

 フローズンスノウは半径五百メートル以内になら氷を発生させられるけど、イグニッションは半径十メートル以内にしか炎を生み出せなかったと記憶している。


 イズさんが近い場所にいるとは考えにくい。さっき屈んだ後に攻撃が到着したことからも、違いはないだろう。遠くから槍を放ったって事だ。


 要するに、いきなり体に着火される恐れは無いってことである。その場で呑気に一回転でもしない限り、体表を氷の膜で覆われる心配も無いはずだ。


 炎の攻撃は飛ばされるだけ。ただし近付かれれば即着火される。けれど、近付けない方法はもう考えついた。


 だから問題は、数少ないヒントの中で次撃をどう避けるか、その一点のみ。


 荷物の入った鞄を取る。破いたりしちゃいけない。慎重に近くの綺麗な岩の上へ、ネメスのワンピースを投げ、乗せた。


「あんたは私のテリトリーに入り込んだのよ。ここへ至ったのなら、私の手柄になる他に道はない。早めの降伏をオススメするわ」


 壁を伝って左に移動しながら、周囲を警戒する。


 この囲いの中にいる以上、イズさんの呪文は必ず届くんだ。壁の近くにいるのなら、彼女の死角に潜り込むか、壁自体に注意して進まなければならない。


「お構いなく。自分の選択くらい自分で見つけるし、自分で勝手に選んでおくよ」


 ゆとりがある様を演じてみせるが、内心チビりそうだ。

 夢の世界で漏らすのは、現実世界でも漏らすことになりそうだから、全力で回避したいところだね。


「賢者とか言ったっけ? 僕も学校では天才だのと持て囃されていたんだ。証拠に、この危機的状況から脱してみせようか」


「可哀想なことを伝えてしまうようだけど、残念ながら無理な話よ。この森の地形は一日で把握済みだわ。それに見ての通り、絶対に越えられないほど高い壁が四方にあるのよ。今来たばかりのあんたに為す術は無いわ。……特殊な呪文でも扱えない限りはね」


 イズさんの台詞に裏だけで安堵する。


 よし、そこまで考えてくれると読んでいたぞ。虚勢を張る作戦は大成功だ。


 実際のところ、突破口を開く呪文なんてのは無い。無意味に深読みして勝手に行動を制限していてくれ。逃げやすくなるし、迂闊に近付けなくなるだろうからさ。


 僕は不敵にニヤリと笑い、鞄をその場に置いて駆け出した。壁に沿って走り続ける。


 途中で邪魔になって、腰に巻いていたジャージも投げ捨てた。いつ来るか分からない攻撃に怯えながら必死に逃走を図る。


 瞬間、目の前を氷の矢が通った。慌てて止まった僕の行く手を遮るように壁へと突き刺さる。


「言ったでしょう? 私は地形を把握しているの。あんたがアルストフィアへ戻ろうとしているのは分かっているわ。壁を伝って、どこかに穴が無いか探していることもね。策は全て見切っているのよ」


「ご自慢の記憶力って奴ですか……」


「ええ、そうよ」


 イズさんの言葉を聞いた後、少しの間を作って鼻で笑ってやった。


「だとしたら、やはり君は馬鹿丸出しだな」


「何ですって……?」


 彼女の懐疑を取りだす。余裕の笑みは崩さない。必ずこの運命から抜け出してやる。


「『馬鹿だ』と言ったんだよ、賢者イズ。君が気付いていないだけで、僕はもう君の姿を捉えている」


 苦しいくらいに強く強く胸を叩く。


 簡単には諦めないぞ。この悪趣味な夢世界を創った奴に、正義は勝つって所を見せつけてやる。

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