表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非公開中  作者: するめいか
86/104

7話「おかえり」

 次に体を起こした時、僕は愕然とせずにはいられなかった。片手で髪を掻き乱し、停止してから、意味もなく顔を撫でる。


 昨日まで宿泊していた宿屋だ。

 見紛うわけがない。ベッドやテーブルの配置も、カーテンの柄も、完全に一致している。


「訳が分からないよ……」


 ふと、ベッドの横にあるベルと手紙に目が行く。既視感が胸騒ぎとセットになってやって来た。


 最悪を想定しながらメモを掴む。全身に大量の汗をかき、手は震えていた。荒い息のまま紙面の文字に目を通す。どうやら宿主からの手紙らしい。


『誠に勝手ながら、お客様を先に部屋へ運ばせてもらいました。女性の方は精神に異常があると判断し、お帰りいただいてます。十分に一度、お客様の様子を確認しに参りますことをお許しください。もしも何か申しつけたいことがあれば、この紙の隣に置いてあるベルを鳴らしてお知らせくださいませ』


 一文一句違わない。何度読み返しても、僕の記憶が正しければ、あの時のメモと丸きり一緒の文面だ。


 目覚めた時からヒーリングとモデリングが使えなくなっている事には気が付いていた。

 ポケットを探ってみれば、鍵と時計が出てくる。二つの針が指すのは九時二十三分。


「ふうっ」


 短く息を吐き、目を瞑る。胸に手を当て、自分自身にチェックを使用した。瞼の裏に文字がユラユラと浮かび上がってくる。


【レベル1・おかえり】


「……ハハ。馬鹿げてる」


 乾いた笑いが溢れる。

 ゲームばかりしていたからか、現状に酷似した漫画を見たことがあるからか、僕は正確に自身の立ち位置を把握できた。


「僕は今日をまた繰り返している……!」


 原因は分からないが、それ以外に説明がつかない。


「オートセーブで戻された? だとしたら、眠っていた間に殺されたのか?」


 疑問が止まらない。口の中がカラカラだ。(まばた)きを忘れてしまいそうになる。


「……違う。今やるべき事は間違いを探すことじゃない」


 夢の中で見た夢だったという可能性まで考えたところで、頭を横に振った。


 要するに、これはイスターさんからの挑戦なんだろう。「運命を変えてみせろ」と、そう告げているんだ。目的はまだ不明瞭だけど、それなら受けて立ってやる。


 ベッドから立ち上がり、ベルを取る。今度は徹底的に未回収の情報を拾い集める気で行くぞ。







 一階の受付まで来ると、宿主を見かけた。

 五十代の男性だ。老眼鏡を掛けており、黒茶の髪をしている。

 彼は僕の姿を視認すると、パアッと顔を輝かせた。安堵に足取りを覚束なくさせながら、早足で駆け寄ってくる。


「お客様、お体の調子はいかがですか?」


「おかげさまで、無事みたいです。ありがとうございました。本当に助かりました」


 礼を述べながらベルを返す。オジサンは柔和な笑みを浮かべて受け取る。


 宿屋のサービスが良いというより、この人が優しいんだよなぁ。パーティーの天使メンバーに加えたい。


「あの、お聞きしたい事があるんですが……」


「はい? 何でしょう」


「モルト町について、知っている事はありませんか? 何でもいいんです。どんな細かい事でも」


「はぁ。モルト、ですか……」


 ふむと口に手を当て、顎を撫で始める。数秒間だけ黙想した後、伏せていた目を上げた。


「風の噂で聞いた程度の事ですが……」


「構いません。どのような噂で?」


 尋ねると、彼は少し寄ってきて声のボリュームを落とした。


「あの町の周りで、例の盗賊が頻繁に出るようになったんだとか」


「盗賊っていうと、勢力を伸ばしてきている謎の悪党グループですよね?」


「ええ。強盗から殺戮まで平気で行う非道な集団でございます。モルトに向かうのであれば、十分にお気をつけくださいませ」


「はい。助かりました。ありがとうございます」


「いいえ。お力になれたのなら何よりです」


 彼と会話を終えると、「では」と会釈して踵を返した。


 小さい情報だったが、初めはこんなところだろう。やはり屋敷の情報は、モルトに入ってからじゃないと手に入らないのかな。


 ……いや、まだやっておきたい事はある。とりあえず、ネメス達を起こしに行くことから始めよう。







「お待たせしましたわね。では、行きましょうか」


 自室の扉を開ける音と共に、ウィッチの声が聞こえる。その後ろにはネメスが眠たそうに目を擦っていた。


「分かった」


 僕は椅子から立ち上がり、彼女らに近寄る。荷物が無いと妙に不安になるな。


「いくつか聞きたい事があるんだけど、いいかな」


「ん? ええ、私達に答えられる事なら良いですわよ」


 ウィッチは返事をすると、眠そうにしているネメスの手を引いて歩き始めた。部屋の鍵を閉め、それに続く。


 まずは常識の確認だ。この世界において、僕の知っている知識がどれほど通用するのかを確認しておきたい。


「観察していた限りだと、呪文を扱える人の割合は一割程度だって認識でいるんだけど、間違いはない?」


「そうですね……。以前読んだ本に似たような数値が書いてありましたわ。三つ以上扱える者は限りなく少ないんですのよ」


 やはりここは変化無しか。僕の呪文を打ち明けた時、二人のリアクションが大きかったから、何となくその点は察していた。


「じゃあ、魔物はどうやって生まれるか、それが未だに判明していないっていうのは?」


「違いありませんわ。動物の突然変異という説が有力だそうですけれど」


「うんうん。突然変異、か……」


 かつて悪魔達もそう判断されていたんだよな。実際は、王族の仕業なんだけどね。今ここでバラしたところで信用されないだろうし、王を討ちに行くことも不可能だろうな。


「それじゃあ、『悪魔』って言葉に聞き覚えは?」


「え? そりゃあ、ありますわよ。地獄にいる、天使と反対のあれですわよね?」


「……ああ、そうさ」


 本当に知らないらしい。魔力量が高いこと以外は現実世界と同じなのか?


 世界にある魔力量が高いと、人々の魔力量も高くなる。人々の魔力量が高いと、建物や生活品も頑強に作られるようになるだろう。


 レベル1だと暮らしにくい所以はそこにある。現実世界ならまだ良いが、この世界での僕は魔力を上げない限り、人混みを歩くのもドアを開けるのも一苦労って訳だ。


「質問はもう終わりですの?」


「ん、あぁ、どうやら、僕の認識していた常識で合っているらしいね。あまりに混乱はしないで済みそうだよ」


 でも、油断はできない。かつて、普通の世界かと思ったら実はとびきりイカれているって夢がいくつもあったんだ。

 一番強烈だったのは『ヴィーレ達が魔物になってる』世界だったな。文字通りの悪夢だった。二度と行きたくない。


「あら? ネメス、また眠っちゃって……」


 ウィッチが足を止めたのを見て、後ろを確認すると、ネメスが目を閉じたままフラフラと歩いていた。名前を呼ばれたのに反応したのか、むにゃむにゃと鳴いて返事を返してくる。


 僕とウィッチだけで話をしていたから退屈しちゃったのかな。朝が弱い者としては、注意できる立場にないね。


「外までは僕がおぶっていくよ。昨日は夜遅かったんだ。まだ疲れが取れていないんだろう」


「環境の変化にストレスを感じている部分もあるんでしょう。勇者に選ばれたというだけで、まだ小さな女の子ですものね」


「そうだ、その件についても聞きたかったんだった。ネメスって、どうして勇者に選ばれたの?」


「……分かりませんわ。王様が任命したことですし、何か考えがあると思うんですが……。それにしても、残酷な運命ですわね」


 多分ジェニウスって人から予言されたからとか、そんな理由だと思うんですけど。だとしたら、酷いとばっちりだな。


 たしか、現実のヴィーレとアルルは、暗殺できないから勇者と戦士に任命されたんだよね。あの二人の両親は同時期に事故死していたはずだ。


 あくまで僕の適当な推理だけど、それってデンガル国王が謀った事なんじゃないだろうか。胸糞悪い話になるが、的外れな意見ではないだろう。


 そうすると、この世界のネメスが孤児を預かるエンジェルズにいる理由も判明する。


「……判明したところで、何だっていうんだ」


 誰にも聞こえないように独りごちて、ネメスに近寄る。彼女に休んでいるよう告げて、慎重に背負ってあげた。


 モルト町へ行くまでは同じ道のりを辿るようにしよう。

 前回と異なる点は、途中で買い物をするという事だけでいい。

・人物紹介


【和也】


呪文「チェック、オートセーブ、ロード、コピー(2)」


服装「基本的には現実世界と同じ。補足『外見①』参照」


変化「幸せになるための命令が継続している。現実世界の記憶を保持している。⬛⬛⬛の記憶を一部消されている」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ