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非公開中  作者: するめいか
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閑話前編「アリスと遊ぼう」

【学校に忘れ物をしちゃったわ。携帯電話を忘れるなんて、私も抜けてるわね。もう夜中だし、当直の見回りさんに見つからないうちに帰らないと!】


 湿気った空気が肌を撫でる。生暖かいそれが私の体を包む感覚でふと我に返った。


「あ、あれ? ここは……学校……?」


 木造だし、随分古いようだけど。外も暗い。人間の国ではないのかしら?


 さっきまで意識を失っていたはずなのに、私は寝転がっているわけでもなく、見知らぬ場所に突っ立っている。


 私の記憶が正しければ、最後はみんなと一緒に話をしていたはず。またカズヤが何かして遊ぶって言うから、それで魔王の間に集められて……。


 状況を飲み込めないでいると、頭にカズヤの声が響いた。


(イズさん、そこはゲームの世界だよ。僕の呪文で眠らせて、君達にゲームをプレイさせているんだ)


「は、はあ!? いきなりすぎよ! どうして初めに説明してくれなかったの!?」


 つい声を荒げてしまう。だってこんな暗い場所に突然放り出されるなんて……。誰も近くにいないのに、耐えられないわ。


(い、いやぁ……。昨日サイコロで皆のやるゲームとメンバー決めたんだけどさ、イズさんとレイチェルがプレイするゲームってのがホラーゲームだったんだよね~)


 その声からカズヤの苦笑いしている顔が頭に浮かぶ。ホラーゲームとかいうのがどんなものかはよく分からないけど、言葉からして、私が純粋に楽しめないものだってことは確かなようね。


(じゃあちゃちゃっとルール説明しちゃうね!)


 彼は私の怒りから一刻も早く逃れたいのか、誤魔化すように早口で説明を始めた。帰ったら燃やしてやる。


(まず、この世界では呪文を使えないし身体能力もかなり下げられているよ。そしてゲームをクリアするまで目を覚ませない仕組みになっている。食事とかはイモータリティーをかけてるから、安心していいよ!)


「何が安心よ。覚えてなさいよね……」


 私の呟きが聞こえているのかいないのか、彼は滔々(とうとう)と説明を続ける。


(ただ流石にイズさんにはキツイだろうから、本来は一人プレイ用のゲームだったものを少し改変して二人用にしたよ。怖いならまず、レイチェルを探すことだね)


 レイチェルね……。普段話さないからよく分からないけど、幽霊とか怖がる子なのかしら。あまりそういうタイプには見えないけど。


 まあどちらにせよ、居ないよりはずっとマシでしょうね。


(じゃあ、頑張ってね! 学校からの脱出が最終目標だよ!)


 カズヤがそこまで言うと、辺りが完全に無音になった。風の音、虫の声さえ聞こえない。


 とりあえず、このゲームとかいうのが何かは知らないけど、帰ればいいのよね?


 私は素早く背後にある昇降口の扉へ向き直った。外へ続く戸に手をかけ、全力でそれを横へスライドさせようとする。


【まだケータイを取りに行っていないわ。このまま帰るわけにはいかない】


 しかしそれは敵わなかった。代わりに謎のメッセージが出てくる。

 何よ、ケータイとかいうのがそんなに大事なの!?


「このっ!」


 しつこく扉に力を込め続け、それでも開かないのにイラつき、最終的に蹴り破ろうと試み始めたところで、カズヤの声が頭に届いた。


(イズさん! これ、そういうゲームじゃないから! 大人しく教室へ向かってくれないかな!)


「嫌よ! 何が楽しくてこんなところを徘徊しなきゃならないの!」


(……はぁ。これは言うつもりなかったんだけど、その学校には過去に自殺した幽霊が出るんだ。『有栖(ありす)』って名前の女の子だよ)


 彼の言葉に、派手な音を立てて蹴りを放っていた足をピタッと止める。応えようとした声は裏返っていた。


「ゆ、幽霊……?」


(そう。そしてそれはずっと同じ場所にいると寄ってくるんだ。もちろん動き回っていても遭遇することはあるけど、まだそちらの方がマシだと思うよ)


「あ、あぁぁあぁぁ……」


(いや、そんな絶望に暮れた顔しなくても……)


 私は正気をゴリゴリ削られていた。どうすれば、どうすれば……。

 膝が笑ってへたりこみそうになる私に、再び彼が語りかけてきた。


(君の教室は3-A。レイチェルの開始地点がそこだから、急げば合流することだってできるかもよ?)


 暑くもないのに額から汗が流れてくる。ど、どうやら行くしかないようね……。


「ふぅ、ふぅ、ひぃ、ふぅ……!」


 私は情けない呼吸を繰り返しながら、廊下へと一歩踏み出した。







 数分後、無事3-Aの教室に入ることができる。レイチェルはいない。ここに辿り着くまでに幽霊とも会うこともなかった。


 さっきから終始、恐怖に顔を歪めている。歯を食い縛り、口の端は上がり、目元は困ってるのか睨んでるのかといった風になっているはずだ。


 どうしてこんな事をしているのかしら。まだ幽霊とかいうのを見てないから正気を保てているけど、この状況、死ぬより辛い拷問だわ。


(いくら怖いからってそんな全力ダッシュで来なくても……)


「うっさいわね。早く終わらせたいのよ。もう一秒もここに居たくないわ」


 唯一の救いはカズヤがたまに話しかけてくれる事だった。黙っている時はレイチェルと話してるのかしら。


 だとしたらレイチェルも定期的に独り言を言っているはずだし、近くにいたら分かるかもしれないわね。


「そういえば、他のみんなはどんなゲームをしているの?」


 教室内の机を一つ一つ調べながらカズヤに尋ねる。さっきから話しかけまくっているため、私が構ってほしい子みたいになっていた。


 仕方ないのよ。できるだけ気を紛らせていないと狂いそうだもの。


(ヴィーレ、お爺さん、ウィッチ、サタンはサバイバルアクションゲームをしているよ。兵器で戦ったり、町中を駆け回るゲームさ)


 その光景を想像してみる。

 アダムが兵器で戦う? 駆け回る? こいつ、老人になんてことさせてんのよ……。


 呆れていると、心の中を読んだのか彼が即座に付け足してきた。


(ちゃ、ちゃんとお爺さんは若い頃の体でプレイさせてるから!)


「ふぅん。あの人の若い頃なんか想像できないわね」


(僕もそうだったさ。実際は意外なことに、レイブンと同じくらいのタフガイだったよ。で、エルとアルルはシューティングゲーム。ネメスとノエルはほのぼの系育成ゲームだったはずだ)


 その二つのグループ、めちゃくちゃ平和そうね。すぐに終わりそうだわ。

 私もそっちに行きたかった。できれば、ほのぼの育成の方に。


「……それで? レイブンは一人で何のゲームをしているのよ」


(恋愛シミュレーションゲームだよ)


「えっ」


(恋愛シミュレーションゲームだよ)


 いや、聞こえてなかったわけじゃないんだけど……。中年の独身男性に何やらせてるの、こいつ。新手の嫌がらせかしら?


 引き続きそうやって彼と会話をしていると、不意にある机から物音がした。

 ビクッと体が跳ねる。身を強ばらせ、表情まで固まるが、その後は特に何も起こらない。


 恐る恐るその机に近づき、椅子を引いて中を覗き見ると、小さい機械があった。手に取ると、例のメッセージが流れる。


【見つけたわ、私のケータイ。メールが来たみたいね】


(それがケータイだよ。使おうと思えば勝手に身体が動くはずだ)


 言われてからメールとやらの確認をしようとすると、勝手に指がケータイを操作しだした。

 画面が発光し、三つの四角が現れる。上から赤、黄、緑の色で、それらの中央には短く文字が書いてあった。


「持ち物、メール、それにセーブ?」


(それはメニュー画面だよ。メタ的な話になるけど、開いている間は時間が止まるんだ)


「え? じゃあ、ずっとこれを見てればいいのかしら」


(それじゃいつまで経ってもクリアできないでしょ……。なんでウキウキしてるのさ)


「自然なことよ。それに、レイチェルがクリアするまで待てばいいじゃない」


(あぁ、残念。メニュー開いてる間はレイチェルの時間もこちらで止めてるから。逆もまた然り)


「だから何でそんな無駄に凝ってるのよ……!」


(まあまあ。僕にも色々事情があるのさ)


 事情ねぇ。最近よく変な遊びを仕掛けてくるのに関係してるのかしら。まあどんな事情があろうが、燃やすことに変わりはないけど。


 ケータイを閉じるように念じると、やはりそのように体が動く。


【ガタンッ!】


 直後、メッセージと共に教室の扉が大きく鳴った。悲鳴が出そうになるが両手で口を塞ぎ、何とか堪える。

 その音は数秒の感覚を空け、何度も何度も鳴った。


【ガタンッ! ……ガタンッ!】


 何かが扉を叩いているような、或いは体ごとぶつかってきているような、そんな音が定期的に辺りに鳴り響く。


 無言でその場にしゃがみ、廊下と反対側の壁に身を寄せて震え続けた。


「…………」


 その状態で待つこと数分。いや、それは体感時間であって、実際は十秒も無かったのかもしれないけど。ともかく、やっと音が止んでくれた。


【ひたっ……ひたっ……ひたっ……】


 扉の向こうにいた何かは廊下を歩いて遠ざかっていく。足音の主が窓の前を通るとき、黒髪の頭が確認できた。


 やっぱりあれ、幽霊なんだわ。こ、これどうするのよ……。


 カズヤはこんな時に限ってまったく反応しない。状況が状況で、こちらからは話しかけられないし。レイチェルは無事なのかしら。


 足音が聞こえなくなるまで息を潜めて待つ。

 何も音がしなくなったところで「ふうっ」と息をついた。壁に身を預け、顔を天井に向ける。


【「みーつけた」】


 そこには、窓からこちらを見下ろしている血塗れの少女が笑っていた。

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