小話「ある日の、特に何の意味もない会話集③」
【自己紹介】
僕が日課の魔物狩りをして帰ってくると、玄関に栗色の髪の女の子が一人立っていた。外はもう暗くなろうとしているのにボーッと空を見つめている。
たしか、ノエルだよね? 鬼ごっこやパーティーの時間稼ぎを手伝っていた子。なにやらつまらなそうな顔をしているけど、誰かと待ち合わせかな。
「こんにちは。サタンの友達のノエルだよね? 僕のこと、覚えてるかな?」
話しかけると彼女は僕を一瞥し、音もなくこちらに向き直った。
「うん、覚えてるよ。お兄さんこそ、私のこと忘れてるんじゃないの?」
「当然さ。パーティーで会った子でしょ?」
「違うよ。その前にもよく会ってた」
え、まったく覚えがないんですけど。『よく』ってことは鬼ごっこの時以外でも会っていた? ん~?
「……ごめん。分かんないや」
素直に白状することにした。知ったかぶりをしてもすぐバレるだろうしね。
「私だよ~」
暗闇が一瞬僕の視界を埋め尽くす。
「私。覚えてるでしょ?」
次の瞬間には黒いローブの商人がそこにいた。あれ? 背丈も、声も、ローブから見える口元や髪も、ノエル……?
「えええええ!?」
思わず大声を出して驚いてしまう。
な、なんてことだ……。まさかこんなに身近にいたなんて……。し、しかも、もう用が無くなった時になって現れやがった!
「まさか、サタンの友達が商人だったとは……」
「ふふっ。驚いたでしょ? 私、これでもイタズラが大好きなの。よくサタンと一緒に協力してやってるんだよ。この前までは幽霊のふりをして人を怖がらせてたりしたんだ~」
なんて悪趣味な……。あれ、幽霊のふり? てことは、もしかしてだけど……。
「モルトの町の館でイズさんを脅かしてたのって、ノエル?」
「ぴんぽーん。サタンにインビジブルをかけてもらってね」
不敵に笑うノエル。
うわぁ。できれば彼女達のイタズラ対象にはなりたくはないな……。
心の中で念じるも、叶わない願いだというのは薄々感じていた。
【初代勇者】
夕飯の後、僕たち男性陣はバッタリお風呂で集結してしまった。
レイブン含めて全員が揃うなんて、珍しいこともあるもんだなぁ。ご飯を食べていた時には見かけなかったけど、さっき調査から帰って来たのだろうか。
「ヴィーレ、レイブンと何話してたの?」
体を洗ったエルと一緒に浴槽へ向かい、二人に話しかける。彼らは遠くからでも分かるくらい仲良く談笑していた。盛り上がっていたのは主にレイブンだけど。
それにしてもこの二人、意外と似てるとこ多いよなぁ。情に厚いとことか、メンタル面が化け物なとことか。微妙な部分は勿論違うけど、両者とも勇者らしい性格をしている。
「ああ、先代の勇者はどうやって選ばれたのかと思ってな」
「おーっ! それ俺も気になるわ。聞かせてくれよ、オッサン」
エルの言葉にレイブンは眉を上げ、顔をしかめる。
「それは別にいいんだが……。お前ら、俺に敬語やさん付けをする意思を少しは見せろよ」
「別に歳は関係ないだろ。俺は誰とでも対等な目線で話しているつもりだ」
「上下関係がなってないヴィーレとは違って、俺はしっかりさん付けしてるぜ? オッサン」
「僕は二人に倣っただけだよ。流されやすい日本人だし、仕方ないね」
僕たちの意見を聞いて、レイブンは眉間を押さえている。若造三人にタメ口呼び捨てで話されてる気分ってどんなんなんだろ。
「はぁ、まあいいさ。えっとな、俺は勇者に選ばれたんじゃなくて、自ら志望したんだ。あの時は別に今のような独裁国家もどきじゃなかったからな」
「へぇ、勇気あるなぁ。他に志望した人はいなかったの?」
「いたよ。そいつらと試合をして、純粋な強さで勇者を決めたんだ。どいつもこいつも骨のない奴だった」
そりゃ、セーブ使えるならあなたが最強でしょうよ。僕もコピーしてみたいなぁ。今はまだできないんだよね。どのくらい魔力上げればいいんだろ。
「ていうかオッサン、なんで勇者を志望したんだ? 英雄にでもなりたかったのかよ?」
「いいや。……家族を殺されたんだ。小さい頃に町を何体かが襲ってきてな。兵士達がどうにか追い返したが、その前に両親は俺を庇ってやられちまった。それの復讐さ」
「そうだったんだね……。辛いこと思い出させちゃったかな?」
「いやそんな事は」
「お、お前も家族を亡くした可哀想な奴だったんだなぁ!」
エルはレイブンの言葉を遮り、肩に手を回して身の上話を始めた。
また号泣してるよ……。ネメスの時もだけど、この人涙腺脆すぎません?
意外な共通点だったが、レイブンはただただ彼に引いているようだ。エルと違って、もう彼は復讐果たしてるもんね。
結局、そのままエルは逆上せるまで話を続けていたという。
【ラノベ主人公】
「ヴィーレ! わ、私と今度二人で遊ばない? 別に変な意味で誘ってるんじゃないわよ! 最近会ってないからなんとなく! なんとなくよ!」
図書室で悪魔の国の小説を読んでいたら、同じく読書をしていたヴィーレにイズさんが話しかけていた。デレ成分多すぎ問題。
「ん? いいぞ。でも、他の奴らも誘った方がいいんじゃないか? 人数は多い方が楽しいだろう」
「え、えっと……。うぅ……」
おいおいヴィーレさん、そりゃないぜ。ラノベの主人公じゃないんだからさぁ。
これじゃイズさんも進展できないわけだ。このままでは圧倒的にネメスの方が有利だろうな。あの子がヴィーレに抱いてるものは、恋心かどうか分からないけど。
可哀想だし、ちょっと手助けをしてあげようかな。憧れてたんだよね、恋のキューピットとかいうの。
ヴィーレの近くに寄っていって、イズさんに聞こえないよう彼に耳打ちをする。
「ヴィーレ、分からないの? イズさんは『二人で』って言ってるんだよ? デートに誘われてるの!」
「なに、あのイズが? そんなバカな……」
ヴィーレは信じがたいというような表情で彼女を見ている。すぐに視線を戻し、「無い無い」と手振りした。
まさか、彼女の好意を察していないのか? 抱きつかれてたのに? 一緒に寝てたのに?
沸々と怒りがわき上がってくる。僕には未だヒロインがいないというのに、この人ときたらっ!
「この、脳内トマト畑野郎っ!」
「なんだその新しい褒め言葉はっ!」
「……ふんっ。もう、とにかくだよ? 女の子がデートに誘うってことは、相手のことが気になってるってことなの。いいかい? 君はイズの勇気を裏切ろうとしていたんだよ?」
「ま、マジか……」
ヴィーレはここに来てやっとイズのことを意識し始めたようだ。あたふたしながら彼女をチラチラ見ている。
よし、任務完了だ。撤退しよう。
僕は元の位置にすたこらさっさと逃げ帰り、小説を読むふりをしながら聞き耳をたてた。二人の会話がぎこちなく再開する。
「イズ、すまない。やっぱり二人で遊ぼう」
「え、ええ。じゃあ、明日にでもあんたの部屋に迎えに行くわね」
「いや、俺が行こう」
「いいわよ。私が誘ったんだもの」
「いいや、ここは男の俺が!」
「余計なことしないで待ってなさいよ!」
こ、この人達……。大丈夫かな、なんかすごく不安になってきた。流石にデートには介入できないし、上手く良い感じになればいいけど。
【プロポーズ?】
とてつもなく暇だったので魔王の間に遊びに行くと、レイブン、ヴィーレ、ネメスがいた。いつもサタンと遊ぶメンバーだ。肝心のサタンがいないけど、どうしたんだろ。
「やあ、みんな。珍しい組み合わせだけど、どうしたの?」
「おう、和也。多分お前と同じだ、サタンに会いに来たらあいつがいなかったもんで、ちょっと話してたのさ」
いち早く僕に気付いたレイブンが答えてくれる。彼女は自分の部屋で寝てるのかな。それか、ノエルと遊んでるのかもしれない。
わざわざ邪魔するのも悪いし、僕はここで彼らと雑談していよう。レイブンとネメスの絡みも、前々から興味があったからね。
「何の話をしてたの?」
「えっとね、ヴィーレお兄ちゃんがつけてる指輪について説明してたんだよっ!」
「ロケットもそうだが、その指輪も常に身に付けてるから気になってな。見たところ、特殊装備らしいが」
「へぇ。ヴィーレ、どんな効果なの? それ」
「チェックしたら【装備すると状態異常を無効化できる】って出たぞ。ネメスにプレゼントされてな。大事にさせてもらってる」
「おおっ! お嬢ちゃん、やるじゃないか。お前も罪な男だな」
レイブンはオッサンらしく笑って肘でヴィーレを突っつく。顔はネメスを向いているため気付いていないが、ヴィーレはその行為を鬱陶しそうにしていた。
「やめろよ。そういうのじゃないだろ。単純に、俺が以前贈り物をした時のお返しとか、そんな感じのだって」
「まあ、ネメスは指輪をあげる意味分かってないだろうしね」
「え? 知ってるよ? ずっと一緒に居たい人に渡すんでしょ?」
「なっ……!」
ヴィーレは思わぬ事態に言葉を失っているようだ。ネメスの言ってることは合ってるんだけど、本質を理解しているのかが微妙なところだな。純粋とは時に恐ろしいものなんだね……。
「フーッ! お熱いね~。若いのはこうでなくては」
レイブンがニヤニヤしながら焚き付ける。この人時々ほんとオッサンくさくなるな。