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非公開中  作者: するめいか
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閑話「ショタヴィーレ」

 緊張を抑え込みながら廊下を歩く。向かうはヴィーレの部屋。


 最近、ネメスやアルルがかなり彼との距離を縮めているわ。見過ごせない問題よ。こうなったら私も恥ずかしがってはいられない。


 それに、この間偶然見たけど、どういう訳かあのノエルまで彼のことを好きみたい。

 確証はない。でもあの子のあんな幸せそうな顔、見たことないもの。ほとんど確定したようなものだわ。


 負けていられないわ。ただでさえ出だしで遅れているんだもの。

 まずは今日、彼をデートに誘うのよ。大丈夫。もうあの薬が無くたっていけるわ。


 歩きながら「できるできる」と自己暗示をかけていたら、前方から人が二人歩いてきた。ウィッチと見知らぬ男の子だ。近づいたことにより、あちらも私に気付いたようで、手を挙げてくる。


「あら、イズ。今日も遊びに来ていたんですのね」


「ええ。アルルと一緒に来たの。……あんたは何してるの? その子、魔王城の子?」


 ウィッチに手を引かれている男の子に視線を向けて尋ねる。見たところ普通の人間みたいだけど、エンジェルズの子かしら。


「いいえ、知らない子ですわ。……もしかしたら知っている子かもしれないですけれど」


 なんだか歯切れの悪い返事ね。どういう事か理解できないでいると、隣の男の子が不意に口を開いた。


「僕、ヴィーレ」


「……え?」


「そうです。この子、ヴィーレ・キャンベルって名前らしいんですのよ。もしかしてと思って大きい方のヴィーレを探したんですけれど、どこにも見当たらないんですわ」


 それはおかしい。彼は今日ノエルとここに遊びに来ていたはず。魔王城には居なきゃおかしいわ。


 この変な現象は、カズヤかしら。どうせ変な呪文でも使ったのでしょうね。


「私は和也を探してきますわ。あなたはこの子をアルルかノエルのところに連れていってくださる? 彼女達なら彼がヴィーレか分かるでしょう」


 どうやらウィッチも同じことを考えていたようだ。男の子の手を握らせてくると、「頼みましたわよ」と言い残して去っていった。


 その背から隣に視線を移す。ヴィーレと名乗る少年は私を見上げているものの、ずっと無表情だ。なんだか本当に彼みたいね。


「アルルのところに行くの?」


「ええ。でも、あんたが知ってるような小さい女の子じゃないわよ?」


「……うん?」


 ヴィーレは小首を傾げている。不覚にも可愛いと思ってしまった。


 それにしてもこの子、何歳なのかしら。ネメスよりは小さいけど、魔王城にいる子達よりは大きいわよね。七~十歳くらい?


「私はイズよ。よろしくね」


「ん、よろしく。イズ姉ちゃん」


 そう言って彼は私の手を握ってきた。無表情だから感情が読めないけど、悪い印象は与えてないらしい。


「じゃあ行きましょう」


 自己紹介を終えたところで、私達は早速アルルの部屋へ向かった。







「おう、イズ。何だそいつ。弟か?」


 廊下を歩いていると、エルとレイブンに遭遇した。二人ともヴィーレのことを物珍しそうに見ている。


「いいえ。ちょっと知り合いの子を預かっているだけよ」


 まあ嘘はついていないから大丈夫でしょう。どうせすぐに元に戻すわけだし、いちいち事情説明するのも面倒だしね。


 ヴィーレは二人のことをじっと見つめていた。さっきよりも少しこちらに近づいている気がする。警戒しているのかしら。


「おい、ボウズ。イズと今から遊ぶのか?」


 レイブンが話しかけるがヴィーレは首を横に振るだけだ。エルが続けてフレンドリーに話しかける。


「大人しくしてろよ。生意気言ったら、この姉ちゃんに燃やされるからな」


「そのイメージ、まだ払拭されていなかったのね……。もうそんな事しないわよ」


「マジかよ? らしくねえな」


 エルが言うと、冗談か判断しにくいわね。というか、こいつの中での私らしさって人を燃やすことなの? はぁ、まったく。余計なことを吹き込まないでほしいわ。


 彼の言葉を聞いたヴィーレはこちらを見上げてきた。微妙に難しい顔をしている。


「……僕のこと、燃やすの?」


「いやいや、燃やさないから。あんな冗談、真に受けないの」


「ハッハッハ! ボウズ、面白い奴だな! たまにここに来るならまた今度遊んでやるよ。じゃあな」


 言うとレイブンはエルと共に去っていった。外へ向かったみたいだけど、こんな昼間から飲みにでも行くつもりなのかしら?


「あんた、人見知りするのね」


 短い間だったとはいえ、ヴィーレは彼らに対して一言も口を聞かなかった。成長した彼はむしろ自分から話を振るような人なのに。人って変わるのね。


「うん」


「その割には、私の手はすぐに握ってきたけど?」


 女好きなのだろうか。一瞬そんな考えが浮かんだが、それは彼の言葉によってすぐに否定された。


「ううん。イズ姉ちゃんは、似てるから」


「え? 誰に?」


「母ちゃん」


「…………」


 なんて返したら良いのか分からなかった。

 彼は何でもないことだとでも言うように、真っ直ぐ前を向いている。たしか、ご家族は事故で亡くなったのよね。


「そう。なら、今日くらい甘えてくれてもいいのよ」


 前を向いて手を握りなおすと、少し間を置いて、彼もその手を握り返してきた。離さないように、しっかりと。







 アルルの借りている部屋に着いた。中から話し声が聞こえるけど、他にも誰かいるのかしら。


 普段通り開こうとして、隣の子の存在を思い出した。自然にノブに伸ばした手を返し、一応ノックをしてから入る。


「失礼するわよ。アルル、この子に見覚えある?」


 部屋ではアルルとノエルが絵本のような何かを読んでいた。可愛らしい絵と吹き出しの中にある文字が特徴的だ。見たことない系統の書物だけど、悪魔の国のものかしら。


「ん~? ……ん!? その子、小さい頃のヴィーレそっくりだよ! やーん! 可愛い~!」


 アルルが本を置いて近寄ってくる。ヴィーレと視線の高さを合わせると、ジーっと彼の顔を見つめだした。


「この人がアルル?」


 その視線を動じずに受け止めていたヴィーレに質問される。

 よく分かったわね。アルル、小さい頃からこんなんだったのかしら。


「そうよ」


 私の返事を聞いて、彼は彼女に視線を戻した。しばらく観察した後、困ったように呟く。


「アルル……姉ちゃん?」


「グハァッ……! と、年下のヴィーレもアリだね……!」


 呼ばれた直後、アルルが胸を押さえてへたりこむ。

 一体何のダメージ受けたのよ。というかあんた、ヴィーレなら何でも良いでしょ。


 呆れているところへ、一連のやり取りを遠目に眺めていたノエルも近付いてきた。


「本当に子どもになっちゃったんだね。この子の記憶、前に見た昔のヴィーレお兄さんの記憶と同じだよ」


 私達にそう言うと視線をヴィーレに移し、「ほら、おいで」と手招きする。ヴィーレがちょっと躊躇しながらも彼女に近づくと、二人は自己紹介をし始めた。


 無表情同士で話してるわ……。ここにレイチェルを足したらどうなるのか、見てみたいわね。一切話が盛り上がらなさそう。


 それにしても、やっぱりカズヤが何かしたのね。どんな呪文使ったんだか。そもそもどうして彼を小さくしたのかしら。彼のことだし、変にイタズラはしないと思うんだけど。


「イズお姉さん、アルルお姉さん」


 ノエルに呼ばれて思考を止める。見ると、彼女はヴィーレと手を繋いでいた。それを見せびらかして宣言する。


「この子は元に戻るまで、エンジェルズで預かることにしたよ」


「えーっ! ズルい! 私が引き取る!」


 アルルがそうはさせまいと、もう片方の手を握る。

 二人の視線は交わり、火花をあげていた。ヴィーレは両手を掴まれた状態でポケーっとしている。


「ちょっと。あんたら魔力量が無駄に高いんだから、引っ張らないようにしなさいよ」


 そんな悲惨なことになったら目も当てられないものね。彼女達もそれは承知していたらしく、手を握るだけに(とど)めていた。


 ふと、ヴィーレの手に目を向けたノエルがキョトンとした顔で声をあげる。


「あれ。ヴィーレお兄さん、月輪の指輪どうしたんだろ」


「あ、本当ね。外してたのかしら。探して装備させれば元に戻るかもね」


 彼が指輪を外すなんて珍しいけど、一体どこにあるのかしら。


「じゃあ私も探すの手伝うよ! ヴィーレの貴重な姿も見れるしね!」


 言いながらアルルはヴィーレを抱き抱えた。

 ヴィーレは「アルルの匂いがする」と呟いたきり、目を瞑って彼女に抱きついたままだ。無邪気なものね。


 一方で、彼と手が離れたノエルは心なしか残念そうな表情に見えた。やっぱり好きなのかしら。つくづく罪な男だわ。







 四人で廊下を歩く。今は手始めにヴィーレの部屋へ向かっているところだ。

 手分けしようとも思ったのだけど、なぜか彼は移動する時は私の近くから離れなかった。それならばとアルル、ノエルの二人も一緒についてきたのだ。


 どうして私にこんなになついているのかしら。母親に似ているから? こんなにべったり甘えるってことは、よっぽど似ているんでしょうね。


 今思い返してみれば彼の家族の写真、見たことないわ。エルやネメスのように持ち歩いてるわけでもないし、家を訪ねた時にも飾っていたりはしなかった。大事にしまってるのかしら。


 ヴィーレはアルルとノエルに手を繋がれながらトコトコと早足でついてきている。本当まったく騒がないわね、この子。


 ジーっと観察しながら歩いていると、前から誰かがこちらに走ってくる音が聞こえる。顔を上げた頃にはもうその人物はすぐ近くまで来てしまっていた。


「イズお姉ちゃん! アルルお姉ちゃんにノエルちゃんも! その子がヴィーレお兄ちゃんなの?」


 ネメスだ。何故か猫のぬいぐるみを持っている。目の前まで来て急停止し、私の隣に立つ彼を見つめながら興味深そうに尋ねてきた。


「そうよ」


「へぇ……。わたし、ネメスっていうの! よろしくねっ!」


 いつもと変わらない明るい笑顔で話しかける。

 対するヴィーレは彼女の持つぬいぐるみに視線を向けていた。彼が以前ネメスにあげた物だ。この彼との付き合いは短いけど、興味津々だということは容易に察せられた。


「あぁ、慌ててたから持ってきちゃったんだ。猫、好き?」


 ネメスが両手でぬいぐるみを差し出してみせる。ヴィーレは首肯してそれを受け取った。いつもネメスがしているようにぎゅっと猫のぬいぐるみを抱きしめる。嬉しそうだ。


「ヴィーレのこと、ウィッチ達に聞いたの?」


 えへへと笑いながら彼の様子を眺めているネメスにアルルが問いかける。

 それを聞いてハッと我にかえるネメス。片手に握っていた物を最も近くにいた私に手渡してきた。


「これは、月輪の指輪?」


「大きさからしてヴィーレお兄さんの物だね。ネメス、これどうしたの?」


「サタンちゃんから返してもらったの。実はね、サタンちゃんがお兄ちゃんをこんな風にしたみたいなんだ」


 彼女の話によると、事の顛末はこうらしい。


 まずヴィーレが何気ない会話の中で「サタンは子どもだな」と言う。それに機嫌を損ねたサタンが指輪を奪い、「ヴィーレも子どもになっちゃえ」と何かしらの呪文で彼を若返らせた。記憶まで戻された彼が城をさ迷っていたところをウィッチが保護、と。


 なるほど。子どもにする呪文まであるだなんて、本当に世界は広いわ。


 それにしてもカズヤ、何も関係無かったのね……。初めから決めつけるもんじゃないって事かしら。日頃の行いから、てっきり彼がやったものとばかり考えていたものね。


「だからちょっとだけお説教して、指輪を返してもらってきたの」


 説教って。この子、彼のことになると本当に怒りやすいわね。まあやんわり注意した程度なんでしょうけど、初めて会った時からは考えられない行為だわ。


「そう、ならいいわ。とにかく、これで一件落着ってことよね」


 しゃがんでヴィーレの片手を取る。ぬいぐるみに夢中になっていた彼と目があった。

 彼を元に戻そうとしているだけなのに、どこか罪悪感みたいなものを感じてしまう。


「じゃあ数年後、また会いましょう」


 一時的に若返ってるだけだから、この挨拶は違うのだろうけど、この子にサヨナラは言いたくなかった。


 彼は孤独に慣れている風だけど、同時に独りになる事を恐れているようにも見える。もしかしたら、ヴィーレが私達を大切に思う理由はそこにあるのかもしれないわね。


「私達はずっと一緒だから、安心しなさい」


 指輪を彼の指に嵌めようとする。瞬間、視界が暗転した。その直後にはもう私の手から指輪は消えていた。もしやと思いノエルを見ると、彼女の手のひらの上には例の指輪が。


「そうはいかないよ、お姉さん」


 その手を握り締め、邪悪な笑みを浮かべるノエル。間を置かず、自分の隣にヴィーレを瞬間移動させる。こ、この子まさか……。


「こんなに面白いこと、簡単に終わらせるわけないでしょ!」


 言い捨ててノエルは彼とどこかへ消えていった。あの子、本当余計なことしかしないわね!


「ネメス、アルル、追うわよ!」


「う、うん! ノエルちゃんまで……もうっ!」


「本当だよ! 独り占めは卑怯だもん! ヴィーレは皆のものなんだから!」


 彼女達もそれぞれ声をあげ、私に続く。

 それから私達による、壮絶なショタヴィーレ争奪戦が開始した。

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