昔話②「お食事」
早速、家の案内をしながらヴァンプを台所へ連れていった。
どうやら奴隷としての知識は仲間から教わったらしく、掃除や料理などは問題なくこなせるようだった。実践したわけではないだろうに、よくできるな。
「どうぞ……」
テーブルの上に野菜のスープが出される。ヴァンプの手料理が食べられる喜びでニヤけそうになったが、気合いで自制した。
本当は時間をかけて食べたかったが、ヴァンプがずっと立って待っている。遠慮してるのだろう。立ちっぱなしは可哀想だから早く食べてあげないと。
スープを匙で掬って口に運ぶ。ヴァンプは緊張した面持ちでその様子を見ていた。
「これは……」
すっげえ美味い! いや味自体は普通なんだけど、ヴァンプが作ったというだけで味が三倍近く違うぞ! 五十人前くらい余裕で食える自信がある。
「あ、あの……いかがでしょうか……」
ヴァンプは一口だけ食べて黙りこんでしまったオレの心情が気になったのか、恐る恐る尋ねてきた。
素直に褒めてあげれば良いものを、オレの口はまた無駄に格好つけて上からものを言ってしまう。
「まあまあだな。もう少し味は薄くて良かった。……まあせっかくだから全部食うけど」
「そんな……」
彼女はそんなオレの言動を聞いてショックを受けたような表情をしていた。目を見開き、わなわなと身を震わせている。
「料理を捨てたり、皿ごと私に投げつけてこないなんて……!」
そっちかよ。紛らわしい反応するな。嫌われたかと思ってヒヤヒヤしたわ。
そもそも、残すわけないだろ。たとえ病気で死にそうになってたとしてもオレは食べきるぞ。
「なんだ、失礼な奴だな。ていうかお前、自分のはどうした?」
「へ?」
ヴァンプは小首を傾げている。はい可愛い。
「だからお前の飯だよ。どうしてオレの分しか作ってないんだ?」
「あれ……? ほ、本当に食べても良かったんですか……?」
「おいおい、冗談だと思ってたのかよ……。はぁ、ちょっと待ってろ。今度はオレが作ってやる」
貴重なスープを一滴残さず飲み干したところで席を立つ。
後ろからヴァンプの困惑したような声が聞こえたが無視した。どうせまた変な問答になるだけだろう。
自分で言うのもなんだが、オレの家は結構裕福だ。家族も多いため、食材は毎日十分すぎるほどに用意してある。
とはいえ、あんまり贅沢をするつもりはないが。質素な生活最高。
適当に料理を作る。料理というほどの物でもないか。肉を焼いてサラダを盛りつけただけだ。牛乳も注いで持っていく。あいつ、少食っぽいけどこれ全部食べきれるかな。
飯を持って戻ってきたら、ヴァンプは所在無げに突っ立っていた。いや座れよ。借りてきた猫みたいだな。
オレが入ってきたのに気付き、緊張している彼女の前に料理とナイフ、フォークを置く。
「ほら、食え」
「え、でも」
「命令」
「は、はい……」
オレが椅子を引いて座るとヴァンプも続いて席についた。
オレの方をチラチラ見つつも慣れない手つきでナイフとフォークを持ち、料理を口に運ぶ。
「うわぁ……これ、すごく美味しいです!」
片手で頬を押さえ、目をキラキラさせながらこちらを見てきた。
適当に作った物だけど、こうして美味しそうに食べられたら嬉しいな。
特にやることも無いので食事をするヴァンプを観察する。
じっくり味わうようにして何度も咀嚼しているが、肉を食べたことないのだろうか。やたらと小さく切り分けてちょっとずつ食べている。そんなケチ臭い食い方しなくても、これからは飯に困ることは無いぞ。
「ちゃんと飯食ったら歯を磨けよ。身なりにも気をつけて、清潔さと美しさを保て。汚い姿になるのは許さんからな」
「はい、ご主人様」
そう返事する彼女の目は、オレではなく料理に釘付けだった。
おいこら、主人の話聞けや。まさか鶏肉に嫉妬する日が来ようとはな……。
ようやく料理を食べ終わったと思いきや、ヴァンプはしつこくこちらに頭を下げてきた。何度も止めたのだが、会話を進めようとする度に再三お礼を言われる。
「本当に美味しかったです! ありがとうございます、ありがとうございます」
「分かった分かった。もうそれ十回は聞いたぞ」
そんなに気に入ったのか。
悪い気はしないけど、こんな事でなつかれたくはないな。その好意はオレへのものではなく、美味しいご飯をくれた人に対してのものだし。そんなものなら誰にだって簡単に手に入れられるだろう。
それにしてもあの奴隷商人、ヴァンプにどんな生活させてたんだ?
相当やつれているし、よっぽど惨めな生活をさせられていたんだろう。隠しているけど痣もあるみたいだし、後で回復呪文をかけさせよう。
「あの、ご主人様……一つ質問してもよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ、言ってみろ」
「私って、奴隷として買われたんですよね?」
聞かれて初めて気付く。
どうなんだろう。自分でもよく分からない。一応主従関係ではあるが、個人的には嫁にするつもりで買ったのだ。
しかしこの子が嫌なら勿論そんなことはできない。たとえ命令できるとしてもそんなことは強制したくないもんなぁ。
はてさてどう答えたものか、と少し悩み考えた結果、無難な回答をすることにした。
「……そうだ。お前はオレの奴隷だ」
「ですよね……」
ヴァンプは「うん、うん」と納得するように頷いている。どうしたんだろう。奴隷として扱われたいのか?
彼女の意図がなんとなく気になって尋ね返してしまった。
「どうしてそんなこと聞いたんだ?」
「えっと……なんだか、すごく優しく扱われている気がして……」
「……そんなわけないだろ、自惚れるな。お前はただの奴隷だ」
思わず冷たく返してしまう。自分の気持ちを察せられるのがどうしようもなく恥ずかしかったのだ。ヘタレすぎる自分にうんざりしてしまう。
でも、かといってこんな警戒されてる状態で想いを告げてもさらに怖がられるだけだよな。うんうん、しばらくはこのスタンスで行くとしよう。
そうして無理やり自分を納得させ、席を立つ。
「さて、まずは家族を紹介するか。といっても今日紹介するのは一人だけだがな。片付けは後で良い、ちょっと待ってろ」
「え、あ、はい」
いきなり家族を連れてくると言われて困惑しているヴァンプを置いたまま廊下へ出ると、二階で子供達と遊んでくれている同居人を呼んだ。
「サタン! ちょっと下りてきてくれ!」
ここには多くの家族が住んでいる。
オレが管理しているこの家は『エンジェルズ』という名前の施設、奴隷の子供を集めている孤児院だった。




