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非公開中  作者: するめいか
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昔話①「変態、奴隷を買う」

 オレは雄叫びをあげながら町の通りを疾走していた。道行く人々から向けられる好奇の視線など気にならない。


 視界の端に映る彼らの表情は、まるでゴキブリを見るかのようなものだった。

 オレはきっと今、凄まじく気持ちの悪い顔をしているのだろう。それもそのはず。これからオレがすることはかなり気持ちの悪いことだからな。


 途中で右折し、路地裏を駆け抜け、再び出た広い空き地にそれはいた。


 怪しい一人の男性だ。服は黒い色で統一している。

 彼は奴隷商人。そう、オレは今日奴隷を買うためにここに来たのだ。


「おや、お客さんかい? あっ! あんたは……イスター!」


 商人はオレを指差して何やら驚いていたが、あんな奴のことはどうでもいい。それより奴隷だ。


 辺り一体に鎖で繋がれている奴隷達を見る。橋から一人ずつ舐め回すように見ていくと、ある一人の少女に目が釘付けになった。


「おい。彼女は?」


 その少女を指して尋ねると、商人は媚びへつらった笑みでこちらへにじり寄ってきた。


「うちで一番若い子ですぜ。まだ処女ですし、慰みものにするにはなかなか良いかと」


「そうか。……ぐへへ」


 思わずゲスイ笑みが漏れる。見つめられた赤髪の少女の瞳は不安で揺れていた。


「決めた、あいつにしよう。値段はこれで足りるか? 大金貨千枚だ」


 言って背負っていた荷物から大量の硬貨が入った袋を渡す。商人は中を確認して目を白黒させていた。


「せ、千枚!? お、お客さん。それじゃあ釣りが出ちまうよ」


「釣り? あぁ、面倒だしいらん。それより早くあの悪魔をよこせ」


「へ、へい! ……おい、ヴァンプ! 何やってんだ! お客さんの前だぞ、立て!」


 言って彼は少女の首輪から壁に繋がる鎖を外し、それをオレに手渡してきた。そして、鍵束から一つだけ抜いた鍵も一緒に渡してくる。ヴァンプと呼ばれた少女はぐったりしていた。


「これが首輪の鍵です。では、今後ともご贔屓に……へへ」


 商人が大切そうに金を抱えて奥の方へ行ったのを見送ってオレは鎖に繋がれた少女を見た。


「グフフ……やっと念願の奴隷購入だぜ……。お前、ヴァンプっていうのか? どういう系統だ?」


「は、はい……。えと、吸血鬼です……」


 少女は再び嫌らしい笑顔に戻ったオレに、ひどく怯えた様子で返答する。

 ヴァンプって親につけられた名前なんだろうか。名付けがすごく安直だが。


「おお。ダメ元で聞いたんだけど、ちゃんと喋れるのか。悪魔にしては優秀なんだな。ふへへ、今日からたっぷり可愛がってやるよ。おら、ついてこい」


 鎖を軽く引っ張ると、ヴァンプはやはりビクビクしながら掠れた声で答えた。


「はぃ……」







 家に着くなり早々に彼女をオレの部屋に連れていく。

 ここまでずっとニヤニヤが止まらなかった。好みの少女が手に入ったことに有頂天になっていたようだ。


 まあまあ、一旦落ち着こう。まずは教育からだよな。


「今日からオレがご主人だ。お前はオレのもの、いいな?」


 言うと少女は泣きそうな顔になりながら頷いた。こういう表情、そそるな。いじめたくなるぜ。


「オレの名前はイスターだ。これからは『ご主人様』と呼べ」


「はい、ご主人様……」


「よしよし、それでいい。じゃあ手始めに、お前の体を洗ってきてもらおうか」


「えっ」


 ヴァンプは素っ頓狂な声をあげた。

 ん? 何か変なこと言っただろうか。


「あの、どうして……?」


「はぁ? 臭いからに決まってるだろ。流石にそれだと家族にも紹介できないし。ついでに歯も磨いてこい」


「で、でも……近くに川なんて……」


「川? ……いやいや、ここの風呂に入れよ」


「え!?」


「うるさっ」


 急にデカイ声を出されたから耳が痛くなったじゃないか。オレが耳を押さえているのを見た彼女は大慌てで謝罪してきた。


「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


「いや、別に良いけどさ……。そうだ、風呂入る前に浴槽洗ってこいよ」


「え!? 私なんかがお風呂に浸かっていいんですか!?」


「そこからか」


 いちいち反応が大げさ過ぎるだろ、と呆れながら少女の首輪を外す。

 散々強く引っ張られたのだろう。首輪の(あと)が痛々しい。これ、どうせもう使うこともないだろうし捨てるか。


「あれ、外しちゃうんですか……?」


「は? 付けててほしいのか?」


「いえ……。ただ私、逃げちゃうかもしれませんよ……?」


「家族もいねえだろうに、逃げてどこに行くつもりだよ。大体さ、さっきから何なんだお前。主人の命令に背くのか?」


「い、いえ! 今すぐ入ってきます!」


 彼女はビシッと敬礼して、すたこらさっさと部屋を出ていった。

 なんか、俺が想像してた主従生活と微妙に違うな……。警戒されているみたいだし。







「出てきました! ……あの、近くに用意されていた物を着させてもらったのですが、本当に私がこんなふかふかの衣服を身に付けてもよろしいのでしょうか?」


 部屋の扉が開く音の後、ヴァンプの尋ねる声が耳に届いた。


 後でノックすることを教えないとな。それにしても、ふかふかの服なんて用意したっけか?


 読んでいた書物から目を離し、彼女の方へ顔を向ける。そこにはまたもや頭を抱えるような光景が広がっていた。


「……おい」


「はい?」


「『はい?』じゃねえよ。タオルは服じゃない。近くにもっとちゃんとしたの置いてただろう」


「えっ。もしかして、あの町人の女の子達がいつも着ているような服ですか……?」


「むしろどうしてそれを差し置いてタオルを纏ったんだ」


 初っぱなからこれじゃ、この先が思いやられるな……。

 溜め息を吐くオレをヴァンプは不安そうな目で見つめている。彼女はオレと目が合うと、反射的に頭を下げてきた。


「ご、ごめんなさい……」


「ん? 何がだよ?」


「何か、気分を害してしまったみたいなので……」


 ヴァンプは完全に萎縮してしまっていた。

 なんでそんなに怯えてるんだよ。オレはこんな表情の彼女を見たくて買ったわけじゃないんだけどなぁ。


 席を立ち、ヴァンプに近づく。()たれるとでも思ったのか、目をぎゅっと瞑っている。


「目を開けろ」


 命令通り、恐る恐る目を開いた彼女の頭に手を乗せる。髪はまだ少し湿っていた。


「お前はオレのものだ。だからそれなりに良い格好もさせるし、良い生活もさせる。お前はそれをつべこべ言わずに受けとれ。いいな?」


「え……は、はい……?」


 オレの発言がどういう意味なのかよく分かってないみたいだ。目を合わせたまま頭の上に?マークを浮かべている。こいつ、とことん察しが悪いな。


「命令だぞ。返事は?」


「は、はい! ご主人様!」


「分かったらさっさと着替えてこい。次は飯だ。腹減っただろ」


「ご飯食べていいんですか!?」


「おい」


「あっ……すみません、つい……」


 さっき下したばかりの命令も忘れるとか、ポンコツかよ。


「では、着替えてきます。失礼します、ご主人様」


「あまり待たせるなよ」


 パタパタと音を立てながら部屋を出ていく彼女を再度見送る。


 扉が閉まるのを確認すると、オレは部屋のベッドに飛びこみ、うつ伏せに倒れた。


「……やっぱり可愛いなぁぁぁ」


 ヴァンプの姿を思い浮かべ、悶絶する。


 あれは数十日前だったか、オレは町で奴隷として売られているあの子を見かけた。諸事情で奴隷を購入しなければならなかったのだ。


 一目惚れだった。初めて彼女を見た瞬間から、一番に買う奴隷はあの子だと決めていた。それから死ぬ気でクエストをこなし、金を集めまくって、今に至る。


「なんであんなに可愛いかなぁ。存在が犯罪だよなぁ」


 枕を抱えて手足をジタバタさせる。我ながら気持ち悪い笑みが口からこぼれた。


「ご主人だし、あんなことやこんなことしてもいいんだよな? ぐへへへへ……」


「着替えてきました……」


「フォウッ!?」


 最低な発言をしながらベッドの上を転がり回っているとドアが開いた。変な声とともに目にも止まらぬ速さで立ち上がる。


「うおい! 部屋に入るときはノックをしろ!」


「す、すみません……! 忘れてました……」


「……入ってくる前、何か聞こえたか?」


「え? いえ、何も……」


「そ、そうか」


 危ないところだった。せっかくクールなご主人様を演じているのに、バレたらたまらんぜ。


 それにしてもあの服、似合ってるな。家族の一人に選ばせたから心配だったんだが、サイズもピッタリみたいだし、良かった良かった。


「じゃあまず飯を作りに行くぞ。できるな?」


「はい……奴隷仲間から一通り習いましたので……」


「ほう、どの程度できるのか見せてみろ。こっちだ」


 彼女を連れて部屋を出る。向かうは勿論キッチンだ。


 これは一目惚れから始まった恋ではあったが、当然好きだという気持ちに偽りなどない。

 ひとまずは、この子の警戒を何とかして解かないとな。何でか分からないけど、怖がられているみたいだし。


 そうして、緩やかにオレとヴァンプの主従生活が始まった。

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