9話後編「ネメスの質問コーナー」
「第五十九問。いつものメンバー内で、彼女にするなら誰?」
例のごとく問題が読み上げられるが、ここでイズが「ん?」と首を傾げた。
「ちょっとカズヤ。問題読み間違えてるわよ」
「いいや、合っているよ。確かに『彼女』と書いてある」
「こ、これは私の時代が……!」
「来てないわよ」
アルルを制止するイズ、流石常識人だ。切り返しが早い。こいつがいないとツッコミが追いつかなくなるな。
「ほほう、女の子同士か。新しい扉が開けそうだな!」
「エル。ようこそ、こちらの世界へ」
一方、怪しい動きでエルにいらんことを教えようとしているカズヤ。さらに厄介になりそうだからやめてくれ、マジで。
「では早速、それぞれの回答どん!」
ヴィーレ『サタンとノエル』
イズ『そんな趣味はない』
アルル『私(太字)』
エル『レイチェル』
俺達の答えを読んだイズは呆れた表情でこちらを見てきた。
「ヴィーレまで……。どうして当たり前のようにネメスが女の子にそういう感情を抱くと思ってるのよ」
「違うよっ! ネメスはまだ純真な女の子……。これからどう転ぶかなんて、分かんないんだから!」
「そうだぜ! 可能性は無限大だ!」
「僕、百合大好き!」
代わりに他の三人が全力で反論する。カズヤはただどさくさに紛れているだけのように思えるが。
いや、ていうか俺は単純に答えないって答えを考えつかなかっただけだぞ。こいつらと同類に見られるのは嫌だ。後で弁解しておこう。
「はぁ、もういいわ。正解なんて分かりきっているんだもの。さっさと答え合わせをしましょう」
「そうだね。おーい」
『あ、ネメス。回答の時間だよ』
二人はあちらでジェンガをしていたようだ。棒を抜こうとしている最中に呼ばれたネメスはビクッと体を震わせてこちらを向く。幸い、塔が崩れることはなかった。
『危なかったぁ。どんな問題なの?』
『なかなか興味深いものさ。ネメス、君はいつものメンバーの中で彼女にするなら誰がいい?』
『へ? ……えぇっ!?』
思わぬ問いに驚いた彼女はジェンガのタワーを見事に崩壊させた。『あぁ……』と悲壮感溢れる声をもらしたがそれも束の間、すぐにカズヤの方へ向きなおった。
『か、彼女ってあの、お付き合いとかの……?』
『そうだね。恋人という言い換えもできるけど、今回の回答は女性限定だよ』
『えっ? えっ? えっ?』
ネメスは混乱している。そりゃあ、そういう発想は無かっただろうからな。
カズヤが彼女を数分かけて落ち着かせた。あいつが変なことを吹き込まないか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。女の子同士の恋愛は好きでも直接煽ったりはしないというポリシーでもあるのか?
回答者のネメスはというと、まだ戸惑っているようだったが、なんとか途切れ途切れになりながらも回答をした。
『えっと……絶対そんなこと、無い……と思うけど。多分、お姉ちゃん達に告白されたら、断れない……かも』
ブッブーと全員不正解の音がなる。最も、それはほとんど誰にも聞き取れてなかっただろうが。
効果音に重なるように、雄叫びとも歓声ともつかないアルルの叫び声が部屋に響き渡ったのだ。
「よっし! ちょっと今から告白してくるよ!」
「こら! 待ちなさい! 〈フローズンスノウ〉!」
答えを聞くなり全力で駆け出したアルルをイズが呪文で拘束する。
「〈インビンシブル〉!」
「なっ……!」
何の躊躇もなく無敵の呪文を使った彼女へイズは驚愕と困惑の視線を向けていた。
イズが何を考えているか手に取るように分かる。古い付き合いの俺でもあいつの行動は理解できんぞ。
「おいカズヤ、ゲームが台無しになるぞ。止めとけよ」
エルと二人でアルルの衝動を煽っていたカズヤに声をかける。それを聞いて彼はハッと動きを止めた。忘れてやがったな、こいつ。
はぁ、しばらくはネメスがアルルの餌食にならないように気をつけとかないとな。
「第七十二問。ホームレス時代の食生活はどうだったの?」
「やめたげてよぉっ!」
問題文を聞いたアルルが悲痛な叫びをあげる。気になるといえば気になるが、わざわざ掘り返さなくてもいいだろうに。
「誰が書いたんだろうね、この質問……」
読みあげたカズヤですら顔をひきつらせている。残りのメンバーを考えれば大まかな予想はつくけどな。
「まあひとまず四人とも書いたみたいだし、答えをどうぞ!」
ヴィーレ『猫に分けてもらってた』
イズ『雑草』
アルル『可哀想』
エル『クエストをして稼いで食ってた』
「おい、アルル。ネメスの答えを書けよ」
「だって可哀想なんだもん! ていうかヴィーレの方こそふざけてるでしょ!」
「ふざけてなんかいるもんか。あり得なくはないだろ」
「ほぼほぼあり得ないよ!」
そうか? 動物が人間の赤ちゃんの面倒を見てたとかいう話をどこかで耳にした記憶があるぞ。
「エル、その答えはないと思うわよ。彼女、出会ったときはかなり弱かったもの。戦闘以外のクエストも字が読めないネメスにはこなせなかったでしょう」
「あー。そう言われてみれば、ネメスちゃんって最初は買い物の仕方も知らなかったんだよな……」
「さ、さあ! 正解の映像を見ようか!」
徐々に暗くなる雰囲気を見かねたカズヤは早々にイヴィールアイとテレパシーを使用して俺達にネメスの部屋の様子を見せた。
二人はポリポリとお菓子を食べながら雑談している。平和で良いなぁ、向こうは。
『あ、次の質問だよ。えっと、君のホームレス時代の食生活はどうだったのか、だってさ』
あちらのカズヤも少し気まずそうにしている。これで虫食べてましたなんて答えられたら場が凍りつくだろう。しかし彼女は特に気にしてないのか普通に答えてくれた。
『うーん。オジサンが来てくれるまでは公園に生えてる草を食べて飢えを耐え忍んでたよ。近くに綺麗な水がないのがキツかったな~』
ピンポーンと俺の台が鳴る。よく生き延びられたな……。またもやイズとエルが泣きそうだ。
『あ、でもね、不思議なことがあったの。本当にお腹が空いてるのに何もご飯が見つからない時、公園のベンチの上に料理やパンがよく出てきてたんだ。もしかしたら優しい人が置いていってくれたのかも、なんて』
自意識過剰だとでも思ったのか恥ずかしそうに頬を掻くネメス。
多分だけど、ノエルだろうな。本当に近所の人なのかもしれないが、それだと直接渡さないのが不自然だし。
「この質問コーナーで確実にネメスちゃんへの愛しさが増している俺がいるぜ」
「奇遇ね、私もよ」
「これが終わったら六人で遊ぼっか!」
「それはいいが、お前ネメスのこと襲うなよ」
「アルル、僕は君の味方だよ!」
不純な動機を持つ輩が混じってはいたが、俺達はみんな同じ気持ちを抱いていた。
「第百問。今一番欲しいものは?」
「ん? 最後の質問にしては無難だな」
「まあ無作為に選んでるし、そこはね」
「でもさ、案外運命的だよ。この質問」
「どういうことだ?」
アルルの発言にエルが尋ねる。
あぁ、そういえばもうすぐだな。人間の国で暮らしてたから忘れそうになってた。
「ノエルに教えてもらったでしょ? あと二十日でネメスの誕生日よ。悪魔の国の暦では、だけど」
「十二月十六日だよね?」
「ええ」
「あー、そうだったな。うっかり忘れちまってた」
そう、もう一ヶ月もせずに彼女の誕生日が来るのだ。ただ、俺はかねてから彼女にプレゼントしようと思っていたものがあるので、この質問の答えは参考にならないだろうな。
「みんな書き終わったね? では、最後の回答どうぞ~」
ヴィーレ『可愛い服』
イズ『新しい本』
アルル『私』
エル『ペット』
「変態一人以外はみんな真面目ね」
「ちょっとちょっと! 淑女に何言ってるの!」
イズの感想にアルルが噛みつく。お前、ついさっき淑女がしちゃ駄目な顔してただろ。
「長かったな~。ではネメス、最後の回答どうぞ!」
『ネメス、これで終わりだよ。君が今一番欲しい物は?』
『欲しい物かぁ。うーん……変な答えかもしれないけど』
もっと悩むかと思っていたが、彼女はすぐに答えを決めたようだ。とびきりの笑顔をこちらに向けてくる。
『今一番欲しい物は、みんなと一緒に過ごす時間、です!』
彼女が答えた瞬間、不正解の音が響き渡り、映像が砂嵐に変わる。それが消え、開けた視界にはネメスがいた。ただし彼女がいるのはさっきまでいた部屋ではなく、魔王の間、俺達の目の前だ。
「みんな、お疲れ様ー!」
言ってこちらに駆け寄ってくる。イズとエルが両手を広げて彼女を迎え入れていた。感動の再会だ。
「放してぇ!」
一方、俺は何をしでかすか分からないアルルを羽交い締めにしていた。別に普段なら邪魔しないんだが、目がガチだから怖いんだよ……。
アルルは何とか逃れようと暴れている。レベルは俺の方が上のはずなのに力強すぎだろ、こいつ。
「じゃあ待望の、結果発表ー!」
俺達の様子をニヤニヤして眺めていたカズヤが急に声をあげる。
そういえば、順位は回答者も知ることになるとか言ってたな。ここで発表するのか。
彼は自分の台からメモを取りだし、全員の正答数を読み上げだした。
「ヴィーレ、65点。イズ、64点。アルル、14点。エル、42点です!」
「アルル……」
全員から向けられる視線を受けながらアルルは「あっれぇ~?」ととぼけていた。途中途中ふざけてたからだろ。
「ヴィーレお兄ちゃん、わたしのこと沢山見ててくれてたんだね! ありがと!」
ネメスがこちらに駆け寄り、その勢いのまま俺に抱きついた。まあ俺は繰り返してる分ハンデをもらってるからなぁ。そう考えるとイズやエルも十分ネメスをよく見ているだろう。
「じゃあ第一回、質問コーナーはこれで終わりだよ!」
「は? 第一回?」
「うん。他の人のもやるからね。メンバーは毎回変えるからまた君たちにも声をかけるよ」
マジかよ。結構時間かかったぞ、これ。こいつの遊びにかける情熱半端じゃないな。
「ようし! じゃあ昼飯でも食いに行こうぜ!」
「そうね。休憩を挟んだとはいえ、何時間も立ちっぱなしでお腹が減ったわ」
「その後はみんなで遊ぼうねっ!」
「いいけど、アルルには極力近寄るなよ。危ないからな」
「ヴィーレ! 余計なこと言わないでよっ!」
「あはは……今日も賑やかだなぁ」
思い思いに言葉を交わしつつ、みんなで魔王の間を出る。
思えばネメスのおかげでイズやエルと仲良くなるきっかけもできたんだよな。あのパーティーを繋げてくれたのは他でもない、自分のことを足手まといだと思い込んでいた彼女だったのだ。
これからも彼女の笑顔に救われることになるだろう。だからこそ、俺達も彼女の笑顔を守り続けなければ。
※細かい設定集⑧
農民時代、ヴィーレが畑で育てていた物は主にトマトだったらしい。以前和也に「脳内トマト畑野郎」と罵られたのはそのため。




