9話前編「ネメスの質問コーナー」
魔王の間に俺、イズ、エル、アルルの四人集められていた。
呼び出したのはカズヤだ。わざわざこの日のために全員が空いている日を聞いて回ったらしい。にしても、このメンバーで集まるのは久しぶりだな。
「じゃあ、今日はこんなことをして遊ぶよ!」
カズヤが急に発表したと思ったら視界が暗転し、少し離れた場所に台が四つ出てきた。玉座の隣に立つ彼の前にも同じような台が設置されている。
「どっから持ってきたのよこれ……。あんた、最近よく変な遊び思いついては私達に仕掛けてくるわね」
「ちょっとサタンちゃんに似てきてるよな」
「みんなと違って仕事とか無いから暇なんだよ……」
イズとエルの発言にドンヨリした表情で応じるカズヤ。
こいつは向こうに帰るわけにもいかないからな。原因の一端である俺達にも罪悪感はある。だからたまにこうして彼の企画に付き合っているのだ。
だからそれは別に良いんだが、台が人数分出てきただけではまだ何の遊びなのか分からないな。
同じ疑問を抱いたらしいアルルが軽く挙手をして尋ねる。
「それで、今日は何するの? 全員で遊ばないなんて珍しいね」
「うん。今日やるゲームは皆でするには不向きだからね。さて、説明に入ろうか。本日開催するゲームは、これだよ!」
瞬間、見知った場所が宙に映る。
『ネメスの、質問コーナー!』
そこに映ったネメスがジャジャーンと言いながらゲーム名の書かれたプレートを掲げてきた。ネメスがいるのは魔王城にある、彼女の部屋だ。カズヤが呪文で見せているのだろう。
「質問コーナー? 何だそりゃ」
「僕から簡単に説明するね。ネメスにはこれから百個の質問に答えてもらうんだ。これは君達がその答えを予想して当てるゲームだよ。要するに、いかに彼女のことを知っているか、という勝負だね」
「なるほど。……それで、あんたもサタンみたく変な罰ゲームを設けるのかしら?」
「いや、それは無いから安心していいよ。ただ結果は回答者も知ることになるから、最下位の人とはしばらくギスギスするかもしれないね!」
爽やかな笑顔で結構クズなことを言う主催者。こいつ、俺達を仲違いさせたいのか?
「じゃあ早速始めようか。しばらくは練習みたいなものだと思ってやってもらえればいいよ! 答えは席に設置してあるプレートに書き込んでね」
台へ近付くと小型のホワイトボードに黒と赤のペン、イレーザーが置いてあった。なんであいつこんなに準備が良いんだよ。一周回って怖いわ。
「第一問。ネメスの好きな食べ物は?」
イズ達も台の前に来たところで、カズヤが箱から取り出した紙を広げ、問題文を読み上げる。彼の前の台の上にあるプラスチックの箱、あそこにネメスへの質問が入っているみたいだな。
さて、ネメスの好物か……。思い浮かぶには浮かぶんだが、果たして彼女の答えがそれかと言われると正直分からんな。
うーん、ここはストレートに書くのが正解か? あいつのことだから変に捻った回答しないだろ。俺は自分の知っている彼女の好物を記入した。
「それじゃあ回答オープン!」
俺達が答えを書き終えたのを確認したカズヤが声高らかにそう言うと、四人は一斉にボードを立てた。みんなの回答を見てみる。
ヴィーレ『ショートケーキ(苺付き)』
イズ『ケーキ』
アルル『私の作ったお弁当』
エル『食べ物ならもう何でもいいですっ!』
「おい、そこの二人。回答がおかしいだろ」
アルルとエルに物申す。エルに関してはふざけているとしか思えない。
「えー。でも私がこの前お弁当作ってってあげたら、ネメスすごく喜んでくれたよ?」
そうだとしても、他を差し置いてそれを選びはしないと思うぞ……。エルやサタンの方が料理上手いだろうし。こいつ、本当ネメスとサタンとノエルのことになると駄目だな。
「まだそれは良いにしても、よ。エル、あんた何口調よそれ」
「ネメスちゃんのに決まってるだろ!」
「嘘でしょ……。あんた、勝つ気無いわけ?」
「いやいや。だってよ、ネメスちゃんの答えを予想して答えるんだろ?」
「エル、そこまで再現しなくていいから……」
二人のやり取りにカズヤがやんわりと割り込んでくる。まあ口調とか関係無しに、こいつの回答は完全にネメスをバカにしているようにしか見えないが。たしかネメスは人参苦手だったろ。
カズヤは気を取り直して一度咳払いをすると、再び司会の役に戻った。
「じゃあ正解発表いこうか」
視界が再びネメスの部屋に移る。そこにはもう一人のカズヤがいた。ネメスにはこっちが見えていないみたいだし、退屈させないための役だろうか。
『一問目だよ、ネメス。君の好きな食べ物は?』
『ん~、初めから難しい質問だね……。うぅ……美味しい物が多過ぎて決めきれないよ~』
「おっ! おっ! 俺が初の正解者か!?」
隣でエルが騒ぐ。うるせえ。
『でも強いて挙げるなら、ケーキかな。苺が沢山入ってるの!』
彼女が答えた瞬間に映像が切れ、ピンポンピンポンという音と共に俺とイズの台が点滅しだした。イズはそれに驚きビクッと小さく跳ねる。だからなんでこんなに凝ってるんだよ。
びっくりしたのを取り繕うように、イズが手を顎に当てて得心したように呟く。仕草がいつもより大袈裟だ。
「つ、つまりこれをあと九十九問やるってことでいいのかしら?」
「らしいな。まあ二時間もあれば終わるだろ」
「よし、一番になってネメスにお姉ちゃんらしいところ見せちゃうよ!」
「俺だって、あいつは妹みたいなもんなんだ。ここは勝つぞ勝つぞ~!」
「ちなみに、質問は不参加の人達が作成した七百の質問からランダムで選んでるよ。チュートリアルも終わったことだしジャンジャンいこうか、第二問!」
デデンと効果音が頭の中に鳴り響き、ゲームが再開した。
「第二十八問。ネメスが一番信頼している人は?」
「信頼かぁ。好きな人だったら考えるまでもねえんだがな~」
エルが嫌味ったらしく言う。まだ言ってんのかこいつは。
「それだったら私達にもチャンスあるよね。私、最近よく遊んでるし!」
「そんなこと言ったら私だってずっと彼女のそばにいたわよ?」
「え~? どうかな~? イズは口うるさいところあるからな~」
笑顔で火花を散らすアルルとイズ。なんかゲームとは別の戦いが始まろうとしているぞ。
慌ててカズヤがそれを止めに入る。
「はいはい、正解見れば分かるでしょ? さあ、回答どうぞ!」
ヴィーレ『俺』
イズ『私』
アルル『アルルお姉ちゃん』
エル『エルお兄ちゃん』
「流石ネメス、愛されてるね~」
「だな。誰も譲らない」
「当たり前だろ? 俺はネメスちゃんの師匠であり、兄貴だぜ? そらもう信頼されまくりだろうよ」
「バカ言わないでよ。初対面で鼻から炎出してたくせに」
「それあんたのせいですよねぇ!?」
いつも通りイジられるエル。もうそのネタ一生使われるだろ。
「じゃあそろそろ正解発表いこっか。現場の和也さーん?」
カズヤが呼びかけるとネメスの部屋の分身が『はーい』と返事をする。どうでもいい小芝居挟んでいくなぁ。
『ネメス、君が一番信頼してる人って誰?』
『信頼……か。勿論みんな信頼してるけど、一番って言われたらイズお姉ちゃんだね。わたしのお母さんで、お姉ちゃんみたいな存在だから。お姉ちゃん、いつもありがとね』
百点満点の笑顔でネメスが答えると同時に、ピンポーンと音がしてイズの台が光る。
「天使やでぇ」
渋い声でもらすカズヤ。何だよその話し方。
イズの方を見ると号泣していた。聞こえないだろうに、全力で返答している。
「ネメスゥゥゥ!! 私も同じ気持ちよぉぉぉ!!」
相変わらずの涙もろさだな。この映像が向こうに流れていないのがなんだか惜しくもあるが、きっと気持ちは通じているだろう。
「第五十一問。ぶっちゃけ、女をキープし続けてるヴィーレについてどう思う?」
「おいカズヤ」
「ぼ、僕じゃないよ!」
睨みつけたら即否定された。誰だよ、この質問書いた奴。濃厚なのはレイブンだが……。くそ、独身男の僻みか?
「ハッハッハッハ! これやった奴はなかなか良いセンスしてんな!」
エルは腹を抱えて笑い転げている。蹴飛ばしたい。レベルカンストした状態での本気キックをお見舞いしたい。
彼はそのまま苦しそうに震える手で回答を書き終えた。それを確認したカズヤがみんなを見渡す。
「じゃ、じゃあいくよ? 回答オープン!」
ヴィーレ『仕方ないと思う』
イズ『優柔不断』
アルル『意気地なし』
エル『死すべし』
「これは酷い」
苦笑するカズヤ。どうして楽しくゲームしていたはずなのに、俺は今こんなに嫌な汗をかいているんだ。可能ならば今すぐこの場から逃げ去りたい。
「カズヤ、さっさと正解発表に移ってくれ」
できるだけ隣に並んでいる奴らに目を向けずに伝える。さっきから女性陣の視線が痛い。しかもずっと無言だし。
俺の焦りを察したようで彼はすぐに要求を受け入れてくれた。
「あ、うん。せ、正解は~?」
『はいはーい。こっち担当で良かったと心の底から安堵しております、カズヤです。さて、ネメス。もう質問も後半に突入したからね、もう少しだけ頑張って!』
『楽しいから全然平気だよっ! それで、次の質問は何なの?』
『えーっと……。ぶっちゃけ、みんなの気持ちに応えないヴィーレのことどう思う?』
『えっ……』
問題文を聞いたネメスの表情から笑顔が消える。
「……ぐがぁっ! 見てられん!」
言って目を瞑る。だがそれから一秒もせずに瞼の裏に先程までと同じ映像が浮かび上がってきた。なんて悪質な嫌がらせだ!
『…………』
ネメスは無言でぬいぐるみを抱き締めている。暫しの熟考の後、彼女はようやく落としていた視線を上げた。
『わたしは、ヴィーレお兄ちゃんがちゃんと考えてくれているなら、それで良いよ。だってお兄ちゃんだもん。誰か一人を選べても他の子達を傷つけちゃうって悩んでるんだと思う』
彼女は笑っていた。ぬいぐるみに回したその手に力が入る。自分の気持ちに答えてもらえないもどかしさを押し殺しているのだ。
そんな彼女から逃げようとしていた自分が恥ずかしくなって、俺は目を開いた。
『だからわたし、それでも好きって言ってもらえるくらい、お兄ちゃんにわたしのこと大好きにさせてみせるよっ!』
叫ぶように言い放ち、彼女は真っ赤な顔をぬいぐるみの頭の部分に埋めてしまった。映像が閉じ、正解の音と共に俺の台が光る。
「……あんた、あの子に失望させるんじゃないわよ」
「……ああ」
いつかは決着をつけないといけないんだろうな。彼女の思いに締めつけられる胸の痛みを忘れないように、しっかりと記憶に刻んでおいた。
※細かい設定集⑦
いつの間にかロリコン設定にされたアルルだが、彼女はサタンの抜け羽を拾い集め、ネメスに加工してもらって毛布にしている。
ちなみに、その毛布は決して劣化しない特殊装備。サタンが常にイモータリティーを使っているからと思われる。




