表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非公開中  作者: するめいか
48/104

6話「ヒロイン達の暴走」

 僕とエルはヴィーレの部屋に呼ばれていた。何やら相談があるとのことで来たのだが……。


「――――ということなんだ」


 彼が説明を終える。

 要約すると、最近イズさんとネメス、それにアルルがやたらくっついてくるらしい。信じられないが、ノエルも二人きりの時はかなり甘えてくるそうだ。


「ただの自慢じゃねえかっ!」


 エルがテーブルを力強く叩く。壊れないところを見ると手加減はしているらしい。モテない男として、気持ちはすごく分かるよ。


「自慢じゃない。実際すごく困ってるんだ」


 ヴィーレは本当に参っている様子だが端から聞いたらムカつくことこの上ない発言だ。


 彼は冒険が終わってから、尋常じゃないスピードで友達を増やしていた。人間の国だけでなく、たまに遊びに出かけるだけの悪魔国にも友人や知人がいるのだ。


 赤い眼や身分、勇者になったことで人々に避けられていたから気付かなかっただけで、元々コミュ力お化けだったのかもしれないな。


 コミュ力お化けとは名ばかりではない。ヴィーレの恐ろしいところは、どんな人ともあっという間に仲良くなれることだ。

 注意して観察したこともあったけど、初対面にも物怖じせず、誰が相手でも態度を変えないところ以外は普通の接し方だった。僕らには認識できないだけで何かコツがあるんだろうか。


 呪文ではない分、その才能は余計に素晴らしく感じるね。勇者らしくて彼によく似合う。


 でも、今回はそれが裏目に出た結果、という訳らしいな。


「アドバイスする前に確認しときたいんだけど、ヴィーレはあの三人の好意に気付いてるの? ノエルはよく分かんないけどさ」


「……ああ。流石にあそこまでぐいぐい来られるとな」


 おお、三人とも無事進展しているようだ。


 でもネメスやアルルはともかく、イズさんまでそんなに積極的にアプローチを仕掛けているのか? しかもこの鈍感なヴィーレにも分かるくらい?


 いくらヴィーレが好感度を上げる達人でも、相手の性格まで変えることはできないはずだが。


「つってもあいつら普段通りじゃねえか?」


「お前らから見ればそうだろう。あいつら、二人きりの時だけ攻めてくるんだよ。大体は夜、俺と寝るときにな」


「あ、まだ一緒に寝てるんだ……。具体的にはどういうことをされてるの?」


「…………」


 ヴィーレは黙ってしまった。何されてるんだ!


「おいおい、言えねえようなことされてんのかよ」


 エルがやってらんねえとばかりにテーブルに足を乗せた。お行儀悪いよ。


「うーん。誰か一人を選べばいいんじゃないの?」


「馬鹿言え。俺はただの農民だぞ? 相手が不幸になるだけだろ」


 う、うわぁ。いつもは男らしくズバズバっと行動するのに、こういう時だけ後ろ向きな考えなのか、この人。


「ハッ。呆れた野郎だぜ。もしコクられてんなら、返事はしろよ? 答えないって選択は、どんな答えよりも最低だからな」


 エルの投げやりな言葉に、ヴィーレは頷きながら視線を下げた。刺さってるって顔してるな。


 ……たしか、あの冒険の後にノエルから聞いたけど、ヴィーレもこの世界の真実については知ってるんだよね? なら、僕も僕なりの説得をするとしよう。


 僕はエルに聞こえないようにヴィーレへ耳打ちした。


「好きな人が振り向いてくれない方が不幸なことだよ。どうせこの世界はすぐに終わるんでしょ? それなら、彼女達の気持ちと誠実に向き合ってあげるべきじゃないかな」


「ぐっ……そうか? ……そ、そうか」


 ヴィーレはまだ悩んでいたようだが、これからは前向きに考えてくれるようだった。

 誰が選ばれるのかは分からないけど、後にしこりが残らないようにしてくれると助かるね。


 その後、僕たちは気を取り直し、雑談やらゲームをして一日を過ごした。







「ノエルちゃん、いつものあれ売ってくれる?」


 その日の夜、廊下を歩いていると、近くからネメスの声が聞こえた。


 廊下の角から曲がった先を覗くと、屋台の中にいるノエルとその前に立つネメスが見える。ナチュラルに城の中に店持ってきてるけど、いいのかなあれ。


「いいよ。ネメスにはサービスしといてあげる。大銀貨一枚ね」


「うん。いつもありがとっ!」


 硬貨を渡して代わりに一つの小瓶を受け取ると、ネメスはこちらへ向かってきた。ま、マズイ。立ち聞きしてたと思われる!


「ふんふふ~ん」


 咄嗟にインビジブルを使ってしまった。ネメスは僕の横を上機嫌で通りすぎていく。間一髪だったな……。


 ノエルを見ると、まだその場から動いていなかった。他にも客がいるのかな?


 気になるのでテレパシー対策にキャンセルを使いつつ、様子を窺う。

 じっと待っていると、数分もしないうちにアルルがやって来た。


「あっ、ノエル! いつものやつ、貰える? 最近切らしちゃっててさ」


「いいよ。こんなに高いのによく買うね~。金貨一枚だよ」


 言って彼女は先ほどネメスに渡していた小瓶を出した。

 さっきの十倍か。ていうか、あんな小瓶に一万円? 中身は一体何なんだ。


「効果は覿面(てきめん)だからね! ノエルへのお小遣いも兼ねてるし、全然安い安い」


 アルルは明るく笑うと「じゃあね~」と手を振って、また僕の前を通っていった。化粧品か何かなのかな。


 ノエルはまだ帰らずにいるようだ。ガッポリ稼ぐ気だな。もうちょっと見ていよう。


 待っていると、次はイズさんが通りかかった。キョロキョロと辺りを見回しながらノエルに話しかける。


「あ、あの薬一つ貰えるかしら」


 そう言って彼女は例の小瓶を指差した。


 薬? ネメス達の買ってたあれ、薬品なのか? 怪しい物じゃないだろうな。


「はいはい、金貨一枚ね。最近みんなよく買ってくれてるよ」


「アルルとネメス?」


「うん。ヴィーレお兄さん大人気だね」


 ヴィーレ? あっ。そういえば、今まで客として来た三人って……。


「わ、私が買ってることは内緒よ?」


「分かってるって。ふふふ。イズお姉さんもすっかりこの、『異性に積極的になれる薬』の(とりこ)だね」


 な、なんかすっごくいかがわしい物売ってるぅ~!

 いやいやいや。アルルやネメスはともかく、なんでイズさんまでそんなの購入してるんだ。


「変な言い方しないでよ。ま、まあ、また今度来るわ」


 周りに誰もいないか確認しながら、そそくさと帰るイズさんの姿が見えなくなったところで、僕はノエルの前に姿を現した。


「ちょっと、ノエル。なに売ってるの?」


「あれ、和也お兄さん、盗み聞き? 悪趣味だね~」


「お互い様でしょ。怪しい薬なんて売ってさ」


「怪しくなんてないって。『異性に積極的になれる薬』だよ? 心配しなくても大丈夫。副作用も中毒性も無いから」


 積極的になれる薬か……。あれ? もしかして、最近ネメス達がヴィーレにベタベタしてるのって……。


「正解。私のおかげだよ」


 キャンセル解いた途端、勝手に心読んできやがった。ずっと心の中で詠唱していたんだね……。


「どうしてそんなことしてるの?」


「だってお姉さん達、見ててじれったいんだもん。和也お兄さんもそう思ってるんでしょ?」


 なんだ、純粋に恋の応援をしているだけか。まあ、確かにそうだけどもね。そういう観点から見れば、彼女の行動は実にナイスなのかもしれない。


 だけど、『異性に積極的になれる薬』って絶対あれだよね……。そんな物を十四歳が持っているのはなんか……なんかマズイよ。

 大体、この子はそういうのどこで手に入れているんだろう。健全な男子高校生の僕、そこら辺のこと凄く気になります。


「ヴィーレは彼女達の気持ちに真っ直ぐ応えるつもりらしいよ。だからもうそれは必要無いんじゃないかな?」


「あ、そうなの? んー……。でも需要があるなら、商人を名乗る者としては見逃せないんだよねぇ」


 全力で見逃してくれ。

 そういえばこの子、最初は商人だったんだな。最近ローブ着ないから忘れてたよ。


「ちなみにさ、ノエル達もたまにヴィーレのとこ行ってるんでしょ? さっき彼に聞いたよ」


「まあね。お兄さんのとこなんだか落ち着くんだよ。和也お兄さんも行ってみれば?」


 絶対に嫌だ。それこそ需要が無いだろう。


 それにしても、魔王城の女の子達にモテモテだな、彼。あとはウィッチとレイチェルだけか、ヴィーレを特別視していないのは。サタンとノエルはまだグレーだけどね。


「君は彼のこと好きなの?」


 もし彼女も好意を寄せているのだとしたら、もうヴィーレはいつか刺されると思った方がいいだろうな。まあでも、修羅場とかは無いか。あのメンバーだし。


「うん、好きだよ。信頼もしてる。でもネメス達が彼に言ってる好きとは違うから、安心して」


「へぇ。てことは、恋人にしたいとかいう訳ではないんだね?」


「そうだよ……多分」


 なんか最後ボソッと付け足しましたけど、この子。怪しいなぁ。もう少し探りを入れてみるか。


「ネメス達がヴィーレにベタベタしてるのどう思う? ムカムカしない?」


「友達だよ? するわけないじゃん」


 あれ? 僕が勘ぐっているようなことではないのかな? それともサバサバしているだけか?


 判断に迷っていると、ノエルは続けて言った。


「ただ、お兄さんがそれでドキドキしてたり、相手のことを可愛いって思ったりするのはやだ」


 あ、かなり濃厚な黒ですねこれ。そうなると、あともう一つ気になるのが、どの程度の好意なのか。


「僕と彼だったらどっちが好き?」


「ヴィーレお兄さん」


 即答である。

 い、いいんだ。僕はいつか日本に帰って、あっちでモテモテライフを送るから問題ない。そう、何もショックを受けることなんてないんだ。


「じゃ、じゃあヴィーレとサタンだったら?」


 その質問を聞くと、ノエルはわずかに目を泳がせてからウンウン唸りだした。かなり長い熟考の後、ようやく答えを絞り出す。


「……サタンかなぁ」


「あー、そっか。なるほどね」


 この子もなんか危なそうだな。こんなに悩むってことは拮抗しているわけだろうし。

 ていうか、サタンと同じくらい好まれてるって、一体彼は何をしたんだろう。


 冒険の終わり際にノエルの記憶を見た段階では、ただの信頼できる人って感じだったし、あの後一緒に過ごすなかで変化があったんだろうか。


 まあどういうわけだろうが、彼女の想いも邪魔するわけにはいかない。ノエルが積極的になってしまう前に、ヴィーレが誰かを選ぶことを祈ろう。

※細かい設定集④


・ノエルの好きな食べ物はチョコレート。好きな飲み物はオレンジジュース。


・ネメスの好きな食べ物はショートケーキ。好きな飲み物はホットミルク。


・アルルの好きな食べ物は辛いもの全般。好きな飲み物は水。


・イズの好きな食べ物はパスタ(カルボナーラが一番らしい)。好きな飲み物は紅茶と薬草ジュース。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ