if「強くてニューゲーム(和也編)」
「おやすみ、お兄さん」
あれ、ここは?
僕はさっき部屋の布団で眠ったはずだ。そして夢の中でノエルにこの世界の真実を明かされた。それなのに、視界には満天の星空が広がっている。なんか見たことある光景だな……。
寝そべった状態から体を起こす。ジャージを着ているというのに、信じられないほど寒かった。何が起こってるんだ?
どうやらまた変な現象に巻き込まれちゃったみたいだ。この世界もゲームや小説の中なのかな。だとしたら、またいずれ終わることになるだろう。
もうあまり驚きもしていなかった。ただ何かがおかしい。この状況、本当に最初に戻ったみたいだ。でも僕の記憶はあるし、使える呪文も世界を平和にした後にコピーしてたものばかり。
なんだか分からないけど、僕の知らないところで異変が起こっている?
自分の体を抱いて、寒さの軽減を図りながら辺りを見渡すと、背後に人が立っていた。赤く、長い髪が今やすごく懐かしく感じる。歳は僕より少し上の女性だ。僕のご主人の魔法使い。
彼女はこちらをポカンと口を開けて見つめている。まるで何かに呆気にとられているようだ。
「ウィッチ!」
僕は意を決して話しかけた。女性はハッと我に返ると、分かりやすく困惑する。
「えっ。ど、どうして私の名前を知ってるんですの?」
「あっ。えーと、そういう呪文を使えるんだ」
適当に誤魔化しておいた。残念ながら、彼女は僕のことを忘れている様子だ。
「そうでしたのね。ひとまず、事情はあとで説明しますわ。今は黙って私についていらっしゃい」
「よしきた」
彼女は魔王城へ引っ張って行こうとする。僕は現状に若干困惑しながらも、再び彼らに会える喜びでウキウキしながら、彼女についていったのだった。
「――――というわけですわ」
今の状況を簡単に説明しよう。ウィッチの部屋まで連れてこられて、異世界転移したという衝撃の事実を叩きつけられた。
「知ってた」
「えっ」
「あぁ、ごめん。何でもないよ」
彼女の話によると、僕はウィッチが人生に一度しか使えない召還呪文を使用したら現れたのだという。つまり、彼女がご主人で、僕が使い魔だと。
「相変わらずガチャ運無いな~」
「あら、そんなことありませんわ。これは非常に珍しいケースなんですのよ。普通はドラゴンやモンスターが召還されますの。人間を召還した方なんて、ほとんどいませんわ」
彼女は胸を張って自慢げだ。ぶっちゃけドラゴンとかの方が全然良いと思うんだけど、そこの所はどうなんですかね。
「そういえば忘れていました。改めて自己紹介しておきますわね。私はウィッチですわ。魔法使いのウィッチです。あなたのお名前は?」
「和也だよ」
「ありふれた名前ですわね」
「ですよね~」
「一応私の召し使いですもの。人手が不足しておりますので、色々教えたいこともあるのですが、まずはこの魔王城の住人を紹介しなければなりませんわね」
「そうだね! さあ行こう、今すぐ行こう!」
「え? ちょ、ちょっと!」
僕はウィッチに連れられる前に魔王の間へと早足で向かった。テンポ良すぎて、タイムアタックしてるみたいな感じがあるな。
僕らが先に集合してから暫くすると、レイブン達が魔王の間へやって来た。いつものメンバーだ。
数段の階段の先で、サタンは堂々と玉座に鎮座している。まだかなまだかなと待っていると、いよいよ魔王が立ち上がった。
「それじゃあ新人君のために、魔王城のイカれたメンバーを紹介するぜぇっ!!」
「よっ! 待ってました! サタン様っ!」
口笛を吹いて全力で乗っかる。
この状況が何なのかは分からないけど、どうせまた戻されるなら、今を楽しむのが正解なんだろう。
「おっ。ノリが良いね、新人君!」
「おい、サタン。耳を殺す気か。新米も騒ぎすぎだ。何なんだ、そのテンションは」
彼女の後ろに控えていたレイブンが、ため息を吐きながら僕達に注意を入れてくる。呆れられてしまったみたいだ。
「ごめんごめん。さて、気を取り直してまず魔王たる私から自己紹介させてもらうよっ!」
魔王のサタンさんですね、よく存じております。今回も『さっちゃん』とかいう変なあだ名では呼ばないよ。
彼女は次に自分の横にいるレイブンを指差して紹介してくれる。ちょっと既読スキップ機能が欲しいな。彼が挨拶を終えると次はウィッチの紹介に移った。
「じゃあ次ね。君を召還した魔法使いのウィッチちゃんだよ! 『ですわですわ』言ってるけど、別にお嬢様じゃないよ! 変な子に仕えることになっちゃったねっ!」
「余計なこと言わないでくださらない!?」
「いいや、ウィッチは素晴らしいご主人だよ!」
「あ、あらそう? いきなり褒められると照れますわね……」
率直な評価を言ったつもりなんだけど、彼女はテレテレしている。この子、案外チョロいのでは?
「私は先ほど個人的に話をしましたし、挨拶は省いてもらって構いませんわ。あなたは今日から私の奴隷ですことよ!」
ビシィッと音がしそうな勢いで指を向けられる。「こんなホワイトな労働環境で働く奴隷が存在するか」と心の中でツッコミを入れておいた。
「そして最後、メイドと執事をまとめてくれてるレイチェルちゃん! あんまり喋らないけど、しつこく話しかければ反応してくれるよっ!」
手を向けられた金髪の少女、レイチェルは無表情のまま軽く礼をすると、そのまま後ろに下がった。あぁ、この淡白さ、懐かしいなぁ。
「ああいう子ですから」
ウィッチは苦笑いしながらフォローを入れてくる。そうは言うけど彼女、エルが現れた後とは人がまるで違うんですが。
「はい。じゃあ最後、新人君、君の番だよ!」
そして早くも僕の番が回ってきた。手を向けられた瞬間、前回の早口自己紹介を思い出す。今度こそ完璧にやり遂げねば。
僕はみんなの視線を受け止め、しっかりと彼らの目を見ながら自己紹介を始めた。
「和也です! 日本という呪文も魔物もいない場所から来ました! できるだけ平穏無事に生きていきたいです! こんな僕で良ければ、ぜひ仲良くしてください!」
前回と違って落ち着いて言い終えることができた。これが成長よ。まさに強くてニューゲーム状態だね。
「うんうん、元気がいいのは良いことだよ! ここではそれが一番重要なまであるっ!」
サタンは腕組みをして「うんうん」と頷いている。
そういえば、彼女はまだテレパシー持ってないのかな? 僕の意思に気付いていないみたいだけど。
「……早速だが新米、お前には次の夜から重大な仕事を任せたいとおも」
「任せて! 夕方出発ね!」
食い気味に返事を返して、僕はさっさと話を切り上げた。レイブンは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。そろそろ何か新しいことをしてみたいな。
自分の部屋に案内され鍵を貰った後、僕はレイブンの部屋へ向かっていた。
あの任務が始まるまでには、ほとんど時間がない。念のため、前回と本当に何もかもが同じなのかは確認しとかないとね。
部屋の扉を二度ノックすると、すぐに彼は出てきた。今思えばこの人、数時間前に死んでるんだよね? ネメスにやられて。
「おう、新米か。どうしたんだ?」
「重大な仕事って何なのかなと思って」
「まあそりゃ、聞きに来るよな。長くなるかもしれねえ。入れよ」
彼は僕が来ることを予見していたようだ。微笑みながら部屋に招き入れてくれる。とてもちょっと前までぶちギレていた人とは思えない穏やかさだ。
「それじゃあどこから話そうかな……」
レイブンは部屋のベッドに座ると話し始めた。僕は椅子に腰かけ、それに耳を傾ける。話の内容は前回とほとんど変わらなかった。
ヴィーレ達は今日の朝、つまりもうすぐ旅立つそうだ。
「さっき呪文のことについて説明したよな? 召還されたなら、お前にも使えるはずだ」
それから丁寧に呪文の扱い方を教えてくれる。
あれから僕は莫大な魔力を手に入れ、呪文の扱いも多少ではあるが上手くなった。
よって、今僕がコピーしている呪文は五つある。はっきり言って、この五つがあれば余裕でお爺さんのもとまで行けるんだけど。何このヌルゲー。
「じゃあ、魔王城はよろしくね」
「うん、任せてよ」
もう一人の僕と別れて、魔王城の外へと向かう。戻る前にアルルにコピーさせてもらってたドッペルゲンガーを使って、分身を魔王城に残したのだ。
魔力ごり押し安定だね。レイブン達との新密度とか効率よく上げときたいし、ちょうどいいや。
その十数分後、僕達は魔王城を出発した。レイブン以外にも、僕を召還したウィッチと、レイチェルもついてくる。途中何度か魔物と遭遇したが、三人が難なく片付けてくれたおかげで僕は戦わずに済んだ。
ちなみに移動方法は、レイブンがレイチェルを、僕がウィッチを背中に背負って、ただダッシュするというものだ。普通に彼の全力疾走にもついていける。この方が酔わないしいいな。
軽く汗をかいてきた頃には、もうアルストフィア近くの森まで来ていた。はっや。
「いたぞ。あれだ」
レイブンが遠くの草原を疾走する二つの影を指差す。そこには僕と同じ歳くらいの男性と少女が馬に乗って走っている姿があった。月光のおかげでその顔ははっきり見ることができる。
ヴィーレとイズさん、まだ仲良くない時か。
今回はヴィーレのサポートをして、キッパリとヒロインを決めさせてあげよう。前回はイズさん、ネメス、アルルから寄せられている好意に、彼は結局答えることなく終わったしね。
彼らは大きな森の前の分かれ道で止まった。ヴィーレが森へ続く道を指す。どうやら森を突っ切るつもりらしい。二人がその中へ入るのを確認するとレイブンが口を開いた。
「よし。じゃあこれから、あの森の先にお前を放置するぞ」
最終確認だ。もうすぐ僕は気絶させられる。久々のサンダーストームだ。痛くしないでおくれよ。
「恐らく兵士たちが総攻撃を仕掛けてくるのは八日後だ。戦いが終わったら、すぐにお前のもとへ向かう。……いいぞ! レイチェル、森全体にスローモーションを使え!」
レイチェルはコクンと頷き呪文を唱える。レイブンはそれを確認すると、僕の肩に手を置いた。
「必ず迎えに行く。上手くやれよ」
次の瞬間、僕の意識は絶たれ……なかった。体にかなりの放電をされたはずなのに、痺れもしない。彼はチェックを使えるから、レベルに合わせた強度でやってくれてるはずなんだけど。
「ぬ、ぬわー!」
すっごく適当な棒読みをして気絶したふりをした。レイブンが僕を持ち上げる。
これ、前回よりも世界の寿命縮めることにならないかな……。
一抹の不安を抱きながら、僕は森まで運ばれたのだった。
二周目の目標【さらに幸せなエンディングを目指す】




