表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非公開中  作者: するめいか
45/104

4話「ネメスに怒られたい」

 朝早くに起きて、イズの家があるユーダンクまで向かう。


 日もすっかり昇ってしまった頃、俺は彼女の部屋にいた。そこで今まで胸に秘めていた想いを打ち明けてみる。


「ネメスに怒られたい」


「はぁ?」


 すると、頭イカれたのかとでも言いたげな顔で返される。その顔やめろ。


「いやあいつさ、俺達に対して怒ることないだろ? だから、試しにちょっと怒られてみたいんだ」


「いえ、その理屈はおかしいわ。ついでにあんたの頭もいくらかおかしい」


 そうだろうか。ネメス好きで人一倍好奇心の強いこいつなら分かってくれると思ったんだが。


「大体あんた、それはつまりネメスを困らせるってことでしょ?」


「いや、俺は可能な限りあいつを傷つけずに怒られにいくつもりだ。ネメスは大事な仲間だからな」


「な、なんでそんな全力投球なのよ……」


 なぜか呆れられている。残念だが、こいつはどうもついてきてくれないらしい。


「仕方ない。俺一人で行ってくるよ」


「ちょ、ちょっと待って!」


 身を翻し、部屋を出ようとすると、後ろから声をかけられた。焦ったような声色に若干の期待を持って振り返る。


「なんだ?」


「私も行くわ。なんだか、あんただけだと不安だもの。変なことしたら即、灰にするから」


 別に変なことなどしないが。実は興味あるんじゃないのか? 気になるなら素直にそう言えばいいのに。







 ネメスの部屋前で足を止める。扉へ伸ばした手がイズによって強制的に止められた。腕を引っ張って顔を近付けられた後、囁き声で話される。


「で、怒らせるにあたって何をするつもりなの?」


「あぁ、伝えるのを忘れていたな。まず、手始めに『とにかく話しかけまくる』をやろうと思う。どうでもいい話を延々とされると人はうんざりするらしいからな。クソみたいにつまらん話をし続けるんだ」


「う、うーん。それでネメスが怒るのかしら」


「やってみなければ分からんだろ。よし、行くぞ。あいつを怒らせるための時間を浪費したくないからな」


「だからその無駄なやる気は何なのよ」


 イズの呟きを無視して部屋の扉をノックする。


 少し待つとネメスは出てきた。悪魔の国で買った可愛い服を着ている。モコモコしていて暖かそうだ。どういう素材なんだろう。


「あっ。ヴィーレお兄ちゃんにイズお姉ちゃん、おはよう。どうしたの?」


「なんとなくお前と話したくてな。部屋入っていいか?」


「どうぞ、どうぞ! お昼ご飯食べた?」


 彼女は大歓迎とばかりに俺達の腕を引く。喚起されているはずなのに仄かに甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「いいや、まだだ。さっき着いたんだよ。イズ達は済ましたのか?」


「私達もあんたと同じよ」


「そうか。なら先に飯を食うか? 腹が減ってきた」


「いやいや、お昼といってもまだ十一時前じゃない。大食いのあんたは別として、私達はお腹が空いていないわ」


 壁に掛けられている時計を見ると、確かに時計の短針は左側を指していた。俺の腹が代わりに叫ぶ。


 マジかよ。食べ物に困らなくなってからというもの、体が贅沢に慣れてきてるな。良いことなのか悪いことなのか微妙だが、辛抱は忘れないようにしよう。


「あはは。後でわたしとイズお姉ちゃんが沢山作ってあげるね!」


 俺の顔は歪んでいたのか、こちらを見ておかしそうに笑うネメス。

 こいつには時々お菓子を作ってもらってる。ここ数日は頻度が増えているが。さては俺、餌付けされているのではなかろうか。


「綺麗にしてるんだな。女の子の部屋って感じだ」


 ネメスの部屋は猫のぬいぐるみで一杯だった。その中で、俺があげたやつだけがベッドの上に寝転がっている。


「広いから掃除大変なんだよ~。それに夜に眠る時、ちょっぴり寂しい」


 雑談を交えながらテラスに移動する。雲一つない快晴の下、白いテーブルと四つの椅子が出迎えてくれた。その一つにネメスが座る。


「じゃあ、お話しよ!」


「おう。あー、でもイズは今日ちょっと喉が痛いらしいんだ。あまり話をさせてあげないでくれ」


「え? イズお姉ちゃん、大丈夫?」


 心配そうな表情で見つめられたイズは苦笑いで頷く。そしてネメスが目をそらした途端、こちらをギロッと睨んできた。


 こっわ。別にお前話す必要ないからいいだろ。今日の目的を忘れるなよ。


「この前エルがな――――」


「ふふっ。そっかぁ」


 話を続けること一時間後。


「それでその時レイブンが――――」


「へー! オジサン凄いね!」


 三時間が経過した。


「で、トマトの育て方ってのは――――」


「そうなんだ! 初めて知ったな~」


 ――――あれから、十六時間。もうイズは途中で眠くなったらしく帰っていってしまった。俺は根気強く今もネメスと話し続けている。


 食事や風呂は挟んだ、流石にそこまで縛りつけてはおけんからな。

 その後は彼女の部屋に泊めてもらい、事前に考えていた下らなすぎる話をひたすら語った。


「――――そして爺さんはこう言ったのさ。『それはギャップ萌えというやつじゃ』ってな」


「うんうん……そっか……」


 彼女はウトウトしている。眠い時にされる面白くない話ほど拷問じみた物はないだろう。なのにネメスは怒るどころか必死に目を擦って相槌を打っていた。


 それでも話を続けていたら、やがて彼女は眠ってしまった。現在夜中の二時。こいつにしては頑張った方か。


「おやすみ」


 そっと声をかけると、毛布をしっかりかぶせて俺も寝ることにした。







「駄目だったわ」


「でしょうね……」


 翌朝、イズへ報告しに行ったら、まるで初めから知っていたかのような態度をとられた。


「だが俺は諦めない」


「えっ。まだやるつもりなの?」


「無論だ。今回は『俺モテるアピール』をしようと思う。実際そんなことはないんだが、人は他人の○○アピールにイラッとくるらしいんでな」


「あー。まあそれならあんたが嫌われるだけだし、別にいいわね。遠目に見ててあげるから行ってらっしゃい。ただ、怒らせるにしても限度はわきまえなさいよ」


「分かってるさ」


 俺達はネメスのいるであろう外へと向かう。玄関から出ると、庭で弓矢の練習をしているターゲットがいた。俺はそこに近づいて自然に声をかける。


「よう、ネメス。昨日遅かったのに朝から頑張ってるな」


「おはよう~。わたしは朝の特訓だよ! お兄ちゃんこそ、何してるの? さっきまで寝てたのに」


「いや、特に何も。日課の散歩だ」


「そうなんだ~」


 ……会話が切れた。これは好機。


 俺はできるだけ違和感の無いように、伸びをしながら話題を切り替えた。


「あー、困ったなー。すっごく困った。めちゃくちゃ困った。誰か話聞いてくれないかなー」


 我ながら凄まじくウザイな。だが、それくらいでなければ彼女を怒らせることはできない。


「ん? 何かあったの?」


「おっ。聞いてくれるか? 実はな、最近モテまくっててさ、困ってるんだ」


「もてる? 何を?」


 そこからか。俺はモテるの定義を説明してあげた。すると僅かにではあるが、ネメスが表情を歪める。


 おお、初めて嫌そうな反応をしたぞ。どうやら効果があったようだ。


「女の子達に人気なんだ……」


「まあなー。俺は全然そんなこと望んでないんだけど、あっちから来るんだよなー」


 そんな状況が本当にあったら喜びまくるんだがな。俺は見た目からしてもそこら辺の一般男性レベルだし、そんなことは二度とないだろう。……いや、一人だけそういう物好きな奴はいたな。


 ネメスに視線を移す。その表情は怒ってるというより、焦っているかのように見えた。髪をクルクル弄っている。


「告白とか、されたの?」


「おう。一週間に三回くらいはされてるぞ」


「そっか……」


 そう言うと、ネメスはなぜか抱きついてきた。


「え、何故?」


 彼女の心境が分からず、体と思考が石のように固まってしまった。


「ねえ、ヴィーレお兄ちゃん。わたしのこと、好き?」


 唐突に変な質問をされる。話題を変えようとしているのだろうか。それとも何か悩みごとがあるとか? そうだとしたら、真剣に聞いてあげなければ。


「ああ、勿論。好きに決まってるだろ」


 少し屈んで頭を撫でてやる。


 俺の言葉を聞くと、突然ネメスが顔を近づけてきた。湿り気のある柔らかい何かが、そっと頬に当たる感触がする。


 それも一瞬のことで、すぐに彼女からは離れられた。


「わたしも、ヴィーレお兄ちゃんのこと大好きだから! 他の子に負けたりしないもんっ!」


 近所の人に聞こえるくらいの大声でそう宣言された。ネメスは見たこともないくらいに顔を赤くしている。


 え、えっと、俺は何をされたんだ……? 途中から頭が追いつかなくなっていたんだが。


 彼女の台詞、行動を冷静に分析していく。思考停止しかけた頭を無理やり動かしてある結論に辿り着くと、顔が沸騰するように熱くなるのを感じた。


「あ、ありがとう。じゃ、じゃあ俺はもう部屋に帰るぞ!」


 ネメスが相手だというのに思わず取り乱してしまい、慌ててその場から立ち去る。


「あとでお姉ちゃんのお部屋に遊びに行くね!」


 彼女は追い討ちでもするようにそう言ってきた。遊びの約束は嬉しいが、今の俺に返事をしている余裕は無い。


 イズのもとへ戻ると、彼女はデカイため息をつき、目を細めてジト目で俺を睨んだ。


「何してんのよ、あんた……」


「すまん……。予想外のことが起きてな……」


「はぁ。これに懲りたら、もうネメスにあんなちょっかいかけないことね」


「……はい」


 結局、俺はしばらくネメスの前で冷静に振る舞うことができなくなったため、怒らせることは断念してしまった。

 あれからさらにネメスのくっつき具合や話しかける頻度が増したことを、皆は知らないだろう。

※細かい設定集③


・第一章6話「人助け」においてヴィーレ、和也、イズが三人で情報収集をした時、イズは迷子になっていた。和也と一緒に帰ってきたのは彼に偶然見つけてもらったから。


・第一章最終目標の『書類「魔力研究についての記録書」』は物語上でイズが書類を速読し、要約した結果、ヴィーレ達に伝えた内容である。


彼女はあの時、咄嗟に一つの情報を隠していた。ヴィーレ達からは勿論、テレパシーを使えるノエルや和也からも知られないように、その情報に関する記憶をサタンによって消してもらっているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ