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非公開中  作者: するめいか
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小話「ある日の、特に何の意味もない会話集⑤」

【万能テレパシー】


「ちょっと。和也お兄さん」


 ある日、サタンの部屋で何人かと遊ぶでもなく一緒に過ごしていた時のこと。椅子に腰かけて悪魔の国の本を読んでいたら、ノエルに声をかけられた。


「ん~? どうしたの?」


「最近、お兄さんの記憶を通してアニメとかラノベを見るのにハマってるんだけどさ」


「君にはまずプライバシーの権利について学んだ記憶を見てほしいなぁ」


 なんでナチュラルに僕の記憶見られてんの。結構恥ずかしい事とか知られちゃってるんじゃないか、これ。


「まあ、いいじゃない。それでさ、あのアニメの続きどうなったの? 魔法少女が戦うやつ」


「あぁ、あれね。僕も見てないんだよね。引きが気になるとこで終わってたから印象に残ってるよ」


「えー。ちょっと続き見てきてよ」


 んな無茶な。第一、向こうに帰ったらこっちに帰ってこれなくなるでしょうが。


「それは厳しいかな~」


 彼女の不満を笑って流す。ノエルは拗ねているみたいだ。でも、そんな顔されたって僕にどうこうできる話じゃないだろう。


 確かに、僕だってあれの続きは気になる。見れるものなら見たいものだ。だけど僕は彼女と違って、もう視聴していた頃からは随分と月日が経ったし、諦めはついてしまっている。


 その心情を読み取ったのかは分からないが、彼女はその場でウンウン唸りだした。散々な長考の後、ポンと手を打つ。


「……あ、そうだ。お爺ちゃんのオブザーブをコピーすればいいじゃん」


 オブザーブ……異世界を観測する呪文だっけ? まあそれがあれば、録画してる人やDVD借りてる人を観測して、アニメを視聴することもできるんだろうけど……。


「それ、違法視聴では?」


「ここにテレビやパソコンがあれば、私もお金を払えたんだけどね~」


 悪びれる素振りもなく明後日の方向に目をやるノエル。違法視聴は知ってるのか。本当、どこまで記憶見られたんだか。


「大体さ、その労力、僕が背負うの?」


「そりゃあね」


 ノエルは「当然でしょ?」と顔で言う。この妹にパシられる感じ、懐かしいけど嬉しくないよ。僕も続き気になるから一応やるけどさ。



 ――――そうして甘やかすこと数日。しばらくすると、彼女のおねだりによって日本の漫画や小説がこちらに送り込まれることになるのだが、それはまた別のお話。

 名誉のために言っておくけど、誓って盗みはやってません。正当なルートから入手した、健全な物ばかりです。







【酔っぱらい】


 夜も深くなってきた頃、肌を刺す冷気に堪えながらトイレに行った帰りで、ある部屋から騒がしい声が漏れているのに気付いた。怒ってるのか笑ってるのか、男か女かもよく分からない声だ。


 こんな夜中に何してるんだろ。ちょっと気になったので声の方へ向かってみる。


 行き着いた場所はウィッチの部屋だった。扉を少し開けて隙間から中を覗き見ると、声が一段と大きくなる。


「――――それで、レイがいきなり俺の事ぶん殴ってきてよ~!」


「ふぅん。不思議な事もありますのね。察するに、またノエルがイタズラでもしたんじゃありませんの?」


「あぁ、だろうな。最近、俺もよく仕掛けられて困ってるんだ。こないだ和也たちが仕返しをしてくれたみたいだが、まだ懲りてないのか」


 エル、ウィッチ、レイブンが話している。なんか臭うな、この部屋。メンバー的に、お酒飲んでるのか。


 エルはべろべろに酔っている。呂律が回ってないし、テンションも普段のそれに輪をかけて高い。


 レイブンも若干酔いが回っているのか顔が赤い。つまみとお酒を交互に口へ運んでいる。暴れるエルを抑えるような位置取りだ。


 一方、ウィッチは普段となんら変わりない様子だった。見たところ二人と同じくらい飲んでいるようだけど、お酒に強いのかな。


 話題はレイチェル兄妹がこの間されていたイタズラについてみたいだ。

 このまま見ておきたいけど、いかんせん眠いな。まあ好奇心も満たされたことだし、今日はもう帰って寝るとしよう。


「あっ! カズヤ! お前何してんだよぅ。混じりたいなら言えって!」


 振り返って部屋から離れ始めたところで背後から声を浴びせられる。マズイ。エルに発見された。絡まれる!


 聞こえないふりをして歩みを速めたが、逃げる間もなく僕は捕獲され、部屋の中へと引きずりこまれた。


「あら、和也。あなたもお酒飲めるんですの?」


「い、いや、僕は未成年だから……」


「何だよ、ミセイネンってよ! いいから飲んでみろよ。楽しい気分になるぜ!」


 エルは新しいジョッキにお酒を注いでグイグイと押し出してくる。この人、やっぱり酔うと面倒臭いな!


 心の声を押し隠して「いやいや~」と愛想笑いをしながら断っていると、ボリボリつまみを食べていたレイブンが脇から口を挟んできた。


「前の世界がどうだったかは知らないが、こっちではお前の歳でも酒は飲んでいいんだぞ? 経験だと思って飲んでみたらどうだ」


「そうかなぁ。うーん……」


 そうは言ってもなぁ。運動部に入ってたせいかあんまり体に悪そうなもの口にしたくないんだよね……。そもそも、酒を飲む経験なんてこれから先いつでも積めるし……。


 そんな心中での言い訳など彼らには届くはずもなく。エルのアルハラはさらに激しさを増していた。


「ほらほら~。一気にいけ、一気に!」


「えっと……えー……」


「……ちょっと。本人が嫌がってるんですから、無理強いはしなくてもいいのではなくて? 和也も私達が騒いでいたから、ちょっと気になって覗いてみただけなのでしょう? ごめんなさいね。さあ、もう帰って眠りなさい」


 エルやレイブンの言葉にはっきり「ノー」と言えないでいる僕を見かねたウィッチが助け船を出してくれた。や、優しい……。このご主人になら一生ついていきたいレベルだわ。



 ――――その後、僕は彼女のおかげで無事その場から脱出することができた。ご主人の優しさに乾杯。ウィッチには後でちゃんとお礼をしておかなきゃな。







【百合の花園】


 昼下がり、暇なので魔王の部屋にでも行こうと思ったところ、廊下でばったりアルルに出会った。玄関の方から来たし、ちょうど城を訪れたところだろうか。


「アルル、今日も遊びに来てたんだ」


「あ、カズヤ。そうなんだよ~。サタン達と遊ぼうかなって思ってね!」


「へぇ。君ってよくサタンやノエル、ネメスと遊んでるよね。なんであの三人なの?」


 挨拶がてら話を振る。ネメスやサタンは分かるが、ノエルにはイタズラされていたのに、どうしてあんなに絡みに行くのか気になっていたんだ。


 そんなちょっとした興味のもと出てきた質問なのだが、思いのほか彼女の反応は大きかった。


「えっ。カズヤ、分かんないの?」


 知らない事がおかしいとでも言いたげな態度だ。

 まったく見当もつかないんですけど……。アルルは「常識でしょ」と表情に出している。簡単な問題なのか?


「ん~、分かんないかなぁ」


「えー、嘘だ~。答えなんて決まってるじゃん! あの三人が、可愛いからだよっ!」


 彼女の回答は予想の斜め上を越えていった場所にあった。アルルは『可愛いから友達になる』という、僕には到底理解できない思考回路を持っている女性らしい。


 ポカンと口を開けた僕を置いてけぼりにして、彼女は興奮した様子で熱く語りだす。


「小さい体、純真な心。そして何より、『お姉ちゃん』って読んでくれること! あの子達は天使だよっ! この世に舞い降りた天使なんだよっ!」


 せやろか……。一人だけ純真でも天使でもない、どっちかと言うと小悪魔のような子が混じってるんですけど。

 この人、ロリコンだったのか? それとも単純に子ども好きなんだろうか。


 とりあえず何かヤバいスイッチを押してしまったのは間違いないみたいだ。ここは同調しつつ、うまく話を逸らそう。


「そ、そっか~。そんな彼女達と、君は何をして遊んでるの?」


「うーん、色々だねぇ。今日はなんとなく暇だったから来てみただけだし。サタンが好きなお昼寝でもするかも」


 お昼寝かぁ。その光景を、なんとなく想像してみる。

 アルルを中心に三人がスヤスヤと寝息をたてて寝ている様子。彼女達の姿を愛しげに眺め、その頭を撫でるアルル。サタンは幸せそうに身をよじり、ノエルは普段見せないような笑顔を見せ、ネメスは寝言で「お姉ちゃん……」とか言っている。


 何だ、この光景は……! と、尊い……。僕の百合センサーが微弱な反応を受信した。


「旅の最中はよくネメスと一緒に寝てたんだ~。私、寝相悪いみたいなんだけど、何かに抱きつけば、ほとんど動かないことに最近気付いたの!」


 何それ見たかった。あわよくば絵に描いて、額縁に入れて、寝室に飾りたかったまである。これは紳士として全力で支援しなければ。


「アルル。僕はこれでも健全な腐男子でね。女の子同士が仲良くする事に大いなる価値を見出だしているんだ。という訳で、君のハーレムを、僕は全身全霊をもって応援するよ!」


「おっ! いいね、それ! 百合の花園作っちゃうよ!」


 僕達はガシッと腕を組んだ。まさかこんな近くに理想郷が創られようとしていたとは。


「じゃあ、僕はヴィーレやエルとでも遊んでくるよ。ごゆっくり!」


「そっか。そいじゃ、またね~」


 挨拶を交わしてアルルと別れる。今日のところは彼女に遠慮して、別の人のところへ行くとしよう。

 僕は捗る妄想に表情を緩めながら、颯爽と踵を返したのだった。

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