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非公開中  作者: するめいか
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3話「魔王らしさ」

 俺はノエルとの約束を守って、基本的にはエンジェルズにいる。しかし、暇ができれば可能な限り皆と遊ぶようにしていた。


 何故かというと、そうしなければならない理由というのがあるのだけど、それを抜きにしたって楽しみではある。


 恥ずかしい話だが、冒険に出る前まで、俺にはアルル以外の友達がいなかったのだ。そのアルルとも、俺が旅を繰り返していたせいでずっと遊んでいなかった感覚がある。


 まあ、要するに、彼らと遊ぶのは趣味みたいなものなのだ。あいつらは低い身分も赤い瞳も気にしない。戦争が終わった今となっては人間達もそうであるが、辛い時に傍にいてくれた関係は大きい。


 そして、冒険を共にした仲間達の中で、最もよく遊ぶのはサタンである。彼女からよく誘われるから、というのが主な理由だ。

 別に俺だけが特別ではない。他の奴らだってしょっちゅう声をかけられているはずだ。


 ほぼ毎日のように皆に遊びの誘いをかけている彼女へ、一度尋ねてみたことがある。


「どうしていつも暇そうなんだ?」


「どうしてって、仕事無いんだもん」


 だそうだ。確かにもう人間が攻めてくることは無いし、魔物が来たとしても、誰かしらがいれば簡単に追い返せるだろう。


 魔王という職業は、もはや悪魔の達に希望を与えるだけの存在になっていた。たまに皆の前に出て、悪いことをしないようにお話をするだけの仕事だ。


 実際、悪魔の国の人々や魔王城の使用人達にこっそり聞くと、悪魔界でのサタンは『皆のアイドル』っていう認識らしい。支持率はあるかもしれないが、国王の威厳はゼロだな。







「私もイタズラしてみたい!」


 そういう訳で、今日もいつもの如く魔王の間で遊んでいたら、サタンが急におかしな駄々をこねだした。おやつ休憩の合間に起きた出来事である。


 そういえば、ノエルのイタズラの手伝いをしてるって話は聞くが、こいつが直接やるのは見たことないな。参加しないだけで、彼女と同じくイタズラは好きなのだろうか。


 俺の反応が無いのを見ると、彼女は椅子からバサッと立ち上がった。羽の出す風圧で俺の前髪が持ち上がり、テーブルの上のティーカップがカタカタと音をたてる。


「……よし、やってみよう! 魔王らしく悪いことしちゃうよっ!」


「お前って悪いことできるのか……。分かってると思うけど、あまり他人を困らせるんじゃないぞ」


「何言ってるの! 困らせてこそのイタズラでしょ?」


「いや、それはそうかもしれないが……」


「まあ期待して待っててよ! 明日にはどうだったか報告してあげるからさ」


 サタンは自信満々に胸を叩いた。こいつの考えるイタズラってどんなのだろう。想像できないから、なんか怖いな。







「やってきたよっ!」


 次の日、サタンが俺の部屋に訪れた。その大きな羽のせいで、扉を通るのに少し苦労している。魔王の間とかサタンの部屋のドアがデカいのって、こいつが通りやすくするためだったんだな。


 それより、度々ここにこいつが来るせいで、よく俺の部屋に白い羽が落ちてるんだけど。イモータリティーって呪文の性質上、抜け毛とか抜け羽とかは無いんじゃないのかよ。

 ちなみにその羽はアルルがよく回収していく。何に使う気だ。怖くて聞けない。


「そうか。どうだったんだ?」


「泣かせたよ!」


 自信満々に言うサタン。


「は? 誰を?」


「レイチェルを」


 嘘だろ。一体何やらかしたんだ、こいつ。あのレイチェルを泣かすなんて……。最近は感情を表に出すようになったが、彼女が涙を流すだなんて想像できないぞ。


 とりあえず、事情を聞いて謝らせないと。


「何をしたんだ」


「ちょっと夢を見せただけだよ」


 彼女の話によると、テレパシーの応用で眠っている人に好きな夢を見せることができるらしい。それでレイチェルに何かしらの夢を見させた、と。


「で、どんな悪夢を見せたんだ?」


「エルの記憶を見せたの。あの子が覚えてない家族の記憶をね」


「……ん?」


 サタンは「どや!」と自慢げな顔をしている。いやいや、良いことしてるだけじゃないか、それ。


「レイチェル、眠りながら泣いてた。流石に心が痛んだから手作りのクッキーを枕元に置いてきたよ。言っとくけど、ちゃんと謝ったよ?」


 何やってんだこいつ。善行しか積んでないんだが。自覚ないのだろうか。


「まあ何はともあれ、また一つ、魔王らしくなってしまったねっ!」


 えっへんと腰に手を当て胸を張る。マッハで遠ざかってるぞ。流石、ドレインとかデッドリーファングス使えるくせに、ずっとレベル1なだけはあるな。







 さらに翌日。魔王城にある自室で誰のもとに遊びに行くかを悩んでいると、三度のノックの後、元気にサタンが入ってきた。


「再び悪行を働いてきたよっ!」


 魔王は羽をパタパタさせて興奮気味に報告をしてくる。


「はいはい、誰にイタズラをしたんだ?」


「二階の子ども達だよ! 叫んでた!」


「何をしたんだよ」


「抱き抱えて空を飛んだんだ~。あまりの恐怖にみんな笑うことしかできないみたいだったよ!」


 それ楽しんでただけじゃ……。叫び声とかいうのも、どうせアトラクションに乗る時に出したりするやつだろ。悪魔の本で学んだぞ。


 本当に怖がらせる気があるのだろうか。逆にこいつが本気で怒ったところとか見てみたいな。どうせまったく怖くないんだろうけど。


「さすが俺達の魔王だな。格が違う。ノエルにも見習って欲しいくらいだ」


「へへへ~」


 適当に褒めてやると、サタンは照れたように頭を掻いた。もうさっさと天使に改名しろ。







「おはようヴィーレ君!」


 翌朝、サタンが再び部屋を訪れた。入る時だけはトランスという変身の呪文で羽を小さくするようにしたらしい。今度はスムーズにうるさく入室してきた。


 また懲りずに何かしてきたのかよ。皆からの株が上がっていってる事に気付いていないのか?


「今日は何してきたんだ?」


「いいや、今日は君がターゲットなんだよっ!」


「なに?」


 会話をしながら彼女はベッドに座る俺の隣までやって来た。同じくベッドの上に腰を下ろしたが、いつもより距離が近い気がする。何する気だ、こいつ。


「今回はウィッチから借りた本に書いてあったイタズラ方法を試させてもらうよ!」


 ウィッチが貸したのか。なんかそれだけでもう安心できるんだが。あいつの事だから、ちゃんとしたイタズラの本なんて渡してないだろ。


「ふっふっふ。覚悟しなよ~? ……とりゃっ!」


 掛け声をあげると、サタンは飛び込むように抱きついてきた。しかし、以降は何もする気配がない。ただくっつかれているだけだ。


 無言でいると、さらに彼女の羽で俺の体が包まれる。もふもふした感触が腕や首筋に伝わるが、素直に楽しむ余裕はない。


 これは一体どう解釈するべきなんだろう。本当に意味不明だぞ。どんな反応をしたらいいんだ。何がしたいのか全然理解できない。


 ノーリアクションのまま頭を高速回転させていると、彼女は抱きついた状態でこちらを見上げてきた。


「どうだ!」


「えっ。何が?」


「困るでしょ?」


 ……あぁ、なんとなく察した。彼女の借りた本がどんな物だったのかは分からんが、『女が男に抱きつくと相手は困る』って記述があったのは間違いないんだろうな。


 そりゃあ、同い年のアルルや年上のウィッチなんかに抱きつかれたら困るだろうが、こいつくらいの歳だとネメス達で慣れてるからなぁ。いや、歳自体はめちゃくちゃ高いんだけど。千歳児という表現が適切か。


 とりあえず、ここは乗っかっておくか。サタンから目を逸らし、彼女の望む言葉を返す。


「あー、うん。困るな」


「うんうん、いいね! 今この瞬間にも魔王らしくなっていってる気がするよ!」


 気のせいです、魔王様。

 彼女は俺の棒読みな返事にも気付かず、悪魔的な笑顔を浮かべているつもりになっている。


「ふはははは~。勇者よ~、ここから退いてほしかったら魔王の私を倒してみせるのだ~。弱点の頭や翼をナデナデするのが良いと思うよ~」


 そして調子に乗り始めた。抱きついているのに疲れたようで、膝枕の体勢に移行する。口をωの形にしてご機嫌なようだ。キトンが緩んで鎖骨周りが普段より露になっている。


「はいはい、サタン様。仰せのままに」


 言われた通りにしてやると彼女は気持ちよさげに目を細めた。猫がやるみたいに俺の脚に頬擦りしてくる。いつもに増して無防備だ。


「ぐあー、負けてしまったー。もう起き上がれないー」


 サタンは一度ピンと羽を伸ばしたっきり完全に脱力してしまった。こいつ、ここで二度寝するつもりだろ。睡眠態勢に入ってやがるぞ。


「また勇者ごっこか。お前いつも負けるよな。勇者が勝つストーリーだらけだ」


「だって負けたらヴィーレが甘やかしてくれるんだもーん。抱っこして私の部屋まで運んでくれるもーん」


「結構打算的なのな……」


 会話の片手間に、両翼の骨格を手のひらでなぞる。羽は質の良い毛布でも触ってるみたいな手触りだ。癖になりそうな毛並みになっている。こいつが気に入るのも納得できるな。


「この後はどうするんだ? 暇ならまた今日も遊ぶか? 俺は特に予定もないし、付き合うぞ」


「うん、起きたら何するか決めよっか。でも今はやられたから回復に専念するね!」


「……本当、子どもみたいだな。お前が魔王で良かったよ、まったく」


「私だってヴィーレが勇者で良かったと思ってるよ。沢山構ってくれるし、優しいからね。あと撫でるのが上手い!」


 目を瞑り、膝枕されたまま笑顔で答えるサタン。


 そういえばこいつが他の人に甘えるのってあまり見たことがないな。わがまま言ってるところなら見かけるけど。魔王という立場上、やはり気を遣う部分もあるのだろうか。


 これからはもっと多くの時間を作って遊びに来るとしよう。密かに決意を固めつつ、俺は彼女に毛布を被せた。



 ――――結局、彼女は満足するまでそのままの姿勢でずっとニコニコ笑っていた。最終的には眠ってしまい、起きるまで俺の部屋で寝かし続けるハメになったが。魔王らしくない、実にサタンらしい結末だな。

※細かい設定集②


サタンは常にモデリングをコピーしている。

理由は、それがないと彼女の大きな羽を通す穴のある服が作れないから。悪魔の国でも天使型はかなり少ない部類に入る。


ちなみに、トランスという呪文を使えば羽を小さくすることも無くすこともできるらしい。本人は羽を気に入っているため、滅多に消すことはないが。

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