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非公開中  作者: するめいか
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TRUE END②「地獄で会おう」

【『絶望の淵へ』前・アダム視点】



「今日がわしの命日か……」


 早朝、おんぼろの教会跡で起床する。ジェニウスの話によると、わしは九八歳になる日に自殺するとのことだった。それが今日なのだ。


 彼は優秀な生徒だった。かつて教鞭を振るっていた時、その聡明さには教師歴の長かったわしでさえもが驚愕したものだ。


 とても気が合う友人だった。いや、親友と言ってもいい。そんな彼からの一生に一度の頼みを、わしは引き受けてここにいる。


 彼がそのお願いをするためだけにわしと友達になったのではないと、今でも信じて疑わない。彼はそんなに器用ではないからねぇ。


「よいしょっと……!」


 最近、立ち上がるのにも気力が必要になってきた。魔力も全盛期に比べるとかなり減っていることだろう。


 外へ出て日差しを浴びる。快晴だ。死ぬのにこれほど良い日はない。


 彼の手紙にはわしが『自殺』すると明言されていた。今日のどこかで、自殺する道を選ばざるを得ない瞬間がやってくるのだ。さてさて、それまで何をしようかねぇ。


 突然、視界が暗転する。そして目の前に栗色の髪をした女の子が現れた。ここ最近はあまり頻繁に訪ねてこなくなっていたが、それでも一日に一度は来てくれている、わしの友人だ。


「おはよ、お爺ちゃん」


「おやおや。今日も来てくれたのかい、ノエル」


「当たり前でしょ。はい、これ。今日のご飯だよ」


「いつもすまないねぇ」


 この子はジェニウスの娘。わしのことを気遣って、いつも料理を運んできてくれる。父親に似てとても優しく、強い子だ。


「好きで来てるんだから気にしなくていいの。そうだ、あとこれも返すね。面白かったよ」


 そう言って彼女は一冊の本を返してくる。わしが以前書いて出版した本だ。『異世界観測記~ニホン編~』。何の捻りもないタイトルだが、これに果たしてどんな意味があったのだろう。


 結局買ってくれたのはこの子だけだ。一冊購入したのに、何故また一冊借りたのかは未だに謎だけど。


「今日はお爺ちゃんのために、すっごく良い茶葉を買ってきたよ。私のオススメ」


「おお、これはありがたい。一緒に飲むかね?」


「そだね~。飲もう飲もう」


 彼女の持ってきてくれたポットなどを使ってお茶をいれる。あぁ、美味しい。この子は良い味覚をしておるわい。


 これは誕生日プレゼント、というやつだろうか。思えばわしの誕生日がいつだったかはこの子に教えてもらったんだったな。


「さっちゃんは最近どうだい? 元気にしてるかね?」


「うん。でも最近は遊び相手がみんな出かけちゃってて、ちょっと寂しいみたい」


「そうかい。わしは元気じゃったと伝えておくれよ。彼女が心配するといけないからねぇ」


「……分かった。たしか、今日でしょ? 本当にごめんね」


「気にせんでいい。わしには死んだ後に、とびっきりの楽しみが待ってるんじゃからな」


「……そっか」


 彼女の気を紛らすため、別の話題を投げかける。すぐにノエルは元気を取り戻したようだった。


 心地よい日差しを浴びながら教会前で彼女の話を聞く。人間の子ども達の話だ。ぜひとも遊びに行きたいが、人殺しのわしには絶対にできないことだろう。


 しかしまあ、この子はあの子達の話をするとき、本当に楽しそうな顔をするねぇ。ジェニウスが見たら大喜びするくらい、とても良い子に育っている。


「――――あっ。そろそろ行かなきゃ……」


 その言葉とともに、彼女の顔に再び影がおちた。『仕事』の時間が近付いてきているのだろう。


 最後に頭を撫でてあげる。笑って見送ってあげなければ。この子の勇気を揺らがせてはいけない。


「そうか……。ありがとうねぇ。最後まで楽しい話を聞かせてくれて」


「……いいの。私もすごく楽しかったから」


「それは良かった。……じゃあ、行ってらっしゃい」


「う、うん……っ! 行ってきます!」


 瞬間、ノエルは姿を消した。あぁ、泣かせてしまった。ジェニウスに怒られてしまうかな。


 見るとティーセットとあの茶葉だけがテーブルに置いてあった。わしのために、残しておいてくれたのだろう。


「ありがとう」


 呟いて、もう一杯だけお茶を頂くことにした。







 教会回りの掃除をした。数十日の間、お世話になった場所だ。老体に鞭打って今までの礼をする。


 わしの墓場は、やはりここになるのだろうか。それもなかなか良いと思えてくる。


 ここが潜伏場所だったおかげで助かった。毎日欠かさず懺悔をすることができたんだ。ひどく自分勝手な行為なのは分かっている。だが、それでもわしは何かにすがらなければ、人間を殺す辛さに耐えきれなかった。


 やっとの思いで掃除を終える。教会裏から帰り、もう一度お茶を飲もうとテーブルへ向かった。


「おい、そこの爺さん! ちょっといいかい?」


 途中で男の声が耳に届き、足下ばかり見ていた顔を上げる。そこには白、黒、金、赤のカラフルな髪をした男女がいた。


 あぁ、来てしまったのか。きっと、もうすぐ待ち合わせの時間なのだろう。ジェニウスがちゃんと待っててくれていると良いんだが。


 わしは親友の顔を思い浮かべながら、穏やかに客人を迎えた。


「おお、珍しい。お客さんが今日は多いんだねぇ。お茶でもいかがかな? つい先ほど、良い茶葉が手に入ってねぇ」


 友よ、地獄で会おう。

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