⬛話「GAME OVER」
「やあ、和也お兄さん」
ノエルだ。手を後ろで組んでいる。その立ち振舞いや仕草は異様にリアルだったが、ここは夢の中だ。
「長いようで短かったね。とうとう君の物語もこれで終わりだよ」
何やら語りかけてきている。言葉を返したいが、口からはまともに声が出ない。
「えっ。『僕たちの戦いはまだまだこれからだ』って? ……ハハハ。そんなわけ、ないでしょう?」
なぜだろう。ここにいてはいけない気がする。周りは真っ暗だ。にもかかわらず、ノエルの姿だけははっきりと見えていた。
「おかしいと思わなかったの? 君の知らない物が全く出てこないこの世界を」
マズイ、逃げなければ。
僕は踵を返して歩きだす。しかし、次の瞬間には彼女が目の前に立っていた。回り込まれてしまったようだ。
「言語も、食材も、生き物も、呪文や魔力でさえも。君たちが想像し得なかったものなんて、この世界には存在しなかった」
聞くべきではない。聞きたくもなかった。走ってその場から立ち去る。その先々で、彼女は僕に真実を伝えてきた。
「途中から君も気付いてたんじゃない? これは、君の大好きな『アレ』なんだよ」
少し走っただけのはずなのに、かつてない疲労が僕を襲っていた。地面に手をつき、ただ息を切らして彼女の話の続きを聞く。
「……話を変えようか。私、未来が見れる呪文を持ってるの。プレディクションってやつなんだけど」
彼女の声色はなんだか悲しそうに聞こえた。それでいて表情はいつもの営業スマイルだ。ひどく不自然に見える。
「それでふと未来を見てたらさ、とんでもないことに気付いたんだ。私達の未来が、ある時から突然無くなってるんだよ」
いけない、いけない、いけない、いけない。
「セーブとロードのせいだろって? いいや、あの瞬間にそういった特殊な呪文を唱えてる人なんていなかった」
彼女の声が僕の記憶を奪い去っていくような錯覚にとらわれる。僕は何をしてたんだ。どうしてここにいる。
「つまり、この世界はある日、何の予兆もなく、何らかの理由で打ち切られてしまうってこと」
汗をかいているはずなのに、まったく暑さは感じなかった。これは悪夢なのだろうか。目が覚めたらきっとヴィーレ達が……。
「そしてその日は今日なの」
……ヴィーレって誰だ?
「実を言うと、君たちの手助けしたのはそのためだったりするんだよね~」
見知らぬ少女は何か意味の分からないことを言っている。
「君たちの冒険が愉快であればあるほど、私達の寿命が延びるってことが分かったんだ」
僕はなぜか疲れていた。なんだかとても眠い。
「もうすぐ、全てが終わっちゃうよ。ヴィーレお兄さん達も、サタン達も、そしてあの子達も。また、『はじめから』になる」
ゲームの話だろうか。ダメだ、頭が全然働かない。ただ、心地よい眠気だけが僕をどこかへ連れていこうとしていた。
「まあ、リラックスしなよ。あとは天に任せるしかないのさ。もしかしたら、何かの気まぐれでコンティニューできるかもよ?」
寒い。風邪を引いてしまいそうだ。床が冷たい。うつ伏せで倒れていたはずなのに、いつの間にか僕は仰向けになっていた。
「それじゃあ……」
寒い……寒い……寒い……。
「おやすみ、お兄さん」




