最終話「表向きのエンディング」
あれから数日が経った。
代々紡がれてきた王族の罪は暴かれ、市民の総意によってデンガルは処刑された。今は新しい政治体制などをどうするのかで世間は慌ただしい。
魔物の王が突如として消えたことにより、魔物の群れによる襲撃も無くなった。世界は、いや少なくとも人間の国は、平和になったんだ。
エルとレイチェルは魔王城で暮らすらしい。あの兄妹、いつまでも一緒にいそうだな。もしできたら、たまに遊びに行ってやろう。
イズは家に帰った。聞いたところによると、家族は無事だったらしい。今はユーダンクにいるアルルと揃って魔王城を訪ねることが多いようだ。引きこもりが改善されたようで良かったな。
ネメスは案の定イズが引き取った。最近さらにくっつくようになってきているのは嬉しいようで困る気もする。つまりよく分からん。
アルルはもう軍を抜けられたみたいだ。魔物は固まってこなければ、わざわざ一般人を徴兵せずとも倒せるからな。大体、あの徴兵もデンガルの命だからやってただけだし。
最近の彼女は魔王城でサタンの遊び相手になっている。そのうちここにも来てくれるそうだ。
ウィッチ、レイブンはサタンと一緒にいるって話だ。今は二人とも人間と分かりあうための道をもう一度探そうとしてくれているらしい。
カズヤは明日、あっちの世界に帰るとのこと。
あの魔物、莫大な魔力を持ってたからな。俺達のレベルもガンガン上がってしまったのだ。
それで彼が帰るのに必要な分はもう揃ったってノエルが教えてくれたんだと。あいつの前では言わなかったが、やはり大切な仲間と会えなくなるのは寂しいな。
サタンは楽しくみんなと魔王城へ暮らしている。あいつ、王なのに仕事無いのか? なんなら、人間の国も彼女に統治してもらいたいくらいなんだが。まあ、それは俺が決めることじゃないだろう。
そして、彼ら彼女らと同様、冒険を終えた俺はといえば――――
「ネメス、寝ちゃったね」
俺は約束通り、ノエルと一緒にエンジェルズにいた。今日はネメスが泊まりに来ていたんだが、もうベッドで寝息を立てている。
今のノエルは普段通りの彼女だ。ただのイタズラ好きな少女。おかしいところがあるとすれば、こんな遅い時間なのにこれから出かけるかのような格好をしているということだけ。
「そうだな」
「お兄さん、ありがとね。本当に、ここに来てくれて」
「約束しただろ? 仲間のためだ、ちゃんと守るさ。……お前は、もう行くのか?」
「……うん、そろそろ行こっかな。寄りたいところもあるし」
ベッドに腰かけてネメスの手を握っていた彼女は、意を決したように立ち上がった。
彼女は今から最後の仕事を終えに行く。
それが何なのかは分からない。一つだけ分かっているのは、俺の最後の仕事が、こいつの帰りをここで待つ事だということだ。
「あ、あれ……。ちょっと待ってね……」
ノエルは震えていた。何をするのかは知らないが、きっと怖いんだ。逃げ出せないような大切なことを一人でやり遂げようとしている。
俺もネメスの横から腰を上げた。ノエルの肩を掴んで優しく語りかける。
「ここで待ってる。大丈夫だ、俺達も一緒なんだから」
「うん……」
彼女はまだ何かに怯えていた。これはきっと、背中を押してあげるのが正解なんだろうな。
胸のロケットを外し、彼女の手に握らせる。中には、あの後サタン達も含めてみんなで撮った写真が入れられていた。
「貸してやるよ。勇気が出る最強のアイテムだ。怖くなったら、これを握りしめて『みんな一緒だ』って唱えればいい。それだけで何もかも問題ないように思えてくるんだ」
ノエルはロケットを開けて写真を見た。そこでは全員が笑っている。勿論ノエルも含めて、ちゃんと十二人の男女が映っていた。
「みんな一緒……」
「そうだ」
ぎゅっと握りしめて、両手で作った拳を胸のところまで持っていく。そのまましばらく目を瞑って「うんうん」と頷いた後、彼女は目を開いた。
「……ありがと。すごく勇気もらえたよ」
「おう、それは良かった」
「ヴィーレお兄さんは寝ないの?」
「まあな。お前だけ怖い思いするのは嫌だろ? 俺も一緒に見てやるよ、最後に起きる何かとやらをな」
「そっか……。やっぱりお兄さん、勇者だよ」
「そんなまさか。俺はただの村人さ」
言うと彼女はおかしそうに小さく笑った。
「ふふっ、そうだね。……それじゃ、行くね?」
「ああ、いつまでだって待っててやるよ。安心して行ってこい!」
「うんっ! 行ってきます!」




