4話「もう一つの旅路」
魔王城を出発して数時間後の現在、僕達レイブン班は一つ目の候補地を訪れている。
移動はウィッチの後ろに乗せてもらった。ノエルから事前に酔い止めを爆買いしていたため、足を引っ張ることはなくて済んだ。
「ここに魔物の王がいるかもしれないんだよね……」
僕らの前には古ぼけた洋館。全ての窓が割れ、壁の塗装は剥げ落ちている。森の奥地にひっそりと佇んでいたそれは、中にゾンビでもいそうな様相を呈していた。
鼓動が若干早くなる。この心臓が弾けるような緊張を、これから毎回味わわないといけないのか。気を抜いていたら、いざ当たりに出会った時に対処できないしなぁ。
「さあ、行くぞ。離れないようについてこい」
レイブンは怖じ気づく様子など見せず、まるで我が家に帰るような感覚で屋敷に入っていく。
そりゃあんだけ強ければ度胸もつくよね。歴戦の戦士って風格が漂ってますなぁ。
「コホッコホッ! ほ、埃っぽいところですわね。人は出入りしていないのかしら」
洋館の中は換気すらされていないのか、ひどく空気が悪かった。床や壁も変色していて、かなりの経年劣化を感じさせる。
「マスクをご用意しました。お使いください」
「あら、ありがとう」
咳き込んでいたウィッチへ真っ先に駆け寄るレイチェル。流石に今はメイド服ではない。
準備良すぎでしょ。なんか凄く荷物多いなと思ったら、そういうことだったのか。他には何を持ってきたんだろう。
「はい、和也。どうぞ」
彼女は僕にもマスクを渡してきてくれる。エルといる時のおバカな面はまったく見せない。あれはやはりこの子なりにはしゃいでいるってことなんだろうか。
「ありがとう。助かるよ」
僕がマスクを装着するのを確認すると、彼女はお辞儀をして小走りでレイブンの元へ向かった。
それから一時間ほどかけて館の中をじっくり探索したのだが、結局何も見つからなかった。
某洋館のように何かしらの仕掛けも秘密の地下も無い、ごくごく平凡な古びた屋敷だったようだ。
途中からダンジョンを攻略してる気分になって楽しくなってきたから、特に苦では無かったんだけどね。小学生の時に来てたら秘密基地にしようとでも思ったんだろうな。
「ハズレでしたわね」
館から出たウィッチがマスクを外しながら言う。即座にレイチェルがそれを回収してゴミ袋に入れた。気が利くなぁ。
「ああ、だがまだ時間はある。今日のうちにあと二、三件は回っておきたい。次へ行こう」
レイブンは馬へ颯爽と跨がり、地図を広げる。怪しい場所が描かれたものだ。
僕らが彼に近付くと、ペンを取り出し、現在地の印にバツをつけた。印の数を見た感じ、先は長そうだ。
「結局今日は見つからなかったね~」
宿の部屋で隣のベッドに寝転がっているレイブンに話しかける。彼は何をするでもなく大の字で天を仰ぎ、全力で体を休めていた。
「すまないな。俺が走っていれば、もっと多くのスポットに行けたんだろうが」
「いいよ。それに、レイブンはずっと走りっぱなしだったからね。魔物の王のもとへ行くまでは、しっかり休んでおかないと。戦闘では君が頼りなんだから」
「まあ、そうだな。お前は熱心に訓練していたようだが、ウィッチやレイチェルはまだまだレベルが低い。それでも、そこら辺の有象無象よりはマシだが」
そう。あの二人はたまに僕の特訓に付き合ってくれたので、そこそこ魔力量は上がっているのだが、それでもイズさんやエルには到底及ばないほどのものなのだ。
向こうのパーティー、居候してる間も頑張ってたからなぁ。おまけにアルルもいるし。敵無しなのではないだろうか。
雑談を交え、のんびりとした時間を過ごしていると、部屋の扉が唐突に激しい音をたてて開いた。
「失礼しましたわよっ!」
「事後報告!?」
反射的につっこんでしまった。
扉の先には案の定はっちゃけているウィッチが立っている。ほんとに毎度毎度ビックリするから止めてほしい。
「ウィッチ様、和也が迷惑がっています」
「あら、そうね。今度からは気を付けましょう」
後ろに控えていたレイチェルに注意されてようやく反省してくれたみたいだ。もっと前にしてほしかった。てかあれくらいじゃ止めない気がするんだけど。
「ということで、遊びますわよっ!」
「どういうことだよ。特にやることもないし、夜更かししない程度にならいいけどさ、遊ぶつっても何するんだ? しりとりでもすんのかよ?」
レイブンがお尻をボリボリ掻きながら尋ねる。完全に仕草がオヤジである。普段は紳士っぽいのに残念ポイントが酷い。
「道具なら私がお持ちいたしました」
言って、レイチェルは鞄を開く。中には、様々な遊び道具が入っていた。持って来すぎでしょ。
「修学旅行じゃないんだから……」
思っていたことが口からこぼれる。けれどレイチェルは意味が分からなかったのか、無言で頭を傾げていた。学校は通ったことないのかな?
「では、まずこれで勝負ですわ!」
ウィッチは意を決したように宣言すると、日本で見たことのあるボードゲームを取り出して、それを掲げてみせた。
「ウィッチってさ、悪魔なんだよね?」
ゲームを進めながら適当な話題を投げかける。僕の左隣に座っている彼女はゲームから目を離すことなく答えた。
「ええ。でも、私は悪魔と人間の子ですの。だから普通に呪文も使えるし、見た目も人間っぽいのですわ」
「へぇ、二つの種族の間にも子供っていたんだね。じゃあさ、悪魔のように変わってる部分もあるって聞いたけど、それはどこのことなの? 見たところ、ウィッチは普通の人間みたいだけど」
そう尋ねた直後、ウィッチはぐいっとこちらへ顔を寄せてきた。かなり近い距離まで来てこちらの目を見つめてくる。
急な接近にドキドキしていると、彼女は口を開き、ある場所を指差した。
「犬歯がちょっと鋭くて長いだけですわ」
言い終わるとウィッチはパッと離れた。な、なるほど。吸血鬼さんでしたか……。
「言っておきますけど、血を吸いたいとかいう願望はないので心配はいりませんわよ?」
そんな事まで考えてなかったよ。
まあでも、ウィッチみたいな美女になら多少は血を吸われても良い気がするけどね。
……これを口に出せないから僕にはヒロインがいないんだろうなぁ。
僕は苦笑しながら、番が回ってきたゲームのことに思考をシフトさせていった。




