3話「悪夢」
「どういうことだ」
剣を鞘から引き抜き、構えながら尋ねる。他の四人も戦闘態勢に入った。またろくでもないことが起きそうだ。
「そのままの意味だよ。お前ら、魔王城に行ってきたんだってな? ここに戻ってきたってことはつまり、悪魔共のことも聞いたんだろう?」
彼の言葉に必然、疑問が浮かび上がる。
どうしてこいつらが悪魔のことを知っているんだ。もう今生きている人類で、彼らの存在を知る者はほとんどいないはずじゃ……。
「代々この国の王族はある研究をしていた。完成すれば悪魔も、人間も、力で支配することができる。そんな素晴らしい研究だ。もちろん、デンガル様もそれに携わっておられる」
ムルソーは俺達の答えなど端から待っていなかったのか、その場を往復するようにぐるぐると歩きつつ話を進めた。全員が静かにそれを聞いている。
レベルは大したことない。何か攻撃を仕掛けようとしたら、速攻で叩きのめす。
「そしてその研究を終えることができたら人間を滅ぼし、悪魔の文明を乗っ取ることになっている。最高の強奪だろう?」
研究ってのが何なのかは分からないが、だいぶ規模が大きい話になってきたな。
「くだらないわね。過去のことをきちんと反省して悪魔と和解すればいいのよ」
「その発想こそナンセンスだ。なぜわざわざ歩み寄る必要がある? 力があるなら、奪えばいいだけのこと。そしてその力は、もう出来上がってしまったんだ」
価値観が根底から食い違っているな。盗賊には価値観がマトモな奴はいないのか。……いや、いるわけないか。
どうやら王もイカれているらしいし、この調子だと人間が嫌いになりそうだな。
「御託はもういい。さっさと王の居場所を吐け」
脅しこ意をこめて地面へ大剣を叩きつける。塵一つ無かった床に地割れができた。
悲しいことに、身をすくめてくれたのはネメスだけだったが。後で謝ろう。
「言われるまでもない。これも命じられていることだ。俺を倒せたら、教えてやるよ。〈ナイトメア〉」
彼が何か呪文を唱えたが特に何かが起こる様子はない。あいつ、何をした?
「ヴィーレお兄ちゃん! 危ない!」
ネメスに突き飛ばされたかと思ったら、俺が先ほどまで立っていた場所を短剣が素早く過ぎ去っていった。
飛んできた方向に目を向けると、エルが新しい短剣を構えている。
「おい、エル! 何してるんだ!」
「〈イグニッション〉」
答えを聞けぬ間に、俺とネメスへ数えきれないほどの炎の弾が迫ってくる。イズがやったものだ。
「〈モデリング〉! イズお姉ちゃん、エルお兄ちゃん、やめて!」
目の前に紫の物体でできた壁が出来上がる。それによって、炎攻撃をなんとか防ぐことができた。
だが息をつく暇も無くアルルが真上に現れ、ハルバードをネメスに向けて振り下ろす。咄嗟に横から二人の間に大剣を滑り込ませてその攻撃を防ぎ、彼女を守った。
「敵を味方につける呪文だ。ここで、お前らは愛しい仲間達と共倒れすることになる」
なんて厄介な呪文を……。大体、なんで俺達には何もしなかったんだ。遊んでいる? それとも魔力が足りないのか?
……いや、違う。あの時のノエルだ。
月輪の指輪、状態異常を防ぐ特殊装備。これをネメスに渡すためにあそこにいたんだ、あいつは。
全力でアルルを押しきり、彼女に掴みかかろうとするも、あっという間に距離をとられてしまう。ムルソーを庇うように、三人が立ち塞がった。
エルとイズとアルルか……。クソ、よりによって強い面子ぱかりが敵にまわってしまっているぞ。
俺とネメスで、あいつらを傷つけずにどうにかするのは……かなりの難題だな。
だが、それでもこの程度の絶望に屈することなどできない。
俺はただの村人かもしれないが、彼らは俺を勇者だと信じてくれている。ならば、俺は少なくとも彼らの前では挫けてはいけないのだ。
「村人風情が、案外粘るじゃないか。けど、早めに諦めた方がいい。どうしても無理だっていうなら、俺が手伝ってやろう。〈ブースト〉」
彼が新しい呪文を使うと、イズ達の頭の上に文字が浮き出てくる。
【レベル3156・彼女もあなた達に殺されるなら本望だろう】
【レベル3848・妹にも会えたことだ。もう悔いは無いに違いない】
【レベル8599・あなた達には彼女を打ち負かすことなど決してできない】
思わず目を疑った。レベルが倍近くまではね上がっている。
今の呪文の効果か? ただでさえ軽く死ねるような難易度だっていうのに、容赦はしてもらえないらしいな。
「ネメス、大丈夫か?」
「う、うん。で、でもお姉ちゃん達が……」
「不安がる必要はない。あいつらを傷つけたりなんてしないし、勿論負ける気だって更々無いさ。勝って、みんなで魔王城へ帰るぞ!」
自分を鼓舞するためにも全力で叫ぶ。
こんなところで負けてたまるか。ロケットを握りしめる。不思議と、体の奥から勇気が無限に湧いてくるような気がした。
「うん! 絶対、諦めないっ!」
ネメスも腹を括ったようだ。しっかりと彼らを見据えている。
前方にいるイズ達は明確な殺意をこちらへ向けている。既に全員が再びこちらへ攻撃をするための構えに入っていた。
「さあ、精々楽しませてくれよ」
ムルソーが悠々と玉座に座り、不快な笑い声をあげると、三人は戦闘を再開するべく行動へ移った。




