12話「出発」
明日から俺達は再び旅立つことになる。今はその前にみんなで食べる最後の晩飯の最中だ。
「皆さんに伝えておきたいことがあるんですけれど」
そんな時、和気藹々とした空気の隙間を縫って、ウィッチが口を開いた。
「なんだ?」
彼女の対面に座っていた俺が尋ね返す。真面目な話が始まる事を悟り、食事の手を止めた。いくら腹が減ってても、食べながら話すのはマナーが悪いだろうからな。
今は話に集中しよう。
隣に座っていたネメスがコソコソと、苦手な人参を俺の皿へ移してきたが、それでも今は話に集中だ。
だがアルル、俺のステーキをこっそり奪ったお前は絶対に許さん。一切れでも許さん。
「今日の兵力、おかしかったですわ。前回とそこまで変わりなかったんですの。アルルのことがあったにしても、あまりにも勝つ気が無さすぎます」
確かに。兵士達はそりゃまあまあ頑張っていた。だが二の策も用意せずに向かってくるのは不可解だ。兵力を増強してきたわけでもなかったようだし、どういうつもりなんだろう。
「いくら撃退したと言っても相手は無傷。私達が留守にしている間に、また三度目の侵攻なんてされたらたまりませんわ」
「確かにそうだな。どうする? 片方の班が残るか?」
「いやそれよりよ、もう俺達が一回王様に言ってやった方が良いんじゃねえか? 悪魔達のことはともかく、『あそこに魔王はいませんでした』ってよ。ついでに裏切り者の烙印も消し去ってもらおうぜ」
「一応ユーダンク周りにもいくつか探索すべき場所があるし、それもありだと思うわ」
エルの案にイズも反対はしないようだ。
俺はといえば、別にどちらでも良いと思う。最悪、一日ごとにロードしてもらうという荒業も取れるのだ。レイブンがこちらにいる以上、やりようはいくらでもある。
「レイブン、どうしますの?」
今回の作戦を仕切る者、サタンの隣で山盛りの料理に夢中となっている男へ声をかける。彼は一変して静かに食事を中断すると、こちらへ顔を向けた。
「ふむ、悩みどころではあるが……。ヴィーレ、お前らは王のところに行ってもらえるか? 今の王は何を考えてるのかよく分からん。不安な要素はできるだけ無くしておきたい」
どうやらレイブンも俺と同じく、この回で終わらせるつもりらしい。セーブとロードは多くの魔力を消費するし、あまり使いたくないんだろう。
何もそれだけではない。当たり前かもしれないが、今回の件、彼の負担が他とは比べ物にならないほどデカイのだ。
これ以上無理をさせるのは止めておいた方がいい。彼の呪文に甘えるのは最後の手段として考えよう。
「分かった。俺達はユーダンク方面のスポットから探索していくことにする」
「あーあ、明日にはもうみんな行っちゃうのか~……」
サタンは眉を八の字にしてデザートのアイスをスプーンでつついている。やはり寂しいのだろうか。
「すぐ帰ってくるさ。そしたらまたみんなで遊べるだろ?」
レイブンが優しい声で言い聞かせる。あいつが側近っぽいことしてるの久々に見たな。
「そうだけど……」
彼女はまだ難しい顔をしている。声にならなかった言葉を表すように翼の動きが落ち着かない。
「大丈夫だ。誰も欠けることなく帰ってくる。レイブン程ではないが、俺達だって強いんだ。そう簡単にやられたりしないさ」
「……うーん、じゃあ我慢するぅ」
俺の慰めにも彼女は何か言いたげだったが、それを押し殺すようにして言葉を絞り出した。
本当は残ってほしいんだな。……帰ったら存分に遊んでやろう。
「〈チェック〉」
部屋に帰ってベッドに寝転がり、自分に呪文を使った。途端に天井に文字が滲み出てくる。
【レベル測定不能・ただの村人のようだ】
なるほど、真実を知った者はこうなるのか。
まあ、こんな事が分かったところで、ノエルの相談した人物が分かるくらいだし、特に意味はないんだけどな。
さっきの食事中、もう一度みんなをチェックしてみたが、ノエル以外にも一人だけレベルが分からない奴がいた。それが真実を知っている人物だ。
にしても、あいつに相談したのか。
彼女はその事についてどう思っているんだろう。しっかりしているし、変な気を起こすことはないと思うが、少し心配だ。
翌朝、俺達は準備を済まして城の外へ出た。全員外套を着て顔を隠している。見つかるとマズイからな。こんなものでも無いよりはマシだろう。
レイブンがセーブを唱えるのを見ると、玄関先で見送りをしてくれているサタンや使用人達を振り返る。どういうわけか、その中にはこの前出会った狐っ子も混じっていた。
「そろそろ僕達行くね、サタン」
「うん。みんなが留守の間はノエルと遊ぶことにするよ」
真っ先にカズヤが挨拶をかける。それに続くように、それぞれが言葉を投げ始めた。
「ノエルちゃんにもよろしくな!」
「了解、エル! ちゃんと言っておくね!」
エルはサタンに悪魔の国の料理を学んでいた。俺も混ぜてもらったことはあるが、そのうちサタンもたまげるような物を作りそうな成長速度だったな。
「部屋に閉じ籠ってないで、たまには庭を散歩したりするんですのよ?」
「サタン様、おやつの食べ過ぎにはお気をつけて」
「もー、私そこまでだらけてないよっ! それに、部屋の閉じこもりについてはウィッチだってそうでしょ!」
保護者のウィッチとレイチェルへ、少し拗ねたように返すサタン。レイチェルにまで注意されるのだから、相当に自堕落な生活をしていたんだろうか。
「サタン! 帰ったらその羽、またモフらせてね!」
「アルルはこれの良さをよく分かってるからね~。特別にいつでも触らせてあげよう!」
カズヤによると、彼女の羽はあまり触らせてもらえないらしい。何度か遊んであげたら、俺には普通に触らせてくれたけど、何か違いでもあるんだろうか。
「あんたにはまだ色んなゲームで勝ててないものね。腕を落とさないようにしときなさいよ」
「ふふんっ。イズこそ私にもう一回負けて恥ずかしい罰ゲームさせられないように、ちゃんと練習しといた方がいいよっ!」
友達作りが苦手なイズのためにサタンとカードゲームやボードゲームをやらせたことがある。
意外にも、イズはほぼ全ての遊戯でボロ負け。それ以来、彼女達はライバルみたいな関係になっている。というかイズが勝手にそう認識している。
「サタンちゃん、またノエルちゃんと三人で遊ぼうねっ!」
「うんうん! 楽しみにしてるよ!」
ネメスは変わらず、最大限の笑顔でサタンに相対する。彼女の内なる不安を吹き飛ばしそうな輝きだ。
「今度レイブンも含めて勇者ごっこの続きに付き合ってやるよ」
「やった! 次は中断しないでよね、ヴィーレっ!」
ワクワクした様子で飛び跳ねるサタン。その面に曇りはない。そうそう、悪魔の王はこうでないとな。
「サタン、すぐに帰る。それまでちょっとだけ我慢しててくれ」
「分かってるよ、レイブン。……またね、みんな。いってらっしゃい!」
サタンの見送りにそれぞれがバラバラの返事を返し、俺達は最後の使命を終えるための旅に出た。




