11話「最後の一人」
アルルの攻撃をかわし、時に反撃もしながら和也の援護をする。さっきからひたすら同じ事をするばかりで全然好機が見えない。
それどころか、和也の魔力減少や俺の疲労、アルルの唱えた呪文によって徐々に状況は悪くなっていっている。
インビンシブルを使った後のアルルは、もはや俺も手加減していられないほど強力だった。
やっとの思いで蹴りを当てようが放電しようが、全く怯まないのだ。おまけに動きも段違いに良くなっている。
気がつけば、魔力がもう限界なのか和也が膝に手をつき息をきらしていた。
「和也、もういい! ウィッチ達のところに戻れ!」
「もう、戻る分の魔力もないよ……!」
おいおい、嘘だろ。そんな限界まで粘らなくてよかったのに。
悲鳴をあげる全身に鞭を打ち、地面を蹴る。和也の元へ急いで駆けつけ、庇うように立った。
二人のアルルが凄まじい勢いでこちらへ向かってきている。時間が経っても冷静になる気配はない。
やむを得ない。怪我はさせたくなかったが、こちらもある程度本気で臨まないと死ぬらしい。
彼女達の頭上に強めの稲妻を落とす。だが、まるで効いていない。無事で済むはずが無いんだが、あの呪文のせいで全くダメージが通らないのか?
体に電気を纏い、二人の相手を同時にこなす。後ろにいる和也へは絶対に近づけさせない。女であることも考えず、顔や腹へ容赦無く拳と脚を叩き込む。
「和也、まだか!」
「〈テレパシー〉。も、もうすぐ近くまで来ているよ! あとちょっとだけ耐えればいい!」
アルルの武器を受け止め、ありったけの放電をしてやる。しかし彼女は全く動じない。もう片方が放つ斬撃を避け、全力で突きを叩き込むも籠手が鈍く鳴るだけだった。
「これじゃあ魔力量ガン無視じゃねえかっ……!」
こうなったら和也とサタンを連れてここから逃げ出すか? いや、今の俺だったらすぐに追いつかれるな。
もう最悪一回ロードするかと考えていると、二つの刃が同時に襲いかかってきた。いかん、反応が遅れた……!
「レイブン!」
和也の声が後ろから聞こえる。迫りくる刃の動きが急にゆっくりに見えだした。
また死ぬのかと、今回の命を諦めかけて目を瞑る。しかし、その時――――
「アルル! やめろ!」
ヴィーレの声が聞こえた。
目を開けると、俺はいつの間にか和也の後ろに下がっている。あいつが瞬間移動の呪文でギリギリ助けてくれたのか……。
「ヴィーレ……?」
片方のアルルが消え、残ったもう一人は武器を投げ捨て彼の元へ走っていった。
「ヴィーレっ! 生きてたんだねっ! 良かったよぉ~!」
飛び込んでくるアルルを受け止めるヴィーレ。そうして二人は感動の再会を果たしましたとさ。
っておい。ふざけんな。ハグしてねえで、まず俺達に謝れよ。
急いで魔王城へ駆けつけるとレイブンがまさに絶体絶命の危機に立たされていた。なんとか和也のおかげでやり直さずに済んだが……。まさかアルルが来てたとはな。
「……そういうことだったんだね」
ひとまず事情を説明する。意外にも、彼女はそれをすんなり信じてくれた。
「疑わないのか? 俺はなかなか受け入れられなかったんだが……」
「ヴィーレのこと、信用してるから。あー、じゃあさっきの人達に謝らないといけないなぁ」
そこはしっかり反省しているようで申し訳なさそうにしている。
俺が来た時、凄い形相で彼らを殺しにかかってたもんな。またレイブンの少女恐怖症が悪化してしまったのではなかろうか。
ちなみに、レイブン達はしばらく休んで魔力を回復させると、イズ達の応援に向かった。二人ともかなり疲れていたみたいだから早く交代してあげないと。
「それじゃ、お前は帰れ。あのレイブンがこちら側についていたことを伝えれば、作戦の失敗に対する罰も少なくて済むんじゃないか。軍のことはよく知らないけど」
そう告げると、彼女はとんでもないことを言い出した。
「ううん。私、ヴィーレ達に協力するよ!」
「え、いや、流石にそれは……」
こうくるとは想像していなかった。慌てて断りの文句を考える。
「お前、軍に友人とかいただろ? そいつらに心配をかけさせちゃ駄目だ」
「でも、その魔物の王を倒すのにあと数日もかからないんでしょ? だったら大丈夫だって! 私にも家族いないから心配無いし!」
「それはそうかもしれんが……」
そういう問題だろうか。また過保護を発動しているんじゃないだろうか。
「私がいればどんな魔物も悪党も難なく倒せるよ? イズ達が危険な目にあうことも少なくなると思うな」
「う、うーん……」
どうしよう。だんだん魅力的な提案に思えてきたぞ。戦力は多いに越したことないんじゃないか? こいつは俺より強いくらいだし……。
「……じゃあ、みんなが許してくれたらな」
「やったっ! ありがと、ヴィーレ!」
結果、俺は仲間達に決断を委ねた。肩に手を回してくるアルルへ顔を向けること無く溜め息を吐く。我らが親分、イズの決断力に任せよう。
あれから、俺はアルルを置いて戦闘に戻った。敵もかなりしつこく耐えていたが、日も暮れた頃、ようやく人間の国へと帰り始める。
クタクタになりながら城へ戻ると、アルルがサタンと滅茶苦茶親しくなっていた。
彼女の羽を気に入ったらしい。それを撫でたり抱き締めたりしている時に俺達が帰ってきたのだ。レイブンはともかく、カズヤはまだ彼女に怯えている。
「おい、アルル。イズ達に事情を説明するからこっちに来てくれ」
とりあえずイズ、エル、ネメスとアルルを俺の部屋へ連れていく。どうせあいつが入るとしたらこちらのチームだろうしな。
ていうか、女性陣はどうして部屋に入ると同時に何の迷いもなく俺のベッドに腰かけるんだよ。椅子があるだろ、椅子が。
「――――ということで、アルルも仲間に入りたいらしいんだが、どう思う?」
椅子に座って一通りの事情を話し終えると、皆の判断を聞く姿勢に入った。
「俺はアルルが良いなら全然構わないぜ。疲れていたとはいえ、レイブンとカズヤの二人を相手に渡り合えるんだ。実力は確かだろ」
「私も賛成! アルルさん、ヴィーレお兄ちゃんの昔話よく聞かせてくれるし、優しいもん!」
エルとネメスは大賛成のようだ。
それよりネメスよ、あとでその昔話について詳しく聞きたいんだが。あいつ、ろくでもないこと話してないだろうな。
過去の黒歴史やらの心配をしていると、イズが口を開く。気のせいかもしれないが、今回は決断が妙に遅かった。
「私は却下よ。今すぐ帰るべきだわ。幼なじみでもない私にとっては、百パーセント信頼できる相手ではないもの。連携もマトモに取れるかどうか……」
「イズさぁ、もしかして、ヴィーレ取られるのが嫌なだけなんじゃない?」
否定されたアルルは不敵にもニヤニヤしながら彼女に問いかける。それを聞いたイズはといえば、顔を赤くしてアルルを睨んでいた。不意を突かれて驚いた顔から一変、今度は「ぐぬぬ」と小さく唸っている。
「私を仲間にすれば良いこともあるよ。たとえば~……」
なぜかそこから先はイズにしか聞こえないように耳打ちで何かを言う。しばらく無言で聞いていたイズだったが、不愉快そうだった彼女の目が突然ハッと見開かれた。
「……彼女を仲間に入れることに一票入れるわ」
「やっりぃ!」
「ちょっと待て。どういう説得をしたんだよ」
「交渉をしたんだよ。ヴィーレの情報を売ったの」
アルルは「ふふん」と鼻を鳴らしている。なんで自慢げなんだよ。あぁ、俺の秘密が拡散されていく……。
「まあ、そういうことだから! これからよろしくねっ!」
眩しいほどの笑顔を向けて彼女はそう言った。それにしても、戦場とのギャップが凄いな。多重人格者か何か?




