8話「楽しい時間はもう終わり」
今日は全員で城の子ども達と遊ぶことにした。
だいたい一日に一度は誰かしら遊びに行っていたようだが、今日は特別な日なのだ。何が特別かというと――――
「いつもと比べて、今日は一段と賑やかだねっ!」
ネメスが隣に来て、部屋で遊ぶ子ども達を見渡しながらそう言う。そこには悪魔の子どもだけでなく、人間の子どももいた。エンジェルズの子達だ。
なんでも、ノエルが連れてきたいとサタンに頼んだらしい。
今のうちにあいつらを沢山遊ばせておきたいのだろう。それにこれから先、彼らが悪魔と人間を繋いでくれる希望になってくれることを信じて、という願いもあるのかもしれないな。
「ああ、元気一杯だ」
部屋のあちこちで各々が思い思いに遊んでいる。一人ではぐれている人なんていない、平和な光景だった。これがいつか、この世界全体に伝わることを祈ろう。
それにしても、悪魔は俺達と違う言語を話すらしいが、この子達は普通に人間語を口にするんだな。どうにかして教えたのか?
……まあ別にいいか。サタン達の気遣いなんだろうし、ありがたく思っておくくらいでいいだろう。
「よし、俺達も遊ぶか」
「うんっ!」
部屋から出て外で遊んでる奴らもいるようで、何人か見当たらない人もいる。
例えばエル。隠れんぼをするとか言っていたが、俺には分かる。あいつ、インビジブル使う気だ。
他にもウィッチがいない。「呪文で石の遊具を作ってあげますわ~」と、子ども達を外へ連れ出して行った。
サタンはさっきまで羽で子どもをくすぐって遊んでいたが、それに飽きたら彼女も子どもと共に城の庭へ向かったようだった。何して遊ぶ気なんだろう。
「いない、いない、ばぁ」
レイチェルは彼女なりに幼児達を楽しませてあげようとしているようだったが、無表情ゆえに全くウケていないどころか、若干怖がられていた。
レイチェルよ、その気持ち、分かるぞ。笑顔って難しいよな。
「ち、違うよレイチェル。笑ってあげないと」
カズヤはそんな彼女に付いてあげていた。ウィッチに命令でもされたのか、彼自身の気遣いなのかは分からないが。ネメスのハピネスでもコピーしてやればいいのではないだろうか。
イズとネメスとノエルの三人は人間の子達に悪魔の国のオモチャを紹介している。子ども達は目を輝かせて、早くそれらを触りたそうにしていた。
取り合いで喧嘩にならないといいが。まあ、あいつらがついているし大丈夫か。
「ねえねえ、お兄ちゃん。私と遊んで~」
悪魔の子だろうか、狐の耳に尻尾を生やしている子が一人寄ってきた。よくこんな仏頂面の男に話しかける気になったな。
「いいぞ。何をしたい?」
答えるとその少女は尻尾をふりふりしながら、うーんうーんと唸りだした。獣耳もピコピコと動いている。
サタンといい、悪魔は体の一部で心情が分かる奴が多いみたいだ。触ってみたい衝動に駆られたが、それは失礼だと思いとどまる。
「ん~とね、お本読みたいっ! 料理の本!」
「そうか。じゃあ図書室にでも行くか? 本棚の上の方も持ち上げて見れるようにしてやるぞ」
「わーい! 行こ行こっ!」
一人だけの相手をしてても大丈夫だろうかと思ったが、子ども同士で遊んでる奴らも少なからずいることだし、問題ないだろうと勝手に納得しておいた。
俺は尻尾を振りまくっている狐っ子を連れ、二人で図書室へ向かうことにした。
「今日は付き合ってくれてありがとね」
少女のために本をいくつか借りて部屋に戻るとノエルに声をかけられた。
狐っ子は空気を読んで少し離れた窓際で読書を始める。できた子だなぁ。
「礼なんかいい」
まさか俺以外の奴にも一人一人、言って回っているのか? だとしたら律儀な奴だ。誰も迷惑になんて思ってないし、むしろ楽しんでいるくらいだろう。
「あのね、そろそろ終わっちゃうの」
「……そうなのか」
「うん。だから最後にこうして遊ばせてあげられて良かった」
「また機会はあるさ。そう悲観的になるなよ」
「……そだね」
隣でみんなの様子を眺めながら話す彼女の声は暗い。憂鬱になる気持ちも分かるが、諦めたら駄目だ。その問題とやらの解決策だって、きっとあるはずなんだ。
「まあ、とどのつまり――――」
ノエルの方をふと見ると、その表情はあの営業スマイルだった。口元だけが笑っていて、それ以外は何もない。感情を殺している顔。
「また仕事が始まるってことだね」
ノエル達が帰り、みんなで夕食を食べている時のこと。レイブンが唐突に話を切り出した。神妙な面持ちから、ただならぬ内容である事が察せられる。
「お前らに伝えたいことがある。良い知らせと悪い知らせがあるんだが、どちらから聞きたい?」
「良い方から頼むわ。どうせ悪い話の方が長くなるんだろうし」
イズが即決した。この決断力よ。優柔不断なカズヤに少しでいいから分けてやれ。
「ようやく調査が終わったんだ。とは言っても、あと十数ヵ所の候補はある。でもそれもお前らと手分けすれば大した数ではない」
とうとうこの時が来たか。もうすぐ魔物の王との決着をつける時が来るんだろう。彼女の言っていた『最後』っていうのはそういう意味だったんだ。
「手分けっていうのは、ヴィーレとオッサン達の四人ずつで分かれるってことでいいのか?」
エルが軽く挙手して尋ねる。戦力的にはそれで十分だろう。
「ああ。少なくとも前回の戦争の時に魔物を操っていた奴は、当時の俺が一人で倒せるほどに雑魚だった。俺は別にして三班になろうかとも思ったが、念には念を入れて二班にしておこう」
説明を終えてパンを頬張る。多分レイブンは自分の心配というより、ウィッチ、カズヤ、レイチェルの三人を思ってそうしたんだろうな。
「で、悪い知らせというのは何なんですの?」
「そう、それなんだが……二回目の魔王城侵攻作戦が決行されるらしい」
「なに? それはいつだ」
「明日のどこかだ」
レイブンの答えに全員がどよめく。やけに急だな。
マナーを守って丁寧に食事を進めていたイズが椅子から立ち上がる。
「なんでそれを今まで黙ってたのよ!」
「カッカすんなよ。俺も今日たまたま知ったのさ。調査といっても、聞き込みをしていたわけじゃない。むしろ前勇者だし、人目は避けて行動していたくらいだ。人間側の情報も、それじゃあ入ってこねえよ」
そういう事か。それにしても、しばらくは来ないと思っていたのに、立て直しが早かったな。新しく策を用意したか、それとも人数を増強してきたか?
「では明日の夜明け前、再び子供の避難をさせるよう手配します」
いつも通りウィッチとエルに誘われて食事に参加していたレイチェルは冷静にそう告げた。
「ああ、頼む。とにかく、今更どうこう言っていても仕方がない。早速、明日彼らをどう迎え討つか決めておこう」
俺達はポカーンとアホ面を晒しているサタンを置いてけぼりにして作戦をたて始めた。
こいつは……まあ、守りきるし関係のないことだな。無視無視。




