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非公開中  作者: するめいか
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閑話「遠足」

 朝、俺達十人は魔王の間に集まっていた。

 これも例のごとく、サタンが昨日突然言い出したことが始まりである。しかし、当のサタンはといえば玉座の上でお休みしている。


「おい、サタン。いつまで寝てるんだ。ヴィーレ達もう来てるぞ」


 レイブンが呆れ混じりな様子で魔王を起こす。一体いつから待ってたんだ……。


 ちなみに今は早朝などではない。どちらかというと昼よりの時間だ。にも関わらず、彼女は爆睡しているのだ。子供かよ。


 肩を強く揺すられて、ようやくサタンは目を覚ました。欠伸をしながら気だるげに立ち上がる。


「ん~……。ということでぇ、今日は遠足に行きまーす。レイブン説明よろしく~」


 そう言うとまた眠りについてしまった。ありゃ駄目だな。


「遠足が楽しみで眠れなくなるタイプか……」


 隣でカズヤが苦笑しながら呟く。あいつ本当に千歳越えてんのかよ。


 サタンの様子を見てレイブンは頭をガシガシと掻き、説明を始めた。


「本当にこいつは……。えー、今日は遠足の日だ。まあ、昨夜サタンがいきなり提案して自分で勝手に決定したものだが」


 パラパラとした笑いが出るなか、エルが「はいはい!」と手を上げる。


「その『遠足』ってやつは何なんだよ、オッサン」


「ふむ、そうだな。みんなでお出かけするって認識であればいいだろう。『みんなで』と言っても、俺は行かないが」


「えっ。どうしてオジサンは来ないの?」


「調査があるからな。それに今日行く場所は、お嬢ちゃん達がはしゃげても、俺くらいの歳になるとあまり盛り上がれないところなんだ」


「むぅ、そっか~……」


 ネメスはあからさまに残念そうにしている。一緒に遊びたかったんだろうことは誰の目にも明らかだった。仲直りしたというか、レイブンが黙って行ってしまったことについての遺恨は残ってないようだ。


 そういや、まだ行き先知らされていないんだよな。どこに行くのか、どうやって向かうのか、何をするのかも分かっていない。


「ところでレイブン、サタンは出かけてもいいのか? 何かをするために、これまでずっと魔王城に籠りっぱなしだったんだろう?」


 以前サタンから聞いた話を思い出したので尋ねてみる。彼女はイズやカズヤと違って、引きこもるべくして引きこもっている、真の引きこもりだったはずだ。


 何の問題もなく久しぶりに魔王城の敷地から出られるのであれば、それは何よりなのだが。


 俺の質問に答えたのはレイブンではなく、ノエルだった。


「うん、大丈夫。今日はここにいなくても問題ないし。実はこれ、結構前に私とネメスで説得して、ようやく昨日サタンが決めたことなんだ」


 彼女は珍しくウキウキしているようだ。声がいつにも増して明るい。いつの間にかネメスをちゃん付けで呼ばなくなってるし。だいぶ仲良くなったらしいな。


「まあ! それなら何の気兼ねもなくサタンと外で遊べるんですのね! 楽しみですわ!」


「でも、ノエルちゃんは大丈夫なの? エンジェルズの子達とか大変じゃない?」


「あの子達の食事は作ってきたし、主婦の人達が子守りの依頼受けてくれたから問題ないよ」


 用意は完璧みたいだ。それなら婆さんも無理しなくていいし安心だな。あの婆さん、元気だろうか。結構ヨボヨボだったけど。


「でもよ、どうやって行くんだ? ていうか、どこに行くのかもそろそろ教えてくれよ~!」


「もうすぐ分かるから我慢して。それじゃ、行くよ?」


 サタンを無理やり起こし、手を握ったまま俺達を振り返るノエル。その様子を見て、レイブンは最後に軽く手を上げた。


「気を付けてな。ま、死なない程度に羽目を外してこいよ」


 直後、視界が闇に包まれた。







 見送りの言葉を聞き終わると、俺たちは見知らぬ浜辺に飛ばされた。魔王城付近と違って灼熱の太陽が俺達を照らす。この気温差はキツイな。


「あっ! 海だよ、イズお姉ちゃん!」


「えっ!? ちょ、ちょっと! 水着なんて持ってきてないわよ!」


 イズが文句を垂れ始めたところで、すぐそばに屋台が現れた。『氷』とか『焼きそば』とか、なんか色々書かれた旗もついている。

 ノエルの店だが、今日は特別仕様のようだ。気合いの入れどころ、そこなのか……。


 中にはいつも通りローブ姿のノエルがいるが、フードは被っておらず、表情も普通だ。オフモードらしい。


「はいはーい。男女の水着に日焼け止め、浮き輪やボールにパラソルまで、色々揃ってるよ~。貸し出し商品以外にも、食べ物や飲み物だって揃えてるから、ジャンジャン利用してってね」


 こ、こいつ……これが目的だったか。どうして『財布だけは持ってこい』と言われたのかがやっと今分かった。


「兄さん、水着選ぶのを手伝ってください」


「おう! 任せとけ!」


「さあ和也、私たちも一緒に選びますわよ!」


「えっ。僕、女の人の水着なんて分かんないよ?」


「ノエルちゃん! サタンちゃん! わたしと後で一緒に遊ぼうね!」


「いいよん! 何する何する~?」


「遊び道具も揃ってるから見てみてよ。二人にはサービスしとくよ」


 ボーッとしている間にも、みんなは早速動き出した。まあこんな暑いとこでいつまでも立っていたくないよな。


「ねえ、ヴィーレ。私と一緒に来てくれないかしら?」


 俺も動こうかと思っていたら、イズに話しかけられる。瞬間、思わず胸が高鳴った。


 この前のデート以来、こいつを妙に意識してしまうようになっているな。いかんいかん、なんとか普段通りに接しなければ。


「ああ、いいぞ」


「ありがと。じゃあ、行きましょう?」


 そしてイズは当たり前のように手を繋いできた。くそ、なんか無駄にドキドキするぞ。


 ドギマギした態度を悟られないように努めて屋台へ向かう。

 そうして俺達は買い物と借り物を済ますと、店の裏に用意されていた試着室でそれぞれ着替え始めたのであった。







【海での体験・ヴィーレ編】


 着替えを終えたイズが出てくる。あまり水着に詳しくないのでよく分からないが水色のビキニを着ていた。

 サンダルを履いて、髪は動きやすいように結んでいる。あの屋台、ご丁寧にサンダルも貸し出していたのか。


「ど、どうかしら?」


 かなり顔が赤い。いつかの風呂でも彼女の体を見ることなんてほとんど無かったのだ。そりゃこうなるだろう。モジモジしてる姿はいつもよりも愛らしく思えてしまう。


「似合ってるぞ。可愛いじゃないか」


 なんだかあまりジロジロ見るのもいけない気がして、顔の方に目を逸らす。俺の言葉を聞いたイズはもっと赤くなってしまった。


「それで、何して遊ぶ?」


「そ、そうね……。海に入りたいところだけど、私泳ぎが苦手なのよね」


「せっかくの機会だ。俺が教えてやろうか? ここは悪魔の国の浜辺らしい。人間の国と違って、海に魔物がいないという夢みたいな場所だ。安心して練習できるぞ」


「あら、そうなの? じゃあ頼もうかしら。……教えてる途中で手、放さないでね?」


 言って彼女は手を繋ぐ。今度は指を絡める繋ぎ方だった。腕や肩が当たる度に鼓動が早くなる。


「あ、安心しろ。これでも力には自信があるからな」


 上擦りかけた声に顔が熱くなるのを感じながら、俺達は海へ向かった。







 泳ぎの練習を一旦終え、休憩しに行こうとしたらサタン達に出会った。

 ノエルはパンツタイプのビキニ、ネメスはこの前俺があげたスクール水着とやら、そしてサタンは普通の部屋着みたいなのを着ている。ネメスのあれ、ノエルがまた持ってきたのか?


「サタン、それ部屋着か?」


「違うよっ! サロペット!」


 何それ、呪文か何か? まあ似合ってはいるが。女物の水着って種類が多いんだな~。


 サタンは暑いのか羽でパタパタと自分を扇いでいる。便利すぎやしないか、それ。


「何してたんだ?」


「スイカ割りしてたの! ヴィーレお兄ちゃん達は?」


「イズに泳ぎを教えてあげてたんだ。金槌らしくてな」


「う、浮けるようにはなったじゃない!」


 それ、必要最低限のことなんだが。世の中には他にも顔を水に浸けるだけで怖い人とかいるのだろうか。イズが最初それだったんだけど。


「いいな~。後でわたしにも教えて!」


「いいぞ。代わりにそのスイカ、食べるときに一切れ分けてくれ」


「お兄さんに頼まれるまでもなく、もともとそのつもりだったよ。私が後で切って冷やしといてあげる」


「いや~。気が利く幼女達がいて良かったね、ヴィーレ!」


 自分のことを『幼女』って言っちゃう千六十九歳がいるらしい。

 気が利くのは間違いないんだけど、残念ながらサタンはお婆ちゃんなんだよなぁ。







【海での体験・カズヤ編】


「どうです、似合ってますか?」


 水着に着替えたウィッチが出てくる。

 ノエル、全員分のサイズの水着を沢山持っていたけど、あれ絶対利益出てないよね。隠れて個人的にクエストでもしてるのか?


「うん、似合ってるよ。スタイルいいね」


 思った通り素直に褒める。あまり水着のことには詳しくないんだけど、胸のところに結び目のあるセクシーな感じのビキニだ。ついつい谷間に目が行ってしまう。煩悩退散、煩悩退散。


「和也も案外男らしい体つきをしてるんですのね。顔は女性みたいで性格もナヨナヨしてるので、てっきり骨と皮だけなのかと思ってましたわ」


「さらっと失礼な」


 自分の体を見てみる。昔は『男の娘』だとか揶揄されたものだが、運動し始めてからは筋肉質になってきた。そんな今でも、服を着てると女の子と間違われることが時々あるけど……。


 だからさっきのような発言ももう慣れたものだ。魔王城では厚着してるから、分からなくても無理はないよね。まあ別に見せたいわけじゃないからいいんだけども。いっそのこと髭でも生えてこないかな。


「さて、気を取り直して、僕たちは何をして遊ぼうか?」


「私に良い案がありますわ」


 ウィッチは大きめの水鉄砲を投げて渡してきた。


「これで遊びましょう、勝負ですわ!」


 そう言って素人丸出しの構えでポーズを決める。この人、ほんと勝負事好きだな。負けず嫌いっていうか、勝つのが大好きなタイプのようだ。


「いいけど、他にも何人か誘わない? 多い方がきっと楽しいよ」


「それもそうですわね。では、はい」


 ウィッチは手の平を下に向けて差し出し、僕を見つめてくる。何だこれ。僕にお手をしろと?


「え、なに?」


「足場が不安定ですのよ? 召し使いとして、私が転ばないように支えなさい」


 なるほど……。最近あまり召し使いとしての役割を果たしていなかった気がするから、そのくらいの命令なら喜んでお受けするとしよう。


「ではお手を拝借します、ご主人様」


 手を取りながら冗談っぽくそう返す。海の方へと向き直ると、僕達は辺りを散策するために歩きだした。







「ん? あれは……エルとレイチェル?」


 二人で会話をしながら歩いていると、水平線に届きそうなほど遠い沖の方に、はしゃいでいる兄妹の姿が見えた。


 また変な争い事してんのかな……。ここのところ、エルのせいでレイチェルまでバカっぽくなっていってる気がする。ひょっとしたら、元からかもしれないけど。


「あの二人、ちゃんと兄妹に戻れて良かったですわね……」


「うん、そうだね」


 ウィッチは子どもの一人立ちを見守る母親のような表情をしている。あれ、経産婦かな?


 とまあ茶化すのはやめといて、それだけ愛情をもってレイチェルに接していたということだろう。エルがいなかったら、ずっと彼女の側にはウィッチが寄り添っていたはずだ。


「あんなに遠くまで行って……。大丈夫かしら」


「ああ、そろそろ止めておこう。ついでにあの二人を誘ってくるよ。ここで待ってて。〈テレポート〉」


 僕は彼らのいる手前の位置まで移動した。準備運動はちゃんとしたし、体を温めるためにも、帰りは泳ぎにしようかな。


「妹よ~! 水陸共に兄に敵わないとは情けないなぁ!?」


「うるさいです。兄さんにスローモーションかけますよ」


「それはガチで溺れるからやめて!」


 この人達いつも漫才してるな。そのうちエルが本当に負傷しそう。


「エル、レイチェル! 一緒に水鉄砲勝負しないかい?」


「お、カズヤ! いいぜ、やろうやろう!」


「私と兄さんは別チームでお願いします。打ちのめしたいので」


 チーム戦にするつもりは無かったんだけどな……。インビジブル持ってて避けるのも上手いエルが圧倒的に有利だし、その方がちょうどいいか?


 あっ。でも僕テレポート持ってるし、インビジブルもコピーできるな。これは勝負あったのでは?


「では負けた人に課す罰ゲームでも決めながら帰りますか」


「そうだな! うーん、じゃあイズに『胸が抉れてしまってもう無いけど、ヒーリングかけなくていいの?』って言うのはどうよ?」


「それただの手の込んだ自殺じゃないか」


 その後、僕達は無事に岸までたどり着くことができた。


 余談だが、対決時、一番最初に水を被ったのはエルだった。レイチェルの策略により、彼以外の三人で同盟を組んだのだ。


 結果、エルはあの罰ゲームを行い、イズさんに無言の腹パンを食らうことになったのであった。

 よほど殺意が高かったのか、彼は一撃で静かに沈んだ。エルはある意味、一番の勇者かもしれないな。

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