8/25
椿
ひずき、って名前付いたんかその赤子。
赤子って、気分の良いとき以外は何か苦手やわ。
急に泣き出すし。
でも世話すんのは楽しいよ。
なに考えてるかだんだんわかってくるから。
透き通った雛菊の声が家に響く。
「椿、私買い物行ってくるけど何かいる?」
「いやぁ、特になんも要らんわ。ありがとう。」
雛菊が身支度をし、家を出ていく音がした。
そっと部屋を出て赤子に近づく。
赤子はすやすや眠っている。
赤子の側でいた柚子が、可愛いなぁって私に呟く。
私は柚子に笑いかける。
昭利さんは自室へ引っ込んだんやろか。
どんな目の色なんやろう。
髪の色は墨色のようや。
そしたら目も墨色か。
私の琥珀色の髪とは違い、とても美しい、日本の色や。
私たち三人の中では、雛菊が一番町へ出ていきやすい。
特に今日のような昼間はそうだ。
墨色以外の色の髪はとても恐れられたり、怪訝そうな顔をされる。
頭巾を被るのも怪しまれるからあまりしない。
特にもう、春の暖かい時期になってきたから。