柚子
今日もまた、出ねばならんようだ。
丘の上に住む柚子はそっと部屋を出た。
輝く雄黄の髪に青鈍の目をした、目鼻立ちの整った少女。
柚子は町娘たちと違う髪の色に誇りを持ちつつ、またどこかで疎んじていた。
草履をきちんと履き、扉を開ける。
「おぉ柚子、聴こえたのかい。行ってらっしゃい。」
扉を開けた風圧で私が出ていくと感づいたのだろう、柚子を拾って育てた男の声が送り出す。
柚子もかつてそこに捨てられていた赤子であった。
いつものように捨て桜まで赤子を引き取りに行き、いつものように家に帰る。
何度も繰り返してきてすっかり身に付いたその動きは、何度やっても作業のようにぞんざいにはならない。
命を引き取る行為だと承知しているからである。
柚子は赤子に優しく声を掛け、大切に抱き上げる。
赤子のおくるみになにか封筒が挟まっていた。
開けてみると幾らかのお金。
そして赤子の母の名前、赤子自身の名前がお世辞にも上手とは言えない字で丁寧に書かれた紙が出てきた。
「母、シズ。
娘、ユリ。
どうか安らかに。幸せに。」
柚子は静かに、しかし強く唇を噛んだ。
「お前は愛されているな。」
そう言って柚子はお金を懐に仕舞い、名前の書かれた紙を破り捨てた。
雄黄:硫化砒素を主成分とする鉱物。有毒。
青鈍:青みのある鈍色。喪服の色にもなる。