表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 赫映
3/25

柚子

今日もまた、出ねばならんようだ。

丘の上に住む柚子(ゆずこ)はそっと部屋を出た。

輝く雄黄(ゆうおう)の髪に青鈍(あおにび)の目をした、目鼻立ちの整った少女。

柚子は町娘たちと違う髪の色に誇りを持ちつつ、またどこかで(うと)んじていた。

草履(ぞうり)をきちんと履き、扉を開ける。

「おぉ柚子、聴こえたのかい。行ってらっしゃい。」

扉を開けた風圧で私が出ていくと感づいたのだろう、柚子を拾って育てた男の声が送り出す。


柚子もかつてそこに捨てられていた赤子であった。


いつものように捨て桜まで赤子を引き取りに行き、いつものように家に帰る。

何度も繰り返してきてすっかり身に付いたその動きは、何度やっても作業のようにぞんざいにはならない。

命を引き取る行為だと承知しているからである。

柚子は赤子に優しく声を掛け、大切に抱き上げる。


赤子のおくるみになにか封筒が挟まっていた。

開けてみると(いく)らかのお金。

そして赤子の母の名前、赤子自身の名前がお世辞にも上手とは言えない字で丁寧に書かれた紙が出てきた。

「母、シズ。

 娘、ユリ。

 どうか安らかに。幸せに。」

柚子は静かに、しかし強く唇を噛んだ。

「お前は愛されているな。」

そう言って柚子はお金を(ふところ)に仕舞い、名前の書かれた紙を破り捨てた。

雄黄(ゆうおう):硫化砒素を主成分とする鉱物。有毒。

青鈍(あおにび):青みのある鈍色(にびいろ)。喪服の色にもなる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ