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アンノウン5  作者: インセクタ
2/2

Mr.Astro So-And-So.2

「・・・ソラちゃん、大丈夫?」

顔を上げると、釘塚が心配そうな表情で私を見ていた。

「やっぱり、ツイッターのアレのせい?」

「釘塚くんも見たんだね」

あまりその話題に触れたくはなかったが、まだツイッターは油を注いだように燃え上がったままだ。当然釘塚もツイッターのあの画像を見ているのだろう。

「ソラちゃんも見ちゃったんだね。・・・大丈夫?気持ち悪くない?」

「うん。平気ではないけど大丈夫」

そういって私はコーヒーを口に運ぶ。私はツイッターであの画像を見たあと、釘塚に約束通り会った。いつもうるさい雰囲気の釘塚が静かだった時点で、あの画像を見たのだと察しがついた。そのあと、お互いあまり喋らず、近くのカフェ&バーに入った。お酒を飲む気にもなれず、私はコーヒーを頼み、それに合わせるよう、釘塚も同じものを頼んだ。

「しかし、酷いやつがいるよな。あの写真をツイッターに上げるなんて」

「まったくね。あんな酷い写真を・・・」

私は下を向き、目の前のコーヒーに目を落とす。コーヒーの吸い込まれそうな漆黒に私の顔が映っていた。私は顔を上げる。

「ねえ、釘塚くん。別に無理に答えなくてもいいんだけど・・・」

「どうしたの?ソラちゃん」

私は喉まででかかった言葉を一瞬止める。どうして私はこんなことを聞きたくなっちゃうんだろうな。私の好奇心はとどまること知らない。

「あの女の子だけどさ・・・あれは誰かに殺されたんじゃないかと思うの」

釘塚は黙って私の目を見る。私は言葉を続ける。

「女の子の手がね、必死に抵抗するように指がなにかを突き放すような形になってたの。多分彼女は誰かから逃げようとしたんだと思う。だけど捕まって、それで首を絞められて殺された。そして首を切られた」

「なるほどね。でもなかなか憶測の要素が強い感じがするな」

釘塚は金色の髪の毛をかきあげる。

「・・・釘塚くん、最近s市で首切り魔がいるって噂知らない?」

「・・・」

「何故かニュースでは流れていないんだけど、私が知っている限りでは首切り事件は今回で3件目。何度かネットで画像が上がって似たような写真を見たの。偽物の写真だと思ってたわ。ニュースにもならないしね。でも今回ので確信した。首切り魔は存在する」

「いたとしてどうするの?今回はたまたま大学近くで起きたってだけだしソラちゃんには関係ないよね。警察だって今回ので動き始めるんじゃないかな」

「知り合いに警察官がいるの。その人に今回の事件を聞いたけど、何も答えてくれなかったわ。むしろ答えられない、といった感じだった。なにかあるのよ。この事件の裏には」

釘塚はしばらく黙っていた。が、ポケットに手を突っ込み、タバコとジッポを取り出した。吸っていい?と聞かれたので私は頷いた。

釘塚はタバコに火を点け、ゆっくり吸い込んで吐き出した。

しばらく目を落としていた釘塚だったが、口を開いた。

「ソラちゃん、異星人っていると思う?」

「えっ」

「だから異星人っていると思う?」

釘塚が言っている意味がよくわからなかった。異星人とかUMAみたいな知識についてはS市では私が一番知っていると思うが。なぜこのタイミングなのだろう。

「地球人は地球には自分たちの種族しかいないとしか思ってないようだけど、実は数百種類の異星人がこの地球には住んでいるんだよ」

「釘塚くんふざけてる?」

「信じられないとは思うけどね。でもそういうの聞いたことない?」

異星人陰謀説とかはある。古代の遺跡には宇宙人が地球に来たことを思わせるようなものもある。だが、現代で私が本当にそう思うような証拠や情報には未だ出会ったことがない。しかも数百種類?そんなにいたら世間が気付かないはずない。釘塚の顔を見る。釘塚はわたしのことをまっすぐ見ている。

・・・あやしい。

なにかあやしい。目だけ見れば本当のことを話しているようだが、なにか違和感があるような・・・。

「それで、仮に数百種類の異星人が地球にいるとして、それがわたしの話と関係ある?」

「わからないかな。警察が関わってないってことと。殺された女の子の殺害後からさ」

「つまり、あの事件の犯人は異星人ってこと?」

「そういうこと」

釘塚はそう言ってタバコの火をこちらに向けてきた。

いやタバコ臭いし、胡散臭い。なんだろう真剣な目を向けてくるが信じられない。いや、そういう実は身近にいる人が宇宙人だったって話は嫌いじゃないけどさ。いやむしろ大好物ですよ。でもなー。

ちらりと釘塚を見る。まるで国家秘密でも話しているようだ。いつの間にかわたしのなかにあるシリアスな雰囲気は時空の彼方に飛んでしまったようだ。

私はカップを持って口に運んだ。

「それで?釘塚くんの話からあの事件の犯人は異星人だとわかったけど、ズバリ何星人なの?」

「そうだね。あの傷口から察するにメルカ星人だと思う」

私はコーヒーを吹き出してしまった。オイ、こいつまじか。さらに釘塚は言葉を続ける。

「食人族メルカ星人。彼らは首から上を食べるんだ。首の切断は歯で行う。つまり頭をまるごとかぶりつくわけ」

「頭まるごとなんてそんな大きな口の人がいたらすぐわかるじゃない」

「彼らの口が変形するのは摂取時のみ、それも人を食べるときだけ。異星人なんてそんなものだよ。普段は上手く隠している。いや、隠されていると言ってもいいかな」

「ふーん。それじゃ私帰るね」

私は立ち上がった。千円をテーブルに置く。

「え、ちょっとソラちゃん!?まだ話の途中だよ!?」

「そんな話信じられないし。ってか馬鹿にしないでよね」

もう釘塚の馬鹿話に付き合うのは終わり。時間がもったいない。

後ろでは釘塚の声が聞こえたが、無視して店を後にした。

全く釘塚と話をするんじゃなかった。こっちは真面目にあれが殺人だと思って話をしたのに、まさかあんな話にされるなんて。私を馬鹿にしすぎている。

駅が近づいてきたので、スマホで電車を調べる。

えっと、今20時23分。次の電車は・・・45分か。ちょうどいいな。

ピロリという間抜けな音とともに画面の上にLINEの通知が来た。

名前を見ると釘塚カルマと表示されている。

気分悪くさせちゃったらごめんね、か。今返信するのはめんどくさいし、家についてからでいいや。スマホの画面を切ろうとすると、また間抜けな音が鳴った。

私はその通知を見て後悔することになる。

釘塚カルマ ―そういえば平和を守る特殊機関についての話はいいの?

私は早足で、さっき来た道を戻っていた。

なんてことだ。八坂の事件と釘塚の馬鹿話のせいで忘れていた。

その話を聞かないと今夜の私の安眠はありえない。

私は、さっきの店で待っててと釘塚に返信して今向かっている。たださっきの異星人とかの話からするとあまり期待はできないかもしれない・・・だが、気になる。舌打ちをしながら私は足早に歩く。

店につき、先ほどの席に言ったが、金髪青年釘塚カルマはいなかった。

「すれ違ったのかな?」

LINEを開く。私が送ったメッセージは未読のままだ。

私はもう一度メッセージを送り、店を出ようとした。店のなかで待つより、前で待ってた方がいいと思ったからだ。

ガッシャアア――――ンンン!!!!

惑星が落ちたんじゃないかと思うくらいの衝撃音が店を震わせた。

急な音に立ち尽くした私だったが、すぐ気を取り戻し、店を出る。

音からして、店の前の道路だろう。あの衝撃音はトラック同士がぶつかったのかもしれない。

店を出た私は異常な光景を目にする。店の道路の反対側でトラックが横たわっていた。おそらく8トンはあるであろう大型トラックだ。大型トラックの顔の部分がぺしゃんこになっている。しかしトラックがぶつかったと思われる障害物は見当たらない。

私は道路を横切り、トラックのそばへ駆け寄った。トラックの運転席からは運転手が命からがらといった感じで這い出てていた。

「大丈夫ですか?救急車呼びますか?」

私は大きな声で話しかけた。運転手はガタガタと震えている。見たところ大きな怪我はなさそうだ。しかし、精神的ショックが大きいのか、怯えた表情をしている。私はかがみ込み再度声を掛ける。

「大丈夫ですか?何があったんですか」

「人を・・・引いちまったんだよ・・・。いや!引いたはずなんだ!あんなことありえねぇ!」

私はトラックのぺしゃんこになった部分を見てみる。人を引いたような形跡はない。

「・・・気のせいではないですか?」

「なわけあるか!俺は見た!」

「でも引いた後はありませんが・・・」

「確かに俺はぼーっとしていた。だから気づいたときには遅かった。金髪のあんちゃんが目の前にいた。そしたらあんちゃんが両手を俺のトラックに延ばして・・・。俺は人を引いちまったんだあああ」

両手に顔を埋めて泣き崩れるオジさん。わたしは立ち上がり、もう一度トラックの前を見る。言われてみれば確かに手の後がついているように見えなくもない。ってことはこのトラックを金髪のお兄さんが両手で止めたっていうこと?そんなこと、人間離れしている。

「金髪って・・・」

まさか・・・。

私は道路の茂みに光っているものがあるのに気づいた。

これはスマホ?

手にとって割れた画面を見るとそこには

ソラちゃん ―さっきの店で待ってて

という通知が来ていた。

「これって・・・釘塚の・・・?」

金髪の青年。両手を出してトラックを止めた。先ほどの異星人の話。

そしてS市の平和を取り締まる特殊機関。

今日は多くの情報が私のなかに入ってくる。パンクしそうだ。頭の整理がつかない。しかし、あるワードが私の頭に響いていた。それは昼に釘塚が私に話していたことだ。

「『鉄腕ナニガシ』・・・」

ふと口に出してしまった。

わたしの言葉は町の夜の明かりのなかに消えていった。

あの後、店の前で待ち続けたが結局釘塚は来なかった。

私は諦め、帰ることにした。

釘塚のスマホは画面こそ、割れているが、使うことに問題はなさそうだった。といってもスマホのロック画面を解除して確認したわけではないが。

電車に乗り込み、時間を見ると22時を回っていた。

釘塚が来なかった理由を考えると、やっぱり・・・。

まあ明日会うだろうから、その時でも確認しよう。

今日はいろいろあったから早く帰って寝たい。あっ、でもブログの更新しておかないと・・・。

私は深くため息をつく。

私は電車の揺れにまどろみながら思考する。

釘塚は、犯人は『メルカ星人』だと言った。しかもメルカ星人は地球に住む数百種類の異星人のうちのひとりだと。

もし、本当に犯人が宇宙人なら、警察が関われないという理由もわかる。そのための『S市の平和を守る特殊機関』であり、『鉄腕ナニガシ』なのだろうか。

国家機密程の重大なことがこの首切り事件には絡んでいるのだろうか。

背筋がぶるっとする。これは嫌な悪寒だろうか。それとも興奮による武者震いなのだろうか。ともあれ、私はこの事件から手を引くつもりはない。

困ったことに、私の好奇心はとどまることを知らないのだから。

「終点―子愛―子愛―」

ウトウトしているうちに駅についてしまった。

バッグに手を伸ばし定期を取ろうとする。と、そのひょうしにバッグから紙くずが落ちる。紙くずには赤いものがついている。もう乾燥していて、赤というよりは黒っぽい。

大学帰り、式波衛輝の座ったところにあったものだ。

式波は私が乗った大学のバス停よりも前のバス停で乗ったのだろう。あのバスは八坂町を通ってから、大学のバス停に来る。

式波は八坂町で何をしていたのだろうか。

式波衛輝の姿を思い浮かべる。

目が隠れんばかりに伸ばされた黒髪。黒いパーカーに黒っぽい色のジーンズ。そして革手袋。

マンションの前についたので、私は考えるのをやめた。釘塚のこともあって、私は今うたぐりぶかくなっている。

これ以上の想像はさすがに変な結論にたどり着きそうだった。式波が八坂のバス停で乗ったという証拠があるわけでもないし。

マンションの私の部屋の前について、今日はやけに明るいことに気がついた。

空を見上げると、そこには完全な形の月が見えた。月を隠す雲も今日は全くといっていいほどなかった。

月はいつもより、大きく見え、クレーターの形でさえも肉眼ではっきりわかった。そのクレーターに住む異星人さえも分かるくらいの・・・。

私は笑った。なーんてね。

私は扉の鍵を開けた。

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