巨大隕石
その痕跡は、未だにわずかしか残っていない。
わかっているのは、地球はもうないということ。
そして、僕らは宇宙船の中にいること。
これだけが事実だ。
小惑星が見つかったのは、衝突の1年前。
直径360kmにもなる巨大隕石だ。
進路予報がすぐさま出され、それは、木星によってわずかに軌道をずらされた結果、地球に衝突するか、地球に著しく接近するかのどちらかとされた。
どうやら政府はそれをはじめは隠そうとしたらしい。
だが、インターネットに、アマチュア天文学者がこぞってアップすると、隠しきることはできなくなった。
公表と同時に、総力戦にも似て、宇宙船を作り出した。
また、小惑星を破壊するというプロジェクトも実行され、世界中にあるすべての核兵器をこちらに向けることとした。
ついでに在庫一斉処分もしたかったのだろう。
だが、効果は薄かった。
木製公転軌道を通過した時点で、太陽に向かって一直線の軌道を描き出す。
世界各国は、乗り合いしつつ、または単独で、できるだけ多くの国民を逃がそうと必死だ。
僕が乗り込んだ宇宙船は、乗員50万人。
そして、最後発グループであった。
地球に衝突する動画を撮れたのは、そのおかげかもしれない。
まだ宇宙船が太陽系の中にみんないたからこそ、それを全員が共有する最後のデータとなった。
小惑星は、わずかに小さくなっていたものの、やはり大きい。
それがゆっくりと大西洋に落ちる。
一瞬火が見えたような気がしたが、その直後に、見たことがないほど超巨大な津波が起きた。
見る見る間に、世界は飲み込まれていく。
おそらく、生き残る生命は皆無だろう。
地殻津波だと、あとで教わった。
地球から別れ、僕らは新たな旅に出た。
宇宙船を母なる国として、複数の船が一緒に船団を組んで移動している。
地球がこれからどうなるのか、それを見ることはもうないだろう。