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弱者の一撃天を穿つ  作者: 文学おじさん
【第一章】牙を研ぐ弱者
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9話・冒険者とは

 次の日、俺は朝早くに起きて軽く身体を動かしていた

 俺の早起きっぷりに驚いていたミリィも、今は何も言わずに周囲の警戒を行っていた。


 「こんなもんかな」


 汗で濡れてしまったシャツを絞りながらミリィの元に戻る

 何故朝から身体を動かしていたかと言うと。

 確認である、ステータスが急に上がったので身体がきちんと反応するか見ておきたかったんだ。


 結果は想像以上だった、今までとは違う速度で剣を振れる。

 拳を振れる、蹴りを出せる。

 筋力は勿論の事、体力や他のステータスが上がっているのを実感する事が出来た。

 そして剣術や格闘術のスキルが上がったからだと思うが、技のキレが目覚しい程に成長していた。


 「満足かしら?」

 ミリィの問いに頷くと、直ぐに目的地へ向け出発した。

 それから何度かゴブリンやプリムに遭遇したが、問題無く全て斬り伏せた。

 昨日の件もあるのでミリィにはゆっくりしていてもらいたいので、ほぼ全ての魔物を自分一人で片付けた。


 そして暫く歩いていると、少しだけ整備されているような道が見えてきた。

 整備と言うか平に慣らしてあるだけなんだけどね…


 俺達は整備されている道に出て、道に沿って暫く歩いた。

 するとちらほらだが人影が見えてきた。

 何と遠くの方には馬車まで見える。


 「これって完全にもうすぐ着くよね?」


 俺は安堵の表情を見せながらミリィに問いかける。


 「みたいね、流石に私も疲れたから街に着いたらゆっくりしたいわっ」


 二パァっと笑顔になりながらミリィが嬉しそうに笑っていた。

 俺達は(正確には俺は)少しだけ歩く速度を上げた。




 周りを歩く人達は様々な武器を携えている、多分だが冒険者だろう。

 馬車の周りにも鎧と武器を身に付けた人達が数人いる。

 護衛か何かかな、と少しだけ考える。

 そんな事を考えている内に目の前に大きな門が見えてきた。

 俺は門の前に並ぶ人達の列に並び、自分の番を待った。

 ミリィは退屈そうに俺の頬をつねったり耳たぶを引っ張って遊んでいる。

 しかし妖精を肩に乗せている人間は珍しいらしく周りの人達にジロジロ見られる。

 あまり注目される事に慣れていない俺の精神はゴリゴリと削られていった。


 「おい兄ちゃん!次は君の番だよ!」


 兵士の様な出で立ちの人に呼ばれ、俺は一瞬ビクッとするも、いそいそと兵士の元に向かう。


 「それじゃ通行証を見せてくれるかな?」


 通行証?マリナさんそんな事言ってなかったぞ?

 「すいません、僕は遠くの村から来たので通行証を持っていません。

通行証が無いと街には入れないんですかね?」


 俺は丁寧に兵士に向け質問する。


 「おーそーかそーか、いや通行証が無くても入れるぞ。

 ただし100ダルかかるが問題ないか?ちゃんと通行証を持って来たら後で返金も受け付けるが。」


 100ダルか…俺はマリナさんから受け取った麻袋の中を見る、どうやら問題無く足りそうだ。


 「100ダルは払います、後教えて欲しい事があるんですが

 通行証はどうすれば作ってもらえるんですか?」


 「ここの住民票を貰うか、一番手っ取り早いのがギルドに登録して冒険者になる事だな

 そこで渡されるギルドカードは通行証の変わりや、身分証明書にもなるからな。」


 兵士のおじさんは丁寧に教えてくれた。

 俺は100ダルを払い、後で返金してもらいに来ますと告げて門をくぐった。


 門をくぐった先は別世界だった、出店が並び客引きの若い女性が布地の少ない服を来て男性に声を掛けている。

 至る所に建物があり、様々な看板を掲げていることから何らかのお店だろうと言うことは分かった。


 「おい兄ちゃん腹減って無いか?うちのプリムの串焼きはうめーぞ?」


 出店のおじさんが弾けんばかりの笑顔で串焼きを突き付けてくる。

 押し売りに弱い俺は渋々プリムの串焼きを購入した、ちなみに5ダルだった。

 プリムの肉って美味いのか?少しビビりながら口を付ける。


 「美味いっなんじこりゃあ!!」


 つい叫んでしまう程の美味さだった。

 適度に脂が乗り、肉質も柔らかすぎず硬すぎず、何よりもタレが美味い。

 俺の叫びを聞いたミリィが瞳を輝かせながらプリムの串焼きを見つめている。

 「ミリィも食べるでしょ?」


 俺がニコッと笑いミリィに問いかける。

 「食べるわよ勿論!早くしなさいよっ!」

 ミリィは差し出したプリムの肉に豪快に齧り付いた。

 可愛さの欠片も無い食べっぷりに少しだけ残念な感じになった。

 プリムの串焼きを二人で堪能した俺達は、出店のおじさんにギルドの場所を聞き向かう事にした。


 おじさんに教えられた方へ歩いていると、剣と盾がぶつかり合う絵が描いてあるデカイ看板が見えてきた。


 「あっあれじゃないかしら斗真」


 ミリィも気付いたらしくデカイ看板を指さしていた。

 「っぽいね、とりあえず入ろうか。」


 少しだけビビりながら俺は建物の中へ入った。

 中には武器を壁に立て掛けて休んでいる厳つい男性数人と杖を持った若い女性、短剣を腰に下げた女性がいた。

 怖っ何か皆怖っ!ビビリの俺はキョドってしまう。

 ミリィはこちらを見ながら情けないなぁとため息をついていた。


 「すいませーんどういった御用でしょうか?」


 遠くにあるカウンターの奥から眼鏡を掛けた知的な女性が話し掛けてきた。

 「えっあっすすっすいません、冒険者になりにきました」


 はいやってしまいました。

 情けない事に緊張して噛みまくってしまった。

 周りからはダセーやらあんなモヤシが冒険者とか笑わせるぜといった中傷の言葉が聞こえてきた。


 「何処に行っても弱者は弱者か…」


 誰にも聞こえない様な声で口走ってしまう。

 誰にも聞こえないだろう、このギルドにいる冒険者や受け付けにいる女性には。

 しかし、一人だけ聞こえる者がいたのを忘れていた。

 地獄耳のあの子だ…


 「あんた達ふざけんじゃないわよっ!斗真を馬鹿にしたら私が許さないからっ!」


 完全にブチ切れているミリィは今にも冒険者達に食って掛かろうとしている。


 「だっ大丈夫だからミリィ、俺は平気だから落ち着こう!なっ?なっ?」


 必死にミリィを説得して何とか落ち着かせる事が出来た。


 「うーすいません、皆さん悪い人じゃ無いんですけど少々口が悪いんです」

 受け付けの女性が申し訳なさそうに言ってくると、ミリィも「口と頭でしょっ」と悪い笑みを浮かべながら言っていた。



 止めて下さいミリィさん、これ以上は俺の精神が持ちません。


 「それで冒険者になると言うお話しでよろしかったですか?」


 オロオロしていると受け付けの女性が優しく話し掛けてくれる。

 「私の名前はユノと申します、宜しくお願いしますね」


 「あっ僕は斗真です、こっちの口の悪い妖精はミリィと言います」


 俺の自己紹介を聞いたミリィが、誰が口の悪い妖精よっと怒っているが自業自得なのでスルーした。


 「それでは斗真様が冒険者登録するにあたっての簡単な説明をしますね」


 俺達のやり取りを穏やかな瞳で見ていたユノさんが、真剣な顔付きになり話し出した。


 冒険者と言うのは、GランクからはじまりF、E、………A、S、SSとランクが上がっていくとの事。

 低ランクの内は余り危険なクエストも受けれない。

 そして現在ランクの一つ上のクエストまでしか受けれないとの事らしい。

 クエストを何回かこなし、ギルドに実力を認められれば少しずつランクは上がる。

 そして冒険者としてのマナーは、冒険者同士の殺し合いを禁ずる、一般人への無意味な暴力、略奪行為を禁ずるとの事だった。

 冒険者って言うか普通の人間のマナーだよね。

 怖いね冒険者。


 「御理解された上で冒険者登録をするのであればこちらの用紙に名前と年齢、所有しているスキルを書いて頂いても宜しいですか?」


 俺はハイッと返事をして用紙に記入した。

 少し不安だったので特殊スキルだけは書かずに置いた。 


 「なかなか多才ですね斗真さんは」

 俺の無意味に多い還元の為にただ習得しただけのスキルを見てユノさんが驚いていた。


 「はい、確かに確認しました。

 これにて冒険者登録は終了です、ギルドカードを作るのに少し時間が掛かりますので椅子に座って待っていて下さいね」


 ユノさんは笑顔で言うと、書類を持ってカウンターの奥に消えていった。


 「おい坊主!」

 急に厳つい海坊主の様な男に声を掛けられた。

 これはテンプレか、ラノベで良くある初心者冒険者に喧嘩を吹っ掛けるアレか?!


 俺は恐る恐る返事をした。


 「んな固くなるこたねーよ!俺はティムルってんだ、

 妖精を肩に乗せた新人冒険者にちょっと興味を持っただけだよ」


 俺の頭をクシャクシャ撫でながら海坊主…じゃなくてティムルさんが優しく笑いかけてくる。


 「お前なんか失礼な事考えてねーか?」


 ティムルさんは感が良いらしい、俺はそんな事無いですよっ!と言い顔の前で両手を振った。


 「まぁいいや、しかし珍しいな妖精とは。

 冒険者歴が長い俺でも数回しか見た事ねーぞ?どっから連れてきたんだ?」


 不思議そうにティムルさんが聞いてくるが、流石にフェアリーフォレストの事は話せない。

 ティムルも人差し指を口の前に当ててシーっと言っている。


 「まっまぁ言えないならこれ以上は詮索しねーから安心しろっまっ何かあったら言えよ、相談位なら乗ってやるからな」


 豪快に笑いながらティムルさんは去って行った。

 どうやら本当に優しいお節介おじさんだったらしい、こんな事なら警戒せずにキチンと自己紹介しておけばよかったな…少しだけ申し訳ない気持ちになった。


 「斗真さん、お待たせしました

 ギルドカードが出来上がりましたよ。」


 ユノが奥から出てきてギルドカードを渡してくれた。

 鉄の板にトウマと刻印が打ってある。

 その横にはランクGと刻印されていた、何か嬉しい。

 とりあえずの目標は達成だな、これで少しは動きやすくなる。

 調べ物をするにも冒険者はうってつけだろう、おれはギルドカードをギュッと握りユノさんにお礼を言いギルドを後にした。


 「とりあえず100ダルを返金して貰いに行こうか?」


 「そうね、返して貰えるものは返してもらいましょう」

 意外と妖精も堅実なんだなと思う。


 「すいませーん、ギルドカード作って来ました」


 少し前に対応してもらった兵士のオジサンに声を掛ける。


 「おっ冒険者になったのか、危ない事もあるだろーが命にだけは気をつけてくれよっ」


 優しく笑いながら書類を処理して100ダルを返してくれた。

 そう言えば宿の話しをギルドで聞くのを忘れていた事を思い出す。

 「すいませんっ!良かったら安く泊まれる宿を教えてもらえませんか?

 出来れば怖い人達が少ない宿なんかが良いんですけど…」


 「お前これから冒険者としてやってくのに変な所でビビリなんだなっ」

 オジサンは笑いながら、熊オヤジ亭と言う宿を紹介してくれた。

 メインの通りから少し外れにあるので大分お値打ちらしい、しかも店主が元冒険者らしく安全面もバッチリとの事だ。

 元冒険者の店主がめっちゃ怖いなんてオチはいらないよと思いながら宿に向かった。

 メインの通りから20分程離れた場所に少し寂れた感じの建物が建っていた。


 【熊オヤジ亭!毎日ニコニコ営業中】


 あっうん、そうですね。


 少し嫌な気がしたが紹介されたからには入らない理由にも行かないよな…

 ミリィも少し複雑そうな顔でこちらを見ていた。


 「すいませーん、泊まりたいんですが」


 「おうっいらっしゃい、熊オヤジ亭にようこそ」


 そこには紛れもない熊オヤジがいた。


 「あっすいません、手持ちがあまり無いんですが一泊幾らですか?」


 マリナさんに渡された麻袋の中には200ダルが入っていた。

 さっき100ダル返して貰ったので、プリムの串焼きに使った5ダルしか減っていない。


 「うちは一泊50ダルだ、朝飯はサービスで昼を食いたきゃ15ダル夕飯を食いたきゃ20ダルだ」


 この世界の貨幣の価値は全く分からないが、何となくだが凄い安いと思う。


 「二人でも同じ料金ですか?」


 ミリィがいるので聞いておかねばならん。

 「おっそのちびっこいのかい?んなの別に金は取らねーよ」


 どうやらいい人みたいだ。

 「誰がちびっこいのよこの毛むくじゃらっ」


 ちびっこいのと言われたミリィが少し怒ったかのように言う。

 またか…またなのか…

 さっきのでそう言うのは疲れてるんだが…


 「おっすまんすまん見たまんまを言っちまった、可愛らしい妖精と一緒でも1人料金で良いぜ」


 店主の言葉にミリィは「えっ?いやーまぁそう言うなら私としては文句無いわよっ」と嬉しそうに言っている。

 商売上手だなこの人、まっミリィがちょろ過ぎるってのもあるけど。


 とりあえず俺は二日分の100ダルを支払い部屋の鍵を受け取った。

 その際夕飯のお願いしておいた。


 「夕飯楽しみだなぁ…」

 「えぇ楽しみね…」


 夕飯を楽しみに、部屋でこれからの話しをしながら待つ事にした。


 「とりあえずこれからの事なんだけど…」

 第一は、日本に帰る方法を探すこと、図書館なんかで調べ物をするのが一番かもしれない。

 第二に、きちんとお金を稼ぎ、衣食住を安定させる、今の俺の服装上はTシャツで下は学生服何だよな…

 ご飯も毎日食べたいし、きちんとした部屋で寝たい。

 勿論熊オヤジ亭で十分なレベルである。

 第三に、強くなる事。

 俺は死にたくない、勿論ミリィも死なせたくない。

 冒険者は危険が付き纏うとの事だし、命の危険に曝されないように、自分とミリィの命を守れるように俺は強くなる。


 「まっこんな所かな」


 「守ってくれるのは嬉しいけど、今はまだまだ私の方が強いから守ってあげるわね」


 ですよねっ…情けなく頷く。


    トントンッ…


 ドアがノックされる。

 「飯出来たから食いに来いよっ」


 俺とミリィは笑顔になり食事に向かった。

 プリム肉のステーキと少し固いパン、コンソメスープのような物に野菜の盛り合わせ。

 お腹いっぱいになるまで食べ、その日は身体を濡らしたタオルで軽く拭き眠りについた。




 「おはよう斗真」


 「おはようミリィ」


 いつもの挨拶を交わし、店主に桶を借り顔を洗う。

 それから二人で宿を出て、ギルドに向かった。

次は成長促進の秘密が少しだけわかります。


誤字などありましたら連絡していただけるとうれしいです。

アドバイスや指摘、批判もくだされば嬉しいです<(_ _)>

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