6話・優しさに触れたなら
誤字脱字が多いので修整ラッシュです。
何処までも続く平原。
時折姿を見せるのは魔物界最弱のプルム。
森を抜けてからそれ程時間はたってはいないにしろ、ここまで何も無いとそれはそれで不安である。
「安心しなさい、もうすぐよ泣き虫さん」
そしてクスッと笑う。
………辛いです。
ここまでの道程で数回の戦闘をしたもののレベルは上がらなかった。
白魔法やその他のスキルも覚えられず、成長促進も取れなかった。
何とも歯痒い気持ちである。
少しずつで良い、変えていこう、変わっていこう。
心の中で呟く。
「あっあれよ斗真ー!」
ミリィの指差す方を見ると、数メートルはあろう風車が幾つも見えてきた。
その下には瓦屋根の質素な建物が幾つも並んでいる。
街と呼ぶには貧相な出で立ちだった。
「ここがリービルの村よ斗真、ここの人達は凄く優しいから安心しなさいね」
ミリィは人の心が読めるのか?
いつもこっちの不安を先読みして声を掛けてくる。
嬉しい反面恥ずかしいものだ、顔には出していないつもりでももしかしたら相当情けない表情をしているのかもしれない。
もう少し表情にも気を付けよう、何度めかの誓いをまた立てる。
「うぉー知らねー奴がいるぞっ?!」
小さい男の子が叫びながらこちらに向かって走って来る。
「お前ら誰だ?!盗賊か?!」
少し怒気を含んだ声で、男の子は睨むように言い放つ。
「こんな軟弱な人が盗賊に見える訳ないでしょっ全く失礼しちゃうわねっ!」
貴女も十分失礼ですよミリィさん…
「あっごめんね、僕達は盗賊なんかじゃないよ、この村の人達に話しを聞きたくて寄ったんだ。」
少年は信用しないぜっと、言わんばかりに仁王立ちをしている。
ダッダッダッダッダッ!!
村の奥の方から凄まじい砂煙を巻き上げながら何かが近づいてくる。
ドガッ!!
その人は男の子の脳天目掛け強烈な拳骨をかます。
うきゅぅっ…そう言ったまま男の子はうつ伏せになりそのまま動かなくなった。
先程男の子に豪快な拳骨をかました女性が申し訳なさそうな顔をしながら話し掛けてきた。
「すまないねぇあんた達、うちの息子が迷惑かけたみたいでさっ」
どうやらあの元気な男の子の母親のようだ。
「あっいえいえ、全然迷惑なんてかけられてませんよっ寧ろ元気があって良い子だと思います。」
少しだけ可哀想になったのでフォローだけはしておく、自業自得と言えば自業自得なのだから。
ミリィに至っては、全くよあのクソガキなどと母親の前で暴言を吐いている。
あのアンチメルヘン妖精はほんとに…
「しっかしこの村にお客さんなんて珍しいねぇ、しかも妖精をつれた人間なんてのは初めてだよ」
豪快に笑いながら言う。
「すまないねぇ私の名前はマリナ、そしてこの子は息子のラースってんだ、ところでなんだけあんたら今から家に来なよ!お詫びと言っちゃなんだがお茶位なら出せるからね。」
ミリィは嬉しそうに丁度喉が乾いていたのよね何て言っている。
「僕達は斗真とミリィです、お言葉に甘えさせてもらいます。」
正直嬉しいのだ、森の中では川の水を飲んだり、お腹が減れば木の実や林檎に似た果物を食べる事しか出来なかったのだから。
そしてマリナさんに案内され家に入る。
座って待っててくんなと言われたので椅子に座る。
椅子に座るのが凄く懐かしい、少し前までは地べたに座るのが当たり前だったのだから。
椅子に座れただけで少し感動してしまう。
ミリィはと言えば何時ものように俺の肩に腰掛けて足をパタパタさせている。
テーブルを指差し此処に座れば?と問い掛けると、ミリィは何故?と不思議そうに首を傾げる。
そうですか、そこが定位置なんですね…
「あんたら仲良いねぇ、ほらナリ茶だよ。
ここら辺の特産なんだ、甘くて美味しいから何杯でもお飲みよ。」
マリナさんに言われるがままにお茶を口にする。
……………甘いっ!!
お茶が甘い!風味は緑茶のような心地よい渋味のある感じなのだが、舌に残る後味が何とも言えない甘みを含んでいる。
これは…美味い!!
二人でお腹がタプタプになるまでナリ茶を堪能した。
「そんなに美味しそうに飲んでもらえるとこちらとしても嬉しいねぇ」
マリナは本当に嬉しかった様でニコニコしている。
「マリナさん、急にで申し訳無いんですが少し質問させて貰っても良いですか?」
ナリ茶に満足した俺は当初の目的を思い出しマリナさんに尋ねる。
「別に構わないけど、急にどうしたんだい?」
俺は不思議そうに尋ねるマリナさんに質問をした。
「実は最近この世界に来たんですが、僕みたいに他の世界から来る人いるんですか?」
言葉を濁さずストレートに聞いた。
ここで濁しても意味が無いような気がしたからだ。
「斗真は人間族なのに別の大陸から来たのかい?!それは珍しいねぇ」
凄い者を見る様な目でマリナさんに見つめられる。
いや、そもそも話しが噛み合っていない。
俺が聞いたのは別の世界であって大陸では無いのだ。
「大陸じゃなくて別の世界ですよマリナさん、此処には存在しない大陸の様なものです。」
もう一度言い直し質問する。
「ちょっと斗真の言っている意味が分からないねぇ、この世界には三つの大陸しか存在しないよ。
ここには存在しない大陸なんて夢の話でもしてるのかい?」
あぁ、そう言うことか。
やっと要領を得た。
いないんだ俺以外にこの世界に来た人間は。
心の中に様々な感情が吹き荒れる。
溜まっていた疲れや恐怖が一度に押し寄せてくる感覚。
壊れてしまいそうだ。
「大丈夫よっ!ここじゃなくて街に行ってもっと情報を集めましょう!」
肩の上からこちらを覗き込むようにミリィが言う。
俺の頬を優しく撫でると「大丈夫だから」と言って優しく微笑んだ。
「良く分からないけどあんたらも何か大変そうだね、とりあえず今日はうちに泊まっていきなよ
顔から疲れが滲み出てるよ全く」
やれやれと言った感じでマリナさんが俺の頭に手を乗せクシャクシャっと撫でる。
俺が顔を上げマリナさんの方を見ると
「まだ子供何だから辛い事があるなら大人を頼りな!」と、豪快に言ってきた。
「ありがとうございます」
力無く答える。
しかし心の中では感謝してもしきれないような温かい気持ちが広がっていくのを感じていた。
「起きろー兄ちゃん!!朝だぞ朝!!」
耳元で叫ばれビクッとしながら起き上がる。
ん?確かこの子は?
「ジロジロ見んなよ気持ちわりーなー」
この口の悪さ、あぁあの子か
「やぁラース、おはよう。」
名前を覚えられてるとは思っていなかったラースがきょとんとしている。
「あっあぁおはよう兄ちゃん、昨日は勘違いして悪かったな」
顔をクシャっとさせ恥ずかしそうに謝るラース。
謝れるだけでも十分立派だよとラースに言うと、朝飯だから早く来いよ!と、嬉しそうに走っていった。
「おはよう泣き虫斗真さん、次はお寝坊斗真ちゃんかしらね」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらアンチメルヘン妖精が近づいてくる。
「あんまりからかわないでよミリィ」
このやり取りが嫌いじゃない事は自分でも分かっている。
分かってはいるが言い返せないのはそこそこ悔しいものである。
何時ものようにミリィを肩に乗せてから俺はマリナさんの元に向かった。
「おはようお二人さん、よく眠れたかい?」
「はい、久し振りに布団で寝たので本当にぐっすり眠れました。」
俺は深々と頭を下げる。
ミリィはミリィで寝なくては良いものの、疲れは溜まっていたらしく、ゆっくり休めたはとお礼を言っていた。
いつも俺を寝かせる為に周りを警戒していてくれたんだもんな、ありがとうミリィ。
ミリィに聞こえないような小さい声で言う。
「どういたしまして」
ニコッと笑いながらミリィが頬を撫でる。
地獄耳何ですね…
そしてマリナさんが用意してくれた朝食を二人で食べた。
少し固めのパンとベーコンのような物のソテー、山盛りの野菜。
本当に美味しかった、久しぶりに食べるまともな食事。
一気に胃に突っ込んだので少し胃がビクッとしているのを感じる。
でもそんな事はお構いなしに俺は次々に口の中へ放り込む。
「まだまだあるから好きなだけお食べ!」
昨日と変わらず豪快に言うマリナさん。
ラースも俺の食べっぷりに少しだけ驚いていた。
お腹も膨れ一息ついていると
「それであんた達これからどうするんだい?」
心配そうに尋ねられる。
「あれから色々考えたんですが、街に行きます」
街に行って色々調べたい物がある事をマリナさんに告げる。
「それで何ですが、教えて欲しい事があるんです。」
俺が知りたかったのはこの世界のルールだ、飯を食うにも宿に泊まるにしろお金がいる。
もしかしたら船に乗る事もあるかもしれないし…
だから俺はマリナさんにお金の価値やどうやってお金を稼げば良いかを質問した。
ミリィに質問した事があるんだが、そこら辺は全く知らないとの事だった。
「斗真はほんとに何も知らないんだねっよしっ任せな!」
少しだけ笑った後にマリナさんは様々な事を教えてくれた。
この世界のお金はダルと言うらしい。
1ダルが銅貨1枚100ダルが銀貨1枚10000ダルが金貨1枚100000ダルが大金貨1枚との事らしい。
一般的な宿に泊まるには一泊だいたい50ダルと言う事らしい。
正直安いのか高いのかは分からないけど、無一文な俺からしたらなんでも高額だ。
「それでだねぇ旅をしながらお金を稼ぐ方法だろ…」
「あんまり若い子にこんなのは勧めたくないんだけどさ、ギルドに行って冒険者になるか
流れの傭兵になって稼ぐかだね。」
何となく分かっていた、旅をしながら稼ぐと言う事がどう言う事。
冒険者や傭兵になれば魔物や盗賊との戦いは避けられないだろう。
でも、俺にはこの道しか無い。
いつまでも現状に悲観している訳にはいかないのだ。
ミリィの方をちらっと見る。
ミリィも俺が何を言うのかを理解したかの様に頷く。
「マリナさん、俺は冒険者になります。」
真っ直ぐにマリナを見据え、強く言い放つ。
「全く男の子ってのはこれだから嫌だよ、少し目を離した隙に急に成長しちまんだからね。」
昨日の今日で何が斗真を変えたのかマリナには分からなかった、でも確実に斗真は成長していた。
昨日のような疲れきった顔では無く、決意を固めた男の顔をしていた。
自分が斗真の心に与えた影響など全く気付いていないマリナは、やれやれとお手上げ状態になっていた。
「良いかい斗真、冒険者になるのはいいけどこれだけは約束しなっ!」
語尾を強く言い放つマリナに少したじろぎながら、何ですかと恐る恐る聞く。
「絶対に死ぬんじゃないよっ!辛い時はいつでも頼りに来なっ!ここでは私があんたの母親みたいなもんなんだからねっ」
豪快に、しかし優しくマリナは言う。
知り合ってまだ1日。
そして別の世界から来たなどと訳の分からない事を言う俺に。
マリナが何故ここまで自分に優しくしてくれるかは分からない。
だけど、マリナのその息子を見る様な優しい視線が斗真には心地良かった。
そして何よりも嬉しかった。
「あー兄ちゃん泣いてやがるっだっせーヘブンっ」
マリナの強烈な拳骨がラースの脳天に直撃した。
「全くなんでうちの子はこんなにも空気が読めないんだかねぇ…」
やれやれと言った感じで首を振るマリナ。
そして頭に手を当て転げ回っているラース。
俺の頬を伝う涙を必死に拭うミリィ。
俺はいつか皆に恩返しをしなくちゃなと思いながら、胸いっぱいの優しさを噛み締めていた。
人に優しくされたいなら人に優しくなりさいって名言を思い出した今日この頃
アドバイスや指摘、批判など有りましたら宜しくお願いします<(_ _)>