3話・痛み
やっと戦闘回。
短い戦闘でしたが(白目)
ハァハァハァ…
これはキツイ、剣ってのはこんなにも重い物なのか?
刃渡り50cm程のファルカタを振りながら考える。
俺とミリィの二人は森を歩いていた。
実際には歩いているのは俺だけだが…
森は静寂に包まれており、魔物がいるなんてとんでもないが思えなかった。
しかしその時だ
ギャッギャッギャ!
遠くの方から聞いた事も無い鳴き声が聞こえてきた。
「ままままま魔物!?」
声が上擦り何度も噛む
「安心しなさいよ、アレはプルムと言って最弱の魔物よ」
ミリィの言葉に少しだけ安心する、そして俺は怯えながらその魔物がいる方へと足を進めた。
興味本位で見るのでは無い、慣れる為だ。
この世界に慣れる為。
小さい猪?にしても下顎から生えている牙が恐ろしいな。
これがプルムか、うん…勝てる気がしない。
「そうね…プルム位なら大丈夫かも、よしっ斗真援護してあげるから貴方が倒しなさい」
ミリィの言葉に耳を疑う。
一体何を言ってるんだ?こんな化物相手に戦える訳ないだろっ!
何て考えていても許して貰える理由もなく、俺はファルカタを鞘から抜き怯えながらプルムに近付く。
勿論護衛役のミリィは肩の上で待機している。
ギャウッ!
プルムが吠える、どうやら俺に気付いたらしくこちらに向かって走ってきた。
俺は後退りしながらも腰を軽く落とし剣構えた。
プルムは更に速度を上げ飛び掛って来た。
避けれ無いと思った俺は咄嗟に剣を振る
キィンッ!
剣がプルムの牙に当たり弾かれる、プルムも少しだけ体勢を崩した様で俺の横を走り抜けていく。
ヤバかった本当にヤバかった、下手をすれば大怪我だった。
俺はチラリとミリィに視線を送る。
ミリィは拳をグッと握り俺に突き出す
「ファイトよっ!」
まだ助ける気は無いらしい…
これは本当に覚悟を決めるしか無いか。
怖いが仕方ない、いざとなればきっと助けてくれる筈だ…きっと…
俺は腰を軽く落とし足を肩幅より少しだけ大きく開く、軽く前傾姿勢を取り剣を腰の前で構える。
来るなら何時でも来い!心の中で叫ぶ、しかし足は震え嫌な汗が大量に流ている。
俺が覚悟を決めたのが分かったのか、プルムも後ろ足で地面を数回蹴り気合を入れているようだ。
そしてこちらに向かい走り出す。
「ウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッッッッッッッッッッッッ!!」
叫び自分を鼓舞する。
生まれて初めて命を奪われる恐怖と戦うのだ、叫ばずにはいられない。
飛びかかってくるプルム、俺はすかさず身体を捻り躱す。
そしてプルムの横っ腹目掛けて思い切り剣を振り下ろす、大勢が悪かったせいで少しの傷を付ける程しか出来なかった。
しかし今の攻撃でプルムの動きが鈍った。
明らかに先程までのスピードは無い。
チャンスは今しか無い、俺はプルムの方へ走る、そして切り付ける。
先程とは違い剣が深く肉を切り裂く。
いやか感触だった、今まで経験した事の無いおぞましい感触…少しの吐き気に襲われた。
「何ちまちまやってるのっ!今がチャンス何だから早く決めなさいっ!」
ミリィの言葉に俺はハッとなる。
殺らなきゃ殺られる
殺らなきゃ殺られる
殺らなきゃ殺られる
何度も心の中でそう叫び、俺はプルムの首元に剣を突き立てた。
プルムは悲痛な叫びと共に少しだけよろよろした後倒れ込み、そして息絶えた。
勝てた事への喜び何て無かった。
手に残る肉を切るいやな感触、命尽きる前のプルムの悲痛な叫び。
俺にはこれを耐えるだけの強さが無かった…
地面にうつ伏せになり、嗚咽を繰り返しながら泣いた。
命を奪った事への後悔、命を奪われていたかもしれない恐怖。
それが俺の心を蝕んだ。
「こればっかりは慣れるしか無いわよ、生きたいのならね」
ミリィは言い放つ。
普通ならばこの言葉は非情に聞こえるだろう、酷い奴だと思うだろう。
しかし違うのだ、この世界では当たり前の事なのだ。
ミリィの言葉は友人である俺に生きて欲しい、死なないで欲しい、その願いを込めた励ましの言葉だったのだ。
俺も分かっていた、ミリィの言っている言葉がどう言う意味なのかは。
だからこそ辛い、これからも命の奪い合いをしていかなければ事実が。
目を背けたくなる現実は、残酷で非常なのだ。
「ありがとうミリィ…頑張るよ…頑張るから…もう少しだけ休ませて…」
力無く答える俺にミリィは優しく頷いた。
空を見上げ気持ちの切り替えをしようとする、そしてその時少しだけ身体に違和感を覚えた。
「もしかして…」
小さく呟き俺はステータスを開く。
名前:日高斗真
年齢:17
種族:人間族
称号:弱者
Lv.2
HP:40
MP:18
力:9
体力:6
耐久:18
敏捷:6
魔力:4
SP:7
〈スキル〉
剣術E
レベルが上がってる…さっき感じた身体の違和感はこれだったのか。
そして剣術スキルも習得している、この短時間で。
闇雲に剣を振るより実践で覚える方が早いのか?
何はともあれ分からない事ばかりだ。
魔物を切るのは辛いし、殺されるかもしれないから怖いし、何か色々と整理を付けるのは難しそうだ。
今は考えないでおこう。
今は生きる事だけに執着しよう。
そうすれば何かが変わるはずだ…きっと。
斗真は自分に言い聞かせるように何度も何度も心の中で呟いた。
「ミリィ質問が有るんだけど、良い?」
ミリィは良いよ笑顔で返してきた。
「さっきのでレベルが上がったんだ、そうしたらSPが7になってるんだけどSPの上がる量は固定?」
レベルが上がった時にSPが7になっていた、まさかレベルが1上がる度に6もSPが貰えるなんてちょっと大盤振舞な気がしていたのだ。
「SPは固定で5よ、もしかしたら還元があったんじゃない?」
還元とは一体何なんだ?
分からないので再度聞く。
「還元って言うのはね、SPを消費せずに新しいスキルを覚えるとそのスキルの習得必要ポイントの5分の1が現在SPへと還元されるのよ」
納得がいった、俺には元々SPが1あった。
そしてレベルが上がりSPを5手に入れた、しかしそれでは総SPは6になる筈だ。
しかし実際は7になっていた、これは剣術スキルを自力で獲得した事によっての還元だったのだ。
「還元って旨いな…」
聞こえないような声で言う、するとミリィが溜息を吐きながら言った。
「ゼロからスキルを覚えるよりレベルを上げて覚えた方が早いから還元を旨いなんて言う人いないわよ普通」
そうなのか?いや普通に考えて還元は旨いと思う。
使わないスキルであれ暇な時や寝る前に訓練をして、取り敢えず覚えれば良いのだから。
どれだけゼロからスキルを覚えるのが難しいかは知らないが、剣を握って2時間程の男が剣術スキルを取れるんだ、そこまでは覚えるだけなら難しくないだろう。
考えは単純だがこの斗真の考えは正しかった。
この世界では無駄なスキルを覚えると言う習慣が無いのだ。
使わないスキルの訓練をする位ならば外に出て魔物を狩りレベルを上げる方がよっぽど手っ取り早いと言う考えなのだ。
まぁ考え方は人それぞれだしね、俺は俺だ。
やるからにはちゃんと稼ごう。
何はともあれSPが増えたから何か新しいスキルを覚えようかな?何か戦闘に役立つ物を増やしておきたい所だ。
少しでも生きる力を得るために。
〈スキル〉
剣術D:強化必要ポイント5
格闘術E:習得必要ポイント5
…………………………………………………
…………………………………………………
成長促進:習得必要ポイント40
…………………………………………………
成長促進?なんだこれ凄く気になるんだけど。
「ねぇミリィ?成長促進ってスキルが有るんだけどわかる?」
俺が尋ねるとミリィは笑顔で答えてくれる、少しずつミリィが俺に優しくなってきている気がするんだけど気のせいかな?
「成長促進は読んで字の如くよ、レベルアップの時にステータスにプラス補正が付くのよ。まぁそんなSPの高いスキル何て結構レベルを上げなきゃ取れないし、SPを貯めた頃にはレベルが高くなり過ぎてレベルが上がりにくくなるから成長促進のメリットが無いのよね」
だから誰も取らないと言われた。
いやいやいや、還元が有るじゃないか!還元でSPを稼いで成長促進を低いレベルの時に取ればそれだけ成長促進の恩恵を授かれるって事じゃないか。
その時俺は決めた、一番最初に使うSPは成長促進だと。
それを取るまではSPを貯めるんだ。
取り敢えず還元出来そうなスキルを選ぶ事から始めた。
そして、俺は自力で習得するスキルをミリィと相 談の元これらに決めた。
格闘術E:習得必要ポイント5
棒術E:習得必要ポイント5
投擲術E:習得必要ポイント5
見切りE:習得必要ポイント5
忍び足E:習得必要ポイント5
鑑定:習得必要ポイント10
気配感知:必要習得ポイント10
魔力操作E:習得必要ポイント10
魔力感知E:習得必要ポイント10
白魔法E:習得必要ポイント15
緑魔法E:習得必要ポイント20
これだけ覚えれば還元は20になる、少しレベルを上げれば成長促進を取る事が可能だろう。
成長促進を取る為の40を還元だけで取るのは些か時間がかかるような気もするし…
いくら早く習得出来るスキルがあるにしろ、やっぱり才能の有無での習得難易度には差異が生じるらしい。
戦ってレベルを上げるのは怖い。
でも、力無いまま無残に殺されるのはもっと怖い。
俺が手に入れるのは、いや…手に入れたいのは生きる為の力だ。
しかし本当に大丈夫だろか?凄く不安になる。
それよりも魔法とかどうなのよ使える気がしないんだが…
「安心しなさいっ斗真には緑のマナの妖精こと私!ミリィの加護があるんだから余裕よっ!」
えっへんと胸を張り鼻高々にミリィが答える。
「これは素晴らしい絶壁…」
眼球への一撃を食らった。
俺は目の前が真っ暗になった。
「そんな事より加護って何なの?そんなのステータスにあった?」
「あるわよちゃんと見なさいよ!一番下よ一番下!」
ミリィは不機嫌になっていた。
いやなんかもーすいません…
取り敢えずステータスを開く。
名前:日高斗真
年齢:17
種族:人間族
称号:弱者
Lv.2
HP:40
MP18
力:9
体力:6
耐久:18
敏捷:6
魔力:4
SP:7
〈スキル〉
剣術E
〈加護〉
緑妖精の加護:
緑魔法耐性上昇・緑魔法使用時消費MP減少・緑魔法習熟速度上昇
ん?何か付いてる。
「緑妖精の加護?ってのが付いてる」
ミリィはまたしても鼻高々に言う。
「 私よ私っ!どう?凄い?」
目をキラキラ輝かせながら聞いてくるミリィが少し子供っぽくて可愛かったのは内緒だ。
「凄いよミリィ、本当に有難う」
ミリィにお礼を言うと、彼女は恥ずかしそうに羽根をパタパチさせながら鼻歌を歌って誤魔化していた。
取り敢えず当面の目標は決まった。
この森を抜けるまでには決めたスキルを自力で獲得し、いくつかのレベルを上げて成長促進を取得する。
そして人間族が住む村に行くんだ。
これからの自分の行く先を決める為に。
生きる為に。
アドバイスや指摘、批判などあれば是非お願いします。