0.プロローグ
物語を語る上で、それが誰の視点から語られているのか、明確にすることを怠ってはならない。
語り手の立場によって物語は変質する。
魔王を倒す勇者の物語は、魔王から見れば侵略者から国を護る王の物語であるように。
ある男女の大恋愛は、恋敵から見れば失恋話であるように。
語り手によって、それは喜劇にも悲劇にも、重大事件にも日常の出来事にもなり得てしまう。
だから、まずはこの物語の語り手である、僕の紹介をしたいと思う。
僕の名前は桜井慧士。中学2年生。4月3日生まれ。AB型。身長162cm。体重51kg。
趣味、読書。得意科目、国語。好きな食べ物、和食全般。嫌いな食べ物、特になし。
尊敬する人、特になし。所属する部活、なし。特技、なし。霊感、アリ。
何処にでも居る様な、普通の中学生だ。
・・・・・・いや、確かに。
最後の、"霊感アリ"は普通では無いかもしれない。
僕は幽霊を見たり、触ったり、挙句の果てには会話したりも出来るけれど、世間一般のほとんどの中学生にはそんな事は出来ないだろう。
確かにこの力は特別で、これのせいで色々不便な生活も強いられてきた。
・・・・・・けれど。
それによって僕が"普通"から逸脱したかと問われれば、そんなことは無いと思う。
ちゃんと毎日学校に通っているし、時に居眠りをしながら授業を受ける。試験前日になって一夜漬けで勉強して、試験の結果に一喜一憂する。別に霊感があるが故に修行を積んだり、霊能力者を気取って除霊をしたりなんて事は一切していない。家に帰れば家族と夕食を食べて、テレビを見たり風呂に入ったり。やりたくもない宿題に頭を悩ませ、日付が変わる前には布団に入る。
本当に、あきれるくらい普通の生活を送っている。
霊感を持っていたとしても、それ以外の感性は本当に平凡だと自分では思っているし、周りの人も同じような評価だろう。
だからここではあえて、僕は普通の中学生だと言わせてもらう。
・・・・・・さて、これから僕が語る物語は、他のほとんどの物語がそうであるように、色々な人の思惑や想い、必然や偶然が積み重なって紡がれたものだ。
でも残念ながら、僕はその全てを理解しているわけではない。
物語が全て終わった後に、”きっとこうだったに違いない”という考察は出来るけれど、それはあくまで僕の主観に元づいた仮説に過ぎない。
それは語り手が僕個人である以上、仕方の無いことだ。
僕は何でも分かる"神様の視点"なんて持っていない。
僕では到底全ての真実を描写することは出来ない――いや、もしかすると、この物語は全部僕の妄想だったのかもしれないとさえ思う。
だから――この物語の大前提として、これだけは覚えていて欲しい。
これはあくまでも、僕が視た、世界のお話だ。