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6.じゃれ合い

1話間違って先のものを投稿してました。

本当に申し訳ない……。差し替えしてます。

 豪華、かつ落ち着いた雰囲気を出すためには何を必要とするのか。

 煌びやかなレース・フリルが目立つ、なんと天蓋付きのキングサイズベッドと王族かと言わんばかりのソファとテーブル。シャンデリアはここにも健在で、やけに天井が高い。半開きになったままのクローゼットには何着もの可愛らしいドレスが並び、今まさにそこから取って着たのだということを物語っている。


 俺はすわり慣れてしまったソファへ腰を下ろし、相席する巨大兎のぬいぐるみを脇に姫――ルナと向き合った。

 彼女は彼女で、巨大なペンギンのぬいぐるみを小脇にしており、そいつへしなだれかかった姿は淫靡というより可愛らしい。エロかわいいを追及するなら、もうちょっと攻撃的なドレスを着ておくんだったな。


「うむうむ。やはりこの時が一番楽しい」


 教材となる黒色の〈魔力結晶〉とメモ用の手帳を取り出しながら、彼女はゆるりと頷いている。別にいいのだが、ぬいぐるみの中から出てくるのはどういう了見だ?



 彼女、ルナがあのような口調をしているのには一定のワケがある。

 今のご時世、芝居がかかった変な口調や気障ったらしいセリフはありふれているのだ。


 何故か。

 それは、ハンターやクリエイターといった〈魂〉を売り渡して〈魔力〉を得た人間は精神的に壊れることになる。そうしたとき、真っ先に不安定になるのは人格だ。

 躁鬱が激しくなる、或いは無くなる。情動が不安定になり、一体何に感動し、何に激昂していたのか分からなくなる。

 私は一体、誰だったのだろうか。わからない。わからなくなってしまった。

 自分が分からないまま人は生きていけない。徐々に綻びが広がって壊れていく。


 自我崩壊を免れるために得た手段が、演技(ロール)

 私はこういう時に喜び、怒り、悲しみ、笑う。

 自分らしさなんていう不確定なものを排除し、〈自分〉を設定する。

 特徴的にしておけばなお良い。没個性では埋没してしまい、結局わからなくなってしまうのだから。


 そうして生まれるのが、ルナのような演技者(ロールプレイヤー)だ。

 殆どがそういった演技者であるため、ハンターやクリエイターは演技の有無にかかわらずRP(アールピー)と略して総称されている。

 ちなみにこちらはマイナーであるが、ハンター間では集落などから引き受ける〈空人〉の討伐依頼などをRPGロールプレイングゲームなどと言っているらしい。まあ、依頼のことをクエストと略した場合RPQなんて呼びにくい略になってしまうから気持ちはわかるのだが、ゲームとして仕事を処理されると複雑である。


 ともあれ、姫もまた、自分を守るために〈自分〉を設定した一人だ。

 彼女の〈魂〉はかなり回復しており、一番ひどかった当時と比べるべくもないほど表情も豊かになっている。素の自分はどんなものだったか、彼女は見失ったりはしていない。

 ただ、素で居続け、また見失った時が恐ろしいのだろう。

 過去を知る立場としては、そのあたりは複雑なところだ。

 俺は誤魔化すように〈魔力結晶〉に手を伸ばす。


「先ず、復習だ。姫、君の人形のことを教えてくれ」

「うむ。儂の人形は〈チカ〉。我が師に作ってもらった傑作じゃ。

 〈憑依人形(リビングドール)〉で、遠近両用、万能さが売りじゃな。我が師の設計思想にある、本体そのものに余計な機能を加えず、人間としての性能を引き延ばしたような汎用性が個性といえば個性かの」


 そのまま、人形の整備のやり方やクセ、特徴を事細かに説明してくれる。まんま俺が説明した内容を復唱していた。

 記憶力が良いのは分かるが、ちゃんと内容を自分で咀嚼できているのだろうか。


「合格だ。まあ、ハンターであるなら自分の人形ぐらい把握すべきだし、整備の仕方も覚えるべきなんだがな」

「クク。我が師よ、それは大半のハンターを貶しておるのか?

 奴らは大体、どう使えば効果的かぐらいしか頭に入れてはおらぬぞ。

 整備なぞもってのほか。そんなのはクリエイターの仕事だという奴も多い」

「それも頭の痛い話なんだよな。まあ、俺は懐が暖かくなるからいいんだ。

 それに姫はそういう奴らとは違うしな」


 その点、目の前の姫は違う。

 俺の勝手な呼称とは裏腹に、きちんと自己管理をしている。

 まだまだ腕が足りずやりきれない部分を俺に頼ってくることはあるが、少しずつ覚えているから、じき全てを自分でやれるようになることだろう。


「……ぬぅ。もっと整備の難しい人形に仕上げてもらうべきか」


 などと思っていると、また姫がモゾモゾとしゃべっている。いつも聞こえないから困るのだ。会話相手が少ないと独り言が多くなるらしいが、独り言にしてもモゾモゾ言い過ぎではないだろうか。


「何だって?」

「――ッ、な、なんでもないのじゃ!」


 声をかけると、毎回こうしてバッと面を上げて両手を振って否定のサインを見せる。

 定番になりつつあるやりとりだが、どうなのだろう。

 これは俺が聴覚強化の〈魔法〉を習得して使っておくべきか。


「そ、それより。人形の構造について教えてもらおうかの!」


 おっと、本題はそっちだったな。

 座りなおして、手に取った〈魔力結晶〉を姫へ見えるように差し出す。


「人形の構造っていうのは、結構複雑なんだ。

 人間に近しい形を取っている。つまり、内骨格を持つ」


 いくつかの魔力操作を施し、〈魔力結晶〉を握る。

 すると、目に痛くない程度の輝きを放ちながらゆるゆると変形していく。結晶の形から、物理法則を無視して人間の腕……の骨になった。

 全くそのままではない。関節部分は複雑に絡み合っているが、基本の構造はボールジョイント。つまり球体関節だ。過去の人形にあるような、ぽんと球体があるわけではなく、魔力繊維で繋ぎとめられた球体であるため、稼働限界は広く"ひねり"さえ再現できる。


「相変わらずふざけた腕前じゃな。しれっと骨格作るでないわ。

 見ておったが、〈引き金(トリガーワード)〉もなしに作らなかったか?」


 彼女の苦情は黙殺。俺はそのまま次の結晶を手に取って生み出した腕の骨に重ねて更に魔法を行使する。


 すぐさま反応し、筋線維の張り付いた腕になった。

 後は、血液のような魔力流動体の通る疑似血管を張り巡らせた上で被膜すれば完成だ。いかに上手く被膜するかで肌触りが変わるので、ここに生き甲斐を見せる〈人形師〉も少なくない。

 また皮膚の痛覚触覚を正しく網羅するのも重要だ。


「筋肉のかわりになる魔力繊維だ。こいつの構成がどれだけ出来るかどうかでクリエイターの実力が試される。

 こいつはこの骨格を自在に動かすだけじゃなく、触覚・痛覚をシグナルとして取得してくれる。これの出来が悪いと、触覚・痛覚が倍以上になったり無くなったりするぞ。

 姫はベテランハンターだし、触覚はもとより痛覚の重要性も理解できているだろう」

「うむ。気が付けば腕が落ちたり体が重くなったり、痛くないというのは存外に不利なのは理解できておる。

 もちろん痛みを甘受せよ、ということではあるまい」

「当然だろう。痛覚系の自在なコントロールも、クリエイターの腕の見せ所だ」


 激痛で意識が飛ぶと判断されたら痛みの信号をカットして部分的な無痛にしたり、もう痛いのが分かっているなら手動で切断させたり。

 その程度出来なければ不便極まりない。

 人間には出来ないことをやらせるための人形なのだ。そのぐらい便利でなければ意味がないだろう。


 だが姫は、相当無茶な痛みでなければ甘受するらしい。

 理由を聞くとロクでもなかった。


「憑依型の人形を使えるヤツは大概ドMじゃからの」

「おい」


 有人なのは操縦型、憑依型と2種類あるが、どちらも適性が必要だ。

 操縦型は外部に自分の〈意図〉を放出できること。

 憑依型は外部に自分の〈魂〉を放出できること。

 どちらも意外と困難で、自己戦闘力は高いが人形が扱えないというハンターはそこそこいる。その場合は、自立型の人形を引き連れて疑似操縦型ユーザーのように立ち回るのが基本だ。

 前にも語った覚えがあるが、操縦型は男が多く、憑依型は女が多い。

 結果的にだが、人形の大半も女性型だ。男性型は肩身が狭い。しかも、男性型の場合は素直な人間の形をしていないことが多い。ゴーレムみたいなヤツとか、騎士甲冑とかが大半だ。


「儂がドMであることは我が師も認めておろうよ」


 逃避に走った俺の思考が姫の言で引き戻される。

 この姫、加虐的な雰囲気を醸して置きながらその実被虐趣味だ。何故知っているのかはあまり語りたくない。

 俺の本性まで語る羽目になるからだ。


「人形に憑依できるということは、人形になる素質がある奴ということじゃ。

 人形になる素質があるということは、そういう願望や性癖が多かれ少なかれ〈魂〉に刻まれておるんじゃろう」

「否定はしないがな」


 ユキも、自分というものが希薄そうだったので人形に"成れる"だろう。

 彼女の適正は疑っていない。慣れれば、姫よりもよほど上手くやるかもしれない。


「ちなみに、我が師はドSじゃな」

「待て」

「おや? 儂をあれだけ虐めてくれる我が師が、何を猫被っておるんじゃ?」

「……さ、次の講義にいこうか」


 逃げた。この話題はいけない。俺がロリコンの誹りを受けてしまう。

 いや、彼女はロリと呼ぶには背も低くはなく、胸もでかい。


「もう手遅れじゃろ、エロエロ。いや、色々」

「黙れゴスロリ」

「ゴスロリという単語に幼女の意味を含めるのは如何なものかのう」

「今度、ココロに甘ロリ持ってきてもらうか」

「――さ、我が師よ。次の講義じゃ」


 ちょっと字面が変わるだけで得意分野が苦手分野になるとは不思議なことだ。


 俺たちはよくわからないじゃれ合いをしながら、次の講義へと進むのだった。



次話に誤投稿した内容を入れ直し。内容は変わりませんし、多分展開上どっちが先でも大丈夫そうなのでそっとなかったことにしていただけると……

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