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18-19.地下鉄迷宮

予定に無かった本日2回目の投稿です。

前回をお読みになってない方はご注意ください。

 にゅるりと伸び、終わりが見えない線路。

 筒状に伸びる通路は二つ並びになったり、交叉するようにくっついたりしている。

 線路の脇には〈魔力結晶〉と思われるものがゴロゴロと転がっている。


 天井や壁に付いた照明は役目を果たしていなかったが、転がってる〈魔力結晶〉が発光しているため全くの暗所ではなかった。

 足元が淡く光るというのはとても幻想的だ。

 廃墟染みた地下鉄も、雰囲気を盛り上げるのに一役買っている。


「こりゃ驚いた。こんな資源がある〈地下鉄迷宮〉は初めて見たぜ」

「ユウが喜び勇んでうろついてたらしい区域だからな。

 うなずける話だ」


 ローガンやシュウも多くの〈魔力結晶〉を見て驚いている。

 これは異常な景色なのだろうか。


「シュウ、下ろして。

 後、〈地下鉄迷宮〉のことを教えて欲しい」

「そういえば知らない事のほうが多いのだったな」


 借りてきた猫状態の私はあっさりと解放される。

 姫様抱っこでもおんぶでもない、小脇に抱えられるあの感じはいただけない。


――――姫様抱っこはユウに角が立つし、おんぶするには胸が邪魔


 この状況でそんなジョークを言う余裕があるとは。

 呆れた"声"である。


「〈地下鉄迷宮〉とは、まあ言葉の通り地下鉄が迷宮化して出来たものだ。

 過去、都心は地下を走る電車が多く存在していた。

 今では一つたりとも存在していないがな」

「そうそう。んで、地上は誰もいない場所がぽんぽん地形変わるのは知ってるだろ? 知らない?

 ええっとな、地上は人間みたいな"観測"するものが存在すると変動しないらしいんだが、誰もいない場所はコロコロとその姿を変えるんだ。

 地形はもとより、その大きさまで変わるってんだからふざけた話だよな。

 だから定期的に集落同士を繋ぐ"道標役"が行き来している。そのおかげで道が変わらず、定期的な交通を可能にしているわけよ」

「一説には、地形変動に"霧"が原因ではないかと言われている。

 あれは視界を遮るだろう。

 お蔭で、歩いて5分先の地形すら変貌することも少なくない。

 "霧"は観測者を拒絶し、好きなように大地を作り変えているのだとな」


 なんとも不思議な世界になったものだ。

 地球のサイズは一定で、どうやったって土地が増えることはないだろうに。

 もしかすると、地球は球体であるとか、そういう常識も失われているのかもしれない。そんな常識、今では役に立たないのだから。


「ま、霧が無い〈地下鉄迷宮〉でも変動が起きているんだからあんまあてにならないな。で、〈地下鉄迷宮〉なんだが、ここは〈空人〉がたまーにうろついている魔境なのさ。

 これもお偉いさんが研究した結論なんだが、天には〈魂〉が集まり、地下には〈魔力〉が集まるんだそうだぜ」

「その〈魔力〉が溜まる為に、地下には〈魔力結晶〉が自然発生する、と言われている。〈空人〉が徘徊するのも同じ理由だ。奴らにしてみれば、ここは居心地の良い空間らしい。

 この地下空間では例外的に、〈空人〉は休眠せず動き回っていることがある。

 だから分身体だけではなく本体が複数同時に現れることもあるそうだ」

「〈地下鉄迷宮〉は人間様が生活するために必要な資源が生まれる重要な"坑道"だからな。そうはいっても穴を塞いだり立ち入るのを辞めたりはできないのさ」


 所謂、宝箱が自然にポップするダンジョン、と考えればいいのか。

 話を聞く限り、奥まった所へ行けば行くほど〈魔力〉が濃くなって〈魔力結晶〉が多く取れるようだし。

 反面、〈魔力〉が高まるのだから〈空人〉も強いものが現れると。


「それにしては〈空人〉が居ない」

「ああ。そこんとこ不気味だよな。〈魔力結晶〉がこんだけあるなら、〈空人〉だっていそうなもんだが……」

「いないに越したことは無い。

 今俺たちには〈イチル〉以外の人形はいないんだぞ」

「そういやそうだった。ユキちゃんの取れちまった腕に召喚器がついて……ん?」

「ん?」

「なあ、ユキちゃん……右腕、取れたんじゃなかったっけ?」


 随分前に過ぎたことを掘り返すんだな。

 私は小首を傾げ、むき出しになった"右腕"を見せる。


「生えた」

「生えたって……いやいやいや。トカゲの尻尾じゃあるまいし」

「でも生えてきた。服はもとに戻らないけど」

「いやいや、服まで戻ったらもう異常にもほどがあるっていうか……旦那」

「ああ。推測する限り、膨大な〈魔力〉があるからだろう。

 〈空人〉も切断された部位を再生させることがある」


 まるで私が〈空人〉のようではないか。納得いかない。


――――腕、生えてくる一般人は、いないよ?


 そりゃそうだ。だが、生えてきたのだから仕方ないではないか。

 右腕が無いとバランスもとれなくて不自由するなあ、と思っていたので都合が良かった。これなら戦うことも問題ない。


「……追及するだけなんか疲れるなあ。もういいか。

 んで、これからどうするんだ旦那」

「可能ならユウたちと合流したい。アイには似ない大人しい男だという認識はもうない。アレはアイの弟だ。無理難題を平然と実行する"英雄気質"だろう。

 となれば、俺たちを救出に来るか――救出前に、竜へ喧嘩を売る」

「あの竜に?」

「一瞬だったが、あの竜はアイなら倒せるように見えた。

 恐らくユウも同じことを思っただろう」


 確かに、強くなったとは思ったが、段違いというほどではなかった。

 強さは割増、面倒くささがドンと倍、と言う感じ。


「だとすると、俺らのやることは?」

「〈地下鉄迷宮〉から脱出し、ユウと合流する。

 竜を倒さない、というのは"無し"だ。アレは倒さなければ」

「〈天使〉はどうすんだよ。ありゃ竜どころじゃないぜ」

「そっちは無視だ。ユウに任せるほうが上手く行く。

 最上の状況は、俺たちが竜をやり、ユウが万全の状態で〈天使〉に挑むという流れだ。どんな悪条件でも、アイは単独でやり遂げてくれた。

 神頼みならぬユウ頼みというわけだ」


 この男からそんな他力本願が聞かされるとは思わなかった。

 それほど、ユウの、或いはアイの実力を信頼しているということか。


「じゃ、兎に角ここから脱出するとしますかね」

「そうだな。少なくとも線路伝いでは脱出は出来ない。

 ステーションか、非常口を探して地上へ出よう」

「あいよ。そんじゃとっとと――」


 ローガンがくい、と手を動かして、〈イチル〉を先頭に立たせた時だった。


――――〈空人〉!


 声の警告と、私自身が感知するのはほぼ同時だった。

 "ゆらぎ"が眼前まで迫っていることに、今更になって気付く。


――――どうやって! 完全に気付けなかった!


 原因は不明。

 だが、〈人型〉が私たちの目の前に存在していることに変わりはない。

 そいつはすでに腕を引き、シュウの心臓めがけて刺突を放つ構えを取っている!


「どいて!」

「何を――馬鹿な!?」


 シュウを突き飛ばし、〈空人〉の攻撃から庇った。

 どすり、と私の胸を抉り飛ばし、心臓を貫通する銀の腕。


「――ごぷっ」


 喉の奥から溢れる血が呼吸を遮り、左胸から焼けるような痛みを脳に流される。

 痛い、痛い、痛い!


――――ちょっと、これやばいんですけど!


 声にも苦痛の色が滲んでいる。

 恐らく痛覚の共有をしているのだろう。苦悶は、全く私と同じだった。


「――、―――っ」


 一方の私は喉が潰れて声が出せない。

 溢れんばかりの〈魔力〉が血の流れた量だけ血を生産させているせいで、一向に血が止まらない。


「クソ――なんてことだ、ユキ!」


 焦燥はシュウのもの。

 ローガンもまた、顔色を変えて私を見ている。


 が、その心配はどうやら無用のものだ。


――――くそう、やりかえしちゃえ!


 〈空人〉の直接攻撃が心臓に喰らわされたが、私の〈魂〉は一切零れていかない。ただひたすらに痛みを感じるだけで、喪失感は全くない。

 或いは、私の〈器〉には〈魂〉が封入されていないのか。

 〈器〉が損壊したところで、私は壊れないことが今理解出来た――!


 武器はなく、構築した〈魔法〉もロクにない。

 が、私には〈魔力〉量というケタ外れた"暴力"が存在している!


 拳を作り、乱暴なまでに〈魔力〉を込めて〈空人〉を殴りつける。

 ルナやユウが見れば顔を覆うだろう無様で精錬されない拳。内在攻撃力に対する消費魔力量は頭を抱えるほど。

 だが、押し込んだ"量"故に、その拳はあの"アイ"の一撃にも匹敵する!


 ドパン!


 水袋がはじけるような音。

 それは殴りつけられた〈空人〉の頭蓋が滅茶苦茶に"粉砕"される音だ。

 相手の〈魔力障壁〉はもはや障子紙。

 〈空人〉の強靭な〈器〉など硝子細工に過ぎない。


 その一撃が既に必殺。

 さらさらと〈空人〉が砂状になって消えていく。

 ……分身体だったか。手ごたえがない筈だ。


「……は?」

「っげほ、げほ……!」


 呆然としたローガンは放置。

 腰を折ってようやっと喉に溜まった血を吐き出せた。

 びちゃびちゃと溢れる鮮血は、どうみても致死量なのだが……〈魔力〉による補正のすさまじさをしみじみ感じる。


 まったく、胸に大穴が開いてしまった。

 服は再生しないのだ。替えもないのにどうしてくれる。


「……ユ、ユキ?」

「何、シュウ」


 口元の血をぐい、と拭い振り向く。

 そこには警戒色を露わにしたシュウとローガン。


「今、直撃を受けなかったか?」

「受けた。でも大したことない。治った」

「いや、治った、じゃなくてなユキちゃん……普通、間違いなく〈空人〉化待ったなしだぜ、今の……」

「本当に何ともないのか? 虚脱感とか、物事への感じ方が薄くなったとか……」

「全然。いつも通り」


 むしろ、激痛を感じたことでどうもテンションが上がっている。

 より戦闘的なコンディションへ。


「……君は一体何だ?

 〈天使〉がイレギュラーだと言っていたが、特殊な存在なのか……?」


 問いかけ、というより自問のように呟いている。

 私に聞いても答えが出ないという判断は正しい。

 こちらにしてみれば、ただ痛いだけの攻撃を受けた以上の感想を持ちえない。


「私が前衛を務める。〈イチル〉で援護して」

「いや待てユキ。確かに〈魂〉のダメージは無いかもしれないが、攻撃を受けることで激痛は感じるのだろう?

 人形体とはワケが違う、もう少し熟考して――」

「無理、敵が来る」

「来るとはどういうことだ、ユキちゃん」

「今の、どこからかやってきたんじゃなかった。

 "たった今、ここに発生した"。そんな感じ」


 まず間違いない。アレは自然発生的に、今、ここに生み出された〈分身体〉だ。

 よりによって狙い撃ちされている。

 もしかしたら〈天使〉には居る場所がバレてるのかもしれない。


「――そこ!」


 そらきた。

 私の背後へ唐突に出現する〈空人〉を振り向きざまの一撃で頭蓋を破壊する。

 相打ち気味に放たれた斬撃が私を袈裟に一閃するが、即座に治癒した。

 走る痛み。"声"の苦悶が脳内に響く。


――――えー、痛覚の切断したほうがよさそうよね……


 オススメしておく。防御は全く分からない。

 私の精神的コンディションは攻撃に傾倒しており、防御を考えようとしてくれない。むしろ、痛みは歓迎するほどの状態になってきている。


「これ以上、一か所に留まり続けるのは良くない。

 早く移動を――もう遅い」

「……そのようだな」

「うひゃあ……こりゃやべえ」


 気が付けば、ゾロゾロと進路上に〈空人〉が現れ始める。

 数は2桁を超えていた。

 全部〈分身体〉なのだろうが、正直困る。


「厄介なのは油断すると真横でも真後ろでも遠慮なく湧くことだな……」

「ワラワラと片側からしか来ねえのは、出口がそっちにあるからかねえ」

「湧いてこないほうは俺たちが来た道だ。

 或いは外へ追い立てたいのかもしれない。

 どちらにしろ相手の思惑に乗るよりは正面突破したいところだが……」

「任せて」


 シュウからは言い出しにくいであろうことを、自分から申し出る。

 ユウに遠慮している節があるシュウは、私を盾にすることを良しと出来ない。

 それが合理的な選択肢であっても感情が邪魔をするのだ。

 それは要らぬ心配で、余計なお世話である。〈魂〉も問題ないと分かった以上、躊躇う理由も無い。


 それにあの激痛。耐えられぬものではない。

 むしろ歓迎しても良い代物だ。

 生きている実感を得られる。凄まじく気分が高揚する。

 私は役に立てているのだという実感も相まって、今にも連中のところへ飛び込みたいぐらいだ。


――――生粋のドMっていうか……えっ、致死レベルの痛みでもイイの?


 ドン引きされている気がするが、錯覚だろう。


「……私が派手に暴れるから、付いてきて。

 離れてる時に近くへ湧いたらフォローできない。自衛よろしく」

「そんなことも出来ないようなら俺は剣を折るべきだな。

 すまないが――頼む」


 こくりと頷く。どうやら謝罪されているようだが、謝罪するのは私である。

 どうもこの身体は酷使してやるほうが〈魂〉のめぐりが良いらしい。

 こうして戦うことがユウの為になる、という意識も働いているのか。


 ユウ。そうだ、ユウのところへ向かわなければ。


 ……あの〈天使〉よりも早く、ユウの所へ。


 本能のままに、猛獣の如く飛び込んだ。


 得物は四肢で獲物は死屍。

 盾は骨肉で対価は痛み。

 得るべき報酬は此処になく、骸の丘の先にある。


「クフ――」


 思わず笑みが毀れる。

 〈魂〉を燃やした時のユウのように、恐らく私は狂気的に"嗤っている"。


 表情がぴくりともしなかったのが嘘のよう。

 ああ、私は今"嗤えている"!


 〈空人〉たちは徒手空拳では相手になれないと、各々自身の身体を変化させて武器を携えていた。

 刀、鉄槌、槍。所謂三種の神器(斬・打・突)

 だが聊か私の相手には足りない。


 先手はくれてやる。

 私は捨て身で飛び込むと、相手に切り裂かれ、粉砕されながら拳を撃ち抜く。

 飛び散る血潮は私だけ。

 相対する敵はさらさらと砂になるばかりで、返り血など浴びはしない。


 それでも私は真紅に染まった。

 ありとあらゆる傷を受け、しかし瞬く間に回復する。

 切断された腕は、振りかぶる間に生え変わった。

 潰れた眼球は、勘だけで敵を打ち倒した後に再生した。

 貫かれた心臓は、ただの一度も止まることは無く。溢れる血ばかりが鬱陶しく、ズタズタになった服を私の体へ接着してくれることだけが頼りだった。


「フフフ――アハハハハハハハ―――!!!」


 歓喜の声を上げていたユウの気持ちが"痛い"ほど良く分かる。

 なんて喜悦。なんて激情だろう。

 ようやっと自覚する。

 私の持つ〈概念〉は"痛み"だ。

 誰かが背負う痛みを私が背負うことで初めて私の〈魂〉は喚起する。


 誰かを庇い、誰かのためにすり潰されることこそが私の"悦び"。

 誰かは誰でも良かった。だが、私は誰かを選び取った。

 その誰かこそ、他ならない彼なのだ。


――――最高にテンション上がってるわね……


 10や20ではきかないほど〈空人〉を撲殺し、ようやく道が開けてきたころ。

 受ける刃が減り私の有頂天まで昇っていたテンションもようやく下り坂に差し掛かっていた。


「……俺、暫く肉料理喰えねえわ……ベジタリアンでいい」

「奇遇だな、俺もだ。よもやこの時代であんなスプラッタを見ることになると思わなかった。

 〈空人〉は本体であってもああはならない……再生速度が知れているからな」


 敵を屠りながら振り向いてみると、どうも顔色の悪い男が二人視界に入った。


「ユキちゃん楽しそうだなー、イイ笑顔だなー」

「俺たちに視線を向けた途端無表情に戻る辺り背筋が冷えないか?」

「そりゃ言わない約束だぜ旦那。

 〈狂剣〉アイも大概ぶっ壊れてたらしいが、この嬢ちゃんもぶっ壊れすぎだ」

「昔のアイはあんな有様ではなかった。どちらかと言えばサディスティックだ。相手を"ああ"して喜んでいた。こいつは真逆だろう」

「二人並べちゃなんねえ人種だわこれ……うわ、ユキちゃんの千切れた手足無くならずに転がってんぞ……」


 なにやら言いたいことが山のようにありそうな二人だが、まあいいだろう。


「道、ある程度拓けた」

「そのようだな」

「このまま殲滅しながら進む。いい?」

「俺は色々とお前に問いたいことが山積みになってきたのだが」

「道すがらでいいなら」


 それしかあるまい。とシュウは頷き、移動を開始する。

 〈地下鉄迷宮〉は深く、長い。

 この進撃は、どうやらしばらく続きそうだった。


 

今後もストックが余分に出来次第ドンドン投稿していこうと思っています。

筆が乗らなかったら隔日かもしれませんが、多分大丈夫じゃないでしょうか。

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