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16.進軍、そして





 竜討伐の朝が来たのは既に何時間も前の事。

 〈キサラ〉防衛組と別れ、俺たち討伐組は深い霧の中編隊を組み深い霧の中を進軍していた。


 露払い用にトップを務める2チーム。

 不意の攻撃に備え、左右に1チームずつ。

 そして、討伐を完了、ないし撤退戦となった時に活動するための保有戦力が後方に2チーム。

 俺たち竜討伐の本隊は、陣の中央に配置されている。

 その距離は声が届く、或いは魔法によるサインが届く距離に留めてあるため、陣形そのものの大きさは小さい。


 紹介しておこう。

 俺率いるメンバーは、俺、ルナ、ユキ、ココロの4人。

 俺、ルナ、ユキが〈憑依型人形(リビングドール)〉を扱うという、奇抜な編成だ。

 常態である"ユウ"のスタンスならば、ココロを〈操縦型人形(マリオネット)〉として扱い、俺は後方に位置する。

 だが、今回必要となるのは"アイ"としての前衛戦力である為、彼女は〈自立型人形(オートマタ)〉として機能させる。


 一方シュウ率いるパーティ〈コボルド〉は、シュウ、アキラ、ショウコ、ローガンの4人。

 シュウ、ローガンが〈操縦型人形(マリオネット)〉、ショウコが〈自立型人形(オートマタ)〉といった編成。

 シュウがアキラを操り、その戦闘力を最大限発揮させる形だ。シュウ、ローガンの人形がツートップ、操縦者をショウコが防衛する編成だ。

 なおローガンは完全操縦型の人形であるため、非戦闘時は人形を展開していない。〈魔力〉の無駄、というよりは、精神疲労の軽減のためだ。

 というか、何故ローガンが編成に加わっているのだろう。


「俺ァ、欠員が出たら仕方ねえやってやるよ、つったのさ。

 だがよお、元々シュウの旦那の編成が"足りてない"とか、思わねえだろ?

 欠員には違いないとかなんとか――畜生、最初から狙ってやがったに違いねえ!」


 腹黒い事が行われたらしい。

 良く組むホリィは、まんまと右翼へ配置されているだけ余計に腹が立つとかなんとか。


 ちなみに、非独立型の人形は人数にカウントせず、独立して行動出来る人形は戦力の大小に関わらず人数に数えるのが、今のハンター流である。


「そいつはご愁傷様。だが、ある意味楽な配置だぞ。

 本命以外は相手にする必要が無い」

「その本命が普通じゃねえんだよ!」

「相手が竜だろうが天使だろうが、倒せるなら同じことだろ?」

「竜は俺じゃ手も足も出ねえし、天使なんか文字通り天の人だろうがァ!」


 これが竜討伐メンバーでの小会議で交わされたやり取りだ。

 ローガンからは同じ苦労人の気配を感じる。


 それと、シュウが漏らしたのか俺のことをアイではなくユウと認識しており、特段演技の必要がなくなっていた為、俺は平常運転である。

 芋づる式に俺が仮面で活動している人形師であることまでバレてしまった。

 腹いせにシュウから山のように〈魔力結晶〉をせしめてやったが……ワリを繰ってるのはそれでもなお俺のような気がする。


「それで、結構切り込んだがシュウの旦那。

 目標値点はまだなのかい?」

「いや。丁度、目標範囲の端に到達したところだ。

 ここから竜の索敵に入る」

「そうかい。ま、警戒は任せるぜ。俺ァそういうのは苦手だ」

「だそうだ、ユウ。よろしく頼む」

「……おう」


 不承不承頷く俺。

 まさか索敵・警戒能力のトップが俺とは思わなかった。戦闘傾倒でいいだろうと考えていたのに。


「ユウ、疲れてる」

「そうだな、疲れた」


 ぐったりしながら索敵し、大きな魔力反応のある方向をシュウに示しているところへユキがやってきた。

 ルナ主導で着せ替え人形になっていたが、どうやら今のファー付き白コートで落ち着いたらしい。その下にセーター、ミニスカートという格好はほとんど変わらないが、俺の趣味嗜好を狙っているのだろうか。


「……何かあった?」

「今のやり取りを見ていたんじゃないのか?」

「日常茶飯事。いつも通り。

 なら、そこで疲れたりしない」

「まあ、そうだな」


 相変わらず、妙に鋭い感性を持っている。

 とはいえ、疲れた理由――現在進行形で疲れている理由を語るわけにもいくまい。

 お前の事について考えて疲れている、ということは。


「ま、竜退治の時には疲れも吹き飛ぶさ。

 そんなこと言ってられなくなるわけだしな」

「……なら、いい。

 竜退治は大丈夫?」

「そっちも、多分問題ない。前に相手した奴より小さいらしいしな」


 安心するように笑って言うが、彼女は今だ不安そうだ。


「でも、倒したのはユウじゃない筈」

「ン……まあ、そうだけどな。俺はアイと同じだけの力が出せるんだ。

 それに、竜ほどじゃないが物騒な相手は"アイ"になってやってきた。これが初めて、なんて状態だったら引き受けてないよ」

「……それなら、いい」


 納得はしていないが、これ以上は不毛だと感じたようだ。

 むすっとした雰囲気のまま口を閉じる。

 そんなに俺は信頼に置けないだろうか。


「それよりユキ。この辺りはお前を拾った場所に近いんだが……何か、思い出すことはあるか?」

「思い出すこと?」

「あんな場所で心臓に鉄骨が突き刺さっていたんだ、何かあったと思うのが普通だろう? 状態を見るに、俺が通りかかるより前に事は起きていたみたいだが、争ったような痕跡はなかった。

 どちらかといえば自然な崩落事故と言ったほうが納得できる様子だったんだが」


 あの建造物は随分と昔からあるもので、たまたま通りかかって崩落した、にしては年季が入り過ぎていた。

 それに、彼女の魔力量が現在より少なかったとしても、心臓に突き刺さった程度で身動きが取れなくなるとは思えない。仮に俺だとしても、〈魔力〉が内在していない鉄骨が刺さったところで、致命傷には到底届かないだろう。


「……買い物?」

「買い物って……あのビルは無人だぞ?

 通りがかった、ってことか?」

「私、あそこにずっといた」

「ずっと、って言ってもな。あそこは俺の庭だぞ。

 相当頻繁に通っていたんだ。お前が居たらすぐ気付く」

「ほう、興味深い話だな」


 にゅ、っと顔を出すシュウ。


「庭だと?」

「……こ、この近くに〈魔力結晶〉をザクザク掘れるいい穴場があるんだよ」

「それでこの危険地帯をホイホイ歩いていたのか、お前は。日常的に?」

「危険地帯だ、って話だが、実際のところそう危険じゃなかったぞ。

 それこそユキを拾った辺りは、ユキを拾うまで遭遇率驚きのゼロだった」

「何だと? ……いや、しかし」


 唐突に考え込むシュウは放っておこう。良くある。

 それより、ユキの過去を整理することから入らなければ。


「で、買い物? でもずっといた?」

「うん。多分、私はずっといた。でも、買い物はちょっと違う」

「……何だ、なぞかけか?」


 あの崩落したビルに時間のズレでも生まれていたのか?

 〈魔力〉が跳梁跋扈しているせいで、間違っても絶対ないと言えない。

 なんでもあり、がこの時代だ。

 なんでもなしだと考えると、あの場所が何かの取引現場で、ユキはその時事故にあって崩落に――いやいや。取引に使っていたなら俺の探査にかかる。


「え? 私じゃない?」

「……ん?」

「ユウ、ごめん。買い物は違った。私の思い出じゃない」

「まあ待て。もうちょっと説明を寄越せ。

 お前が言っていることは滅茶苦茶だ」


 お前じゃなけりゃ誰なんだ。

 お前以外に誰が――誰か?


 引っ掛かりを、俺同様に感じ取ったのだろう。

 シュウがピクリと反応を示した。

 問いかけようと口にしかけるが、それより先に対応すべき事柄が躍り込む。


「シュウ、何かが抜けてくる」

「露払い部隊が払い損ねたか」

「そうみたいだ。……俺は控えて、ココロを〈操縦型人形(マリオネット)〉として運用する。援護を」

「請け負った」


 頷き合うのを見計らったかのように、前方から声。


「三つ抜けた! 〈コボルド〉、対応してくれ!!」


 即座にメンバー全員が前方に向けて構える。


 抜けてくるのは人の形をした、しかし人ではない何か。

 銀の鱗、鋭く尖った角や、背中に生えた蝙蝠のような翼は、竜を思わせる。


「〈亜人型〉、ドラゴン入りが三体!

 ユウ、ユキの準備運動をさせろ。二体任せる」

「あいよ!

 ――聞いていたなユキ。対〈空人〉戦、初陣だ。

 竜討伐陣形から変更。

 ココロ、ルナ、前衛へ。俺は後衛からコントロール。

 ユキは予定通り火砲支援!

 前衛が俺からルナへ変わる、立ち回りを間違えるなよ!」


 矢継ぎ早に指示を飛ばしながら〈意図〉を繰る。


「ココロッ! お前は無理せず時間を稼げ!」

「不本意ですが、仕方有りません!」


 即座に〈意図〉が伝わり、ココロの存在を手に感じ取る。

 ドラゴン入りの〈亜人型〉だとココロには荷が重いかもしれない。

 勿論、倒せないと言っているのではない。

 俺たちは無駄な消費をせず、ダメージを負わず、この場を切り抜ける必要がある。

 ココロにはその器用な立ち回りが出来ないかもしれない、ということだ。


「ルナッ!」

「委細承知! 『我が宣誓をここに』! 

 来い、〈チカ〉!!」


 携えていた小剣を握り、即座に人形を召喚するルナ。

 1秒と間を置かずその中へ飛び込むと、鉄槌を手に〈亜人型〉の前へ躍り出る。


「『我は障害を打ち砕く鉄槌也』!

 ッカカ! 往くぞ、儂の〈ナグルファル〉の餌食となるが良い!」


 炎に似た燐光を放つ、超重量のメイスにも似た鉄槌。

 アレがどれだけえげつない破壊力を秘めているか、俺は身をもって知っている。


「ユキ! 〈引き金(トリガーワード)〉は覚えているな!?」

「大丈夫。

 『召喚・カナ』『憑依状態・開始』『戦闘稼働・開始』」


 短縮ワードではなく、一つ一つ丁寧に起動させていく様子に、ほっと安心する。

 危うげのない手順で憑依まで完了し、ここに黒衣の吸血鬼が降臨した。


「『召喚・鳳仙花』」


 その手に収まるのは、件の武骨な対魔砲アンチ・エレメンタル・カノン

 いくらなんでも長ったらしい、ということで名づけられたその名は、驚くことにユキのネーミングである。

 彼女は姿勢を低くし、二脚(バイポッド)を地面に突き立てて射撃体勢を取った。


「弾丸装填! 種別、(ペネトレイト)! 弾頭、〈結晶〉!」

「了解。『召喚・結晶貫通弾』」


 よどみない手際で弾丸を装填する様は、既にベテラン。

 ちなみに、このサインは全部ルナが決めた。本当に銃器周りが好きな女だ。


 俺は交戦の始まった前線に目を向ける。

 ルナ、ココロが〈亜人型〉とやりあっているが、その力の差から大した脅威を感じていないようだ。

 ルナなど、高笑いをしながら敵をいなしている。


 バトルジャンキーは精神を摩耗するどころか高揚させる為、戦闘においては非常に歓迎される人種なのだが……一体どこでああなってしまったのだろう。


「ユキ、ルナが相手の〈魔力障壁〉に偏りを作る。

 合図をしたら人間でいう心臓へ弾丸を撃ち込め」

「わかった」


 ドン、ドン、と、自分の腹が痛くなるような音が響く。

 〈ナグルファル〉でブン殴る度に響く音だ。頑強で重量のありそうな〈亜人型〉が跳ねている様は非常に怖い。

 あの燃える鉄槌は熱量による負荷上昇までついている。

 生身の人間には洒落にならないが、


 鉄槌で連打というありえないラッシュにより、あの〈亜人型〉は(インパクト)に対して意識が向いている。

 無意識下の意識操作だ。

 こうすることで、他のカテゴリでの突破が容易になり、相手の〈魔力〉を全損させるまでもなく撃墜が可能になる。


「――ペネトレイトッ!!」

「撃て、ユキ!」


 そして、ついに(インパクト)傾倒した状態の〈亜人型〉をルナが低く空中へ跳ね上げた。

 間髪入れずにトリガが絞られ、〈鳳仙花〉から弾丸が放たれる。

 それは螺旋を描きながら違うことなく左胸へと突き刺さり、大穴を開けながら貫通。撃ち抜かれた〈亜人型〉は空中で四散した。


「上出来だ。

 竜相手の時は恐らく二脚が使えないから、その場合の対反動術式の使用も考慮しておけよ」

「うん」


 さあ仕上げだ。

 ココロを見れば、辛くも相手の片腕を切断していた。

 やるじゃないか。これなら後は大きい一撃でケリが付く。


「ルナッ!」

「応さ、退きやれココロ!」

「インパクト、お願いします!」


 切断攻撃へ対抗するように変形させた刃形状の残った腕ごと、〈ナグルファル〉がその身と地面をド派手に砕く。

 さらさらと消えていくそれを見届けることなく、ルナとココロは撤収してきた。


 完全に任せきりだったが、残る一体はアキラがたった一人で細切れにしていた。

 ただの〈人型〉ならいざ知らず、力を付けた〈亜人型〉をしれっと潰すあたりクレイジーだ。メンバーに急遽突っ込まれたローガンが呆れている。


「俺は必要だったのかね」

「さあな……」


 それよりも、だ。


「シュウ、露払い連中をさがらせろ。

 もう目前だ」

「何……? 確かに敵の密度は増えているが、巨大な気配はないぞ」

「奴め、〈魔力〉を隠すことを覚えてやがる。俺も気づかなかった……"既に視界範囲に居るぞ"」

「何だと……ッ!」


 急ぎ露払い部隊へ撤退の指示を飛ばすシュウ。

 俺は俺で、メンバーに指示をしなければ。


「ユキ。通常、戦闘が終わったらすぐ憑依を解除しろ。

 その憑依状態を維持することは、余り推奨されない。肉体に戻りづらくなるんだ。

 今からはすぐ次の戦闘だからいいが、終わったら解除、忘れるなよ」

「わかった」

「ルナ、〈ナグルファル〉から〈ハンマーコック〉に変えておけ。

 俺が出る。ユキへの指示は任せた」

「良かろう」

「次の戦闘、俺の〈意図〉は無い。無理せず援護。

 アキラと俺の二人で話が付くとは思うが、緊急時には独自に考えて自由に動け」

「心得ています」


 遠くに見える"ゆらぎ"。アレが恐らく標的だ。

 まさか竜のくせに迷彩能力まで有していると思わなかった。

 核になった人間がどう竜を捉えていたかにもよるのだろうが、どちらかと言えば竜よりトカゲといったところか。


「こちらも目標を確認できた。

 他は全員散らせた、戦えるぞ」

「オーケイ、シュウ」


 ここからが本番だ。あんなチャチな〈亜人型〉とは違う戦いとなるだろう。


「しっかり見てろよ、ユキ。

 勿論、援護も期待している」

「うん」


 迷彩が消えていく。

 するすると"ゆらぎ"が形を得ていく。

 なるほど、これでは見つけにくいだろう。恐らく休眠中の〈空人〉たちはこうして姿を隠し存在を消しているのだ。

 ここまで接近しなければ私も見つけることが出来なかっただろう。


 深い霧を背に現れるのは、銀の鱗が美しい巨大な竜。

 西洋竜、というべきか。飛行するには鈍重そうな巨体に、力強い翼。

 前足こそやや退化しているが、その力強い両足は地面をえぐり取りかねないほど強靭である。


 思わず口元が吊り上がる。

 これは喰い応えがありそうだと、"私"の感性が歓喜の声を上げる。


 俺は己の手足となる――今は無き姉の為に造りだした人形を召喚した。


 

 

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