プロローグ とある勇者の勤務報告
初めて小説を書いてみようと思いこのサイトを知りました。勇者ものを書きたかったのですが、いろいろな勇者を書きたかったので、派遣会社にしていろいろな勇者を書いてみようと思います。章ごとに勇者を変えていこうと考えています。宜しくお願い致します。
この世の終わりとも思えるほど幽々たる夜。
轟く雷鳴。大波の如く荒れ狂う烈風。
稲妻に照らされ浮かび上がる古城のシルエット。
その中で相対する二人がいた。
この世界を統べる魔王。
この世界を開放せんとす勇者。
今まさに終幕を迎えようとしていた。
勇者は、禍々しい黄金の玉座から頬杖をつきながらこちらを見つめている魔王を観察し、相手のもつ力を見極めようとしていた。座っているため確実ではないが、背丈は勇者のおよそ二倍ほど。蹴りひとつで大地を揺らすであろう堂々たる体躯をしている。魔力はやはり魔王といったところであろうか。今まで倒してきた奴等とは比べ物にならない。魔王はゆっくりと立ち上がり、少し口角をあげる。その動き一つで魔力が膨れ上がり、大気が震えあがり、悲鳴と化している。魔王は両手を広げ、言い放つ。
「よくぞここまでたどり着いたな勇者よ。我の用意したダンジョンをくぐり抜け、四天王を倒し、我が右腕をも倒してきたようだが、まだまだ余裕があるようだな。さすがは勇者よ。だが、ここまでだ。」
勇者はこの言葉に対し、まるであらかじめ台本を用意していたかのように、正義の言葉を魔王にぶつける。
「これまでの極悪非道の数々、許さん!この剣でお前を成敗してくれる!ゆくぞ!魔王!」
「来い!勇者よ!」
「「決着の時だ!」」
お互いが剣を抜き、睨み合い、お互いの力を全力でぶつけんとする。間合いを詰めようと一歩踏み込んだその時だった。
『ピピピッ。ピピピッ。』
突如、この世界感には似合わぬ電子音が鳴り響く。あまりの不自然さに雷の音も置き去りにして魔王の耳に入る。
『ピピピッ。ピピピッ。ピピ・・・』
魔王にとって初めて聞く音。この世界を統べる自分にも知らない魔法があったのかと思い、警戒する。そんな魔王を気にすることもなく、勇者は剣をしまい、口を開く。
「定時だ。帰る。」
魔王は混乱する。ていじ?かえる?『テージ・ダ・カエール』という呪文だろうか。初めて聞く呪文だ。魔法の系統が分からない。
「な、何をするつもりだ。」
この質問に対し、勇者は荷物の確認をしながら淡々と答える。
「何をするも何も、帰るんだよ。今週はNO残業ウィークだからな。残業できないんだよ。残業代出ないからな。残業代出ないなら働く意味なんてないだろう?いいところだったのになぁ。すまん。また明日来る。」
そして魔王に背を向け、去っていく勇者。敵に背中を向けるという隙だらけな行動をとっているが、魔王は今の状況に脳内の処理が追いついていないため、攻撃することはおろか、身動き一つとれないでいる。
「え、えーっ・・・」
魔王は戦闘意欲をなくし、口から零れた魔王らしからぬ情けない声が雷鳴に掻き消され、その声は勇者に届くことはなかった。魔王はただ、呆然と勇者の背中を見つめることしかできなかった。