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第3話B

 スコーピオンソルジャーが大きなハサミを振り下ろす。

 転がりながら避ける。真横に回り込もうと、駆けた。

 でかい。全長は5メートルはありそうだ。背後で銀玉が数珠つながりになったような尻尾が踊っている。

 スコーピオンソルジャーが体をひねった。唸りを上げて尻尾が襲いかかる。避けられない!

「かはっ」

 大剣で防御体制をとるが軽々と吹き飛ばされる。放物線を描いて宙を舞い、つかの間の浮遊感を味わったあと、地面に叩きつけられる。

「がっ」

 呻きながら起き上がる。こいつは……

(予想以上に強敵だな……)

 スコーピオンソルジャーは体を前にかがめたかと思うと、地面を思い切り蹴って突進してきた。地響きが近づいてくる。直前でハサミを振り上げた。速度も上乗せして叩きつける気だ。

「くそ!」

 避けるしかない。アクセルで横に飛ぶ。

 スコーピオンソルジャーはそのまま壁に突っ込んだ。轟音とともにあたりに土埃が舞い上がる。凄まじい振動に、足を動かせない。

 スコーピオンソルジャーがこちらを向く。

「キシャアアアアアアアアア!」

 威嚇してきた。こ、怖い……

 ハサミを振り上げ、今度は突くように。腕を伸ばしてきた。後ろに飛んで避ける。

 アクセルを使ってもう一度横に回り込もうとするが、また尻尾が風を切り裂いて迫る。

(そうだ!)

 とっさの判断に従い、アクセルで体を真上に飛ばす。避けることができた!

 地面に落ちるまでの間、ありったけのライトスラッシュを叩き込む。

 スコーピオンソルジャーが一瞬ひるんだ。

(よし!)

「うりゃあああああああああ!」

 着地したあとアクセルで突っ込み、そのまま光鎚を叩き込む。

 スコーピオンソルジャーがはじかれたように体勢を崩す。だが踏みとどまった。

「なんのぉお!」

 二発、三発と続けざまに光鎚を放つ。

「グオオオオオオオオオオオオオ!」

「っしゃあ!」

 スコーピオンソルジャーは完全にバランスを崩し、ゆっくりと倒れていく。

 油断していた。

 スコーピオンソルジャーは倒れながら体をひねり、蹴りをお見舞いしてきた。予想外の行動についていけず、モロに食らう。

「あがっ」

 吹き飛ばされ、地面を転がる。

「はあっ……はあっ……」

 ふらふらと立ち上がる。大剣を杖にのようにして体を支え、一息つく。

 スコーピオンソルジャーの方を見る。ヤツも立ち上がり、体勢を立て直したところだった。

 再び体を前に倒し、突っ込んでくる。

 落ち着いて剣を構え、6thアビリティを発動させる。スコーピオンソルジャーが目前まで迫り、勢いを乗せて殴りつけるようにハサミを叩きつけてくる。

 タイミングを計り、光剣を解放する。

「おおおおおおおお!」

 ハサミを叩き落とした。そのままアクセルを使って跳び上がり、スコーピオンソルジャーの目の高さまで迫る。

 重力に引かれて落下を始める。その勢いも乗せて光鎚を叩きつける。

「りゃあああああああああ!」

 ガン! という大きな音とともに光鎚が命中する。下から叩くより大きなトルクが働いたことで、一撃で体勢を崩すことに成功した。

 そのまま地面に落ちる。無理な体勢のせいで受身を全く取れなかった。それでも転がりながらアクセルを発動させ、スコーピオンソルジャーから距離をとる。

 寸前まで自分がいた位置を唸りを上げて尻尾が通過する。危なかった……

 立ち上がり、7thアビリティを発動させる。自分の周りを螺旋状に数字が取り囲み、数字を減らし始める。

(早くしてくれ……)

 アドレナリンのせいで時間が引き伸ばされて感じる。10秒ってこんなに長いのか……

 永遠とも思える10秒をやり過ごし、『断罪』をうち放とうとした時だった。よつん這いで起き上がったスコーピオンソルジャーが尻尾の先にある大きな針をこちらに向けた。

 頭の中で警報が鳴り響く。だがここまできて下がれない!

 バン! という破裂音とともにしっぽから巨大な針が打ち出された。自分に向かってくるのがスローモーションのように見える。避けられない!

 とっさに大剣を身を守るように構える。針が大剣に命中し、鋼と鋼が打ち合ったような甲高い音が鳴り響く。

 勢いを相殺できず、尻餅をついてしまう。

 急いで立ち上がり、体勢を整えようとするが、よつん這いのまま迫ってきたスコーピオンソルジャーに先んじられ、ハサミに鋏まれる。

「ぐ! がっ」

 そのまま持ち上げられ、凄まじい握力で締め上げられる。

(苦し……)

 身をよじろうとするが思うように体が動かせない。大剣を取り落としてしまう。

 そのまま右に左に振られる。滅茶苦茶な加速度を受け、振り回され続けるほか何もできない。

 スコーピオンソルジャーはそのまま僕を放り投げた。

「がっ…………ごっ!」

 何も出来ぬまま壁に叩きつけられ、そのまま落ちる。地面に叩きつけられた。意識が朦朧として立ち上がることすらままならない。

 頭のどこか冷静な部分が死ぬかも、と囁く。

(そんな簡単に……命が捨てられるか……)

 自分を叱咤し、立ち上がろうとするが、フラフラする……。

 立ち上がりかけるがバランスを崩し、また倒れてしまった。

 内心で焦り、必死で敵の姿だけでも捉えようとしていると。

「おや。妙な所で会ったものだね」

 聞き覚えのある声が上から降ってきた。この声は……小泉?

「なかなか苦戦しているようじゃないか。そしてあそこにいるのは……黒い魔法使いか……」

 足音が離れていく。なぜこんなところに小泉が……

「やあ黒い魔法使い。はじめまして。噂はかねがね聞いているよ。連れが苦戦しているというのに、君はただ見ているだけでかまわないのかい?」

「うるさいわね。あいつはあたしの護衛なの。どうなろうがあたしの知ったことじゃないわ。それより改名したの。黒い魔法使いじゃなくて漆黒の魔女よ。覚えておいて」

 僕をそっちのけで話し始める。視力が回復してきた。小泉は千歳と立ち話を始めていた。のんきなもんだな……

「酷いもんだな……彼に同情してしまうよ」

 小泉は苦笑しながら答える。そういえばスコーピオンソルジャーはどうした?

 スコーピオンソルジャーの方を向き、様子を確認する。動きを止めていた。どうやら突然の乱入者を警戒して様子を伺っているようだ。唸り声を上げている。

 千歳はうっさいわね、と吐き捨て、キッと小泉を睨みつけた。

「そんなことよりあんた、あたしたちをつけてきたの? まるでストーカーじゃない」

 いやいや、と小泉は首を振る。フッと笑い、続けた。

「そんな趣味はないよ。信じてもらえないかもしれないけど、ここに来たのは全くの偶然なんだ。クエスト屋のリストにないのにダンジョンとしてマップ上に存在したから気になってね。近くまで来たから寄ってみた次第さ。まあこの洞窟に入った時点で先客がいることは分かっていたけれど。まさか君がいるとは」

「ふんっ。ストーカーと大して変わんないじゃない……」

 千歳が一蹴する。小泉は芝居がかった仕草で肩をすくめた。

 スコーピオンソルジャーはまだ動かない。この隙に大剣を拾い上げようと、コソコソと移動する。

 怪物の目がギョロリと動き、こちらを見た。目が合う。まずい……! 気づかれた!

 スコーピオンソルジャーが唸り声を上げた。慌てて大剣に駆け寄る。やばいやばい!

 そんなこちらの心境を顧みず、ふたりは会話を続けた。


「あの獲物、私が頂いても構わないかな?」

 千歳が少し驚いたように小泉を見る。

「そっちでいいの? あいつを狙おうとはしないのね。」

 小泉はまた苦笑した。

「本当にひどいことを言うな。もう少し彼に優しく接してあげてもバチは当たらないと思うんだが……いやなに、今は気分が乗らないだけさ。今彼に勝負を挑んだって、なんだか小動物を嬲っているようでいい心地がしないからね。それに私は勝負を邪魔されることが嫌いなんだ。ボスのとなりで対人戦なんて、気が散って仕方がない」

 そう言って前に一歩踏み出す。武器を呼び出した。小泉の武器は身の丈以上の大きさの棍棒だった。中心にある握りから離れるに従って太くなっている、全長2メートル以上はありそうな左右対称の棍棒だ。装飾は一切なく、見た目はいたってシンプル。

 そのまま2ndアビリティを付与する。肩慣らしに軽く棍棒をクルクルと回し、首だけ振り向いて千歳に尋ねた。

「そういえば確認し忘れていた。君が後ろから襲いかかってくる心配は?」

「ないわ」

 ブスっとしたまま答える千歳。小泉は千歳の目をしばらく見つめたあと、フッと笑った。

「信じることにするよ」

 前に向き直り、小泉はスコーピオンソルジャーの方に歩いて行った。


 僕は必死に大剣に向かって走っていた。

 大剣にたどり着く。獲物を拾い上げ、振り返ると、

「うわ!」

 目の前にスコーピオンソルジャーが迫っていた。ハサミをなぎ払うように叩きつけてくる。

 とっさのことに反応できず、吹き飛ばされた。これで何度目だ……

 頭をふり、気を取り直す。スコーピオンソルジャーの方に向き直ると、

 スコーピオンソルジャーが宙に舞っていた。

 驚愕して固まる。スコーピオンソルジャーの足下には小泉が大きな棍棒を構えて立っていた。

(今の、小泉が……?)

 小泉が弾かれたように動き出す。両手で棍棒を自在に振り、叩く、叩く、叩く。

 早い。文字通り目にも止まらぬ早さで棍棒を回転させ、棒の両端を交互に叩きつける。スコーピオンソルジャーはなすすべもなく叩き続けられた。

「グオオオオオオオオオオ!」

 スコーピオンソルジャーがバランスを崩す。その隙に小泉は一秒の待機時間をやり過ごした。

 棍棒の両端が土色に光る。それを縦に回転させた。

 スコーピオンソルジャーに叩きつける。

 下から二発の叩き上げが一瞬のうちに命中し、スコーピオンソルジャーは再び吹き飛ばされた。

 おそらく今のは5thアビリティだ。「吹き飛ばし」の追加エフェクトの効果で吹き飛ばされたのだろう。

 また小泉が弾かれたように動き出す。走り出した。スコーピオンソルジャーの落下地点の直前で立ち止まり、3秒の待機時間を開始する。

 6thアビリティだ。

 スコーピオンソルジャーは地面に叩きつけられ、衝撃を吸収できず、また浮き上がる。

 3秒の待機時間が終わった。今度は棍棒の片方だけの端がさっきより強く土色に光る。

 小泉は体を後ろに引いて一瞬溜め、そのまま前に突き出し、両手で握った棍棒の光っている端をスコーピオンソルジャーに叩きつけた。

「オオオオオオオオオオオオオオ!」

 断末魔の悲鳴をあげてスコーピオンソルジャーが吹き飛ばされ、地面を転がってのたうち回る。

 小泉が7thアビリティを発動させる。小泉を螺旋状に取り巻くように数字が出現し、数を減らし始める。

 その表情は余裕の微笑を形作っていた。

 スコーピオンソルジャーがやっとのことで起き上がり、小泉の方に視線を向けた時には、もう遅かった。

 10秒の待機時間を終え、小泉が地面を蹴り、スコーピオンソルジャーに突進する。

 凄まじいスピードだった。アクセルよりも早い。目で追えなかった。

 一瞬でスコーピオンソルジャーの足下まで到着し、スコーピオンソルジャーを叩き上げる。

 ふわりとスコーピオンソルジャーの巨体が浮いた。だがそれでは終わらない。

 小泉は再び地面を蹴り、今度は垂直に飛び上がる。

 宙に浮かび、何もできないスコーピオンソルジャーをさらに叩き上げる。

 自身も回転しながら高度を上げていき、何度もスコーピオンソルジャーを叩き上げる。

 叩く

 叩く

 叩く

 何度も叩き上げ、遂にスコーピオンソルジャーが天井に衝突する。それでも終わらない。続けざまに何度も下から棍棒を回転させ、叩きつける。

 何百回叩いただろう。小泉は連打をやめ、くるりと逆方向に一回転した。

 下からの暴力が止み、ゆっくりとスコーピオンソルジャーが落下し始める。

 小泉がそんなスコーピオンソルジャーの真上に回った。

「これで……」

 小泉が棍棒を振りかぶる。

「終わりだ!!」

 下から上に叩きつけるように棍棒の端を叩きつけた。

 スコーピオンソルジャーは凄まじい力で下に向かって打ち出され、地面に衝突する前に青白い粒子に分解されて散った。

 ふわりと小泉が地面に着地する。

 何が起きたのかまだ理解できなかった。あまりに圧倒的。一度たりとも反撃のチャンスを与えなかった。まさに瞬殺だ。あれだけ僕が苦戦していた敵を、いとも呆気なく倒してみせた。

(これが……)

 現在生き残っているプレーヤーの力の水準なのだ。

 寒気が身体中を駆け抜ける。

 震えた。こんなやつらとこれから何度も戦わないといけないのか? 考えるだけで冷や汗が溢れる。

 小泉は呆然としている僕を一瞥し、背中を向けた。そのまま振り返ることなく歩いていく。

 退屈そうに腕を組んで見ていた千歳の横を通りすぎるとき、呟くように語りかけた。

「近いうちに君に勝負を挑むことになる」

「そう」

 素っ気なく千歳が返す。

 それで満足したのか、そのまま小泉は去っていった。

 僕はしばらくの間座り込んだまま動けなかった。

※小泉の持つ武器の描写を大幅に変更しました。(2/23)

・呼称を「棒」から「棍棒」に変えました。以後小泉の武器は「棍棒」と呼称します。

・戦闘の描写を書き足し、少し分かりやすくしました。

混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。

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