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第3話A

 千歳の後を追って洞窟に潜っていく。

 だんだん視界が闇に覆われ、不安になってきた。

「うわっ」

 ボッという音とともに洞窟の両壁に一定間隔で取り付けられていたかがり火に一斉に火がともり、洞窟を照らし出す。そこまで明るいわけではなかったが、突然のことにびっくりして声を上げてしまった。

「何してんの。置いて行くわよ」

「う、うん。ごめん」

 立ち止まり、ぼけっと突っ立ったままだった僕を叱咤し、千歳がさらに奥に歩いて行く。あわてて後を追った。

「でも割と親切なんだね。明かりをつけてくれるなんて」

「そうね」

 千歳がぶっきらぼうに答える。きっと彼女にとってはもう目に見えるものすべてが当たり前のことになっていて、大して話題にするようなことでもないんだろう。でも僕にとっては違った。かがり火に照らされ、二人分の大きく、ぼやけた影が頼りなく揺れている。その見え方まで自然で、全く違和感を感じさせなかった。自分がバーチャルワールドにいることを忘れそうになる。それほどまでに何もかもリアルだった。

「すごいなぁ……」

 感心が口をついて出てしまった。今まで大してすごいと思っていなかったが、この世界の精巧さは感嘆すべきものがあった。

「下らないこと考えてないで……」

 千歳が顔だけ僕のほうに振り向いて軽く小言を言ったその時だった。奥のほうの薄明かりの中を何かが横切ったのが目に留まる。

「ん?」

「あんたはもうちょっと警戒心というものを……どうしたのよ?」

「いや、今何かが……」

 何か小さく黒いものが飛んでたような……

「それが何? それよりあたしの話聞いてんの? あんたがそんなに能天気だとこっちまで……」

 千歳が完全に振り向いて、僕にお説教を垂れようとした時、

「わ!」

 バサバサッと言う音とともに大量のコウモリみたいなモンスターがこちらに向かって飛んできた。多すぎる!かがり火のせいで影が異様に大きくなり、まるで巨大な雨雲がこちらに突っ込んできているようだ。

「今度は何よ!」

 千歳が後ろを振り返る。目と鼻の先にコウモリの大群がいた。

「きゃあああああああああああああ!」

 今まで聞いたことのないような悲鳴を上げ、千歳が尻餅をついた。女の子らしいな、なんて思っている暇はなかった。パニックに陥った千歳が滅茶苦茶に黒い魔法の弾を乱射しまくる。

「ちょ、ちょっと落ち着いて! 隅田さん! こんな狭いところでそんな乱射したら……うわあああああ!」

 鼻先を黒い弾丸が掠め通る。

 僕は必死になだめようとしたが、そんな僕の言葉も耳に入らないのか、千歳はさらにヒートアップする。

「きゃあ! きゃあ! きゃあああああああああああああああああ!」

「うわ、うわあああああああああああああああああああああああああ!」

 二人の絶叫が洞窟内にこだました。


 いつの間にかコウモリのモンスターは全滅していた。

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ……ぜぇ……」

 二人で座り込み、荒い息をつく。し、死ぬかと思った……

「び、びっくりした……びっくりした……トラウマになりそう……」

「こっちのセリフだよ……」

 ゲッソリとしながらぼやく。普通に殺されそうだった。

「あんたのせいだからね!」

 千歳が涙目でキッとこちらをにらんでくる。いつもなら縮み上がっていたが、今回は殺されかけたのも相まって強気になっていた。負けじと言い返す。

「な、なにさ! 僕何にもしてないじゃないか! 千歳のほうこそ漆黒の魔女とか名乗ってるくせにすぐパニックになっちゃって!」

「うるさい!」

 千歳はヒステリック気味に叫んだ。

「あんたあたしの護衛でしょうが! こっちはか弱い乙女なんだから、あんたが身を挺して守りなさいよ!」

「そ、そんな無茶苦茶な……!」

 怒りを通り越して呆れてしまう。

「か、勝手に暴れだしといて言うことはそれか! いい加減に……!」

「うるさーい! 口答えすんな!」

「ぐは!」

 千歳に右頬をぶん殴られ、そのまま吹っ飛ぶ。後頭部を壁に強かに打ち付け、僕はそのまま気を失った。


 夢の中で僕は樹海の中を歩いていた。

 背の高い樹々に生い茂るたくさんの葉に日光が遮られて、辺は薄暗い。地面は湿ってグショグショなうえに、腰ぐらいまで伸びた雑草がそこらじゅうに生えているため非常に歩きづらい。

 足に巻き付いた蔓を強引に引きちぎる。

 顔にかかったクモの巣を手で払いのける。

 そうまでしても僕は歩き続けないといけなかった。

 なぜ?

 決まっている。追うためだ。絶対に逃がしてはいけない。

 どうして?

 決まっている。なぜなら……

 その時ガサガサッと音がした。僕の前を進んでいた人物が転んだのだ。

 音のした方に僕は近づいていく。

 人が転んでいた。女性だ。こんな道を歩いていれば、転ぶのも無理はない。

 その女性がゆっくりとこっちに振り向く。その顔は……


「……た……いた……斎田!」

 意識が戻ってくる。肩を揺すられている。声が聞こえる。呼ばれている?

「しっかりして斎田! 目を覚ましなさい! ほら! 斎田!」

 強く揺すぶられ続けている。な、何だ? 騒がしいな……

「はぁ……いい加減に……目を覚ませ!」

「ぐは!……はっ!?」

 目を覚ました。右頬と左頬と後頭部がズキズキ痛む。

「こ、ここはだれ? 私はどこ?」

「せい!」

「ぶべら!」

 顎に衝撃を感じ意識が飛ぶが、次の瞬間後頭部に受けた衝撃で意識を取り戻す。はっ! ぼ、僕は一体……

「う、う~ん……。す、隅田さん?」

 目を覚ますとすごい至近距離に千歳の顔があった。長いまつげがよく見える。ち、近いよ! わけもなく恥ずかしくなる。

「やっと気がついた! 大丈夫? 自分の名前、分かる?」

 千歳が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。だ、だから近い……

 恥ずかしくて顔を伏せた僕を不審に思ったのか、千歳がさらに詰め寄ってくる。

「何か言いなさいよ……大丈夫なの? もしかして、言葉すら忘れた?」

 千歳がいつになく不安げに見つめてきた。僕の羞恥心が限界を突破し、千歳を少し押しのけながら言った。

「だ、大丈夫。自分の名前くらいわかるから……い、一旦離れて……」

 僕が無事なことが分かって安心したのか、ほっとした顔をして離れてくれた。

 き、緊張した……まだ心臓がバクバクする。

「本当に大丈夫? 吐き気とか、しない?」

「う、うん。でもまだフラフラするから、ちょっと休ませて」

「え、ええ」

 僕は壁に寄りかかり、足を投げ出して座っていた。こうして目を覚ますのは二回目だな、と自嘲気味に笑う。

「ごめんね。カッとなりすぎたわ。冷静さが足りなかったし、あたしらしくなかった。本当にごめん」

 千歳が本当にすまなそうに謝ってきた。少し意外に思ってしまう。

「い、いいって。今の方がらしくないよ。普通にしてよ。なんかこっちが気まずいからさ」

 そう言うと千歳はふわっと微笑んだ。

「そう? じゃあ普通にやらせてもらうわ」

 うん。やっぱり千歳はこっちのほうがいい。縮こまっている千歳はなんか見たくない。千歳には堂々としていて欲しかった。

「どこまで覚えてる?」

 隣に千歳も僕と同じように壁にもたれかかって座り、尋ねてきた。

「え? う、うん。コウモリみたいなのが襲ってきて、それで千歳がパニックになって……そのあと口論になったところまでは覚えてるかな。そのあと右頬を殴られて、後頭部をぶつけて、今度は左頬を殴られて、さらにアッパーを食らってまた後頭部を壁にぶつけた気がするけど、そこらへんはあんまりはっきりしないな……」

「そ、そう? じゃあ大丈夫じゃないかしら。思い出せないところは無理して思い出さなくてもいいと思うわ」

 千歳は引きつった微笑みを浮かべながら答えた。どうしたんだろう?

 あと、夢を見た気がした。もうはっきりとは思い出せない。どんな夢だったけ……

「大丈夫?」

「ふぇ? う、うん」

 いきなり黙りこくってしまった僕を怪訝に思ったのか、また不安げに千歳が尋ねてきた。いけない。これ以上千歳に醜態をさらしたくない。僕はそれ以上夢のことを考えるのをやめた。

「もう少しだけ休ませて。あと少ししたら落ち着くだろうから、そしたらまた進もう」

「え、ええ」

 本当はまだかなり頭がズキズキして、気分も悪くすぐには回復しそうになかったが、精一杯に強がった。今まで情けないところばかり見せてきた分、ここでは男らしく振る舞いたかった。とはいえ今立ち上がったらすぐ倒れてしまいそうなので、少し休ませてもらう。

 どちらも口を開くことができず、気まずい沈黙が続く。こういうの、苦手だな……

 何か話題はないものかと考え、少し疑問に思っていたことを聞いてみる。

「そういえばさ、神井さんとは別に知り合いでもなんでもないんだよね?」

「え? ええ。そうよ。そう言ったじゃない」

 千歳が怪訝そうな顔をする。どうしてそんなことを聞かれるのか分からない様子だ。

「いや、気になってさ。だって知り合いでもないうえに、そもそもお互いにとって向こうは敵であるはずでしょ?それなのにさっきも、この前もなんだか仲良さそうに話してたじゃん。それがすごく不思議に思えるんだけど」

 そうなのだ。初対面であり、しかも千歳にとってはどうか分からないが、少なくとも神井さんにとって千歳はいつか衝突する可能性のある相手だ。それにもかかわらず、二人はいがみ合うどころか、普通に会話し、笑いあっていた。

 千歳は呆れた、と言わんばかりの顔をした。

「あんたが言えることじゃないでしょうが」

 ま、まあ確かに……

「別に仲良くなんてないわ。その証拠に、あいつはあたしの本名なんて一度も尋ねなかったじゃない」

「そういえば……」

 そうだったかもしれない。記憶をたどってみる。気にしていなかったが、確かに神井さんは千歳を本名で呼んだことはなかった。

「じゃあなんで……」

 最初の疑問に戻る。

「彼女の器が大きいだけよ。もうこのゲームも終盤だから、彼女みたいな人は珍しくないわ。殺し合っているからといって、常に喧嘩腰でいることをナンセンスと考える人たち。そういう人たちは他のプレーヤーと会った時、むしろ相手を同じように修羅場をくぐり抜けてきた尊敬に足る人物、対等に話せる奴として認識するの。だから普通に会話し、情報を交換しあう。もちろん互いに深入りする気は全くないし、街の外で会えばそれまでの関係に気を紛らわせることなく殺し合う。それにね、彼らはもうこの段階まで来て、自分が敗北することなんて微塵も考えていない。自分に確たる自信があり、だからこそ余裕のある態度でいられるのよ」

「なるほど……」

 感心してしまった。確かに神井さんには、もちろん千歳にだって、簡単には近寄れない、高貴な雰囲気がある。ここでいう近寄る、とは物理的な距離じゃなく精神的な距離で、という意味だ。

 なんだか自分が恥ずかしくなる。僕なんかが、なんの目標もない僕なんかが割って入れる世界ではないのだ。みんな僕なんかよりずっと高潔な存在で、互いに尊敬しあっている。

 疎外感を急に感じた。僕はこの世界で対等には見られていない。千歳も、神井さんも、それに小泉という男も、自分を対等な存在とはみなしていないだろう。悔しかったが、それよりもどうしようもない虚無感が広がる。

 黙りこくってしまった僕の胸中を察したのか、千歳はひとつため息をついたあと、慰めるように言った。

「別に周りと自分を比較して落ち込む必要なんてないわ。そんなこと考えて落ち込んでいる暇があるなら、どうしたら彼らと対等になれるか考えなさい。手始めに、もっと役に立つ護衛になってもらいたいものね」

 千歳の言葉は決して暖かいわけではなかったが、幾分心が軽くなった気がした。

「ありがとう」

 率直に自分の感謝の気持ちを伝える。千歳は柔らかい微笑みを浮かべた。

「そういえば、調子はどう?」

「ん? うん。ちょっとまだフラフラするけど、もう大丈夫。出発しよう」

 そう言って立ち上がった。

「そう? あんたがそう言うならいいけど。あんま無茶はしないこと。それが長生きのコツよ」

「了解」

 そう言って笑顔を見せる。本当はまだ頭がズキズキするし、気分も悪い。それでも立ち上がって歩こうと思った。いつか千歳と対等だと胸を張れる日にたどり着くまで、一歩ずつでも進んでいこう。


 洞窟を進んでいく。今度は僕が先頭を歩いていた。

 途中、コウモリ型や、蛇のようなモンスターが襲ってきたが、順当に倒していけた。落ち着いて対処すればただの雑魚だ。

 そうして進んでいくうち、開けた部屋にたどり着いた。随分広い。中央に据えられた大きなかがり火に煌々と照らされている。

「ボスでも出てくるのかな?」

「ん~……どうやら違うみたい。こういうのは大抵……」

 辺りを見回していると床に骨が落ちているのに気づいた。どうやら人間一人分ひと揃いになっているものが数人分あるようだ。近づいたら「どうやらしかばねのようだ」なんて表示されるんじゃ。そんなふざけたことを考えていると、

「うわ!」

 驚いて尻餅をついてしまった。骨が前触れなく浮かび上がり、数体分の骸骨が立ち上がった。手にはいつの間にか武器が握られている。盾と剣、弓、ハンマーなど様々だ。

(全部倒したら先に進めるってやつかな?)

 覚悟を決め、戦闘を開始する。


 骸骨は全部で六体いた。スカルソルジャーという名前らしい。

 一番近くにいたスカルソルジャーがハンマーを振り下ろしてくる。

 大剣で受けようと思ったが、攻撃が予想以上に重い。受け止めきれず、尻餅をついてしまった。

 アクセルで俯角45度方向に地面をけり、起き上がりながらいったん距離をとる。

(ボスじゃないみたいだし、7thアビリティは温存しておこう。)

 7thアビリティが使えれば隙をついて一網打尽にできるが、そうするときたるボス戦が苦しくなる。

 5thアビリティを発動させる。1秒の待機時間の後、光鎚を叩き付ける。

「うりゃあああああ!」

 ハンマーを持ったスカルソルジャーは吹っ飛び、奥にいたもう一体を巻き添えに転倒した。

「わ!」

 どこからか飛んできた矢が僕を貫通した。鋭い痛みが体の内側から広がる。気持ち悪い!

 辺りを見渡すとスカルソルジャーが弓に矢をつがえてこちらを狙っていた。そうはさせるか!

「あああ!」

 掛け声とともにアクセルで一気に距離を詰める。右下から左上に向かって思いっきり切り裂き、返す刀で全力で突いた。

 弓を持つスカルソルジャーがよろめいて倒れる。

 間髪入れず、上から下に叩き付けるように光鎚を叩き込む。

 スカルソルジャーは地面に跳ね返されて空を舞った。重力にひかれて落ちる前に、野球のバッターのように思い切りスイングする。弓のスカルソルジャーはそのまま吹っ飛び、空中で消滅した。まず一体。

 息をつく暇もなく、いつの間にか後ろに回り込んでいた剣と盾を持つスカルソルジャーに切り払われる。

「ぐあ!」

 よけられず、地面を転がる。

 起き上りざまにライトスラッシュを放つが盾に防がれた。

(小癪な!)

 アクセルでスカルソルジャーに突っ込む。続けざまに大剣を何度も打ち据える。大剣の重量と剛力の効果で圧倒するが盾に防がれ、ダメージを与えられない。そうこうするうちに、ハンマーを持つスカルソルジャーと二刀流のスカルソルジャーに接近され、三体のスカルソルジャーに囲まれた。

「くそ!」

 大剣を振り回し、三体を牽制する。その隙に剣と盾を持つスカルソルジャーに突きを叩き込む。

 盾で防がれた。

「うおおおおおおおおおお!」

 そのままアクセルを発動させ、目の前のスカルソルジャーとともに包囲網を脱出する。

 剣と盾のスカルソルジャーを壁に叩きつけた。

 衝撃で僕側に跳ね返り、一瞬無防備な姿を晒す。

 その隙を見逃さず、右から左になぎ払う。

 後ろから迫ってきたさっきの二体を同じようになぎ払って吹き飛ばす。

 剣と盾のスカルソルジャーに迫り、光鎚叩き込む。

 盾で防がれたが、敵は吹っ飛んで倒れた。近寄り、6thアビリティ『光剣』を発動させる。3秒の待機時間の後、大剣の剣身が光を纏った。それをやっとのことで起き上がった剣と盾のスカルソルジャーに叩き込む。

 光剣は盾を易々と切り裂き、スカルソルジャーを寸断した。二体目!

 後ろを振り返ると二刀流のスカルソルジャーが剣を振りあげていた。振り下ろされる剣を大剣で防ぐがもう一本の剣が舞い、切り裂かれる。

「ぐあ!」

 後ろに一旦下がり、距離をとる。体勢を立て直したあと、二刀流のスカルソルジャーに突っ込む。

「うりゃあああああああああ!」

 掛け声とともに大剣を振り下ろすが二刀流のスカルソルジャーは二本の剣をクロスさせ、受け止めた。

 動きを止めることを余儀なくされた僕に横からハンマーが襲う。

「ぎゃ!」

 吹き飛ばされ、大剣を取り落としてしまう。

 痛む脇腹をおさえながら大剣に近づき、拾い上げる。今のは効いた……なかなか痛みがひかない。

 呻く僕に二体のスカルソルジャーが迫る。

「くそ!」

 前かがみになりながらアクセルを発動させ、二体に体当たりを仕掛ける。よろめいて倒れた二体を尻目に6thアビリティを発動させる。

(ここらへんはやっぱりただAIで動く敵キャラだな。)

 プログラムされた同じ動きで二体のスカルソルジャーはその場で立ち上がり、待機時間を終えた僕の目の前に無防備な姿を晒した。

「あああああああああああ!」

 光剣をなぎ払うように右から左に振りぬき、二体をいっぺんに切り裂いた。やっと四体……

「ぐっ」

 痛みがぶり返し、膝をついてしまう。

(あとはどこいった……)

 辺りを見渡すがスカルソルジャーの姿はない。どうやら残り二体は千歳が片付けたようだ。

 いつのまにか千歳が側にいた。仕方ないわね、とでも言いたげな微笑みを浮かべている。

「ほら、護衛なんだから主人の手を煩わせない」

 そう言いつつ、手を差し伸べてくれた。

 照れくさくて目をそらしながらその手を取る。

 千歳に引っ張られて、立ち上がる。

「ありがと」

「どういたしまして」

 何気ない会話を交わし、千歳は床のある地点を指さした。

「下へ続く階段が現れたわ。行くわよ」

 よく見ると確かに階段が出現していた。そこだけ切って貼り付けたようなすごい違和感を醸し出しているが、ゲームなんてそんなもんだろう。

 さっきの決意も何処へやら。僕は千歳の後を追って下に降りていった。

 うん。やっぱり僕が千歳の前を歩くのは似合わない。僕には千歳の後ろが一番フィットする気がする。

 ……決して逃げてるわけじゃないよ?絵面的にっていうか、こっちのほうが安心するっていうか……

 そんな誰にともわからない言い訳を内心でしながら先に進んで行った。


 下の階もさっきまでと変わるところはなかった。かがり火に照らされた洞窟を進んでいく。

 途中、さっきと同じような部屋があったが、さっきよりは苦労せずに突破できた。だいぶ慣れてきたかな。

 その部屋では下に降りる階段ではなく、前に進む道が出現した。そのまま前に進む。

 しばらく進むとさっきまでの部屋より一回り大きい大部屋にたどり着いた。その部屋の、今僕たちが来た道の反対側には出口が存在した。外の風景を切り取っている。

「やっと抜けたのか……」

 フラフラと吸い寄せられるようにそっちに向かって歩きだそうとすると、

 ズドン、という大きな音とともに巨大な塊が落ちてきた。地面が揺れる。

 その物体は起き上がり、二本足で立った。

「グオオオオオオオオオオオオ!」

 唸り声を上げた。

 そいつは二本足で立つ大きなサソリ型の怪物だった。スコーピオンソルジャーという名前らしい。

「ボスね。あんたに任せていいかしら?」

「ああ」

 迷わず答え、大剣を構えた。

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