第1話C
彼女と一緒に喫茶店を出る。コーヒー代はちゃんと払うことができた。また過去の自分に感謝しないといけない事が増えたな。
この町はRPGの舞台とは思えないほど現代的デザインだった。
聞けば服も買うことができ、普通にお洒落できるとか。
ちなみに今の僕の格好はベージュのズボン、パッとしないTシャツの上にチェックのシャツを羽織っただけという、なんとも言えない格好をしていた。
飲食店も様々で、ファストフード店から寿司屋まで、より取りみどりだ。
「何でこんな現代風なの? せっかくRPGの世界なんだから、もっと雰囲気出せばいいのに」
「…………」
彼女は答えない。僕の前を歩いたまま、背中を向け続けたままだ。まださっきの件で怒っているのかもしれない。
「どうでもいいけど、後で床屋に行ってきてね。さっきまでは気にしてなかったけど、一緒に行動するとなるとあんたのボサボサの髪と汚ならしい髭は鬱陶しくてたまらないわ」
「……分かったよ」
背中を向けたまま話す。さっきより言葉遣いが汚くなった気がする。やはり怒っているのだろう。申し訳ない……
「とりあえずクエスト案内所に行くわよ。そこで練習にちょうどいいクエストを受けてもらうわ。一緒に行動する以上、最低限の戦闘ができるようになってもらわないと困るから」
クエストか……
死の危険があるにも関わらず、僕は少しワクワクしてしまった。
こんな風に女の子と一緒に旅をして、モンスター達と戦い、ピンチのヒロインを助けたりする。そんな妄想をしたことのある人は少なくないはずだ。それに近いことが今現実になろうとしている。少しくらい胸を踊らせてしまってもバチは当たらないはずだ。
そういえば、
「そういえば君の名前を聞いてなかった」
さっきからそれどころじゃなくて、命の恩人の名前も聞いていなかった。
「ああ、そういえば言ってなかったわね」
と彼女は呟き、顔だけ振り向いて答えた。
「隅田千歳」
それだけ言い、また前を向いてしまう。
隅田さんか……
なんだかファンタジーな世界に迷いこんだのに、出会った人の名前が普通すぎて、拍子抜けしてしまった。
「ここがクエスト案内所?」
「そうよ。文句あんの?」
「いや、ないけど……」
さっきから彼女はずっと不機嫌そうだ。まあ原因は僕なんだけど。
クエスト案内所ははたして、まったくイメージと違っていた。ビルの一階にところをかまえ、見た目は不動産屋と変わらない。完全に夢を壊された。雰囲気ぶち壊しもいいところだ。
落胆する僕に構わず、千歳はズンズンと案内所に入っていく。入り口は自動ドアだった。慌てて後を追った。
「へいらっしゃい!」
中にいた親父がまるで八百屋か何かのような出迎え方をする。親父の格好は僕が想像してたクエスト案内所にいる親父としてぴったりマッチしていた。店内の装飾も所々イメージ通りだった。入り口はガラス張りだけど。
「これがいいわね」
千歳はカウンターの上に貼ってあった表の一番上に書いてある項目を指差して言った。
なになに……?
『ビッグボーアル討伐 推奨レベル4,000 報酬4,000G クエストコード663-559』
見たところ推奨レベルはこのクエストが最低のようだ。練習ならこれがいいだろう。
「自分のレベルってどうやって見るの?」
と千歳に尋ねる。
「メニュー見て」
ぶっきらぼうに返されるが、気にしない。
メニューを開くとステータスという項目があった。それをタッチする。
Lv. 6,127
HP 7,659,522/7,659,522
EXP. 9,265,894
なんか数字がいろいろおかしかった。
参加者が千人だとか、最高レベルが9,999だとか聞いた時点である程度想定していたが、予想以上に滅茶苦茶な数字だった。
「何レベルだった?」
「6,127」
正直に答える。言っててばかばかしくなる数字だ。
しかし彼女は気にする風もなく、
「ふ~ん……わりと高いじゃない」
わりと高いらしい。千歳がそう言うんだからそうなんだろう。
「それなら大丈夫でしょ。ほら、向かうわよ」
「あ、ああ……」
千歳に引っ張られるように店を出た。
「また来てくれよ!」
親父が豪快に見送ってくれた。
メニューの中にマップという項目があった。マップの検索機能にクエストコードを打ち込むと目的、ビッグボーアルとやらの位置がわかる。そこに徒歩で向かうことになった。
さっきまでいた町は風景こそ現代風だったが、やはり現代の町と決定的に違うところがあった。町の外と内側に境界線が存在することだ。日本の町は基本的にどこまで行っても街並みが続く。がらっと変わることはない。ところがここの町は一歩決められた境界線(柵が立っていた)を越えると、あとは道が続くばかりで、道沿いには何もなくなる。せいぜい案内の標識があるだけだ。
柵を越えた瞬間、千歳の服が変わった。年頃の女の子らしいおしゃれな私服から、さっきの魔法少女のコスプレみたいな格好に変化する。
びっくりしていると、
「あんたも戦闘用の服に変えたら? メニューで切り替えられるわよ」
と説明してくれた。
「やっぱり戦闘用の服の方がステータスあがるの?」
メニューで服装の替え方を探しながら尋ねる。
「いや、まったく」
「…………」
驚くべきことに、ここはRPGの世界であるのにもかかわらず、装備によってステータスが変化することはないらしい。戦闘服も私服と同じように店で買っておしゃれできるようだが、戦闘にはいっさい関係ないという。実際、私服のまま戦っても問題ないらしい。
「雰囲気よ雰囲気」
千歳はてきとうなことを言うが、一理ある。こんな私服のまま戦う気にはなれない。
メニューで服装を切り替えるのと一緒に、オートで服が切り替わるように設定する。
僕の戦闘用の服は案外まともだった。私服を見たときは未来の自分の服のセンスに絶望したが、こっちはまともだ。頑丈そうな布の部分部分に板金が貼ってあって強化されている。それでも不思議なことに負担になるような重みはない。靴は下地が黒のおしゃれな長靴になっていた。上も下も、動きづらい部分はない。
チュートリアルを見て戦闘の仕組みを覚えながら歩く。しばらく歩くと前と同じ草原に入った。
視界の左上の隅に表示させ続けているマップを確認する。目標は近い。いよいよ戦闘が始まる。
さっき千歳が闘っていたイノシシみたいな毛むくじゃらが何匹か現れた。飛び跳ねながらこちらに向かってくる。よく見るとなかなか可愛らしいデザインだった。こいつはボーアルという名前らしい。ということはビッグボーアルはこいつのでかい版なのだろう。
戦闘開始だ。
このゲームは基本的に自分の持つ七つのアビリティを駆使して闘う。まず一つ目、1stアビリティ。1stアビリティは武器を出すだけだ。
僕の武器は剣らしい。剣を握る自分をイメージする。すると、
「お!」
手の周りに青白い光の粒が出現し、収束してだんだん剣の形を創っていく。
ずいぶん大きな剣だな、と思った次の瞬間には、
「うわあああ!」
僕は素っ転んでいた。
「ぶもおおお!」
なすすべもなく転がっている僕にボーアルが突進してきた。想像以上の衝撃を食らい、吹き飛ばされて無様に転がる。
「ぐはっ……!」
一瞬息が詰まる。今のは効いた……!
「何やってるのよ……」
見守っていた千歳が呆れ顔で言う。
「いや、だって……」
追撃をかわすため素早く立ち上がり、走って逃げながら誰に言うでもなく言い訳する。剣がとてつもなく重かった。当然といえば当然だ。僕の装備は大剣だった。1メートルはありそうな分厚い鋼の刃がついている剣だ。重いに決まっている。
地面と柄の間にサンドイッチされた指の先がジンジンと痛む。痛い!
地面に取り落とした剣に駆け寄る。拾おうとするが、重すぎてまったく自由に扱えない。これで戦うなんて絶対無理だ。
またボーアルがとびかかってきた。大剣を放り出し、転がるようにしてかわす。
さっきまでかっこよく剣をふるって闘う自分を夢想していたのに! 思い通りにいかず、歯噛みする。
「はぁ……そういう時はね、だいたい2ndアビリティを使ってから武器を出すのよ」
2ndアビリティ。自分に補助・強化魔法をほどこすアビリティだ。魔法の種類は違えど、自分の戦闘を補助する魔法を自分にかけるという点は、全プレーヤーに共通する。僕のは……『マッスルアップ』。『剛力』を付与するアビリティか……
なるほど『剛力』というのだからきっと筋力が強くなるのだろう。だけど……
「ふつう武器持ってからそういうの使うだろ……」
補助魔法を使わないと自分の武器さえ持てないのは斬新だった。
2ndアビリティを発動させる。基本的に操作はイメージするだけでいい。
バンッという軽快な音とともに僕の周りを螺旋状に数字が取り囲む。1.000……からすぐに0.000……になる。これは待機時間といわれ、まあ呪文の詠唱時間と同じだ。その間は体を動かすことができず、その間に攻撃されると途切れてしまい、また最初から待たなくてはならない。
『マッスルアップ』を発動し、『剛力』を自身に付与する。その直後、またボーアルがとびかかってくる。今度は全身を高速回転させながらぶつかってきた。きっとただの突進よりも威力のある攻撃だろう。横に跳んでかわす。危ない……
もう一度大剣に駆け寄り、大剣の柄を両手でつかんで、今度は持ち上げられた! 『剛力』のおかげだろう。体に特に変化は感じられないが、大剣をそんなに苦労せずに持ち上げられる。ただ、自分の体重は変わってないわけで、重いものを持つとどうしてもバランスがとりにくい。
「あんたのみたいな大型の武器は繊細な動きができない分、一撃が重いから、それを生かすことね」
千歳がアドバイスしてくれた。
ちなみに『剛力』は全身の筋力を増加し、攻撃力を上げる効果があるようだ。
基本攻撃はこれを振り回して当てること。
「うらぁ!」
とびかかってきたボーアルを大剣で、右下から左上へ薙ぎ払う。吹き飛んだボーアルに向かってそのまま大剣で突きを繰り出した。
ボーアルは吹き飛びながら青白い光の粒子に分解し、散っていった。まずは一体撃破だ。
「ぶもおおお!」
他のボーアルがとびかかってくる。また剣ではじくと、今度は金属同士がぶつかり合ったような、甲高い音が鳴る。こいつ、毛むくじゃらじゃない!
よく見るとそいつはほかのボーアルとは違っていた。全身に鎧をつけているように銀色の金属を纏っている。
そのまま少し距離を置いて対峙する。
よし、試しに3rdアビリティというのを使ってみよう。
3rdアビリティは、僕みたいな近距離型の武器を扱う者が持つ、唯一の遠距離攻撃だ。僕の場合は光の刃を放つことができる。
剣の先で描いた弧を飛ばすようなイメージを持って、左下から右上に剣を振る。剣先が描いた残像に沿って、黄色に光る弧が現れ、まっすぐに飛んでいく。
鎧のボーアルに直撃した。ガンッという大きな音を立て、ボーアルが吹っ飛ぶ。
やはり飛び道具はいい。威力が少し低いが、反撃されずに、一方的に攻撃できる。
続けて光の刃を連射していると、鋼のボーアルも消滅した。
そのまま順調にボーアル達を殲滅していく。こんなに順調だと、まるで僕に高い戦闘センスがあるように思えてくるが、何のことはない。種明かしすればただのレベル差の暴力だった。
十体目のボーアルを倒して、案外余裕だな、なんて油断していると、どこからかまっすぐな光の線を描いてビームが飛来し、僕の肩に直撃した。
「がっ!」
はじかれたように地面に転がる。
まずいっ! 直感的に身の危険を感じ、そのまま地面を転がると、さっきまで僕がいた場所を薙ぐように同じビームが通過していった。
立ち上がり、敵の姿を探す。見つけた。新手の雑魚だ。透き通った翡翠色をした、幾何学的な立体図形の形をしている。またビームを発した。横に跳んで逃れる。
僕は4thアビリティを発動させる。1秒の待機時間をやり過ごし、強く地面を蹴る。一瞬で体が加速した。
4thアビリティは『アクセル』
僕みたいな近距離型のプレーヤーが総じてもつ、基本アビリティ。一秒の待機時間の後に自身を加速させる、近距離型として必須のアビリティだ。
『アクセル』で加速し、一瞬でさっきの無機質なモンスターとの間合いを詰め、横一閃に大剣で薙ぐ。一撃で仕留められた。
そうして、何体も雑魚を倒し、だんだん慣れてきた頃。どこからか突然地響きが聞こえてきた。
ドドドドドドドドドドドドドド……
地響きはだんだん大きくなる。
「な、なんだ?」
訳が分からずあたりを見回すが、何も見えない。
「やっとおでましね。ほら、今日のメインディッシュよ」
千歳が指差した方をじっと見る。最初は黒い点が見えた。しだいにそれが大きくなる。やっと気づいた。何かとてつもない重量を持った物体が、こちらにとんでもないスピードで向かってきているのだ。
「ひっ」
原始的な恐怖を呼び起こされ、思わず悲鳴をあげてしまう。
なに、案じることはない。と自分をなだめる。まだここにたどり着くまでには時間がある。それまでやつは格好の的だ。
おそらくビッグボーアルだろう。こちらに向かって突進してくる物体に向かって光の刃『ライトスラッシュ』を連射する。命中しているかどうかは分からないが、かわすような動きは見えない。
だんだん近づいてくる。地響きも大きくなってきた。目でそいつの挙動が正確に見えるようになって、僕は違和感に気づいた。
いままでの雑魚はライトスラッシュを当てるとぶつかった衝撃でよろけたりと、何かしらエフェクトがあった。だけどこいつは当たっても何の反応もしない。さっきから連射しているライトスラッシュはすべて命中して、おそらくやつのHPを減らしているが、やつはそれを気にすることなく、ただただ突進してくる。
「う、うわっ」
逃げ出したくなる衝動に駆られるが、踏みとどまる。
(お、落ち着け!)
やつが近くに来るまでこのままライトスラッシュを連射し、轢かれそうになる直前に回避する。これを繰り返せば勝てるはずだ!
そのまま連射を続ける。
「ブモオオオオオオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」
ビッグボーアルが目前に迫る。でかい! まるで引っ越し用のトラックが突っ込んできてるようだ。地響きが半端じゃない。
連射をやめ、回避行動に移る。
しかしビッグボーアルはその巨体と速度からは想像もできない軌道で僕を追ってきた。
「ブモヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」
「うわあああああああああ!」
逃げ切れない!とっさに僕は剣を振り上げ、迎い討とうとするが、タイミングが合わず、そのまま吹き飛ばされる。
「かはっ……!」
意識が遠退く。
「がっ……!」
浮遊感を感じていたのは束の間で、すぐに地面に叩き落とされる。その衝撃で意識を引き戻された。
呼吸がしばらく止まる。全身を打ちのめした打撃の痛みにのたうち回る。
しばらくそうしているうち、はっと気づく。
(やつはどこだ?)
視界が霞む。痛みでうまく働かない頭を無理やり動かしてビッグボーアルの姿を探す。
ビッグボーアルの走ったあとの草はみんななぎ倒され、土埃が舞っていた。
また地響きがなる。さっきより小さな音だが、こっちに向かってきている!
「う……あ……」
這うようにして移動する。
(も、もうやだ……)
帰りたい。もうこんなのまっぴらだ。
地響きが近くなる。気がつくとビッグボーアルはすぐ真上にいた。
「ブモヲヲヲヲオオオ!」
後ろ足だけで立ち、前足を高々とあげている。
「あ、あ、あ……う、あ、」
情けない声が漏れる。
「オオオオオオヲヲヲヲヲヲ!」
「ああああああああああああ!」
死力を尽くして左に転がる。
間一髪避けることができた。地面にクレーターができる。衝撃で体が浮いた。
「あ、あ、あ、」
弱々しく立ち上がり、千歳のところまでよろよろと歩いていき、また崩れ落ちる。
「た、たすけ……」
またも情けなくすがり付く。
「いや、何で護衛が主人に助け求めてんの!? おかしいでしょうが! ほらっ。立て! 立ちなさい! ああもう、立ちなさいってば!」
千歳に両脇を抱えられ、立たされる。
「ほら! ちゃんとしなさい! ボスとの戦いかたは説明したでしょ!? 頑張りなさいよ! 逃げ出したら解雇だかんね!」
「む、無理だよ……」
あんな怪物倒せるわけない。最初から無理だったんだ……
ビッグボーアルは上体をおこして前足を振り回し、雄叫びをあげている。
「じゃあ知らないわよ!?」
千歳は僕から手を離した。
僕はそのまま崩れ落ちる。
「そのまま死ねばいいわ! さようなら!」
僕は膝をついて項垂れる。
そうだ……
そうだよな
もう甘えたことを言ってられる状況じゃないんだ。
簡単に諦められる状況じゃない。いままでみたいに好きなタイミングで諦められる状況じゃないんだ。
諦めたら死ぬ。
死にたくない。こんなどことも分からない場所で、何にも思い出せずに死ぬなんて嫌だ。絶対に嫌だ。
立ち上がる。
千歳は何も言わず僕のことを見ていた。
唇を噛んで恐れを封じ込めようとする。手を固く握って震えを止める。
ビッグボーアルを正面から見据えた。
「ブモオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」
ビッグボーアルが突進してきた。
今度はアクセルを使って避ける。
ビッグボーアルは簡単には方向転換できない。大回りして僕に方向を定める。その隙にライトスラッシュを叩き込みまくる。
千歳のアドバイスを思い出す。千歳はこう言っていた。
今はこのゲームも終盤で、プレーヤーもモンスターも高いレベルで争っている。そのせいで攻撃力、防御力、体力のバランスが崩れてしまい、対プレーヤー戦、ボス戦においては基本攻撃だけで倒すのは実質不可能になっているそうだ。だから決着をつけるには高い攻撃力の攻撃をするしかない。
ところで、すべてのプレーヤーには必殺技として7thアビリティが与えられている。これは文字通り必殺だ。数千のレベル差など関係なくただ一撃で相手を滅ぼすことができる。
つまり、ボス戦、対人戦においてはいかに7thアビリティを叩き込むかが決め手となる。
ただ厄介なのは7thアビリティの待機時間が10秒もあることだ。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
また同じようにビッグボーアルを避ける。
ここが正念場だ! 覚悟を決めろ!
今度はさっきと違い、もう一度アクセルを使ってビッグボーアルの真後ろに近づく。そのまま一秒の待機時間を待って5thアビリティを放つ。
5thアビリティは追加エフェクトを与えるアビリティだ。追加エフェクトは吹き飛ばし、叩き上げ、叩きつけ、ノックバックなど様々な種類があるが、要は相手に隙を作らせることのできるアビリティである。
僕の持つ大剣が光を放つ。そのまま切っ先を思い切りビッグボーアルに叩きつける。
「ブモヲヲヲヲ!」
僕の5thアビリティ、『光鎚』は相手にダメージとノックバックの追加エフェクトを与えるアビリティだ。
そのままビッグボーアルは後ろに飛ばされ、運のいいことに横に倒れた。
「ブモオ!」
起き上がろうともがく。
剣先を後ろに向け、腰にかまえる。
バンッという軽快な音ともに10.000……という数字が僕を螺旋状に包む。
9
8
7
6
永遠とも思える10秒間をじっと耐え続ける。
5
4
3
ビッグボーアルが起き上がった。威嚇のように上体を起こして叫びをあげる。
「ブモヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」
2
1
0.000……になった。
「うおおおおおおおおおおおおおをををををををを!」
負けじと怒声を張り上げ、剣を右下から左上へ思い切り薙ぐ。
剣の延長線上にまぶしい黄色の光が伸びる。それをビッグボーアルに叩きつけた。
轟音とともに、
ビッグボーアルの影が消し飛んだ。
「まあ、それなりによくやったと思うわ」
千歳が誉めてくれた。
凄まじい達成感に、ふう、と息を吐く。
一時はどうなるかと思った。一歩間違えていれば死んでいた。でも今はそんなことよりこの余韻に浸りたい。
「やっちゃえば簡単だったでしょ?」
「まあ、確かに」
やり終えた後だからこんな風に思えるのかも知れないが、冷静に戦えばあっけなかった。まあレベル差を考えれば当たり前かも知れないが。
日はすでに傾いている。いつの間にかもう夕方だった。
「一応合格にしてやるわ。しばらくの間だけ、一緒に行動してあげる」
千歳はにっこりと笑った。
一瞬ドキッとしてしまった。いけないいけない。そんな下心見せたら、気持ち悪がられてやっぱり嫌だと言われかねない。
「さ、帰るわよ」
千歳が歩き出す。僕も後に続いて歩き出した。
早く帰りたい。でも別に急いでもないのに転送装置を使うのはもったいないからと歩いて帰ることになった。
まあ、のんびり歩きながら帰るのもいいかも知れない。
いろいろ考えたいことがある。これからのこととか。
もう悲観にくれてうずくまるのはやめようと思った。そんなことより、この先どうなるか分からなくても、一歩ずつ前に進もう。
「ん?」
僕の頭上に黄色い円盤が浮かんでいる。天使にでもなっちゃったのかな、と下らないことを考えている間もなく、
「ぎゃ!」
その円盤から雷が落ちてきた。直撃し、地面に叩きつけられる。また頭上に同じ円盤が現れた。半ば本能で避ける。
何事かと辺りを見渡す。
夕日を背に一人の女性が立っていた。
千歳と同じ杖持っているが、服装が違う。千歳は帽子から服まで全部まっくろだったが、その女性は帽子から服まで全部黄色だった。
女性が手を前につき出す。
(あれは……)
危険を直感で感じ、走り出す。
彼女の手のひらから黄色い塊が打ち出された。
To be continued ……




