第1話B
「う~ん……記憶喪失ってやつかしらねぇ……」
「はぁ……記憶喪失……ですか?」
僕たちはある町の喫茶店で話をしていた。
ここまでの経緯を簡単に説明しよう。
あのあと……
僕は目覚めたらここにいたこと、なぜここにいるのかも分からないことを懸命に説明しようとした。ところが僕の必死さにも関わらず、彼女はなかなか納得しようとしなかった。
よく分からなかったが、どうやら彼女は僕が彼女を殺しにきたものだと信じて疑わないようだった。しまいにはやれ男らしくないだとか、やれそんなのでこちらが油断するとでも思っているのかだとか滅茶苦茶なことを言い出した。
彼女がなぜ、僕が彼女を襲おうとしていると考えているのか分からなかったが、とりあえず説得を続けていると、渋々ながらも僕の必死さに何か感じてくれたらしく、
「仕方ないわね……」
とぼやいて何やら手を空中で動かし始めた。まるでタッチで操作する画面をいじっているかのような動作だったが、いかんせんそこにはタッチパネルなどなく、僕はさらに困惑した。しまいに僕は(もしかしたら彼女ちょっとアレな人なのかもしれない)なんて考えてしまった。
「あの……何してるんですか?」
とおずおず聞くと、
「うるさいわね……」
と言われたので黙ることにする。
しばらくすると突然、破裂音に似た軽快な音と共に、彼女のまわりを螺旋状に取り巻くように何やら数字が浮かび上がり、その数字が高速で変化し始めた。
あまりに非現実な光景にしばしあっけにとられて見ていたが、よく見るとカウントダウンタイマーのように数字を減らしているようだ。もっと厳密に言うなら、10.000……という数字から1秒ずつ減らしているようだった。十の位から、頭から足に向かって螺旋を巻いているが、当然もう十分の一の位から下は数字の変化が早すぎて何を表示しているか分からない。
しばらくして数字が0.000……になるとこれまた突然地面に円盤が現れた。直径1メートルくらいの円で中心を同じくする直径50センチくらいの部分がオレンジ色に光っている。
いよいよアニメかゲームの世界に迷いこんでしまったのかと呆然としている僕に彼女が言った。
「早く乗りなさい。立ち話もなんだから場所を変えましょう」
戸惑っていると、焦れったそうに「早くしてよ」と言われてしまったので、仕方なく僕は円盤の上に乗る。
突然視界が真っ白になった。
ビックリして慌てようとするが、次の瞬間、慌てる間もなく僕は見知らぬ町にいた。見慣れてはいないが、普通の町だ。車の通るべき道や標識、歩道と車道を分ける段差、白い線がないが、至って普通の通りを何人かが歩いている。突然現れた僕に驚く人はおらず、ぼけっと立ったままの僕をちらっと見るだけで、声をあげて騒ぐ人はいなかった。道に沿って二階建てくらいの建物や小さいビルが並んでいる。
お前はさっきから何度驚いたり、戸惑ったり、呆然としたりするんだと言われそうだが、またもや僕は呆然としてしまった。
(なんだこれ? ワープ? SF? 夢? 夢オチ?)
そんな訳の分からないことを考えていると、となりに前触れなくさっきの少女が現れた。服が変わっている。さっきのコスプレみたいな服から、一般的な女の子の私服に変わっていた。もう驚く元気はない。
「ほら、行くわよ」
彼女に案内され、とある喫茶店に連れていかれた。
そして現在にいたる……
「とりあえず覚えていることを話してみて」
「え? えっと……」
覚えていることか。考えようとすると頭がズキッといたんだ。気にせず自分の基本情報を話す。
「名前は斎田優樹。14歳で、中学に通ってます」
彼女が笑いだした。
「はあ? 中学生? あんたが? これは記憶喪失で当たりね」
何も分からず黙っていると、
「いいから鏡でも見てきたら?」
トイレにでも行ってこいと促され、トイレに向かう。
彼女の言うことが分からなすぎて、だんだんイライラしてきた。
(なんなんだよ)
と思いながらトイレに入り、鏡を見て
固まった。
どんよりとして帰ってきた僕を彼女はニヤニヤしながら出迎えた。
「どうだった?」
「いや、どうって……」
記憶にある顔より、老けていた。本当なら成長していたと言うべきなんだろうが、髪はボサボサで、無精髭がすごく、もはや老けていたとしか言えなかった。男らしくなったとポジティブに考えることもできなくはない。
「客観的に見て、あんたの歳は20は越えてるわね。多分記憶喪失で最近10年間くらいの記憶が吹き飛んで、まあ良い言い方すれば、若返ったのよ。記憶だけ。それでここにいる理由も飛んじゃったわけね」
「はあ……でもそんな記憶喪失ってあるんですかね」
最近数年間の記憶だけ綺麗になくなるなんて。僕は自分のことを本気で中学生だと思っている。昨日も普通に登校して……あれ? 昨日何があったっけ? なんだか記憶がぼやけてうまく思い出せない。
「知らないわよ」
彼女はなげやりに答えた。
「まあ、現に起きてるんだから、そういう記憶喪失もあるんじゃないの?」
「…………」
どうやら認めるしかないようだ。僕が記憶喪失であることを。
「それで……」
「ああ、ここのこと? 仕方ないわね。あんたがあんまり可哀想だから、簡単に説明してあげる」
彼女は僕の不安を察してくれたようで、この状況を説明してくれた。
ここはどうやら、本当にゲームの世界らしい。信じられないが、今まで見てきたことを考えると、それを信じるしかなさそうだ。
僕の本体は現実世界で眠っていて、僕の精神だけコンピューターで再現された、仮想現実世界にいるらしい。そんな映画を見たことがあるから、イメージは簡単にわいた。
驚くべきことに、さっき僕がすれ違った人はみんなただコンピューターが作り出した擬似的な人間らしい。彼らをNPCと呼ぶとか。この世界には僕みたいな人間とNPCの二種類の人間がいることになる。
生身の体と感じ方は何の変化もなく、空気の流れや触感、今飲んでるコーヒーの感じ方まで現実のようで、とても自分がバーチャルワールドにいるとは思えないが、今まで見てきたことを合理的に説明するには、もうそれしかないのかもしれない。
ここはRPGのような世界で、僕が今までやったRPGのようにいろいろなところに冒険したり、モンスターと戦ったりするようだ。HPやレベルという概念もある。さっき彼女が戦っていた毛むくじゃらは、モンスターの一種なのだろう。
実際は全くロールしない、つまりリアルタイムで攻撃する戦闘システムであり、全く敵に攻撃のターンを与えず、攻撃し続けることもできるらしい。(もうそれはRPGじゃないんじゃなかろうか?)
そしてこのゲームの肝は、倒される、つまりHPが0になったら、現実世界の自分も死ぬこと。そして、他のプレーヤーを倒すことでそのプレーヤーのもつ経験値を根こそぎ奪えること。
「他人を殺して経験値を奪える?」
「そう。だからレベルアップしたかったらモンスターを倒すよりそこらへんにいるプレーヤーを殺して経験値を根こそぎ奪った方が簡単ってこと。まあ、食物連鎖ってやつに似てるわね」
HPが0になったら死ぬ、という時点で信じられないことだったが、プレーヤーが殺しあえる、というのは前代未聞だった。そんなオンラインゲーム、あるはずがない。
「どうして僕はそんなゲームに……」
失敗したら死ぬゲームなんて、中学生の僕だって危険すぎるのは分かる。ましてや20も越えた僕なら。
「このゲームを勝ち抜くことの賞品が、ゲームの主催者のもつ莫大な資金で何でも願いを叶えてくれること、だからだろうね」
「何でも……?」
「まあ、当然技術的、現実的に不可能なこともあるから何でもっていうわけにはいかないけど。金と技術で可能なことは何でも叶えてくれるそうよ。きっとあんたにはどうしても叶えたい願いがあったのよ」
「願い……」
考えてみたが、僕が何を願ったのか全く検討もつかない。何か大変なことがあって、どうしても叶えたい希望をもつことはありえると思うけど、命をかけて、しかも他人の命を奪ってまで叶えたいと願うなんて、自分が信じられなかった。
「でもそんなの、信じる人いるの?」
当たり前のことを聞く。そもそもそんな戯言信じる人がいるのか? しかもここはバーチャルワールドだぞ? 怪しげな機械に包まれて眠ることになるわけで、そんなのどんな悲願を持ってたってお断りだ。
「まあゲームの主催者もあらかじめ資金を持ってることを参加者の前で示したし、過去にその主催者に願いを叶えてもらった人が何人かいたし、まるっきり根拠ゼロってわけではなかったわね」
まあ、と彼女は嘆息し、続けた。
「それなりに信じられる状況ではあったのよ。でもね、多少胡散臭くても、いや、かなり胡散臭くても、それにすがりつくしか選択肢がないほど追い込まれた人なんてそんなに珍しくないと思うわ。もう後はただゆっくりと死ぬしかなくて、どうせ死ぬならって考える人間が」
「……」
正直なところ、僕にはよく分からなかった。僕がそんな状況に追い込まれたこともイメージできない。そんなことを聞いたら母さんはなんて思うだろうか。そういえば母さんはどうしてるだろう? 僕がそんな状況に追い込まれたなら、母さんも無事ではないのかもしれない。母さんに会いたい。でもこんな状況じゃ会うこともできないだろう。
「あ、あと信憑性を上げた一つはこのゲームでの勝者はたった一人ってことかしらね。参加者は千人位いたのに」
「一人?」
つまり……
「残りの999人はもれなく死ぬってことね」
「!」
僕は思わず立ち上がっていた。
「そんなの!」
僕はもう一度息を吸って、
「そんなの仮に信じたって、参加するやついないに決まってるじゃないか!」
「どうして?」
地団駄を踏みたくなる。
「確率が千分の一!? そんなの誰が挑戦するか!」
思わず怒鳴ってしまった。
まあまあ、と僕をなだめて
「これで信じやすくなるでしょ? そんなリスクがあるならって。それに博打みたいな運武天武じゃなくて自分の実力でなんとかなるんだから」
それに、と一呼吸置いて、
「さっきも言ったけど、これは追い詰められた人のゲームよ。もう死を覚悟した人が、もしくは人生に絶望した人が死ぬ前にと参加するゲームよ。こんなのリスクなんて思わないわ」
もう彼女の言葉が半分も入ってこなかった。
僕は机にうずくまって、涙を必死に堪えた。自分の生き残る未来が見えない。自分の死が間近に迫っていることを意識し、どうしようもない不安にかられる。
「まあそんなに悲観することもないわ」
と彼女が僕を慰めるように言った。
「どうして!」
僕は泣き声混じりの情けない声で怒鳴っていた。どうしてそんな何の根拠もない上っ面だけの慰めを言えるのかと叫びたかったが、声が出ない。
まあまあ落ち着きなさいと僕をなだめ、
「だってもうプレーヤーは50人もいないわ。もっと少ないかもしれない。その残りだって全部あなたが倒さなきゃならないわけじゃないのよ?あと数人に勝てばいいだけ。千分の一なんて非現実的な確率じゃないわ。あともう少し頑張ればいいだけ。ここまで生き残ってきた自分に感謝することね」
「あと数人……」
あと数人、殺さなきゃならないのか。
それは置いといて、と彼女は話を変え、
「もう少し私の話を聞きなさい。自分が生き残るためよ? ちゃんと聞いた方がいいと思うわ」
そう彼女に諭され、僕は鼻を啜り、少しこぼれた涙を拭った。
そうだ、僕は彼女の話を聞かないといけない。生きるために。
そして彼女は説明を再開した。
「まあ、まず経験値の話をしなくちゃね」
例えばあるプレーヤーがあるモンスターに倒されると、その人のもつ経験値はすべてそのモンスターに吸収されるらしい。
「プレーヤーと違ってモンスターは経験値を得てもレベルアップしない。だからあるモンスターがプレーヤーを殺しまくることで手におえなくなるってことはないから安心して」
そのモンスターを倒すと、そのモンスター分の経験値と、そのモンスターが得てきた経験値をすべて得られるそうだ。
また、クエストやダンジョンのボスを倒すと、そのクエストに含まれるモンスターや、ダンジョン内のモンスターすべてを倒したことになるらしい。つまり、ボスにたどり着く前に倒し損ねたモンスターがいても、ボスを倒せば倒し損ねたモンスターのもつ取り損ねた経験値を得ることができる。例えばダンジョンで、雑魚モンスターを一匹も倒さずボスのところまで行っても、そのボスを倒せば、すべての雑魚を倒したのと同じだけの経験値も得ることができる。
こうして、この世界の総経験値量は変わらない。そしていつかその経験値のすべては一人のプレーヤーに与えられることになる。
「この世界の総経験値量は一人のプレーヤーが最大レベル、9,999レベルになるだけの量しかない。つまり一人しか最大レベルになれないわけ」
最大レベルになったとき、このゲームのラスボスとの戦闘が可能になるらしい。そしてめでたくラスボスを倒すとゲームクリア。願いを叶えてもらえる。他すべてのプレーヤー達の命と引き換えに。
「こんなゲーム、企画して主催者にどんなメリットがあるんだ……」
僕がぼやくと彼女はため息をついて
「さあ? ……でも太っ腹じゃない。願いを叶えてくれるなんて」
少し不快そうな顔をして呟いた。
はあ、とため息を吐いてまた頭を抱える。
「あとは戦い方とか、そういうのはチュートリアル見てね。メニューから全部分かるから」
「メニュー?」
「左手を軽く手をあげるようにあげてそのまま右にスライドさせてみて」
言われたとおりにしてみる。
「うわ!」
突然視界に、まるでゲームの設定画面のように緑色の文字がホログラムのように浮かび上がった。
「タッチで操作できるから、後で適当に見といて」
同じように左手を挙げ、今度は左にスライドさせると画面が閉じた。
ビックリした……
「本当にバーチャルワールドなんだな……」
感心して呟いてしまう。
「だからそう言ったでしょ?」
と彼女は呆れたように言い、
「あと質問は?」
と尋ねた。
しばらく考え、
「僕はどうしてあんなとこで寝てたの?」
「知らん」
即答された。
「僕はなんて願いでこんなゲームに参加したんだろう……」
「知らん」
また即答された。
「僕は……」
その先を言いたくなかった。でも聞かなくちゃいけない。整理をつけるために。
「僕も……誰かを殺してきたのかな……」
「そうね」
彼女は容赦なく答えた。
「もうこの世界に、プレーヤーを殺したくない、モンスターを狩るだけで生きていく、なんて甘ったれたことぬかすやつは生き残ってないわ。この時点で生き残ってるってことはそれなりの数のプレーヤーを食ってきた、ということよ」
僕は黙りこんでしまう。
でも、と彼女は話を続けた。
「それで過去の自分を責めちゃ駄目よ。そのおかげであんたは今生きていられてるんだから。」
その通りかもしれない。僕が今ここにいられるのは過去の僕が他のプレーヤーを殺してきたからだ。それを感謝こそすれ、責めるなんてできないのだろう。でも信じられない。僕は今どんなに必要に迫られても人殺しなんてできない。何年かたって僕は変わったのだろうか。人はそんなに変われるのだろうか。分からない。過去の自分、いや将来の自分か、に問い詰めたい。どうしてそんなふうに変わってしまったのかと。
「君も……」
そこまで言って、これはまずいかと口をつぐむ。
「そうよ」
彼女は僕の聞きたかったことを察して、臆することなく答えた。
「私もたくさん殺してきたわ。殺して、殺して殺して殺して、殺してきたから私はここにいるのよ」
僕は思わずうつむいてしまう。どうしてそんなに平気で言えるのだろうか。想像するしかないが、多分、この世界に生き続けるには、それだけの覚悟がいるのだ。彼女はそんなものを、とっくの昔に乗り越えていたのだろう。
「じゃあどうして僕をそのまま殺さなかったの?」
彼女は何も分からない僕をそのまま殺しても良かったはずだ。その方がずっと合理的なはずだった。そんなことを考えて、自分が嫌になる。
私はね、と彼女は一呼吸おき、
「もう対プレーヤー戦はしないって決めたのよ。勘違いしないでよね。別に殺すことへの罪悪感とか、そんな下らない理由じゃないわ。とにかく私はもうプレーヤーを殺さないって決めたの。だからあんたを殺さなかった。こうして説明してあげたのは、そうね、あんたがあまりに惨めで、このまま何も知らずに誰かに殺されるのが不甲斐ないなと思っただけよ。きっと何かを願って戦ってきたあんたが、無意味に死ぬのが気に入らなかっただけ。それだけだわ。まったく、我ながら甘っちょろいと思うわよ」
彼女の言葉は素っ気なかったが、それでも胸にジンときてしまい、今度こそ泣きそうになってしまった。
「ありがとうございます……」
今はただ、感謝することしかできない。
「そんな惨めな顔するもんじゃないわ。まあ、私からはこれだけ。それじゃ、私はとっととおさらばすることにするわ。頑張ってね」
彼女が立ち上がる。
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「あとそう、食事は気をつけなさいよ。あんたがとった食事にあわせて現実世界にいるあんたに補給される栄養が決まるの。だからあんまり変な食生活続けると栄養失調で死ぬわよ。栄養失調とか、崖から落ちたりとか間抜けな死に方すると、あんたの経験値がプレーヤー全員に配られることになるから。こんなに長々と説明させておいて、下らない死にかたしたらひどいわよ」
帰り支度をしながら、僕を気にせずしゃべる。
「え、ちょっ、まっ」
「あ、そうそう、クエストとかして金稼がないと食事も泊まる宿も得られないわよ。まあ、プレーヤー倒すと経験値と一緒に有り金まるまるいただけるから、そっちでもいいけど。あとね、その惨めな顔はやめなさい。そんな顔してたらすぐカモだと思われて、殺されちゃうわよ」
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!」
僕はもう叫んでしまった。
「何よ?」
不機嫌そうに尋ねる。
「何よって……僕のこと、連れてってくれないの?」
「はあ!?」
彼女は心底驚いたように目を丸くした。
「何であんたなんか連れてかなきゃならないよ!お断りよ!」
「そんな!」
僕はすがりついた。
「お願いします!」
「イヤよ!」
彼女は心底嫌そうな顔をしたが、こっちだって命が懸かっている。こんな世界に一人で残されるなんてたまったもんじゃない。
「お願い! 何でもするから!」
「イヤ! 気持ち悪いっ! 離して! 誰があんたみたいな足手まとい連れてくのよ! ここまでやってあげたんだから、それだけで満足しなさいよ! あんた本当ならあの場で殺されてたのよ!」
もっともだが、それでもすがり付く。
端から見たら異様な光景だろう。大の男が少女に泣きながらすがり付いているのだから。
「お願いします! 一人にしないでぇ!」
「イヤって言ってるでしょ!? あ! こら! どこ触って……! イヤ! イヤァァァァァ!」
もう警察ごとになりそうな勢いだったが、ここには警察を呼ぶ人なんていない。
バカ騒ぎはしばらく続いた。
「はぁっ……はぁっ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
二人して荒い息を吐く。
「お願いします!」
それでもと力を込め懇願する。
「はぁ……もう、分かった、分かったから……一回離れてくれる?」
「やった!」
僕は素早く彼女から離れる。
「まったく……調子のいい……しばらくの間だけだかんね」
「分かりました!」
満面の笑みで答える。男の尊厳は失ったが、もうそんなことに構ってられない。
「……とりあえず、護衛でもやってもらいましょうかねぇ?」
「護衛?」
「そう。護衛。私もいつ他のプレーヤーに襲われるか分からないから、襲われた時、私が逃げるまで時間稼ぎしてちょうだい。……無理とは言わせないわよ」
護衛か……
正直、不安だった。僕に勤まるだろうか? でもやるしかない。護衛ということは彼女を守ればいいのだ。別に倒さなくてもいいはずだ。
「分かった。命に代えても守る」
カッコいいことを言ってみたが、
「期待してないわ」
即答された。




