第6話D
一人仲間(?)が増え、三人でダンジョンを移動する。
裕に会ってから、ちょっとのんびりしすぎた。少し急ぎ目にダンジョンを進む。
「お、おい。そんな早足で行くなよ」
「え? う、うん」
そうは言っても、そろそろ本格的にお腹が空いてきた。早くお肉にたどり着きたい。
「そういえば」
気になっていたことを思い出し、裕に尋ねる。
「どうしてあんなとこに刺さってたの?」
「あ? ああ。あれはな……」
何だそんなことか、といった風に笑い、裕が続ける。
「なんかあの花から甘い美味しそうな匂いがしてたんだよ」
「うん」
確かに裕が纏っていたあの蜜からは微かに甘い香りがした。
「それだけ」
「うん。うん?」
なんか話が一気に飛んだ気が。
「千歳、分かった?」
不安になって、先頭を行く千歳に確認する。
「そりゃもちろん」
千歳は短く答えてすぐに顔を正面に戻してしまった。
何がもちろんなのか分からないけど、流石千歳と思うことにしよう。
裕にもう一度尋ねる。
「ごめん。よく分からなかった。もう一度説明してくれない?」
裕が「仕方ないな」と言って笑った。
「お前、頭悪いのか?」
「え? あ、あはは。そうなんだよ」
無理に顔を繕って笑う。正直滅茶苦茶傷ついた。君にだけは言われたくなかった……
「いいか? もう一度説明してやるからよく聞けよ?」
「う、うん」
得意げに腕を組み、出来の悪い生徒を相手取る先生のように話し始める裕。
「まず、あの花からいい匂いが漂ってきたんだ」
「うん」
「何かと思って花の中を見てみたら、美味しそうな蜜がつまっていた」
「うん」
「ちょっと舐めてみたら、結構美味い」
「うん」
「そしたらもっと食べたくなるだろ?」
「うん……もしかして……」
「やっと分かったのか」
裕がしょうがないなとでも言いたげに笑う。
「それで頭から突っ込んだの? あの花に」
「そうだ」
「…………」
何故か胸を張って言う裕に絶句してしまう。
「ね、ねえ。もうひとつ聞きたいんだけど……」
震えながら訊く。そんなんことあり得るはずがないと自分に言い聞かせながら。
「なんだよ」
「今ってまだ朝早い時間帯だけど、もしかして、もしかしてだけど、裕がこのダンジョンに入ったのって……」
「え?」
裕が驚いた表情を作る。
「そっか。もう朝なのか」
「…………」
裕のその一言で分かってしまった。この男は、昨日このダンジョンに入り、昨日花に頭を突っ込み、そして、そのまま一晩過ごしたのだ。
(おお、神よ……)
無駄に神に祈ってしまった。
「それで? 何訊きたいんだよ」
「……も、もういい……」
「なんだ。変な奴だな」
変なのはお前だとつっこみたかったが、もうそんな気力は残されていなかった。
(なんでこんなのが生き残っちゃってるんだ? このゲーム……)
思わずそんな失礼なことを考えてしまう。
ゲッソリとしたまま、しばらく歩き続けると、
「お!」
かなり広い広間に出た。
「何も出ないね」
「そうね」
今までならこういう広い部屋に出ると決まってモンスターの集団が現れたものだが、この部屋には何も現れず、ただ静寂があるのみだった。
「なんだこれ」
裕が何か発見したみたいだ。
「これは、ボタン?」
部屋のちょうど真ん中に直径50cmくらいの大きなボタンがあった。
「露骨に怪しい……」
ボタンには「押すな」と書いてあった。
「押しちゃダメだよ」
こういう時率先してボタンを押しそうな裕に注意する。
「押すわけないだろ。押すなって書いてあるんだから。馬鹿だな優樹は」
「…………」
あ、危ない……危うく柄にもなくキレかけちゃったよ。
辺りを見渡す。
幸い向こう側に出口はある。ボタンさえ押さなければ何事もなくこの部屋を抜けられそうだ。
そう安堵したとき、
「カチリ」
足元で音がした。そう、まるで何かのスイッチを入れた時のような……
恐る恐る足元を見ると、
「千歳ぇぇぇえ!」
千歳が普通にボタンを押していました。
「あ、ごめん。つい……」
「つい、じゃないよ!」
「てへ☆」
「そんな顔したってダメだよ!」
何か起きてしまわないかと辺りを確認していると
「お、何か降ってくる」
最初に気がついたのは裕だった。上を見上げる裕につられ。上を確認する。
どこからともなく、空中に緑色の物体が現れ、降ってきた。
「うわ!」
物体が着地する。地面が揺れ、転んでしまった。
「キシャアアアアアアア!」
物体はモンスターだった。ズングリとした巨大なツルを何本もしならせる、大きな植物型のモンスターだ。全長は僕よりも高い。2メートルはありそうだ。一つだけ、これまた巨大な花があり、花の中心には口がある。大きく開いた口はポッカリと空いた落とし穴のようで、縁には刺のような歯がびっしりと生えていた。
「うお! たくさん落ちてくるぞ!」
裕が叫ぶ。上を確認すると、さっきと同じモンスターが次から次に降ってくる!
戦慄が走った。
こんな巨大なモンスターがどんどん増えている。囲まれるのは時間の問題だ。絶体絶命という言葉が脳裏をよぎる。
「へ! 上等じゃねえか……」
絶望している僕とは対照的に、裕はニヤリと笑っていた。
「来い!」
裕が叫び、両手の拳を固く握り締め、頭上に掲げた。
裕の拳が青白く光る。
次の瞬間には、裕の両手に大きなナックルが装備されていた。
「俺の!」
バッと裕が謎のポーズを決める。
「拳が! お前の! ハートを! 打ち砕く!!」
意味不明の決めゼリフを叫び、裕はモンスターの大群に突っ込んでいった。
「…………」
呆気にとられてしばらくの間ポカンと口を開けたままフリーズしてしまう。
「ほら、あんたも頑張りなさいよ」
千歳にどつかれて正気に戻った。
(なんだかなあ)
思わず苦笑してしまう。僕も負けていられない。
(腹をくくんなきゃ!)
自分に言い聞かせ、大剣を装備する。
「うおおおおお!」
雄叫びをあげ、僕もモンスターに突っ込んでいった。
「くそっ!」
「…………っ!」
しばらく善戦するも、圧倒的な数に押され、次第に追い詰められていった。
モンスターは止まることなく降り続けている。おそらく無限に降ってくるのだろう。もしやと思ってさっき経験値を確認したら、このモンスターを倒しても全く経験値が入っていなかった。
「何やってんのよ!」
千歳が叫ぶ。もちろん千歳は今まで何一つしていなかった。元はといえば千歳のせいなのに……
「千歳! 何かこいつらをまとめて吹き飛ばせる魔法ない!?」
一縷の望みをかけて千歳に訊く。
「あるわ」
「おお!」
流石黒い魔法使い、否、漆黒の魔女!
「千歳! お願い! それ使って!」
「イヤ」
即答された。
「何で!? 千歳さん! お願いします!」
「あんた、護衛でしょう。何で護衛が主人に助けを求めてんのよ。あたしが動くとしたら、護衛が死んだ後よ」
「そんな!」
ワガママにも程があると一瞬怒りそうになるが、すぐに冷静になった。
千歳の言うことは何一つ間違っていない。ワガママなのは僕だ。
(何か、何かないか……)
モンスターを切り刻みながら、必死に考える。
モンスターに埋め尽くされた視界の中、微かに出口を捉える。
「裕!」
必死に叫んだ。
「何だ!?」
隣でモンスターを殴り飛ばした裕が僕の方を見る。
その目には全く衰えていない闘志が燃えていた。
「キリがない! とりあえずこの広間を出よう!」
「どうすんだ!? 出口は空いてるけど、そこまでモンスターで埋め尽くされてんぞ!」
僕の思いついた作戦を伝える。
「まず僕が5thアビリティでできるだけモンスターを吹き飛ばす! その間に待機時間を終えた裕が同じように5thアビリティでモンスターを吹き飛ばすんだ。それを繰り返したら、きっと出口までたどり着ける!」
「おお! 優樹にしてはいいアイディアじゃねえか! オッケ! 乗った!!」
裕が頷いたのを確認し、一旦下がる。
一秒の待機時間をやり過ごし、出口に向け光鎚を放つ。
「キシャアアアアアアア!」
光鎚によって吹き飛ばされたモンスターは周りを巻き込んで倒れ、目の前に空間ができる。
「裕!」
叫びながら、大きく左に跳ぶ。
「おうよ!」
待機時間を終えた裕が駆ける。
「うおりゃああああ!」
力強く踏み込み、裕がアッパーを繰り出す。
アッパーは裕の目の前のモンスターを斜め上に吹き飛ばし、同時に突風を起こした。
風に煽られ、さらに何体かのモンスターが倒れる。
「よし!」
その後、僕の作戦通りに5thアビリティを繰り返し、僕たちはなんとか広間の出口にたどり着くことができた。
「ふう……」
出口から出た後もモンスターたちは追ってきたため、必死に走ってここまで来た。
「どうすんだ? 部屋から出たあともモンスターが追ってきたってことは、このままずっとあいつらから逃げ続けないといけないぞ?」
「う~ん……」
幸いさっきのモンスターたちの足は遅い。普通に歩けば追いつかれることはないが……
「とりあえず先に進もう。もうあいつらとは戦いたくないし……」
「まあ、そうするしかないか」
道なりに沿って歩く。疲れた……
千歳は後ろから僕たちに付いてきていた。特に何も喋らず、僕の後ろを歩いている。
「お前も、何か仕事しろよな」
裕が千歳を睨む。
「いいのよ。あたしは護衛を雇ってるんだから。面倒くさいことはお任せしてるの」
サラリと千歳が答える。
「……いいのかよ? あんなこと言わせて」
裕が僕に声をかけてきた。
「うん」
苦笑しながら答える。
千歳の言う通り、僕は雇ってもらっているのだ。僕が拒絶しても千歳は困らない。困るのは僕だ。
「情けねえやつだな」
裕が呆れたように言う。何も言い返せない。
そうやって話していると、
「うわ!」
目の前に穴があった。
危うく落ちるところだった。危ない……ボーッとしていたな。気を引き締めないと。
「あれ?」
そこで僕は違和感に気づいた。
その穴は横は壁から壁まで、縦はかなり遠くまで広がっていた。15メートル以上はある。避けていくことができない。
「これはアクセルで助走つけても超えられそうにないなあ……」
完全に行き止まりだ。絶望が胸に広がり始める。
「あら?」
その穴を覗き込んだ千歳が声を上げる。
「どうしたの?」
「この穴、底があるわ。かなり深いけど、この蔦をつたって降りられそうね」
同じように穴を覗くと、確かに底がある。深さは10メートルくらいありそうだ。
「だけど、向こうには蔦がないよ?」
千歳の言う通り、こっち側の岸には蔦があって降りられるようになっているが、向こう側には蔦がなく、ただ垂直な壁があるのみだ。つまり、降りても向こう側を登ることができない。
「アクセルで跳べない?」
「う~ん……この高さは跳べそうもないなあ……頑張っても4メートルくらいしか跳べないし……」
「何話してんだ?」
裕が割って入ってくる。
「いや、どうしたらここを飛び越えられるかをね、考えてたんだけど……」
「そんなの簡単じゃん」
裕が笑う。
「え?」
裕にはここの越え方が分かるらしい。安堵が広がる。
「ホント!? どうするの?」
裕に尋ねる。
「簡単だろ。飛び越えればいいんだ」
「ほうほう……ん?」
どういうことだ?
「見てな!」
裕が自信ありげに笑い、クラウチングスタートの構えをする。
「うおおおおお!」
裕が叫び、駆け出す。
「とりゃあああ!」
そして、こちら側の岸を蹴り上げ、跳んだ!
裕をハラハラしながら見守る。
裕はそのまま放物線を描いて、
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
普通に落ちた。
「だ、大丈夫~!?」
慌てて穴に駆け寄り、裕に声をかける。
「お、おう。なんとか……」
裕の声が聞こえた。
良かった……無事なようだ。
「ここ、地面がめっちゃ柔らかいぞ」
暗闇の底から裕が底の様子を伝えてくれた。
底の地面が柔らかいのは幸いだった。そのおかげで裕のダメージが減ったのだろう。
「そっちから登れる~?」
「おう、ちょっと待て! 今確認する!」
裕に向こう側が登れるか確認してもらう。
しばらくすると裕が答えた。
「ダメだ! 掴めるものも引っかかるものもないから登れない!」
「アクセルは?」
裕は魔法使い系ではない。だから、アクセルを持っている可能性が高い。
「分かった! 確認する!」
その叫び声の後、待機時間を知らせる数字が闇の中に浮かび、次の瞬間、向こう岸の壁に裕の姿が浮かび上がる。しかし、岸を掴むには高さが足りず、そのまま落ちていった。
ドシンという音の後、再び裕の声が聞こえてくる。
「ダメだ! 高すぎる!」
「そっか……」
これでこの穴を越える方法は絶たれてしまった。
「とりあえず、こっちに戻ってきて!」
「分かった!」
しばらくすると、蔦をつたって裕が上がってきた。
「どうするよ? 多分この先に行かないとボスには会えないぜ?」
「うん……」
諦めてはいけないと自分を叱咤する。何か、何か方法があるはずだ。
「ちょっと、あんたもう一度跳んでみなさいよ」
千歳が裕に声をかける。
「はあ? 嫌に決まってんだろ」
裕が即答した。当然だ。
「千歳、何か考えがあるの?」
「ええ」
「まじか! オッケ! 任せろ! どうすればいい?」
裕が期待に目を輝かせて千歳に尋ねる。
「今度はさっきより遠くから助走をつけて……」
「ええ!?」
びっくりして千歳の方を向く。しかし裕は乗り気だ。
「おお! なんだかいけそうだぜ! よっしゃ!」
そう言って裕はさっきより岸から離れたところでクラウチングスタートの構えをする。
「待って! そんなんでいけるわけが……!」
しかし、僕の静止も虚しく、裕は駆け出し始めた。
「うおおおおお!」
裕が叫びながら駆ける。
「とりゃあああ!」
そして、裕が再び、跳んだ!
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして当然、落ちていった。
「駄目だったじゃねえか!」
また蔦をつたって這い上がってきた裕が、開口一番に千歳に噛み付いた。
「当然じゃない」
サラッと流す千歳。
「てめえ……!」
裕は怒りを込めて千歳を睨む。
今にも掴みかからんばかりの気迫に、僕が慌てて間に入ろうとすると、
千歳がどこからかサッとキャンディを取り出した。
一瞬で動きを止め、キャンディを凝視する裕。
千歳はそのキャンディを穴に向け放り投げた。
裕は一瞬で疾風となり、
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
また落ちていった。
「ふざけてる場合じゃないでしょ?」
「ごめんなさい」
千歳を叱ると、以外にも千歳は素直に謝った。まあ絶対反省してないけど。
裕はというと、キャンディをもらったことで怒りは収まったらしい。羨ましいくらい単純だ。
「で、どうしよう……?」
さっきからいろいろあったが、結局何一つ状況は変わっていない。
「そのうちさっきのモンスターがここにたどり着くよ? そしたら本当に打つ手がなくなっちゃうよ……」
仮にみんながこの穴に落ちてモンスターに追い詰められたら、確実に全滅だ。千歳はどうか知らないけど。
「う~ん……」
みんなで考えていると、
「!」
ガサガサ、という音が僕たちの背後から聞こえてきた。
モンスターの大群が僕たちに追いついてきたのだ。
再びモンスターとの終わりない戦闘に突入する。
さっきと比べて左右に壁があり、横幅が限られているので戦いやすいが、数々が数だ。ジリジリと押され、段々と穴に追い詰められていく。
「ちくしょう!」
隣の裕が叫ぶ。僕だって叫びたい。このままじゃジリ貧だ。本当に死んでしまう!
「どうしよう……どうしよう……」
必死になって考えるが、さっきのように名案が思い浮かばない。
もうだめだと半ば心が折れかかった時、
「分かった!!」
後ろで千歳が叫んだ。
「何!? 何が分かったの? 千歳!」
藁をも掴む思いで千歳に尋ねる。
「ふふ~ん。教えて欲しい?」
千歳は得意げに目をつむり腕を組んでいた。
「教えて欲しい! 教えてください! 千歳様!」
必死に訴える。もったいぶっている場合じゃないことが分からないのだろうか。
「う~ん? どおっしよっかな~?」
尚ももったいぶる千歳。余程思いついたことが嬉しいのだろう。必死に隠そうとしているが、嬉しさがにじみ出ている。しかし、僕にそんな千歳の相手をしている心の余裕はない。
「お願い! 教えてください! 後でなんでも言うこと聞くから!」
「何でも?」
千歳が食いついた!
「あたし、高級フランス料理のコース食べたいなあ~。もちろん店で一番高いやつ」
「分かった! 分かったから! 教えてええええ!」
ついに絶叫してしまう。
「約束よ?」
「うん!!」
返事をし、千歳の答えを待つ。
「え~っとね~」
「早く!!」
ここまできてさらに引っ張る千歳に思わずキレてしまう。
「分かった分かった。そんなに怒んないでよ。もう……あのね、そいつらであの穴を埋め立てればいいんじゃないかしら」
「え?」
突拍子もない千歳の言葉に一瞬頭が真っ白になってしまう。
「だから、あのくぼみを渡れるようになるまでそいつらを投げ込んで、埋め立ててればいいのよ」
「……なるほど……」
確かに千歳の言うとおりすれば、確実にあそこを渡ることができる。こいつらは無限にいるのだから。
「すごい……」
千歳の方に向き直る。
千歳はドヤ顔で笑っていた。
やはり千歳はすごい。この土壇場の状況でそんなこと思いつくなんて。
そうとわかれば、ここは剛力を持つ僕の出番だ。
「裕!」
「何だ!」
「こいつらをあの穴に放り込んで埋め立てるんだ! 穴を! 手伝って!」
「お、おう。なんだか分からないが、分かった!」
モンスターの蔓を両手でしっかり掴み、
「どおっせい!」
穴に向けて放り投げる。
「ピギャアアアアア!」
悲鳴を上げてモンスターが落ちていく。
それから裕と手分けして、片っ端からモンスターを穴に投げ込んでいった。
あの後どれくらい経ったのかわからない。
しかし、
「き、気持ち悪い……」
道は完成していた。千歳の目論見通り、モンスターで穴を埋め立てることができた。
同時に、モンスター同士の蔓が絡み合ってウニョウニョと蠢き、吐き気を催すような地獄絵図が完成している。
「これで渡れるわね」
千歳は僕と違って全然平気そうだ。……そこは気持ち悪がらなくちゃいけないんじゃないか? 女の子として。
千歳に睨みつけられる。相変わらず僕の考えることはお見通しのようだ。
「うわ!」
そうこうやっているうちに、裕が渡り始めた。蠢く床はすごく歩きづらそうだ。
(仕方ない……)
僕も覚悟を決め、モンスターの床へ一歩踏み出した。




