第6話C
「……ホントだろうな?」
「そ、そうだよ」
「んん。まあいっか」
目を覚ましたチンピラみたいなプレーヤーに、僕たちは助けただけで攻撃はしていないと説得して、納得してもらった。
完全に嘘だが、嘘が人間関係を良好にすることは少なくない。そう思って自分を納得させる。
……冷静に考えれば、この状況で彼を攻撃できるのは僕たちだけなのだが、その点に彼は気づいていない。少し抜けている人なのかも知れない。良かったと思うことにしよう。
「それじゃあお前らは命の恩人だな。ありがとよ。俺は谷畑裕。よろしくな」
「え、う、うん」
突然破顔一笑してお礼を言う裕に戸惑ってしまう。最初のインパクトが強すぎて危ない人というイメージしかなかったが、いい人なのかもしれない。
振り返ると僕はこの世界で、いい人にしか会っていない。千歳も、神井さんも、俊昭だって、いい人だ。……悔しいくらいに。
頭を振って余計な思考を振り払う。名乗られたのだ。名乗り返さないと。
「僕は斎田優樹です。こちらこそよろしく」
「そうかそうか。優樹って名前か……ん?」
「ど、どうしたの?」
突然腕を組み難しい顔をして悩み始める裕。表情豊かな人だなあ。
「いや、なんかお前に雰囲気が似てるやつにあったことがあるような……」
背筋が凍る。
もしかしたら、記憶を失う前の僕に会ったことがあるのかもしれない。だとしたら……
女性プレーヤーをいたぶって殺した記憶が蘇る。当時の僕とあったことがあるのなら、彼にも何かひどいことをしてしまっているかもしれない。
「そ、それって……僕では、ない?」
「あ? いや、お前じゃねえよ。だってお前、武器なによ?」
何を言ってるんだといった感じに笑い、裕は問いかけで返してきた。
「えっと、大剣だけど……」
「ああ、じゃあちげーわ。だってそいつ飛び道具使ってた気がするし」
「そっか……良かった……」
とりあえず一安心。
「で? そこでずっと遊んでる女は何よ。お前の?」
「ち、違うよ!」
慌てて千歳の方を見る。
僕に裕の説得を押し付けた後、千歳は僕たちを完全に無視して川で何やら遊んでいた。靴を脱いで小川に入り、石をひっくり返したりして遊んでいる。自由だな……
「あ、終わった?」
その千歳がしゃがんだまま首をひねってこちらを見る。調子いいなまったく……
「なんだてめぇ。気に入らねえ面してやがんな」
いきなり裕が千歳に向かってガンを飛ばし始めた。
「ちょっ!」
僕はビクビクしながら千歳の様子を伺う。
僕の予想に反して、千歳は余裕の微笑を浮かべている。良かった……もう怒ってないみたいだ。
「あら、そんな口をきいていいのかしら? あたしに。聞いて驚かないで。あたしは」
こちらを向いて立ち上がり、目をつむって得意げに腕を組む千歳。
「黒い魔法使い本人よ。でもこの前改名したの。漆黒の魔女って名乗ってるわ。分かったら大人しく……」
「は? うざいアホ使い? 誰だそりゃ」
空気が固まる。僕はハラハラしながら二人の様子を伺う。
気を取り直した千歳が再び口を開く。
「い、いい度胸ね。黒い魔法使いよ。知らないの?」
「知らん!!」
何故か得意げに、裕が胸を張って答えた。
(アワワワ……)
僕はいよいよドギマギしながら千歳の様子を伺う。
プライドを完膚なきにまで踏みにじられた千歳がプルプル震えながら「ホントにいい度胸ね……」と呟く。
「よ、よほどの馬鹿なのねえ? あんた。まさか最強のプレーヤーたる私の異名を知らないとは……」
「はあ? 最強? こいつはお笑い種だぜ」
裕が笑い始める。
「最強はこの俺だ。知らなかったか? アホ使いさんよお?」
ブチッ
どこからかそんな音が聞こえてきた気がする。千歳は……「フフフ……」と笑っている。こ、怖い!
「馬鹿もここまでくれば賞賛に値するわね。いいわ。あたし直々に相手をしてあげる。格の違いってやつを見せてやるわ」
「へ! 上等じゃねえか……」
二人が睨み合う。まさに一触即発の雰囲気だ。慌てて二人の間に割って入る。
「待って二人共! 落ち着いて話し合えば」
「黙ってろ」「引っ込んでて」
「はい」
二人に同時に叱責され、即答してしまった。母さん……頑張ったけどダメだったよ……
千歳は何やら考え込んだあと、突然メニュー画面を開いて何やら操作し始めた。
「お? 何だ何だ? いきなり転送装置でも呼び出してるのかよ? 腰抜けにも程があるぜ」
「……違うわよ」
裕の挑発をスルーし、千歳は何かを呼び出した。あれは……キャンディ?
裕の動きがピタリと止まる。どうやらキャンディを凝視しているようだ。
千歳は催眠術でもかけるように、ブラブラとキャンディの包み紙の端を持って振り始めた。
裕の目がキャンディを追って左右に動く。
ポイッと、千歳があさっての方向にキャンディを放り投げた。
一瞬で疾風となり、キャンディに向かって跳ぶ裕。
空中でキャンディを掴み取った裕はそのまま落下し、岩に頭を強かに打ち付けた。ゴンッという鈍い音が鳴る。
「えぇ!?」
僕は目の前で起きた事態が飲み込めなかった。今何が起きた?
ふふんと笑い、千歳が得意げに口を開く。
「これが格の違いってやつよ」
「いやいやいやいやいや!!」
僕は全力でつっこむ。
「え? 今の何? ていうか千歳、そんなの持ってたんだ……僕がお腹空かせて我慢してるのに」
「き、気にしちゃダメよ……」
ジト目で睨むと、千歳が口元を引き攣らせながら言った。そんなことより……
「だ、大丈夫!?」
僕は慌てて裕のもとに駆け寄った。
「お、おう……大丈夫だ。ちゃんとあめちゃんはキャッチしたぜ」
「そっちじゃないよ!」
全力でつっこむ僕を押しやり、裕がフラフラしながら立ち上がる。
「ふ……やるじゃねえか……今日のところはここまでにしといてやるぜ……」
「あら、それはどうも」
千歳が勝ち誇った顔で答える。どうやら千歳の自尊心は満たされたようだ。
「はあ……」
僕は思わずため息をついてしまう。この先どうなるんだろ……
今回から各話Cで完結というルール(?)を撤廃します。
一回の投稿を短くする代わりに投稿の間隔を短くしたいと思います。
次回は第6話Dです。




