第4話C
(うまくいった……)
思わず笑みがこぼれてしまう。
『土柱突き』
任意の地点の地面から任意の方向に土の柱を伸ばし、攻撃する。
それが俊昭の3rdアビリティだった。
近接武器を扱うジョブにとっては唯一の遠隔攻撃である3rdアビリティを今まであえて使わないことで、さおりの意識から3rdアビリティの存在を意図的に消していたのだ。
それがついに功を奏した。
アクセルで地面を蹴り、宙を舞うさおりとの距離を詰める。
跳びながら6thアビリティを発動させ、さおりの目の前にたどり着くのと同時に待機時間を終える。
「はあああああああああああ!」
地獄突きをさおりに叩きつける。
吹き飛ばされたさおりに追いすがり、地面に叩きつけるように棍棒で殴りつけ、そのまま連打する。
一秒の待機時間を待ち、二段振り上げ打ちでさおりを吹き飛ばした。
そのまま7thアビリティを発動させる。10.0000……という数字が螺旋状に俊昭を取り囲み、数字を減らし始めた。
さおりは闇の中にいた。
頭がグラグラして、何も見えない。力が入らない。意識が、朦朧とする。
このままじゃ負ける、という恐怖が頭を埋め尽くした。
(こんなところで……)
俊昭の位置をつかめず、それでも滅茶苦茶にサンダーボルトを撃ちまくる。
(負けられない……死ねない……こんなとこじゃ……死ねるわけない)
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫する。
(私は、絶対に、生きて、生き延びて、そして……)
ふらつきながら、何も見えてはいないが、それでも、立ち上がる。
俊昭の待機時間が、終わった。
俊昭が地面を蹴る。
一瞬でさおりの目の前に到達し、棍棒を下から叩きつけ、打ち上げる。
跳躍し、回転しながら上に向かって連打し、高く、高くさおりを打ち上げていく。
棍棒を叩きつけられ、上へと打ち上げられる。
――何一つ、取り柄がなかった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――1人の女に声をかけられた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――何も知らなかった私は、言われるがままに、彼女の元で働いた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――化粧をして、髪型を変え、不埒な服を身にまとい、
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――鏡を見たとき、映っているのが自分だとは信じられなかった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――いままでいったい何人の男を騙してきただろう。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――男なんて、馬鹿ばかりだ。ちょっと転がせてやれば、すぐに金を落とす。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――1人の男に出会った。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――そいつは馬鹿だったが、他の男とはどこか違った馬鹿だった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――恋に、落ちた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――まさに、分不相応な、身の程知らずの恋。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――釣り合ってなんか、まるでいない。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――ガラスの靴なんて、持っていないのに。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――それでも、彼は応えてくれた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――私の気持ちに気づいたんだろう。危機感を持ったあの女は、私を捨てた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――ひどいなんて、ちっとも思わなかった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――彼もまた、家から捨てられた。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――それでも彼は、私を捨てなかった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――貧乏な暮らしだったが、それでも彼と一緒なら、私は幸せだった。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――ささいなことで、喧嘩をした。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――いつもの朝なら唇を重ねてから家を出るが、その日は顔も合わせず、家を出た。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――私のわがままだった。彼は何一つ悪くなかった。それなのに……
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――その日以来、彼は眠り続けている。
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――彼の笑顔を、もう一度見ることができるなら、
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――何も持っていなかった私に、たくさんの物をくれた彼が、
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――もう一度優しく私の頭を撫でてくれるなら、
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――私は何だって、
棍棒を叩きつけられ、さらに上へと打ち上げられる。
――何だってしてみせる。
俊昭が体をひねり、さおりの真上に回り込んだ。
「これで……」
棍棒を振りかぶる。
「終わりだ!」
棍棒を叩きつけ、さおりを真下に吹き飛ばした。
「やっと捕まえた……」
ズルズルと袋を引きずりながら草原を千歳と二人で歩く。
大変だった。あの後、鶏型の物体を追ったが、追いつけず、力尽きて倒れた。
しばらく休んでからまたあの物体を探し、居眠りしているところを見つけ、今度こそ捕まえたのだが……
「信じられないくらいの暴れっぷりだったわね。」
千歳がどうでもよさそうに感想を述べる。
「…………」
力なくうなだれてしまう。
そう。捕まえたあとからが本番だった。
袋の中で、そいつはそりゃもう暴れた。押さえ込もうとしてもみくちゃになり、必死に大剣の刃のない部分で何度も殴りつけたが、それでもなかなか静かにならず、鳴き声を撒き散らして暴れ続けた。
何度も食い下がり、それはもう死に物狂いで殴り続けたら、ついに気絶でもしたのか動かなくなった――のがつい先ほど。
なぜか転送装置で運べなかったそいつを、こうしてズルズルと引きずって運んでいるのだ。
西の空は橙に、東は群青に、それぞれ染まり始めている。長かった……。涙が出てきそう。
「……ん?」
今なんか、袋がモゾモゾと動き出したような?
「コケェ!」
「ゲ!起きちゃった!」
「コケェ!コケェ!コケェ!!」
「うわああああああああああ!」
また大乱闘が始まった。
「ゼェ……ゼェ……ゼェ……」
何とか……また……黙らせることが……できました……
思わずそこに尻餅をついてしまう。まさか……
「こいつ、もしかして、定期的に目覚めるのか……?」
悪夢だ……
気を取り直して立ち上がったところ、千歳にポンポン、と肩を叩かれた。
「……何?」
ゲッツリしながら千歳の方に振り返る。
千歳は、いつになく表情に影を落としていた。寂しそう、一瞬そうも見えた気がする。
憂いを浮かべたまま、千歳は口を開き、どこか遠くの方を指さした。
「見ておきなさい……」
何だろう?千歳の指す方に目をやる。
最初は小さな点に見えた。
よく見ると、二人の人間が宙を舞っている。
片方が小泉で、小泉の行動が昨日見た7thアビリティであることに気づくまで、そうかからなかった。
もう片方は……神井さんだ。
「あれは……」
何が起きているのか理解できず、千歳の方を見る。
千歳はじっと二人の方を見ていた。目に焼き付けるように。
もう一度千歳と同じ方を向く。
俊昭がさおりの上に回り込んだ。
そのまま棍棒を振り下ろし、神井さんを叩き落とす。
神井さんは地面に叩きつけられることなく、青白い粒子に分解されて、風に乗って散っていった。
キラキラと粒子が、空に広がっていく。だんだん光が薄れていき、見えなくなった。
神井さんが、死んだ。
To be continued ……




