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第4話A

 この世界で目覚めてから三日目を迎える。

 昨日夜更かししたせいもあって、起きるのはわりとつらかった。

 時間も大してなかったので、早々に待ち合わせのカフェに向かうことにする。


「遅い!」

 カフェに着くやいなや、先に来ていた千歳に怒られた。

「え? まだ間に合ってるじゃん」

 時間には間に合っている。あと数分あるはずだ。

「時間に間に合ってようが間に合っていまいが、レディを待たせるな!」

「えぇ!」

 そういうもんらしい。釈然としないが、渋々ながら分かったと言っておく。

 いつものように、クエスト屋に向かうことにした。


「捕まえるの?」

「そうみたいね」

 クエスト屋でクエストを確認すると、残っているクエストは一つだけだった。

 一風変わったクエストだ。モンスターを倒すのが目的ではなく、倒さずに捕まえるのが目的のようだ。

「依頼主は……珍獣マニア? 何だそれ」

「倒しても経験値は入らないようね。なるほど。誰もやろうとしないわけだ」

「これ、やるの?」

 なんだかメンドくさそうだなあ……

「面白そうじゃない」

 そう言って千歳が微笑む。

「お、そこのわけぇカップルさん、このクエスト引き受けてくれるのかい?」

 椅子に座って新聞を読んでいたクエスト屋のおっちゃんがやおら声をかけてきた。

 カップルって……

 そういう経験のない僕は思わず照れてしまう。こういうのは大抵、女の子側がムキになって否定したりして……

 いつかの漫画で見た、そんなやすい展開を期待して千歳の方をチラリと見ると、

「カップルじゃないわ」

 普通に否定された。……ちょっとは照れたりさ……してよ……

「そうそう。このクエストやりたいんだけど、何かあんの?」

「おう。ちょっと待ってな」

 そう言っておっちゃんは店の奥に行ってしまった。

「…………」

「……何泣いてんのよ?」

「別に? 泣いてないし」

 鼻をすすりながら答える。ぜんぜんなんともないもんね。そんなの期待なんかしてないもんね。

「あったあった。これこれ」

 おっちゃんが奥から戻ってくる。何やら大きな袋を抱えていた。ビニール製の袋だ。

「いや、依頼主のにーちゃんからね、これを預かってて。なんかモンスターを気絶させたらこれに詰めて持って帰ってきてほしいらしい。モンスターが中で目覚めて暴れても、これなら破れることはないってさ」

「ふーん……ありがたくもらっておくわ。」

「おう。それじゃ仲良くな。アッツアツのカップルさんよお! ガハハハハ!」

 おっちゃんが豪快に笑う。

「カップルじゃないって」

 千歳が笑いながら手を振り、店を出る。後に続いた。

「何黙りこくってるのよ?」

 歩きながら千歳が尋ねてくる。

「……別に……」

 ぼやくように返す。大丈夫。分かりきってたことだ。現実は厳しいのだ。

「ほら、せっかく面白そうなクエストにありついたんだから、そんな辛気臭いオーラ撒き散らさないの」

 千歳が僕を叱咤し、ズンズンと先をゆく。

 僕はため息をひとつついて、後を追った。



 小泉俊昭はいつものようにカフェで朝食をとっていた。ここのモーニングセットはなかなか美味しい。

「あら~? また会ったわね~」

 どこかで聞いた、のんびりした声が頭上から降りかかってくる。

 朝刊から目をあげると、一昨日の夜、この街に来て初めて会ったプレーヤーがそこにいた。

 俊昭はフッと笑い、口を開いた。

「おはよう。フフ……さも偶然会ったかのように言うね。まあいい、こちらも君に会いたかったところだ」

「あら? お姉さんに会いたかったの? ごめんなさいねぇ……気づかなくて……」

 流し目を送るように、神井さおりは悠然と微笑む。

「つまらない御託はよそう」

 俊昭は朝刊を折りたたんでテーブルに置いた。さおりの挑発的な態度をサラっと流し、まっすぐにさおりの目を見て続ける。

「今、私と君がいるこの街にはあの黒い魔法使いがいる。この状況を、君はどう見る?」

「何が言いたいのかしら?」

 訝しげに俊昭を見つめ、尋ねた。

「かつてこの世界でその名を轟かし、もはや一つの災害であるかのように語られ、畏れられた黒い魔法使いが目の前にいる。この状況に置かれた人間の考え方は大きく分けて二つの可能性があるだろう。一つは生き残ることを第一に考え、あえて逃げるという選択肢。触れない神に祟りなし。危険な勝負は挑まず、できる限り彼女を避け、他に手がなくなってから、つまり彼女と自分以外が全て死んだあとに挑戦しようという考え方」

「…………」

 さおりは黙って俊昭の言葉に耳を傾ける。

「もう一つはこの状況をチャンスと見る考え方。もし他の誰かが彼女を倒してしまったら? いや、むしろこちらの方がリアリティがある。もし彼女がその圧倒的なレベルにものを言わせて、残り少ない他のプレーヤーを次々に狩っていったら? どちらにせよ今よりもっと強大な脅威が生まれることになる。反面、もしなんとか彼女を倒せば、一気に有利な立場になれる。有利なんてもんじゃない。ほとんど勝ったようなものだ。こんなふうに今の状況を好機と見る考え方。今言った二つの考え方がある。そうだろう?」

「そうね」

 さおりは腕を組んで、いつになく冷めた目で俊昭を見る。そんなさおりの態度を歯牙にもかけず、俊昭はさらに続けた。

「君はどちらの見方をしているのかと気になってね。答えてくれると嬉しいなあ」

 キザったいほほ笑みを浮かべながら尋ねる。

「ひとつ、いいかしら?」

 さおりは俊昭の問いに答えず、逆に質問で返した。

「どうぞ?」

「あの護衛をしているという坊やは?」

「彼か……」

 俊昭は遠くを見るように視線をずらす。その口には嘲笑の笑みが浮かんでいた。

「彼は相手にならないだろう。黒い魔法使いに勝負を挑んだとして、彼が邪魔なら狩ってもいいが、その間に黒い魔法使いに逃げられる可能性がある。だから無視して黒い魔法使いと戦う方がいい。彼には黒い魔法使いとの戦闘に介入するほどの勇気も、またその理由もない。気にする必要もないと思うが……」

「そう……」

 さおりは呟くように答えた。

 さおりが何を言いたかったのか量りかねたが、その表情からは何も窺い知れず、俊昭はため息をついてもう一度問う。

「それで、私の質問には答えてくれるのかい?」

「お姉さんは、後者よ」

 さおりがはっきりと答えた。俊昭は満足げに笑う。

「その答えが聞きたかったよ。私も同じさ。間違いなく今の状況はチャンスなんだ。そこで、だ。ひとつ提案があるんだが」

「何かしら? 言っておくけれど、お姉さんは今すぐ黒い魔法使いと事を構える気はないわよ? 何事も準備が肝心だから」

 フフッ、と俊昭は愉快そうに笑う。

「分かっているさ。私も今すぐ、という気はない。ただ思うんだが……黒い魔法使いの情報を手に入れたいなら、一度彼女と戦ってみるのが一番だろう。もちろんいつでも逃げられるようにして、だ。危険は大きいが、確実だ。違うかい?」

 そうねぇ……、とさおりは息を吐き、また色気じみた視線を俊昭に向ける。

「確かにそうだけど、お姉さん、なんだかあなたの提案に乗る方が危険に思えてきたわ。あなた、胡散臭すぎるんだもの」

 俊昭は自嘲気味に笑い、大仰に肩をすくめた。

「やれやれ……手厳しいね。私の提案はそんなに複雑なものじゃないんだ。当然思惑を挟む余地もない。私の提案は単純明快。彼女と命のやり取りをするのにも、情報を集めるために一度勝負を挑むのにも、お互い今のレベルのままじゃ心許ない。違うかい?」

 クスッとさおりが笑った。

「あなたの言いたいこと、分かったわ」

「話が早くて助かる」

「彼女と戦うのは、お姉さんかあなた、どちらか一人……そういうことね?」

「その通りだ。それが一番合理的だ」

「それじゃあ……」

「そうだ」

「決闘ね」「決闘だ」



「あれ? もうこんなとこに……はぁ……また歩かないといけないじゃん……」

 マップを表示し、目的のモンスターを追いかけていつもの草原を千歳と二人歩いていた。

 目的のモンスターの動きが、思っていたより早い。歩けど歩けど、たどり着きそうもない。

「そんな弱音吐かないの。男の子でしょう? ほら、行くわよ」

「え~~……」

 千歳に叱咤され、再び歩き始める。歩き続けるのって案外きつい……

「そういえばさ」

 黙って歩くのもいい加減に飽き、千歳に話しかける。

「なによ?」

 千歳は振り返らずに答えた。

「いや、どうでもいいんだけど、千歳って他のプレーヤーと戦う気がないんでしょ? だったらどうしてそんな積極的にクエストに挑戦しようとするの?」

 千歳は顔だけ振り向いてニヤリと笑った。

「街に引きこもってくれていたほうがこっちも楽なのに、って?」

「え……? い、いや、そういうわけじゃ……」

 こうやって冒険するのにはむしろ憧れていたのだ。想像とはだいぶ違ったが……

「そんなの決まってるじゃない」

 千歳は前に向き直り、続けた。

「楽しいからよ」

「へ?」

 思わず聞き返してしまう。

「だって、ゲームの世界よ? 自分の足で歩いて、いろんなところを冒険したり、モンスターと戦ったりできるのよ? 謎の洞窟とか、高い山とか……こんな楽しい世界、楽しまなきゃ損じゃない」

「う、うん。そうだね……」

 少し驚いてしまった。僕が怖いと思いつつも街の外に出てしまう理由と、大して変わらなかったのだ。なんだか意外だ……

「それだけ?」

「うん」

 さっきまでより少しだけ足が軽くなった気がした。



「ここらへんでいいかな?」

「そーねー」

 俊昭とさおりは、街の東の方の草原で対峙していた。

 どちらからともなく、武器を呼び出し始める。

 俊昭は両手棍棒を呼び出し、2ndアビリティを発動させた。1.0000……という数字が螺旋状に自分の周りを取り巻き、すぐに0.0000……になって「ヒットチャージ」が付与される。

 さおりに向き直り、構える。さおりも同じように2ndアビリティを付与し、杖を構えていた。

(彼女も魔法使いか……)

 油断なくさおりを見据える。さっきまでからは想像もできない、冷たく鋭い視線を突き刺していた。

(上等じゃないか……)

 俊昭はアクセルで地面を蹴り、さおりに突撃した。

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