虫人
人間よりは遥かに良い視力で様子を見ていた冬華は、達也らしき者が森から出てきて両腕を大きくしたと思ったら、魚人の群れを端から潰していくのを見て、呟く。
「ヂヂヂヂヂ(相変わらず無茶苦茶な強さですねぇ)」
「確かにのぅ、千那はあれに喧嘩を売ったのだな・・・」
「千那ちゃん、あの土煙が上がってるあたりにたつくんがいるの?」
普通の人間には細部は見えない、かろうじて土煙が上がっていて達也らしき人が魚人らしき一団を殲滅しているくらいはわかる。
「そうだな、容赦なく魚人を潰しておるな」
「そっか・・・虫っぽい人達さんは?」
「そやつらは動きを止めたな、達也を警戒したのかはわからんが」
しばらくすると魚人の群れを殲滅終えたのか、達也と虫っぽい人が何やら話しているのを冬華と千那で説明しながら事態を見守る優奈達。
「ヂヂヂヂ?(どうやら接触は成功したようですね?)」
「む?確かに交流は成功したようだな?怪我をしているのか?達也が1人を背負ったな」
「怪我してるの?」
「ここからじゃ細部はわからんが、動きが鈍すぎるし、達也が背負ったならそうではないか?」
達也達がこちらに向かっていると聞いた志乃が立ち上がり手をかざすと異空間が開く。達也が使わなかったのは単純に忘れてただけだ。
蜘蛛の人を背負って案内を始めた瞬間、数歩先に黒い空間が現われる。志乃か?そういや来る時頼めば良かったな。いや、この距離異空間出せるのか・・・手札的に見せるのは良くないと思うんだけど、まぁ志乃が良かれと思ったんだろうし、怒るつもりはない。とりあえず驚いている蟷螂の人に軽く頷いてやり、黒い空間をくぐる為に向かう。蜘蛛の人は身を強張らせているが、暴れたりしないのでこちらを信用することにしたのだろう、とりあえずくぐって志乃達の所に戻ってきた。
「ただいま、優奈?中品質でいいからポーション出してくれるか?」
「え?あ、うん」
見た目に驚いたようだが、そこはほら俺のパーティというか慣れたもので、襲われないなら容姿は気にしないようで蜘蛛の人をベットに降ろす手助けまでしてくれる。
蟷螂の人達3人も来たので、志乃を撫でながらお礼をいって閉じてもらう。距離が遠かったせいか、フラフラしていたので、志乃も一緒にベットに寝かせる。
「結構無茶したんだな・・・まぁありがとな?」
「ん、たつはなれちゃやだ」
「はいよ、手だけ握っとけばいいか?」
「うん」
どうも能力を酷使すると不安になる傾向があるのかな?ともあれ、優奈が回復薬を塗ってる間に蟷螂の人が近づいて来る。飛蝗の人は足を怪我したようで美香から低品質を受け取ってかけている。小さい方の飛蝗の人は依然警戒は解いていないようだ。いや、貴方の対応が正解だと思うよ?
蟷螂の人はお礼をいうように頭を下げてくるので、お礼は優奈にいってくれと指差しておく。
しばらく蟷螂の人とジェスチャーを交えて話をしようとするがさすがに進まない。そこに千那がやってきて話す。
「ふむ・・・こやつら発声器官が人間の耳に対応しておらんのだな」
「千那は聞こえるのか?」
「千那の耳には聞こえるし言葉はわかる、通訳するから褒めてもいいぞ?」
「あーはいはい」
助かるのは間違いではないので千那を膝に乗せて、志乃の手を握ってる手とは逆の手で頭を撫でながら、通訳をお願いする。
「はっはっは!千那に任せろ!」
「--――‐―‐―-」
「ほうほう」
「-―――‐‐―-―‐‐‐――」
「なるほどのう」
これだけだと千那の独り芝居なので要約すると、虫人達はアルランから見て北西の方にいたとのことだ。そこに虫人達の集落があり、先日の大雨の後に魚人が頻繁に攻めて来るようになったそうだ。戦える者はそれなりにいるし、魚人程度が100匹きても問題はなかったそうだが、先日状況が変わったらしい。
何でも魚人の中に怪物が交じっているそうで、そいつらは集落の戦士でも複数でかからないといけず、戦況が悪くなっているそうだ。それに魚人がひっきりなしに来るので休む暇もろくになく戦力が削られているそうで、自分達は食料調達に集落から出たのだが、途中で怪物達の襲撃にあい部隊からはぐれてしまったそうだ。
ちなみに蟷螂さんは副部隊長でそれなりに戦えるが、怪我人・・・蜘蛛の人の怪我が深かったので交戦せずに逃げることを選択しつづけていたら、集落から離れ続けてしまって最後にはあそこに辿り着いたそうだ。
そして、私達を助けてくれたことと、怪我人の治療に感謝すると治療を終えた蜘蛛の人も揃って頭を下げてきた。どうでもいいことだけど頭を下げることがお礼になるって、わかるってことは礼節があるってことだよな?虫なのに・・・いや失礼か、文明レベル結構高いのかね?
貴方達はどういった一団なのですか?とも聞かれたので、適当に旅をして色んな町や集落を探しているんですよと伝える。そうですか、と考え込むように俯いた蟷螂の人は懇願するように頼んできた。
曰く、自分達の集落を助けてもらえないか・・・と。
「まぁ話の流れからこうなるのはわかっていたけど、どうするかね」
話が終わった頃には日が完全に落ちていたので、テントを提供して休んでもらい、俺達は夜の会議だ。
「頼まれたからほいほい助けてたら達也の身体持たないわよ?」
「私もみっちゃんと同じかな?アルランの時は頼まれたわけじゃないし、目の前の惨状にたつくんが助けたいって思ったからだもんね」
「ん、つまりたつが助けたいなら助ければいい、私達はついていくだけ」
「え、え~?少しは意見とか欲しいなぁと俺は思うわけですよ?」
とはいえ、基本的に俺達は冷酷非情なわけではない。助けられる範囲でなら助けてしまうスタンスが出来ているような気がする。
「まぁそうだな、俺としても助けるのは構わない。問題は・・・」
「虫人達に受け入れてもらえるかどうかよね?」
美香の言葉に頷く、蟷螂の人は大丈夫と言っていたが、万が一がありえるからな。さすがに罠というわけではないだろうけど、アルランでだって結構いざこざあったしな、毒も盛られたし・・・毒?ん?なんだっけそれ?
「まぁよいのではないか?達也より強い者がおるなら魚人程度・・・いや怪物だったか?怪物がいくらきても退けられただろう?だが、話を聞く限りそこまでの強者はいないようだしの・・・さすがに部族が厳しい時に温存する者はおるまい?」
千那が意外にも考えられた発言をして俺は驚いたが、驚きを顔に出さないようにしてそうだなと返しておく。だって千那だよ?今もドリルギュインギュインと回してる千那がだよ?っていうか危ないからいい加減止めろ!
「目的地も別になかったし、というか集落があるなら行ってみるか・・・普通の人ではないようだけど」
「襲われないだけ良識人に見えるわよね」
3人娘もそれは感じているのか美香の台詞に頷いている。最初の町が異常だっただけだろ。
とりあえず方針を決めたので蟷螂の人には明日伝えることにして一同就寝することにした。見張りはドリル千那とワニ騎士達が張り切っていた。今のところ魚人に警戒するくらいしか出来ないけどな。下に降りないように言い聞かせたから上から眺めるだけだろう。
まぁドリルにワニ騎士達も興味津々で最後に見た時は、ドリル千那を取り囲んで崇めていたんだけど、ドリル信者が増えたかもしれない。
「とりあえずこんなもんかな?」
朝目覚めた俺は風呂の準備をしている。昨日はバタバタしてて入りそびれたからな、俺はともかく3人娘的には気になるらしく、起きてすぐ優奈と志乃に頼まれたので準備しているところだ。準備といっても冬華も千那もやり方を覚えてくれたので短時間で入れる状態になる。
仕切りも作って、上はともかく外からは見えなくしたら優奈達に言って入ってもらう。一緒に入らないと駄目かなと思ったが、今日は一緒はいいそうだ、むしろ一緒に入るのは駄目!って志乃に怒られた。思春期だろうか?やっぱりお父さん臭いから洗濯物をわけてとか・・・
「昨日入れなかったから汚れが気になるのよ、むしろ洗った後に呼ばれるんじゃないかしら?」
「そうなのか?」
苦笑しながら美香も仕切りの向こうに消えていった。いや別に一緒に入りたいわけじゃないんだがな。慰めるように冬華が肩を叩いてくるが、いやいや冬華もさっさと入ってこいよ。
「ん?千那と冬華は達也の背中を流す権利あるから、一緒だぞ?」
「・・・誰が配ってんのその権利」
虫人達は疲れが溜まっているのか、まだ起きてこないので・・・いや蟷螂の人がテントから出てきたな。
「‐-―――‐--」
「申し訳ない、私以外はまだ起きられそうにありません、だそうだぞ」
襲撃を受けているとはいえ、壊滅状態じゃないならそんなに急がなくてもいいそうだ。むしろ食料調達部隊の安否の方が気になるらしい。とはいえ怪我は治ったといえ疲れが溜まっているのなら、今日一日くらいは様子を見ますか?と聞くとお昼には出発出来るようにしますと言われたので、じゃぁそれでと今日の予定が決まる。
何か終始申し訳なさそうというか、助かりますという仕草をしているせいか俺の中で蟷螂の人の株が急上昇待ったなし!状態である。いや、アルランも助けた時はこんな感じだったけど、こんなに下手に出られると戸惑いを通り越して好意になるらしい。いや、蟷螂の人と相性がいいだけかもしれないけど。
「ヂヂヂヂヂヂヂ?(早くも浮気ですかね?)」
「ふむ・・・まぁ待て報告するには情報が足りぬ」




