助けてみよう
夕方になり、野営の準備も終えたのでベットの上でうとうとしていた俺の上に何かが乗っかってきた。いや、雪と蒼がお腹で蹲っていたような?目を開けてみれば千那が乗っかっていた。雪と蒼はいつの間にか居らず、冬華と一緒に魚人達を見ているようだ。まだ魚人の行軍は続いているのか?
それはともかく
「今度は何だ千那?というか乗るなって言ったろ」
「ぬ、寝てたのか?それはすまん・・・そ、それでな?怒ってないか?起こしてしまったのだろ?」
「怒ってないよ・・・上に乗っかってるのは怒りたいけど・・・で?」
「えっとな!ドリル回せるようになったぞ!名づけてくれ!」
「切り離せるようになったのか?」
「千那は千切れないぞ!」
じゃぁ無理じゃんと思うが自信満々にドリルを掲げている千那・・・あれ?回ってる?交互に回転方向が変わらず右回りに回り続けている。回転速度はそんなに速くないが、一応ドリルっぽい動きになってる。
「あれ?千切れたのか?」
「だから千那は千切れないぞ!?」
どうやってんだ?と詳しく聞いてみる。
身体を一瞬でも切り離してしまうと千那との接続が切れて、生ゴミになってしまう。それが前提条件だ。そこで千那は右手と左手を交互に使うことでそれを解消したそうだ。つまり両手で構成されたドリルを最初に右手で半回転右回りさせる。次に左手をドリルに接続し、右手は切り離す、そんで今度は左手を半回転右回りさせる。それを永遠と繰り返しているらしい。
なんというか、とんでもなく非効率なことしてると思うんだが・・・まぁ回っているのは事実か。
「わかったよ・・・考えるよ」
「ほんとか!?」
子供とした約束は守らないと信頼を失うからな。いや、別に子供だから守る訳でもないけど。とにかくドリルの名前ね・・・ドリルじゃ駄目なのか?
「魔装・ドリルじゃ駄目なのか?」
「むードリルはドリルって名前で元々あるのだろう?新しいのがいい!」
子供って新しい玩具を欲しがるよね、それと一緒なのだろうか?ドリルというと螺旋?回転?穿つ?
「そうだな穿牙とか?」
「せんが?千那と似ているな?」
「穿の方が穴をあけるとか突き通すって意味だな、牙は何となく?」
「せんが、せんが、せんが・・・穿牙!千那と似てるからいいな!ありがとう達也!」
「そ、それでいいなら、考えた甲斐があったよ」
心なしか回転速度が上がったドリルを両手で振り回しながらクルクルと自身も回りながらフラフラとどこかへ行ってしまった。それを不思議そうに見ながら美香が傍にくる。
「達也起きたの?千那はどうしたの?何か出来た!とかいいながら達也の方に突撃してたけど?」
「新しい技が完成したから名づけてくれってさ」
「達也も大変ね?頑張れお兄ちゃん?」
「人事だと思って・・・あぁそうだ優奈と志乃の勉強・・・ついでに雪やら蒼、千那の教育どうする?」
「え?あ、あ~そういえばアルランでする予定だったけど、結構忙しくて出来なかったわね」
「あぁ、さすがにそろそろ情操教育くらいはするべきなのかなって」
「といっても情操教育って道徳心とか倫理観とかよね?教科書や資料なしには難しいわよ?」
「そういやそういうのってビデオとか本で学ぶものか・・・」
「普通の算数とか、理科くらいなら紙に適当にメモしてあるから、そっちは問題ないわよ?」
「そうなのか、社会とか国語はいいのか?」
「国語はともかくとして社会は・・・歴史を学ぶのはいいことだけど、この世界の歴史じゃないからどうかなって思うのよ」
「偉人から学ぶこともあるにはあるけどそれもそうか。国語にしても物語を書かないといけなくなるか」
「そうね、さすがに私も物語は書けないわよ」
「なら算数、優奈は数学か?理科も必要・・・になるかわからんな」
「水を電気分解すると水素が出来るよって教えても、手段がないものね」
「幸い、器具はそれなりにあるけどな。薬品系もあるにはあるが・・・危険か」
「ということは、簡単な保健と算数・数学でいいのかしら?」
「そうだな、算数は俺も受け持つよ、数学はパスだ!」
「何で自信満々にパスするのよ?千那はともかく、雪と蒼・・・計算出来るのかしら?」
「言葉わかるし、数は数えられるから能力はあるんじゃないか?」
あのちびっ子二人も空気を読んだり、指示はきちんと聞くからな。考える脳は持っているとは思う。
「ヂヂヂヂヂ?」
「あら、冬華どうしたの?」
「ヂヂヂヂヂ」
相談している俺達に冬華が魚人の方向を指差して手招きしてくる。ベットから降りて3人で端っこの方へ向かう。
「うん?・・・うぉ、数が増えてるのか」
川のあちこちから出てきてるのか西側からだけじゃなく、南の川から北にあがり一団に加わる魚人もいるようだ。すぐ傍がちょうど合流地点になっているらしく、一度一塊になってから細くなるように行軍している。
いやいや朝からだよな?どんだけ魚人生息してんだよ?まぁ魚人が増えてるだけで別段呼ばれた理由に見当がつかないんだけど?不思議に思って冬華を見ると、そもそも冬華は別の方向を指差していた。
「冬華?いったい何が気になるんだ?」
「ヂヂヂヂヂ?」
「達也、冬華は見えないのかっていっておるぞ?ちなみに千那にも何かが見える」
「何か?見える?ん~?」
つまり”視力強化”しろってことだよな?
改めて冬華が指差してる方向をみる。方角でいえば北西になるだろうか、魚人は森にそって歩いているようで、森の中には入らないようだ。そして北西にある森は、そんなに深くはないようで途中から平原が見えてその平原に何かがいる・・・あの距離だと一つじゃ無理だな”視力強化””視力強化”ぬ、感覚系の二重は結構きついな、目がチカチカするのを耐えながら平原にいる何かを見る。
ん~姿形を一言で表すなら・・・虫だよな?人型とはいわないが、虫っぽい姿をした匹達?人達?が4匹?・・・4人でいいかもう。その4人が足を引き摺っているのかな?怪我してるらしく、ノロノロと北東の方へ進んでいる。2人程動きが鈍いので多分重傷なんだろう。単に足が遅いだけかもしれないけど。
その辺で限界が来たので能力を解除して冬華に向き直る。
「虫っぽい人達のことだよな冬華?」
「ヂヂヂ!」
「細部までは見えないが、何やら動きが鈍いのは千那にもわかるぞ!」
「まぁそうだな、それで?」
「ヂヂ?」
「それでとは?と聞いておるぞ?」
「いや、何かがいるのはわかったが・・・どうしろと?」
「ヂヂヂヂヂヂ?」
「接触はしてみないのですか?だそうだぞ?」
「接触?・・・接触してどうするんだ?怪物とか魔物っぽい感じは確かにしないけどさ」
「ヂヂヂヂヂ?」
「優奈の目的に必要なのではないか?と聞いておるが?」
「優奈の目的?」
ギルド作成ってやつか?いや、色々交流するとは言っても・・・あれと交渉出来んのか?
「たつくん私がどうかしたの?」
優奈が自分の名前を呼ばれたことで反応してこっちに来たので説明してやる。
「うーん、交流はともかくとして怪我してるの?」
「この距離だと何とも言えないな、歩みが遅いからそうじゃないか?ってくらいの判断しか出来ない」
「そうなんだ?たつくんはどうするつもりなの?」
「どうするつもりはないが・・・優奈としては接触したいのか?」
「う、う~ん?どういう人かわからないのに、そもそも人じゃないんでしょ?」
「正確にはわからんが、そうだな」
このまま放置する流れになりそうなところで冬華が声を上げる。
「ヂヂヂヂ!」
「ぬ?魚人に見つかったようだな」
「あー・・・この流れは助けにいくことになりそうか?」
「といっても私達には見えない距離よ?助けるにしても間に合うの?」
「全力で行けば間に合うとは思うが・・・まぁ見つけてしまったのは仕方ないし、相手は魚人だ。考えるよりはとりあえず助けて・・・魚人だし助け必要ないかもしれんが、行くだけ行ってみるか」
「たつくんいいの?」
優奈が窺うようにこちらを見てくるが、乱暴に頭を撫でてやる。別に優奈の為だけじゃないから気にするなというように。
「やー!頭くしゃくしゃになるー!」
とは言いつつも逃げずにされるがままな優奈。と、じゃれ合ってる間に終わりましたじゃ目も当てられない。
「とりあえず俺一人で・・・というか俺しか間に合わないだろ、冬華と千那ここは頼むぞ?」
「ヂヂ!」
「千那に任せておくんだ!穿牙も慣れてきたぞ!」
出来るようになってからずっと練習しているのか、確かに段々回転力が上がって空気音も聞こえるくらいになってきている。
「ま、まぁ頑張れ?志乃お留守番よろしくな?」
「ん、たつ怪我しちゃ駄目」
「おう」
「負けるのはいい」
「いやいや、魚人にはさすがに負けないよ!?」
”思考加速””反応強化””脚力強化””脚力強化””気配察知”
崖のようになっている端から降りてから走り始める。全力で走ると優奈達に被害出るから、抑えつつ森に入ってから全力で走る。何匹かの魚人が反応したが、追いつけるわけないだろ。それに森には入りたくないようだ。
反応強化と思考加速で速すぎる速度を制御しつつ、木の合間を縫うように走る。時折段差とかがあるがそれは跳んだり木を蹴ることで速度を落とさず森を抜ける。
平原に出て左側、森を回りこんだのだろう北の方から魚人が走ってくるのが見える、俺から見て北北東に件の人達がいるのが見える。やはりというか、歩みが襲い。魚人には気づいているようで鈍い動きの2人を支えながらなるべく早く移動しようとしているが、魚とはいえ陸を元気に駆け回る足を持った魚人の方が速い。とはいっても、成人男性と比べるとかなり遅いが。
そのまま魚人と虫人達の間まで駆け、魚人と対峙する。一方虫人達の方は急に現れた俺に驚いたのか、歩みを止めてしまった。まぁいいけどさ?そこは駆け抜けるべきじゃない?
魚人は鳴き声もあげることなく、新たに現われた獲物に反応したのか俺に襲いかかってくる。
とはいってもこいつら素手なんだよな、確かに鱗とかがあるから擦ったりすれば痛そうではあるけど。
後ろも気になるし手早く殲滅してしまおう”両腕変化 黒”こいつらに反応強化とかは必要ない、ひたすら肥大化した黒い両腕を上から叩きつけるだけでいい。
大体30匹は潰しただろうか、群れから逸れた一団だったのか魚人の襲撃が途絶えた。それを確認して俺は足を止めてこちらを見ていた虫人に向き直る。
一斉に身構えられた・・・まぁそりゃいきなりわけのわからん奴が変化して蹂躙始めたら怖いわな。
とはいえ、のんびりするわけにはいかない、とりあえず”思考加速””反応強化””腕力強化””脚力強化””身体頑強””気配察知”言葉を理解出来るかは最低限確認するか。
最低限対応できる能力は使い、虫人の前・・・警戒から敵対に変わる一歩手前あたりまで近づく。
近くに来て改めて見ても・・・まぁ虫だな、節の多い手足に体色が緑から黒まで様々、というか飛蝗辺りがベースになっていると思われる人が2人、もう2人の内1人が蜘蛛で、最後の1人は蟷螂かな?手全体じゃないけど、二の腕に鎌がついてる。目は全員複眼で、口もまぁ・・・中々凶悪な形をしている。それに頭にはそれぞれ触角をつけていた。
その内蜘蛛の人と飛蝗の1人が怪我をしているのか、息も絶え絶えな感じだ。
ちなみに嫌悪感みたいなものは不思議とわかない、身を寄せ合ってるせいか、知能ある生き物と解るからだろうか?それなら観察し続けるのは失礼かな?
「えーと、とりあえず言葉わかります?」
あんまり期待はしてないが、とりあえず聞いて見ると・・・一番大きな蟷螂の人が代表して大きく頷いた。まじかよ。
「貴方達は魚人から逃げているんですか?あぁ魚人はさっきの魚っぽい奴等をそう呼んでるんですよ」
魚人?と言われて首を傾げたので、ほぼ原型を留めてない魚人達の死骸を指差して説明すると、納得するように頷き、さらに頭を下げた後もう一度頷いてきた。これは会話が成立しちゃってるな。
「とりあえずですね、ここは魚人が来る可能性があるので、移動したいんですけど・・・そちらに目的地とかあるんですか?あぁいや、必要ないなら俺はここで離れますよ?」
目的地を聞くと襲うつもりか?とでもいうように威嚇しようとした小さい方の飛蝗の人が蟷螂の人に頭を叩かれた。そして、何やら考えるそぶりを見せた後、俺の目を見た後頭を下げて、頷いてみせる。くそう、コミュニケーション能力が高いというか、この蟷螂の人やり手だな!というか、人外の方が良識的な反応するなこの世界・・・冬華は一族を背負ってたから除外するにしても、最初の町の襲撃率といったら・・・。
俺が遠い目をしていることを不思議そうに見ながら蟷螂の人が近づいてくる。そして蜘蛛の人を指差して背負う動作をしてくる。
「背負えるかって?出来ますよ?そちらの方は構わないんですか?」
小さい飛蝗は驚いているようだが(表情はわからんけど)蜘蛛の人は、蟷螂の人の手を借りて俺に背負われる。どうやら背中を怪我しているようで、紫色の血液らしきものが流れている。背中越しに感じる肌触りは中々悪くない、スベスベしているが毛皮みたいにモフモフもしている。一応人型の形はしているので背負うのはそう難しくなかった。
蟷螂の人はもう1人の怪我をしている飛蝗の人に肩を貸すようだ。そして、俺を見てどこにいく?とでもいうように首を傾げてくる。あ、伝え忘れてたな。
「俺の仲間があっちにいるんですが・・・あー、やめときます?一応俺が群れの長なんで危害は加えないことを約束しますが」
またもや小さい飛蝗の人が警戒するように身構えるが、今度は大きい飛蝗の人に叱られたのかションボリする。いや、その飛蝗の人が正解な気がするんだけど・・・大丈夫かこの虫人達?
とにかく蟷螂の人にも促されたので案内を始める。蜘蛛の人は結構やばそうだな。息が荒い。というか、真横に虫の顔があるので俺は引きつらないようにするので精一杯だった。
助けてみよう(人とは言っていない




