魚に手足が生えても動き続けないと死ぬのだろうか?
「ふはは!見よ冬華!魔装・影糸!」
「ヂ、ヂヂ!?ヂヂ、ヂヂヂ!?(な、何ですか?その名前?ま、まさかタツヤ様に!?)」
千那が宣言した後、心なしかいつもより力強く袖から黒い糸が伸び魚人を絡めととり、細切れにすることなく川に返していく。達也と美香にそろそろ匂いがきつい、移動するから川に返す程度にしてとお願いされたようだ。千那は基本いい子を目指しているらしく、年長者二人の頼みを快く引き受けたのだ。単に機嫌がいいのもある。
「ふふん!達也が一生懸命考えてくれたのだ~魔装!魔装!」
遠くの方で達也が頭を抱えているが、千那は見ていない。そして今度は冬華が悔しそうに地団駄・・・足が見えないので上下運動で判断する限りではだが。
「ヂヂヂ!ヂヂヂヂヂヂ!(ずるい!私も考えて欲しい!)」
「あ、冬華移動するらしいから、達也達の方に行くのは後にしてくれんか?」
今度は冬華が達也にねだりに行こうとするが、急に千那が真顔になって頼み込んできた。冬華は頼みを聞いて別にいいかという気になり、千那と並んで追い払う。そもそも何で私は子供と張り合っていたのでしょうと、若干反省気味な冬華であった。
「ん、たつまだ寝てていいって言ったのに・・・」「チチチ・・・」「クルゥン・・・」
「悪かったって・・・どうも魚人の皆さん?がひっきりなしに来るから移動したいんだよ」
「ん、わかった」「チチ!」「クルゥ!」
少しぐずったけど、目は完全に覚めたのか三人とも頭を撫でるくらいで機嫌を直してくれた。とりあえずベットやキャンプセットを”腕力強化””腰強化”で異次元ボックスに仕舞う。優奈と美香は処理した魚を箱詰めしている。それが終わると俺が運んで仕舞い、移動する準備が整う頃には冬華達も俺達のとこまで下がってくる。
それにしても魚人達はひたすら陸に上がってこちらに襲いかかってくるんだが、何がそこまでこいつらを駆り立てているんだ?
とにかく川から離れる方向で西と決めた方へ移動する。
「魔装・影糸!・・・達也あいつらいつまで追ってくるのだ?それと影糸の他にも何かないか?」
「余裕だなお前・・・「お前じゃない!」はいはい、千那千那・・・といっても糸っぽいのが一番使い易いんだろ?」
他の形態は俺が握った時にしか見てない、一度ブルドーザーみたいなことはしてたけど、あれは早々使うもんじゃないだろう?
「むー!」
「ヂヂヂヂヂヂ?(次は私の番だと思うのですが?)」
「チチチ、チチチチチ!(姉様、私も欲しいです!)」
「ぬ、何だよ雪?あ、こら噛むな!」
何やら声をあげると肩に乗っていた雪が俺の耳を噛んで・・・舐めるな!
「クルゥ?(雪も欲しいの?)」
「チチチチ!(欲しいよ!)」
「なんだかしらんが・・・蒼パス!」
「チチ!?」
「クルゥ!?」
耳がベトベトになる前に志乃を乗っけている蒼の背中に放り投げる。志乃がキャッチしてくれたようだ。うぅ、耳が・・・人の涎って乾くと凄い匂いになりそう・・・あれ?そうでもないな。むしろ甘い匂いだな一応女の子だからか?それとも果実食べてるから?
「ん、たつゆき投げちゃだめ」
「いやいや雪が俺の耳齧ったり舐めるのが悪い」
「ん、ゆきたつ食べちゃだめ」
「チチチチ!」
俺達はのんびり歩きながら移動してる。その後ろから魚人が川から出てきてはこちらに向かってくる。走って逃げる気もおきないので追いついた魚人は千那と冬華で川の方へ投げ込んでいる。そろそろ川が見えなくなってきてる。
上からみたら魚人の群れで一本線が出来てそうだなこれ。さすがに心配になったのか、美香が不安そうに聞いてくる。
「達也?走って逃げる?」
「ん~魚人は何匹いようが対処出来るんだけど、走って逃げた後に凶悪なのがいたらな。むしろ魚人囮にして逃げるって手も使えるぞ?」
「悪どいこと考えてるのね・・・まぁ不気味なだけでこちらに直接の被害は出てないしいいのかしら?」
「たつくんそれて見る?」
こちらは特に不安に思っていない様子の優奈が提案してくる。それる?
「それる?道をか?・・・道はないから、この直線に逃げてる状態をどうにかしようってことか?」
「うん、魚人さん達私達を狙ってるわけじゃ・・・あれ狙われてるの?」
「いや、気づいたら戦闘が始まって、川へキャッチ&リリースが始まってたからな」
身体の血を洗い流して、治療が終わって志乃と優奈に今日は休むの!と言われてベット出した頃には既にあの状況だったからな。
「む?あの魚のやつか?」
「って、そうだよ、千那あいつらの言葉・・・喋ってるかは知らないけど意思疎通できないのか?」
リス族とも蒼とも話せるだろ?
「いや、あいつらは魚に手足が生えただけだな、自立意思があるかも怪しいぞ?それに言語を扱えるだけの知能を得たものしか千那は話せない」
「まぁ・・・そりゃそうか、それにしても魚に手足が生えただけなのか・・・あいつら」
言われてみれば泣き声一つあげないものな、なんというか不憫だ・・・数多いのに。これだと海底都市とか人魚族には期待出来ないな。さよならファンタジー。
「ちょっとまって?魚に手足生えただけなら何で陸に上がれるのよ?」
「千那に聞かれても・・・手足のついでに口呼吸も出来るようなったのではないか?」
「て、適当ね」
「確かにエラ呼吸だけならこっちに来る前に死んでるわな」
「たつくんたつくん?それでそれないの?」
私の案駄目?と若干不満気な優奈に素直に謝って、採用することにする。とりあえずは・・・北にそれるか。南いったら川はカーブしてたからまた川に接触しそうだ。
「優奈の案が大正解だったんだな」
「アリさんみたいに行列作ってあっちいくね~」
「ということは、私達彼らの移動を邪魔してただけなのかしら?」
「・・・千那悪いことをしてしまったか?」
「あーいや、襲ってきたなら仕方ないだろ・・・泣くなよ!」
「ぅ~」
どうにも情緒不安定な奴だな・・・涙をポロポロ流している千那の頭を撫でて宥める。悪いことをしたくないって思っているなら、まぁいいことかな?
「ん、せんなおんなは泣かない」
「うぅ?そうなのか志乃?」
「おんなは強くなきゃいけないっていってた」
「そ、そうなのか・・・千那は強くなる!」
「ん、せんな強いから大丈夫」
「ところで志乃?それは誰から教わったんだ?」
「ん、めりーさん」
「あ~」
間違ってないような、何か違うような・・・眼下の魚人の一団を見ながら昼食の準備をしている俺達。
今いるのは丘だ。丘というか丁度よく台形になっている地系があったのでそこに登った。何匹かの魚人がこちらの方に来たが高さが4~5m程あった為、諦めて戻っていった。俺達は志乃の異空間で登った。
たぶんこの地形は先日・・・といっても一ヶ月は前だけど、あの大雨で出来たのだと思う。雑草がまばらに生えている程度だしな。広さはここで野営できるくらいのスペースは十分にある。問題は地盤が安定してないといっきに崩れる可能性があることだが・・・雨もふってないし、端っこにいなければ大丈夫だろう。
「チチチ?」
「うん?何だ雪?」
「今日はここに居るのか?と聞いておるぞ」
「そうだな・・・一応魚人の一団を見ておく必要がある・・・?いや、別にないけど。俺は休息しないと駄目なんだろ?」
優奈と志乃を見れば二人は大きく頷いて、志乃は異次元ボックスを開いて先ほどのベットを引っ張り出そうとしている。
「そうだった!たつくん休まないと駄目だよ!」
「ん、たつはやくねる」
”腕力強化””腰強化”ベットやらキャンプ用品をを再度設置しながら、なぜか準備運動をしている冬華に頼む。
「はいはい・・・ということで、一応見ておいてくれるか冬華?」
「ヂヂ!」
「千那も見るぞ!」
「千那も頼んだぞ」
「じゃぁ私はベットでつまめる昼食を用意すればいいのね?」
「いやいや美香さん?普通にテーブルで・・・駄目なのか?」
「駄目だよ!たつくんは寝たきりだよ!」
「ん、あーんいっぱいする」
これは二人が気が済むまでやらせないと後々響きそうだな、仕方ないか。
「ところで達也?他の名前を考えて欲しいのだが・・・」
「あーもう考えるからちょっと待て!」
「たつくんあーん」
「むぐ・・・なんか久しぶりな気がする」
「ん、そうでもない・・・あーん」
「んぐ・・・アルランでは自分で食べてただろ?」
「おっきな人と戦った時以来かな?あーん」
「ん、たつが負けたときあーんしてる?あーん」
「ぐぬぬ・・・そりゃ怪我した時くらいしか俺も許可したくないからな」
「たつくん照れないでもいいんだよ?いつでもするよ?」
「せんでいいわ!」
「ん、たつお腹温めないからけがする」
「そんな馬鹿な・・・」
各種バフ効果が付くとか?
食事が終わると待ちわびたように千那が聞いてくる。
「達也考えてくれたか?千那は待っているぞ?」
「と言われてもなぁ・・・糸以外で何か攻撃方法ないか?」
「糸じゃない、影糸だぞ!他の攻撃方法か?ううむ、影糸が便利すぎるのだ」
「そういや黒塊吸収してたろ?剣に変化させるときは黒塊と言えばいいんじゃないか?」
「む、黒塊か・・・魔装・黒塊!」
千那が宣言すると同時に右手から懐かしの黒塊が生えてくる。柄と手が一体化してる為、細かい切りあいは無理そうだな。斬ることに特化してる感じだな。というかその状態を見て疑問を覚えた。
「千那、それってそのまま切り離せないのか?」
「千那を千切るのか!?」
「出来ないのかよ、糸・・・はいはい影糸な?その影糸が耐久不足で切れたらどうなるんだ?」
「あの程度なら補充は効くし千切れても問題ない、この質量を千切ったら千那のダメージはでかいぞ?」
「そうか・・・じゃぁ槍とかは難しいな、あドリルとかは?」
「どりる?どりるとは何だ?」
ほぅドリルを知らないのか、奇妙な形をしていて決して実用的とは言えない、鈍器としてもイマイチ、突き刺すなら刃物の方がいいあのドリルを知らないのか。俺は嬉々としてドリルの形を伝えてやる。
段々千那の顔も輝き出してから気づいたが、切り離せないなら回転出来ないな・・・回らないドリルなんて!
「やっぱりドリルは駄目だな」
「何でだ!?千那頑張るぞ!?」
「切り離せないなら回せないだろう?回らないドリルなんて・・・三角コーンとして道におくしか価値がない!」
「たつくん?ドリルさんもそこまで言われる謂れはないと思うんだ?」
「ぬ、ぬぅ・・・回らないと駄目なのか?」
「駄目だな!」
残念そうに右手をドリルっぽい形にした千那だったが、名前をつけて欲しければ回してみせろ!という俺の要求を真剣に検討しているようだ。うむうむ、千那もドリルの魅力に気づいてくれたようで嬉しいよ。
しばらく悩み、ドリルの腕を腕が回る限界まで捻ったり手首だけ交互に半回転させる千那。ふと使っていない左手に気づき左手を右手に当てるように同化させる。両手の方が回転させ辛いと思うけど、まぁいいやとりあえずそれが出来るまでは名づけはしなくて済みそうだ。




