アルランへの訪問者4
「彼・・・彼女?が白炎さんかい?ケーナ?」
「うん、そうだよ~ビャクエンはたつにいが飼い主?」
『別に白炎は達也の僕になったわけではないのだが』
『はんっ、似たようなものではないですか?あぁこの言い方だとタツヤ様の品位も下がりますね、タツヤ様としてはこのバカトカゲを僕にしているつもりはないと思いますよ、マコト様』
昨日溜め込んだものを吐き出せた真はスッキリした顔で会議に臨み、特に問題なく自分達の用件を伝えられた。そもそも取引材料もないのだ、自分達の町が落ち着いたら交流をしましょう程度で話は終わった。産物がないので、交渉しようにも出来ない。一応塩の角の代金を請求されても困るので、その辺りは真も気にしていたが。ボードルとしては、それはキサラギ殿からの贈り物なので気にしないでいいですよ。と言われた真は安心した。
とにかくアルランと真達の初邂逅は特に問題なく果たされたのだ。そして、丁度よく白炎が来たので真一派一同町の外まで白炎を見に来たのだ。
基本的に白炎はアルランには来るが町の中に入りたがらない、人の手が加えられすぎていて苦手と本人は言っている。
『人の手ぇ?単にアホトカゲが人見知りで、タツヤ様との約束が守れないかもしれないって恐れてるだけじゃないんですかね?』
白炎と達也が交わした約束は、無闇に人を襲わないだけなのだが、白炎としては歩くだけで死んでしまうような生物・・・いや、達也を見たせいで人に対して臆病になっているのである。最近はケーナクラスの能力者にも慣れてきた白炎だったが・・・
『ところで・・・その小さきも・・・いや、我は塩竜白炎だ、名前を聞きたい。怖い者よ』
「あんなおっきい竜に怖いって言われたよ奏・・・僕もやっぱり人外なのかな?」
「そ、そんなことないよ!ことちゃん!人外なら私達のこと守ってくれないよ!というかことちゃんなら人外でも私は好きだよ!」
「そ、そう?」
案外自分の能力に戸惑いはあったのか、白炎の一言に傷ついたように奏にポツリともらすと、奏から好意を伝えられて照れる真。その真の肩越しに奏は白炎を睨み付ける。普段から怒ることがない奏の精一杯のにらみつけだったが、傍から見れば可愛らしくほっぺを膨らまして上目遣いをしているようにしか見えない。
「むぅ、ことちゃんは怖くないよ!」
『そういわれてもな・・・達也みたいな圧を放っておるぞ?幾分抑え目ではあるが』
奏に恐れ慄いたわかではないが、恐怖の表情(本人曰く)で真を見つめる白炎。それに柳が突っ込んだ。
『な~にいってんですか、タツヤ様に比べたら抑え目どころか友好てきですよ!あなたが無駄にタツヤ様と戦ったから、無駄にビビってるだけですよ。このムダトカゲ!』
『相変わらず、シロヘビはやかましいな。ケーナよ、こんなちっこいやつより、我の主とならんか?』
「え~?ヤナギはたつにいに名前つけてもらったから駄目だよ?」
『私の主を誘惑するとはいい度胸です!ケーナもっと言ってやってください!』
『達也になら私もつけてもらったぞ?』
「そういえばそうだね、ビャクエンもうちくる?」
『ケーナ!?』
真達そっちのけでコントが始まる。ふと白炎は尻尾の方に気配を感じ後ろを首だけで見た。
「はるねぇ、ザラザラしてる~」
「しょっぱい!」
「おっきいね~」
「ぺっぺっ・・・辛い塩かな?」
「彼方兄ちゃん舐めて平気なの?」
「あははっ高~い!」
「はるかねぇ!僕も僕も!」
「順番だよ~、乗るときは私か彼方に言うんだよ?危ないからね」
「「「は~い」」」
真と奏以外が白炎にいつのまにか近寄り、尻尾を舐めたり齧ったり、上に乗って見たりとすき放題していた。いつぞやの双子がいることに気づいた白炎は諦めて体を地面に降ろした。この二人には抵抗しても無駄ということが身に沁みているのだ。
真と奏も白炎の後ろを見て苦笑いしながら白炎と話す。
「ところで達也からとはいえ、元々はあなた・・・白炎さんの角なんですよね?」
真が聞きながら白炎の頭の角を見る。頭の角ではないようだ、どこの角なんだろうと真が考えていると、白炎が地面に顔をつけたまま答えた。
『元々は白炎の頭の角だったものだ、達也が手に入れて怖い者に渡したなら白炎は関知しない。角ならもう生えたしな』
「生えるんだ・・・」
奏の呟きを横に真はそういえば自己紹介しないなと思い白炎に目線を合わせた。大きいとはいえ、顎を地面に乗せている状態なので、真はしゃがみつつ白炎の顔の前にいく。真はロングスカートなので見えるか見えないかは白炎の位置からは微妙なところだ。
「僕は相田真といいます。白炎さんの角はありがたく使わせてもらってます」
『・・・白炎でいい怖い者・・・いや、真か』
戦ったわけでも、力を見たわけでもないが白炎は本能で感じ取った。こいつも達也と同じ化け物だと。さすがに化け物と口に出すと恐ろしいことになる予感がしたので賢明にも口を噤んだ白炎であった。
『それにしても人間には達也と真みたいなのがいっぱいいるのか?』
「達也ってそんなに強くなっているのかい?」
名前で呼び合うことになったせいか、真の口調も砕けたものになっていた。
『・・・達也を知っているのか?』
「う~ん、まぁ知人程度ではあると思うよ?一回しか会ってないけど」
『達也の知り合いなら尚更白炎は真と敵対するわけにはいかない』
「そうそう、その達也と・・・契約か何かしたのかい?」
『一方的な主従・・・命を預ける契約ならした』
「達也は何をしているんだ・・・」
呆れる真だが、どちらかというと騙されたのは達也の方なのでなんとも言えない白炎。まぁ先日自分の力を使うほど消耗していたようだから、持ちつ持たれつの関係であると思っていた。
ちなみに白炎の核から力をもらっても白炎には特に問題はない。達也が死んだら核を預けている白炎も消滅するが、達也がいる限り核の力を使いきっても白炎は死なない。使い切ったら補充するだけでいいのだ。白炎の方からも補充は出来る。さすがに先日は数日動けなかったが。
「それで達也の強さ・・・なにやらお客さんかな?」
薄く広げている念の思念範囲に複数の意識が触れたことを真は感じ取った。敵か味方かの判断は距離があるため難しいが、ちょうど森になっている場所から複数の気配を感じ取る真。
「ことちゃん?」
真が戦闘時の雰囲気に変わったことを察した奏が声をかけるが、目線だけで自分のすべきことを促されたので、奏は子供達の方に向かう。
「みんな~ちょっと危ないかもしれないから、こっちおいで」
「は~い」
「かなねえ?どうしたの?」
「ほら、奏姉が呼んでるよ?」
「おね~ちゃ~ん」
「彼方兄降ろしてー!」
子供達を双子と一緒にまとめ真がいるところまで下がると、真が見ている方向から何か声が聞こえてきた。
「チチチチッチチチッチチチチ」
『おや?リス族の・・・雄の方ですね』
「ヤナギ?カエデさん達のお友達?」
『どうでしょうか・・・トウカさんの話では、雄のリス族に見捨てられたとのことでしたが』
ケーナも異変を感じ取り、柳に周辺の守護を頼みながら真と一緒に迎え撃とうと考えていた。ケーナがカエデと呼んだのは、冬華が自分の変わりにアルランの部族長に選んだリス人だ。ちなみに名前は達也がつけた。リス族全員に名前をつけたのでかなり大変だったようだ。
森から姿を現したのがリス族、柳がいうには雄らしいが、何を言っているかはこの場では柳しかわからない。
雄のリス族は真達の前まで立つと何やら騒ぎ出す。アルランを指差し何かを伝えようとしているようだ。
『どうやら、カエデさん達に話があるそうですが・・・どうしますかケーナ?』
「え?う~ん、カエデさん達の家族なんだよね?」
『どうでしょうね』
ケーナには言わないが、柳の胸中としては面倒ごとの予感しかしない。リス族の雄のことを話すときの冬華の怒り具合から碌なことにならないのは目に見えている。
誰も状況がわからないので硬直状態が続く。特に何もおきないまま時間が過ぎるが、異変に気づいたのか人間とリス族の護衛が町から出てきた。フリッツがリス族が外にいることに驚きながらも真達の方に来る。エネスに事情は聞いているので、双子のいるあたり、子供がいる方には近づかないように配慮はしていた。
「アイダ?何か騒いでいるようだが、何かあったのか?というよりこのリス族は・・・町にいるリス族とは違うようだが」
「僕に聞かれても・・・柳さんが言うにはリス族の雄達だとの話ですが」
「雄?・・・ルッド!通訳頼めるか?」
フリッツがルッドを呼び、リス族(雄)に近づく。
「チチチチチ、チチチチチ」
かなり荒れている雰囲気はあるが、どうやら話をする気はあるようでリス族(雄)の中から一番体の大きいリス族が出てきて。何やらふんぞり返ってルッドに話す。
真はその様子を見ながら、町から出てきたリス族(雌)楓がひきいるグループを見やる。
楓達は顔を強張らせているようにみえた。ある者は震えてうずくまっているほどだ。楓は気丈ににらみつけているようだが、足が震えている。これは僕も手を出した方がいいかな?と真が思ったときルッドが叫んだ。
「いやいやいや!?さすがにそれは身勝手じゃないかな!?」
ルッドがそういうとリス族(雄)達は一斉に威嚇を始める。歯を剥き出しにして打ち鳴らしたのだ。後で楓に聞いたところ、リス族は相手を威嚇する時に歯を剥き出しにして打ち鳴らすそうだ。ただし、自分より弱い相手だけに限るそうだが。
カンカンカン!キンキンキン!
固体によって歯の強度が違うのか、音の質も大きさもバラバラで、かなり耳障りな音となっている。
まるで黒板を爪でひっかいたような不快音に真は顔を顰め・・・はっとして子供達の方を見る。
何人かの子供は耳を塞いでいるだけだったが、1人の子が涙を流しながら、魂が抜けたように呆然としていて奏が必死に耳を塞いでいるのが見えた瞬間。
リス族(雄)は敵に回しちゃいけないモノを敵に回した瞬間にもなった。




