宗治
―奥寺宗治―
最後に人を斬ったのはいつだったか・・・そうそう妙な所に流される直前に斬った者が最後でござったな。
不覚にも打ち所が悪かったのか、気を失ってしまったが、気付いたら知らない所に倒れていた。不思議なことに愛刀に血がついておらなんだ。不思議なこともあるもんだと思ってとにかく移動したが全くもって意味がわからんかった。
何せ、町に戻ろうにも道がなく、村がぽつんとあるだけで他には見覚えが全くなかったのだ。それにだ、あっしがいた所は内陸部だったはず?おや?あっしはどこの国におったんだったか?思いだせん、まさか病の他に呆けまで始まったとでもいうのだろうか?
いやいや、村の者に話を聞けて良かったわ、結局村の者も国は思いだせんかったけど、呆けたのはあっしだけでないなら一安心だ。
阿呆が先に斬りかかってくれたおかげで仮住まいも手に入った、妙なことになったから腕が錆付いているかとも思ったが、そんなことはなかった。村の者もあの浪人にはほとほと困っていたようで、礼まで貰えた。儲け儲け。
はて、本当にここはどこなんだ?村長にも村の周りを調べてくれないかと言われたが、あっしは忍者じゃないから調査なんて小難しいことは出来んと断ったが、なら護衛だけでもというだけで猟師と一緒に探索したが結局わかったことはここがどこだかわからなかった、それだけだ。
化け物?いや、化生か?何でもいいがまさか鵺の妖怪をこの手で斬るとは思わなんだ。それにしても、あっしもよう斬れたな。なんや妙なことになってから、体がいつもより動く気がする。病は残念ながら残っていたが。村の者にも何人か不思議なことが出来るようになったと言っておったしな。まぁ鵺の妖怪に何人か殺られてしもうたが。
今日は危なかった、襲撃だ。鵺じゃない、両手に刃物を生やした虫が何十匹もやってきおった。なんじゃ斬りあいならここで死んでも良いという気分で一人で向ったが、斬れば斬るほど体の動きがようなってきてる気がする。気付いたら周囲に動くものが居なくなってるではないか。
村長に偉く感謝されて是非娘をとのことだったが、何を考えておるんだかな。十三の小娘なんぞあっしの趣味じゃない。人の妻をあの手この手で落とすのがあっしは好きなんだ。生憎村長の妻は婆過ぎて起つものも起たん。いやいや、そもそも病に侵されたこの身、妻なんて娶れるわけなかろう。
いや~参った参った。さすがにあの数は無理じゃった。村長の娘には悪いことをしたのう。百を斬ったあたりで数えるのを辞めたがあれは何だったのやら、やたら頭が大きかったり、腕だけ太い化生が村を襲ってきおった。さすがに何人か死んだようだ。村長の娘もあっしにお結びを持ってきたとこで、巻き込まれて死んでしまった。あっしは守ることは苦手だからな、自分の身はともかく。人斬りに護衛は無理じゃて。
村長に追い出されてもうた、まぁ娘を食われたおとんの気持ちはあっしにもわからんでない。それに病の感じからそろそろな気がする。愛刀も技術も託せる者もおらんかったし、まぁ頑張って生きるんだぞ村の者達。
こいつらは何だ?魚・・・に手足が生えておる、珍妙な化生もおるもんだ。川が近いせいか大量におるな。
ううむ、知能が低いのか?何も考えずに突っ込んでくるだけで刀でなで斬りするだけだった。調子にのって叫んでしまったが、誰にも聞かれてないよな?聞かれてたら・・・斬るしかあるまい。武士の恥は一生と師匠も言っておったしな。
笠を被り直すと若者と目があった・・・。ふむ・・・。
「とりあえず斬ってよいか?」
「いやいやいやいやいや!?やっぱり変な人かよ!」
「失礼な小僧じゃな・・・やっぱり斬るか」
「何だこの人!?」
「それに、変な人といえば主もだろう?変な格好しおってからに、もしや流行の傾くとかいうやつか?」
「かぶく?・・・まさか戦国時代とかその辺の人?」
「だから変な人ではないというに・・・やはり斬るか」
「人斬りかあんた!」
ほう?あっしのことを見抜いた?確かに隙だらけではあるがこの若者・・・戦い慣れておるな、妙に安定した立ち方をしている。
「小僧もそれなりに腕に自信はあるようだな?」
「・・・刀とか武器には自信ない」
「その言い方だと素手・・・古武道か何かか?」
「いや・・・純粋な殴り合い?」
興味が失せた、単純に喧嘩なれした小僧だったか。度胸はあるが人を殺せる者な感じはせん。あっしは斬りあいが好きであって人斬りになったわけで、人斬りだから斬りあいが好きなわけではない。
あっしの変化に気付いたのか、小僧から話かけてきた。
「俺は如月達也と言います・・・名前伺ってもいいですか?」
ほう?名を名乗るくらいの礼儀はあるのか、失礼な小僧かと思ったが・・・普段なら無視して立ち去るところだが、この時は何故か気分が乗った。
「あっしは奥寺宗治だ」
名乗ると変な顔をすることなく受け入れられた。普通あっしの名乗りを聞くとあっしと名前があってないと疑問を浮かべられるものだが、この小僧・・・如月の小僧は変な顔一つせずにしておる。
「そうですか・・・えっと、この魚人は奥寺さんが?」
「宗治でいい、あっしも達也と呼ぼう」
「いきなりですね?宗治さんが「宗治でいいと言ったであろう」・・・宗治が斬った・・・まぁ見ればわかるんですけど」
「確かに見たまんまだな」
「そうですか・・・では、これで失礼」
「まぁ待て」
ふむ・・・あからさまに動揺しておるな、こやつ肝は据わっておるが、突発的なものの対処は弱いのか?いや、あっしを警戒しているだけか。正しいな、しかし遅い。こやつの動きから見て何かを気にしておるのだろう・・・仲間か。こやつはどうも斥候には見えん、どちらかというと一番強いからとりあえず見に行くタイプか。
「お主仲間おるだろ?」
「・・・」
「ほう?」
途端小僧が化生になりおった、これは斬れるか?いやいやあっしは斬りあいがしたいんであって殺しあいがしたいんではない、興味は注がれるが武器も持たない小僧斬ってあっしは満足出来るか?
「無理だろ」
「・・・無理?」
「あぁいやあっしの独り言だ。というよりそう身構えるな、別に危害を加えるつもりはない、あっしも同行させてもらえんか?」
「それこそ無理ですけど?」
「そう言うな、目的地はあるのか?」
「・・・いえ、気ままな旅ですね」
嘘をついている様子はない、それより警戒され続けるのも疲れる。それに林の向こうにとんでもない気配があるのだが。なんぞ?
「感知系?」
「む、なんだ?」
「いえ・・・宗治は目的はないんですか?」
「ないな、つい最近までいた村も追い出されて・・・いや、別に悪さをした訳じゃないぞ?」
さらに身を固くした達也にかいつまんで説明してやる。
「なるほど・・・わかりました。一応仲間に聞いてみますけど、女の子が多いので・・・」
そこまで言ってしまったと顔をしたが、案外抜けとるなこいつ。
「何笑ってるんですか、はぁ・・・まぁ女の子が多いのでおっさんなんて嫌!とか臭いから嫌!!とか言われたら諦めてくださいね?」
「待て!?臭いとは何だ!?」
「年頃の娘はそんなもんですよ」
達也が仲間のいるらしき林に消える・・・あっしは急いで自分の身なりを整え、臭いを嗅いでみる。
血なまぐさいが、臭いというほどでは・・・いや女子と言ったか?いかん!女子にはこの臭いはきつかろう。
あっしは急いで褌一丁になり、川で体を清める。冷たい、こんな冬空の下で寒中をするはめになるとは、おのれ達也め覚えておれ。
しばらく清めていると達也と達也の仲間たちであろうか、確かに女子が多いな。
「何やってんだ宗治?」
達也は呆れておる、後ろの女子は顔を覆って逃げ出した。いや、金色の髪をした女子が達也に何か言った後に頭を叩かれていた。それに・・・人間大の獣?と犬と小さい獣?がおる。
今度はあっしが達也に呆れた目を送る番だった。
「な、なんだよその目は」
「いや?女子供は・・・まぁともかくとしてまさか獣趣味があると「ブッコロスゾ!」・・・なんだ違うのか?」
それほど殺気は出ておらんし、何やら獣に襲い掛かられておるが、まさか獣が達也に惚れておるのか?本当に妙なことになっておる。
残念なのは誰も刀を持っていないことか。まぁ女子が刀を振り回すのもどうかとあっしは思うがね。




