可変型金髪美少女
「ん、たつ起きた?」
「ほんと?シノねえ?」
俺の気配がわかるのか覚醒した瞬間頭の上から志乃とケーナの声が聞こえた。体は動かないし志乃達の声もどこか遠く聞こえる。そしてお腹が温かい。
「ん、お腹は温めてる、だから元気になる」
「ケーナもがんばる!」
そうだな・・・お腹を通じて温かさと共に元気になってくる気がするよ。お礼を言う為に声を出そうと口を動かすも、少ししか開かなかった。
「ん、水・・・ゆうながこれ飲ませてって言ってた」
「ふむ?水か?・・・その状態じゃ飲むのは難しかろう我が飲ませよう」
「ん、まかせた」
「おぉ・・・たつにいの口に入っていった」
水差しか何かだろうか・・・ひんやりした何かが俺の口元から進入して・・・喉まで・・・おいまて!
「直接流し込んだほうが負担も少ないだろう」
喉に直接回復薬か?を流される。流れる端から凄い勢いで回復していくのが・・・
「志乃!?一体何を使って俺に飲ませてゴホッゴホッ」
「ん、たつ大丈夫?」
「たつにい背中さする?」
何かが口に入ってる状態で無理やりしゃべったもんだからむせた・・・回復薬が詰まった。
「ケホッケホッ・・・もしかして出来たとかいうエリクサーかこれ?」
確かに凄い回復力だが・・・普通の回復薬で良かったんじゃないか?そんなに作れるものじゃないだろこれ?
「ん、たつ元気になった。ゆうなすごい」
「お~たつにい元気になった!」
「そうだな・・・後で礼を・・・志乃もありがとうな?お腹温めてたのか」
「ん、お腹は大事」
「そうだな」
笑みを浮かべながらお腹をさすってくれる志乃の頭を撫でてやる。この子の笑顔はいいな・・・何か儚い感じがいい。それで・・・こいつはなんだ?黒いスライム?
「それで、志乃こいつはなんだ?スライム?」
「何だとは失礼だな・・・一応わが主になるのだから、名前をつけよ」
「早速だな・・・いや、そもそも何だよお前?」
プルンプルンとしていない、黒い・・・硬質な感じだ。触ってみると硬いのに動くときは流動化しているから不思議だ。しゃべる時は口っぽい穴が出来てそこから声が出ているし。
「我は千の名を持つ魔王・・・忘れたのか?」
「・・・忘れてはいないけど、何でお前がここに?それにそのスライムっぽいのは何ごと?」
「主が取り込んだのではないか・・・体を乗っ取ろうとしたが阻止されるし、あげく一応主導権はもらえたが、我の方に主の分裂体が取り憑く始末。力も主の命を繋ぎとめるために使うはめになるわ・・・黒い塊を体とし右腕を取り込まなかったらとっくに消滅しておるわ」
「・・・えっと・・・まぁありがとうよ?」
「ふんっ!それで?さっさと我に名をつけよ!」
「千の名を持つ魔王なんだろ?名前?」
「それは称号みたいなものだ!・・・ずるいではないか!主は契約した者、部下には名前をつけるのだろう!?我にはくれぬのか!?命を繋ぎとめたというのに!」
プルプル震えながら涙を流しているのだろうか・・・目がありそうな位置から何かが流れる表現とでもいうのか、脈動している。正直キモイ。
「ん、たつ名前つけてあげるべき」
「まぁ・・・そうだな、えっと・・・千の名・・・千名・・・せんな?んー縮めてせな?千那・・・うん、千那でどうだ?」
「ふむ・・・響きはいいが意味があるのだろう?柳とかいう蛇も白炎とかいう竜も意味があったではないか」
「ん~千はそのまんま称号から、那を名にしなかったのは俺の元いた世界で那由他というのがあってな、意味はたくさんとか数えきれないとかまぁそんな感じなんだけどな?そこから那を持ってきた。で、せんなだとイマイチな気がしたから縮めて千那だな」
「ほう・・・千那・・・千那・・・千那・・・うむ、我は千の名を持つ魔王千那!以後そう呼べ主よ!」
「はいはい、俺は達也でいいよ千那」
「わかった、達也」
「それと、ある程度見ていたようだから言う必要ないかもだけど、俺の仲間との付き合い方は考えろよ?」
「わかっておる、達也の命を繋ぎとめた時に達也の気持ちや考えはある程度共有したからな」
「・・・何だと?」
「うむ、それでこの・・・何とかぷれいという知識が大変興味深いのだが、これはなんだ?えぷろん?とかばにーとかあるが」
「・・・”左腕変化 黒 精神体”」
「ぬ!?た、達也!?何だ!?なぜ、それを・・・千那の方にいるこやつが出来るのではなかったのか!?」
「まぁまぁ・・・ちょっとオハナシしよう?」
「千那が何をしたと・・・おお・・お・・・おおおおおおおおおおお!?」
千那と精神言語でオハナシして、俺の記憶に関しては無闇に喋るなと釘をさした。
「ん、たつぷれいってなに?」
「たつにいたつにいエプロン着て遊ぶの?」
『ケーナに余り妙なことを吹き込まないでくださいタツヤ様』
志乃に聞かれるところで言ったこいつを許すことは出来ない!そしてやかましいわ柳!
「あ、たつくん起きた?飲んだ!?」
「飲んだ飲んだ・・・ありがとうな優奈、それに美香も」
「うん!そんなに量がなかったけど、私とたつくんが全快するくらいは出来たからね・・・んにぃ・・・なにするのぅ・・・」
優奈の笑顔を歪ませる。ほっぺを両手で掴んで上下左右に弄ぶ。
「ん~?最後諦めてたから・・・お仕置き?な~に勝手に諦めてるんだよ?」
「んにぃ・・・だって・・・そうだよ!あのままじゃたつくん死んじゃったんだよ!?」
思い出したのか、背伸びしながら俺の頬を掴み返して来た、負けるものか。
「俺は簡単にはしなにゃいつうに・・・泣くなよ」
「バカバカバカバカ・・・・・・・・ありがと」
うむ、涙を浮かべる優奈を抱きしめてやる。
「あ~うん、邪魔する気はないんだけど、回復薬・・・神水薬だっけ?飲めたの達也?」
美香が遠慮がちに聞いてくるので、千那が飲ませてくれたよと答える。
「千那・・・?あぁもしかしてあの黒い・・・え?」
「どうかしたか?」
「ん、たつせなが変わった」
「変わった?」
後ろにいるはずの千那を肩越しに見る。あれ?千那どこいった?裸の・・・少女しかいないが。いや、そもそもこの少女誰よ?色白で髪は金色瞳が青色だ、所謂金髪美少女?表現力がなくて済まん・・・が、そうとしか言えないんだが。身長は優奈よりも低い志乃よりは高いが・・・140くらいか?まぁいいんだが何故に
「何で全裸?」
「そりゃ服を着てないから裸に決まっておろう?おかしな事を言うな達也?」
「・・・その口調千那か?なんか女の子の声になってるが」
「ふむ・・・名は体を表すように体によってそれ相応に表すのであろう?そもそもこの形状は達也の記憶から・・・待てそういえば秘密だったな」
睨みつけると思い出したのか慌てて口を噤んだが、遅い遅すぎる!
美香のジト目と優奈が腕の中でお腹を抓っているのが地味に辛い。志乃はたつの好み?と自分と千那を見比べている。
「とにかく・・・志乃、異次元ボックスから服を、美香手伝ってあげてくれ」
「はいはい・・・ま~た女の子が増えるのね?」
「ふむ?女の体では不都合か?ならばこの男の娘とかいう・・・」
「そのままでいいわよ」
「そうか?」
「とにかく服を・・・志乃、服の入ったボックス開けてくれる?それと達也?」
「は、はい・・・」
「後で・・・そうね優奈も話があると思うから3人でね?」
「へ、へい」
「ふふふ?たつくん?ちょ~っと今回は許せないよ?理想の女の子が金髪?目が青色?そんなのどうしろって言うの!?」
なんか優奈が怒っていることはズレている気がするが・・・逆らうだけ無駄な気がする。
「な、何よ!?」
「いや・・・?別に何も言ってないけど?」
「べ、別に誰かに着せようと思って確保したわけじゃないわよ!?偶々、そう偶然入っていたのよ!」
「だから俺は何も言ってないって」
着替えが終わった千那はゴスロリ、所謂ゴシックロリータ風のヒラヒラした服で出てきた。容姿も相まって凄い似合っているが・・・似合っているんだが何でこんな服を確保していたんだ。
「優奈と志乃に着せて見ようなんて思ってないわよ?」
「・・・だから何も言ってないって言うのに」
千那としては動きづらいのか、体を色々動かしているが・・・人間基準に構成したのか?逆に不便になってないかそれ。
「ふむ・・・動かし辛いが、達也の趣味とも合致しておるし・・・まぁ良いか」
「こいつ・・・秘密にする気はあるのか?」
「ぬ、どうだ達也?ほ~れくるくるっと」
スカートを翻しながら回って見せる千那。
「はいはい、似合ってますよ、お人形みたいでいいですね」
「む・・・適当だな」
「それで?何で人間形態?になってんだ?」
「ふむ・・・この姿の方が傍にいるときに支障が起きないと感じたのだが、違うのか?」
「ついてくる気か、まぁいいけど。確かに人間形態の方が問題は少ないけど、あの塊みたいにはなれないのか?せっかく俺の黒塊取り込んだのに・・・」
「あぁそれか・・・問題ないほれ」
そう言った途端服と・・・ご丁寧に下着は黒だった。千那が着ていた服が床に落ち、黒い液状の塊が床を張って俺の足に纏わりつき、足を回りながら俺の左腕まで上がってくる。感触がひんやりしてて嫌な感じはしないが・・・動きがきもい。それと俺から出てきたからか、自分の一部なような感じがする。
「そんでもって・・・ほれ」
左腕に纏わりついた千那という名の黒い塊は、俺の手あたりで蠢き剣を形作る。黒塊だったときのようにシンプルな形状はしていない。いかにも厨二病が考えました!とでもいうような禍々しく実用性皆無な曲線をぐねぐねと描いている。切れ味はありそうだが・・・これは。
「このようにいざとなったら達也の武器として扱えるぞ?この体の主導権は達也にあるからな。好きな様に使えばいい、頭に思い浮かべれば力によるがどんな形状にもなれるからな」
「ほう・・・脳裏に考えるだけか・・・」
適当に鎌をイメージすると黒い鎌が、斧・・・槍とイメージ出来るものを片っ端から試した。結果、体積も自由自在に変化することが出来ることがわかった。ただ変化するたびに体から力を取っているらしく段々疲れてきたので、元に戻れと千那に言う。
「実際に使ってみないと何ともいえんが、達也は色々な武器の形を知っているのだな」
どこから喋っているのかわからないが、左腕から床に落ち体積を増やしながら、また少女の姿をとり・・・目を塞がれた。
「たつくん!スケベ!エッチ!」
「ん、たつ目隠しはしないとだめ」
「達也?説教項目増やしたいの?」
「たつにいったら・・・ケーナのも見る?」
『タツヤ様?ケーナを娶りたいのであれば私を倒してもらわないと困りますよ?』
ええい、服の中に戻りながら着れば良かっただろ!
「形成しながら服を着ろとか・・・無茶なことを言うな達也?そんな器用なことが補助なしに出来るわけなかろう?」
結局その日は目を覚まさないマーサさんを見つつ(チェッカー君には明日目覚めると出た)天井に開いた穴を塞ぎ、ボードルさんが帰宅して、事情を説明して泊めてもらった。
ちなみに毒の入った葡萄については何もわからかった。なぜそこにあったのか、誰からもらったのか、いやもらった記憶がない。では何故優奈はチェッカー君で調べて食べたのか・・・何も認識出来なくなっていた。その内その出来事自体を認識・・・出来なくなる。
―ゴル・グゴール―
上手く言ったようだ。天使様の言うとおり一滴香水を手に垂らすと、部下でさえ自分と認識しなくなった。かといって嫌われるようなこともなく、普通に会話が出来た。そして、天使様から頂いた毒葡萄を英雄と呼ばれる青年に渡せた。
渡すときに不思議そうな顔をするだけで、自分と認識されなかったようだ。
毒葡萄を渡しただけでは安心出来なかったので、少し間をおいてボードルの家にいった。窓から覗くと小娘が丁度食べて慌てた青年が駆け寄ったところだった。それを確認し私は自宅に帰った。
「ふむ・・・天使様は二滴垂らせば効果が切れるといっていたな」
呟きながら香水を一滴・・・二適・・・手に垂らす。
「これでいいか」
ただ葡萄を渡すだけだったが、疲れた・・・バレたら所詮唯の商人、一撃で殺されただろう。私は成功したことに安心し、襲い掛かる睡魔に素直に身を委ねた。
おかしい、部下が自分を認識しない・・・声をかけても不思議そうな顔をするだけで仕事に戻っていく。朝の挨拶さえしないとは何ごとだ!と叱りつけるも、不思議そうな顔をするだけで・・・待て、まさか認識解除が出来ていないのか?
使い方を間違えたのだろうか・・・急いで部屋に戻り香水を取り出し、もう二適垂らしてみる。そういえばあれから天使様が尋ねて来ないな?成功したのだから私の・・・なんだったか?ふむ?私は・・・誰だ?
誰の部屋かもわからない部屋で俺は愕然とする。そもそもここはどこだ?我は誰だ?アルランの町というのはわかる部下の名前はわかる・・・だけど自分が誰なのか、何なのかわからない!天使様が嘘を言ったのだろうか?解除されるどころか、俺が私を認識出来なくなってしまった。
外に出る、天使様は・・・天使様を探さないと・・・私の夢が何だったか教えてもらわないと。夢を知っているのはもう天使様だけだ、優男の護衛団は死んでしまった。いや待て自分を認識出来ないなら今なら外に出ても誰も襲ってこないのではないか?
町の外を目指し足を進める、道を通ると住人とすれ違うが、私を認識してないせいか避けようともしないから多くの人とぶつかってしまう。
道?私の夢・・・。
町の外に出た・・・そうこっちだ町を出て半日と経たずに俺達は襲われたのだ魔物に・・・一つ目の巨人に。
靴をどこかに置き忘れたのか、いつのまにか素足になっており足から血が出ていた。しかし、痛みを感じられない・・・自分が認識出来ないのは私が感じたものも除外されてしまうのだろうか?物は持てるし土を噛めば土を噛んだことはわかる。が、感触がない、食感がない、土を食っても嘔吐感がない。
何かが私を押し潰していった・・・何だろうか、痛みはないので問題はないが、足が・・・どこかにいってしまったようだ。体も動かなくなってきた。
俺は死ぬのだろうか・・・
これは罰なのだろうか・・・
所詮奴隷だった僕には・・・奴隷?私は奴隷だったのか・・・
あれは、優男・・・おぉそこにいたか、聞いてくれ俺は、私は、僕の夢は・・・
黄金の・・・
道・・・
ゴルという名の商人が誰からも認識されなくなり、ゴルが部屋から出て行った後・・・手寅が部屋に現れた。
「と、さすがにこれは回収しないとね」
手寅は机に出しっぱなしだった香水の入った瓶を回収する。
「さすがに彼は気の毒だったかな・・・名どころか誰も彼を自分でさえ認識出来なくなったようだし、解除するんだったら対抗薬が必要だしね。そもそも二適で解除出来るという説明に疑問を覚えなかったのかな?」
誰の部屋かもわからない、空き部屋なのに何故人がいた形跡があるかわからなくなった部屋で手寅は呟く。
「せめて、彼の魂が惹かれているものへ導くくらいはしてあげよう・・・私だって哀れと想うくらいは稀にあるんだよ」




