そして看護師はおっさんに
「ど、どういう事だ!?何でルッドがここに!?」
「何でって言われても、昨日婆様が尋ねてきて人手が足りないから手伝えって言われてね」
「そ、それでお前が来たのか?」
「そうだよ?ユウナちゃんも忙しくて手を離せないみたいだからね、まぁ簡単な治療なら慣れてるから大丈夫だよ」
「く、くそう・・・ユウナちゃんが優しく治療してくれるって言うから無茶したのに、実際はおっさんじゃねえか!」
「ひ、ひどい言われようだなぁ・・・えっと、打撲はこの薬だったね、ほら塗り塗り」
「やめろ!野太い声で可愛い仕草するな!」
「僕が嫌ならあっちの人に見てもらうって、手もあるよ?」
「あっちのほうがおかしいだろ!?」
何でウォルが手当てしてんだよ!?と叫び声があがるもウォルはそれを黙殺して、目の前の男に添え木をして当て布に薬を塗り、手際よく治療していく。治療されているこちらもおっさんだが、おっさんは手際のよさに嫌味を言うことよりも感心が勝ったらしい。
「ウォル・・・さすが大工というか器用だなお前」
「・・・仕事上こういった怪我は多いからな、ある程度は自分達でやる。薬を使ってる分治りは早いだろうよ、というか・・・怪我人多いな」
「あぁ、キサラギのところの可愛い子が手当てしてくれるってんで噂になってんだよ、それをお前達はよくもまぁ・・・手際がいいのが逆に腹立つ」
「カームは森に入るからな、こういうのには婆様並に詳しいだろうよ、ある程度は病気に対しても知ってるしな、さすがに重病人は婆様を呼ぶがな」
「あん?可愛い子ちゃんはどこいったんだよ?」
「地下で調合してるよ・・・ほら、終わったからとっとと出て行け」
「くそう!次は可愛い子ちゃんがいる時に来てやる!」
「お前みたいのがいるから俺たちが借り出されたんだがな・・・婆様が怒ってるのを初めて見たぞ俺は」
あれは凄かったねぇとルッドが笑いながら、切り傷を止血した後に傷口を洗っている。そこから当てぬのを当て布で縛った。エネスが選定しただけあって、その手際は鮮やかだ。
昨日のことだ、町の男衆が夜中集まり、塩の件や護衛の件について話し合っていると、エネスが訪れたのだ。その時点でエネスから溢れる気迫・・・いや、怒気により大の大人の男達が萎縮した。エネスは集まっていた男達の顔を見回し、ルッドとウォルを呼び出した。ルッドはエネスの様子にビビりながら、ウォルは逆らったら殺されると感じたので大人しく、エネスに従った。
「ふむ・・・お主ら二人はある程度傷の手当が出来たな?」
「え、えぇ出来ますけど、どうしたんですか?エネス婆様?」
「・・・出来るが婆様どうしたんだ?」
「だまらっしゃい!!!」
「ひぃ!?」
「・・・荒れてるな」
「いいかい?明日からあんたらが訓練馬鹿共の手当てをしな!」
「ええ!?確かに今は外にでれないから・・・僕は構わないけど、ウォルさんは無理じゃない?」
「いや、今は俺の手もあいている。壁の補修は若いのにやらせてるからな」
「どちらにせよボードルには言っておくから気にしないでいいよ!とにかくも明日来るじゃよ!」
「は、はい・・・行きますけど、今はユウナちゃんが治療してるって噂になってるけど、もしかしてユウナちゃんに何かあったんですか?」
「いや、サカグチ目当てで訓練で無理をするやつが増えたとさっき聞いたな・・・つまりそういうことか・・・そもそもサカグチに何かあったらこの町消し炭にされてるだろ」
「ごちゃごちゃ言うでないよ!これ以上あの子の邪魔をするならわたしゃもう誰の怪我も見ないからね!」
「ええええ!?エネス婆様!?わ、わかりました僕でよければ手伝いますから落ち着いて」
「ふぅ・・・仕方ない、キサラギに殺されるよりはマシだろう」
そんなことがあって二人は手伝いに来たのだ。手伝いとはいうが、ほとんどが二人で対処出来る為、ここにはカームとウォルしかいない。達也は双子の訓練に付き合わされているし、優奈と冬華以外は見学で訓練所の方だ。ウォルとしては状況を見るにエネスの暴走と感じたが、キサラギに何かされる前にエネスが何かしそうだなと思ったので、これ以上深く考えるのをやめた。今はただ目の前にくるおっさんの手当てをするだけだ。たまに若い男も混じっているが。
「色気づくのはいいが・・・相手を選べ」
「あれ?ユウナちゃんがいるはずじゃ・・・何でウォルさんが・・・」
「黙れ、さっさと座って怪我を見せろ・・・にしても怪我人が多いな」
「あぁ、キサラギ様とキサラギ様がつれてきた双子の訓練で何人か巻き添え食らってたからそのせいじゃないの?」
「あいつはまた・・・何をしているんだ」
「いや、怪我をするために巻き込まれた奴が多いんだよ」
「・・・お前達は馬鹿か?」
「俺はちげえよ!」
いったい訓練場の方で何が起こっているのだろうか・・・まぁ碌なことじゃないだろうとウォルは結論し、治療に専念することにした。
「ルッドおじちゃんありがと~」
「うん、擦りむいてただけだからね、次は気をつけてね?」
「うん!」
優奈目当てじゃなく、普通に転んだとかで怪我した人も混ざっているのが、忙しさに拍車をかけている。そとにいる優奈目当ての人はがっくりして帰る人もいるが、怪我をしたのは本当なので帰りたくても帰れない人がほとんどのようだ。ルッドとしては忙しいのは構わないが、薬も限りがあるし勘弁してほしいところである。
「くそう!まだルッドとウォルがやってんのかよ!」
「あなたはまた来たんですか・・・多分数日はユウナちゃんこっちに来ませんよ?」
「な、なんだと!?じゃぁずっとムサいおっさんというのか!?」
「ムサいって・・・あなたも変わらないじゃないですか・・・」
「神は死んだ!」
「大げさだなぁ」
「何かいつもより上騒がしいね~」
「ヂヂヂヂヂヂ」
「ふむ、まぁ気にすることはなかろう、ほれ、そろそろ回転止めてもいいのではないかえ?」
「そうだね、冬華さん止めて~」
「ヂヂ」
「今回のは結構改心の出来だと思うのじゃが・・・どうかの」
「・・・おおう、久しぶりに高品質3級だね!やったね!でも3級かぁ」
「ヂヂヂヂヂ」
「もしかしたら、追加材料があるのかもしれんのう、手順だけじゃ限界があるのではないかの?」
「あ~そうかもしれないね・・・ハっちゃん頑張って登録するから、早く探してね?」
「ヂヂヂヂヂ」
「まぁ作れる材料で今は調合していくしかないのぅ」
「頑張るよ!」
地下室ではひたすら薬の調合が行われていた。連日の治療から解放された優奈は当初は戸惑っていたもののエネスに諭されて地下に引き篭もって回復薬作りに精を出している。もともと達也の為に調合を覚えようとしてたのだからこれが本来の形であろう。まぁおっさん共の気持ちもわからないでもないが、やりすぎたのだ、可愛いナースは自分達と同じおっさんのナースに変わってしまったのだ。自業自得である。
「よ~し達也兄さん勝負だ!」
「僕達が勝ったら達也兄さんが」
「「何でも言うこと聞いてくれるんだよね?」」
「・・・ちなみに何を願うつもりだ?」
「「え?えっと・・・こと姉に貢ぐ?」」
「考えてないなら適当な事言うなよ・・・」
朝からテンション高くケーナを連れて迎えに来たと思ったら、朝食を食べてすぐに訓練場に連れて来られた。それはいいんだけど、志乃はもしかして双子が嫌いなのか?あからさまに機嫌が悪くなるんだが。まだナーバスなのかね、美香に聞いても苦笑いしてるだけだし・・・明日くらいまでは機嫌悪いと思うわと言っていたが何なんだ?
「志乃?体調悪いなら帰るか?・・・あぁ俺も一緒に帰るから一人じゃないぞ?」
「・・・ん、べつにいい」
「う、う~ん?」
「(達也、一回思いっきり抱きしめてあげてくれる?)」
「(お、おう?)」
美香の提案に従ってみるか、少し屈んで膝たちで身長を調整した後向かい合ってから思いっきり、ぎゅ~と抱きしめてみる。志乃は驚いたようだけど、大人しくなすがままにされている。
「(そこですかさず愛してるって言うのよ!)」
「言えるかああああ!」
耳元で叫んだせいか、ビックリしたように志乃が震えた・・・あ、ごめん。
「志乃あれだよ・・・えっと、好きだから安心しろって・・・な?」
「ん、もういっかい」
「・・・俺は志乃が好きだから、あんま機嫌悪くしないでおくれ」
「ん、わかった」
とりあえずこれで納得してくれたようだ・・・結局なんで不機嫌になるのか、ナーバスなのか俺はさっぱりわからないんだけどな。志乃を離し立ち上がるその時ついでのように手が出て頭を撫でる。
「ん、たつはあまえんぼう」
「え、俺がそっちなの・・・?」
「達也さすがね・・・次は私?」
「・・・やれっていうならやるけど?」
「こ、ここじゃ駄目よ!・・・あ、別に他の場所だからいいって訳じゃないわよ!?べ、別にされたくないわけでもないわよ!?」
「はいはい」
『タツヤ様そろそろ周囲の視線に気付くべきです』
柳に言われて気付いた、たくさんの視線が俺達を見ていることに。双子とエナとケーナはくねくねしている・・・まぁこいつらはいい。離れた場所で地団駄を踏んでるおっさんや、若者・・・何人か女性も混じっているのが怖い、若い人の多くは睨んでいるんだが・・・衆人監視の中何やってんだ俺は。
「決めた!」
「僕達が勝ったら!」
「「抱きしめてもらおう!」」
「ん、たつまけちゃだめ」
「はいはい・・・善処します」
志乃の機嫌はよくなったけど・・・これは後が大変だなぁ。




